第十一話 無敵
異能士団が闘技場を貸し切り、食堂も休みとなった。
そのため王都内の住民達は興味津々である。
しかし内部の戦闘を見られるわけではない。
騎士団や兵士団が、闘技場を警備しているからである。
優勝賞品である『特別な訓練』は、国王によって許されるものなのだそうだ。
エルドが話をつけていたらしい。
異能士団の強化は、国にとっても良い事だ。
だから騎士団を動かし、異能士団を守っているのだろう。
「まもなく第一回戦が始まる。トーナメント通り準備室に向かえ」
「「「了解」」」
前団員がそう言い、闘技場の東と西の準備室へ向かった。
「あたしが勝ったら、次は兄貴さんとですね」
「はは、お前とは戦いたくないもんだが」
ティリアに兄貴と呼ばれ、ジンは心に温かいものを感じていた。
つい先日までは感じていなかったものだ。
「しかし気をつけたほうがいいよ、ルフはトアペトラで最強クラスの戦士だからね」
「大丈夫ですよ」
オーラスの言葉にクスッと笑みを浮かべ、ティリアは言った。
「あたしにも策がありますから」
※
「対戦相手はホルスか…どれだけ戦闘を長引かせられるかが勝負どころかな」
「君なら大丈夫じゃないかい。『知恵の悪魔ラプラス』の力を持ってすれば、相手の攻撃を交わし続けることなど容易さ」
ルフの言葉に、フィクスは頷いた。
悪魔の能力は数時間に一度しか使えないとは言っても、悪魔の体力が持つだけの時間は行使できる。
ラプラスの体力が持てば、ホルスの『戦車』を攻略することができるだろう。
「ホルスは短期決戦型と言っても、その間の力はリオに匹敵する。少しの油断も許されないぜい」
「僕からしたら君の方が怖いよ、ウァルス」
フィクスの発言に、ウァルスは間抜け面で笑ってみせた。
もしウァルスがジンを含む参加者を全員倒した場合、決勝戦で当たることになる。
そうなれば、あの無敵の結界を相手にすることになるのだ。
「まあ少しも負けるつもりはねえさ。俺だって力が必要なわけだし」
自分の掌を見つめ、ウァルスはつぶやいた。
「リオを殺すために」
※
「早く上がれ」
エルドに促され、フィクスとホルスは戦場に上がった。
フィクスは大剣『魔剣アバドン』の剣先を床につけ、後ろに引くようにして前かがみで構えるという珍しい構えだ。
大剣使いは一つ重心を決め、それを中心に戦うものだが、フィクスは攻めだ。
だからこのような姿勢になっているのだろう。
ホルスは竜の紋様が入った漆黒の剣を構えている。
構えはイリアと同じような、剣も体も前に倒すような姿勢だ。
「始めろ」
エルドの指示で、二人は互いに動き出した。
「くるぞ!」
準備室から戦況を眺めるジンは、ホルスの動きに注目した。
彼の体が、一瞬炉のように眩い炎に包まれた。
「『ラプラス』!」
フィクスは知恵の悪魔を召喚し、ホルスの動きを読もうと試みた。
《簡単だよ、この程度の単純な動きなら誰でも読めるくらいさ》
そう言いながら、ラプラスは予測線を出現させた。
それを見ながら、フィクスは攻撃を避けていく。
だが、何かがおかしいことに気づいた。
ホルスの動きは確かに素早い。
フィクスでは見切れないほどの速さだ。
だが何かが違う。
何か致命的なミスをしてしまったような。
「やっと気づいたか?」
にんまりと口元を歪めるホルスに、フィクスは戦慄を覚えた。
この男、『戦車』を使っていない。
つまり今は、『戦車』ではない何かによって攻撃速度を上げていることになる。
「知恵の悪魔を潰せば、お前は攻略できたも同然だぜ!」
そう言って、ホルスはフィクスと距離をとった。
まずい、一度ラプラスを使ってしまった以上、もうこの試合では行動予測はできない。
そうなれば、今度こそ『戦車』をまともに食らって終わりだ。
「『男前斬り』ィィィィィィ———ッッッ!!!」
炎と氷を纏う剣撃、それはまるで光属性のように速い剣技だった。
ホルスの剣型は『山嶺』、主属性が炎と氷の剣型だ。
カウンターもできる、そして突きによる攻めも可能。
まさに攻守万全の剣型だ。
「『色男突き』ィィィィィィ———ッッッ!!!」
「く…っ」
かなりまずい状況だ。
それにホルスは短期決戦型ということしか知らなかったため、『戦車』以外の対策をほぼ全くと言っていいほどしていなかった。
その『戦車』の対策も無意味だった。
ホルスが『戦車』を発動すれば、間違いなくフィクスは敗北するだろう。
(何か…ないのか…!)
ホルスの攻撃を捌きながら、フィクスは考えた。
ホルスのスピードの源。
『戦車』以外の何か。
リオに匹敵するだけの、スピードとパワーを、どうやって得たのか。
「…もしかして」
フィクスが何かを思いついた瞬間…
「『男前斬り』ィィィィィ———ッッッ!!!」
「あぶな…っ」
腕に大きな切り傷を負ってしまった。
『ヒール』で治せるくらいのギリギリのラインだ。
だがフィクスは諦めていない。
フィクスの予想が正しければ、この後ホルスが全力を出してくる。
もしそうなれば、フィクスにも勝機はある。
「『戦車』!」
ホルスは再び炉のような炎を纏った。
そして文字通り全力でフィクスに切りかかった。
「今だ!『フォルネウス』!『アバドン』!」
《ウッフ、いいタイミングじゃない》
《…任せよ》
低く、甲高い奇妙な声と、低く響くような声とともに、『愛の悪魔フォルネウス』と『力の悪魔アバドン』が召喚された。
その直後、フィクスの体に無数の傷が刻まれていく。
だが…
「あれ治ってね?」
ジンの言葉に、東の控室の団員たちはフィクスを凝視した。
フォルネウスの回復速度が、ホルスの攻撃速度を上回っていたのだ。
だからほぼ無傷でホルスに向かって行っている。
いや、フィクスの回復速度が異常なのではない。
ホルスの攻撃速度が遅いのだ。
「君は最初、『戦車』を解放した!そして僕がラプラスを使ったのと同時に、その力を抑えていたんだ!だから最初より攻撃速度が落ちている!アバドンの肉体強化と、フォルネウスの回復速度で攻撃を無効化できるレベルまで!」
フィクスはホルスに向かって叫んだ。
「だから今の君は、ただの燃料の無い『戦車』に過ぎない!『雷神・豪剣』———ッッッ!!!」
フィクスの必殺剣技が、ホルスの腕を切断した。
「勝者、フィクス・エルレド」
エルドが手を挙げたのと同時に、準備室から歓声が湧き上がった。
《キャラクター紹介》
○ホルス・ゲルザーテ
異能士団の団員で、女癖の悪い少年。
団員内でのムードメーカー的な存在だったが、人数が増えるにつれてその地位は崩れ始めている。
剣型は『山嶺』(主属性:炎氷)、戦意解放力は75%。




