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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第八章 記憶の囚人と復讐鬼
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第十一話 無敵

 異能士団が闘技場を貸し切り、食堂も休みとなった。

 そのため王都内の住民達は興味津々である。


 しかし内部の戦闘を見られるわけではない。

 騎士団や兵士団が、闘技場を警備しているからである。


 優勝賞品である『特別な訓練』は、国王によって許されるものなのだそうだ。

 エルドが話をつけていたらしい。


 異能士団の強化は、国にとっても良い事だ。

 だから騎士団を動かし、異能士団を守っているのだろう。


「まもなく第一回戦が始まる。トーナメント通り準備室に向かえ」


「「「了解」」」


 前団員がそう言い、闘技場の東と西の準備室へ向かった。


「あたしが勝ったら、次は兄貴さんとですね」


「はは、お前とは戦いたくないもんだが」


 ティリアに兄貴と呼ばれ、ジンは心に温かいものを感じていた。

 つい先日までは感じていなかったものだ。


「しかし気をつけたほうがいいよ、ルフはトアペトラで最強クラスの戦士だからね」


「大丈夫ですよ」


 オーラスの言葉にクスッと笑みを浮かべ、ティリアは言った。


「あたしにも策がありますから」



 ※



「対戦相手はホルスか…どれだけ戦闘を長引かせられるかが勝負どころかな」


「君なら大丈夫じゃないかい。『知恵の悪魔ラプラス』の力を持ってすれば、相手の攻撃を交わし続けることなど容易さ」


 ルフの言葉に、フィクスは頷いた。


 悪魔の能力は数時間に一度しか使えないとは言っても、悪魔の体力が持つだけの時間は行使できる。

 ラプラスの体力が持てば、ホルスの『戦車』を攻略することができるだろう。


「ホルスは短期決戦型と言っても、その間の力はリオに匹敵する。少しの油断も許されないぜい」


「僕からしたら君の方が怖いよ、ウァルス」


 フィクスの発言に、ウァルスは間抜け面で笑ってみせた。


 もしウァルスがジンを含む参加者を全員倒した場合、決勝戦で当たることになる。

 そうなれば、あの無敵の結界を相手にすることになるのだ。


「まあ少しも負けるつもりはねえさ。俺だって力が必要なわけだし」


 自分の掌を見つめ、ウァルスはつぶやいた。


「リオを殺すために」



 ※



「早く上がれ」


 エルドに促され、フィクスとホルスは戦場に上がった。


 フィクスは大剣『魔剣アバドン』の剣先を床につけ、後ろに引くようにして前かがみで構えるという珍しい構えだ。

 大剣使いは一つ重心を決め、それを中心に戦うものだが、フィクスは攻めだ。

 だからこのような姿勢になっているのだろう。


 ホルスは竜の紋様が入った漆黒の剣を構えている。

 構えはイリアと同じような、剣も体も前に倒すような姿勢だ。


「始めろ」


 エルドの指示で、二人は互いに動き出した。


「くるぞ!」


 準備室から戦況を眺めるジンは、ホルスの動きに注目した。


 彼の体が、一瞬炉のように眩い炎に包まれた。


「『ラプラス』!」


 フィクスは知恵の悪魔を召喚し、ホルスの動きを読もうと試みた。


 《簡単だよ、この程度の単純な動きなら誰でも読めるくらいさ》


 そう言いながら、ラプラスは予測線を出現させた。

 それを見ながら、フィクスは攻撃を避けていく。


 だが、何かがおかしいことに気づいた。


 ホルスの動きは確かに素早い。

 フィクスでは見切れないほどの速さだ。


 だが何かが違う。

 何か致命的なミスをしてしまったような。


「やっと気づいたか?」


 にんまりと口元を歪めるホルスに、フィクスは戦慄を覚えた。


 この男、『戦車』を使っていない。


 つまり今は、『戦車』ではない何かによって攻撃速度を上げていることになる。


「知恵の悪魔を潰せば、お前は攻略できたも同然だぜ!」


 そう言って、ホルスはフィクスと距離をとった。


 まずい、一度ラプラスを使ってしまった以上、もうこの試合では行動予測はできない。

 そうなれば、今度こそ『戦車』をまともに食らって終わりだ。


「『男前斬り』ィィィィィィ———ッッッ!!!」


 炎と氷を纏う剣撃、それはまるで光属性のように速い剣技だった。


 ホルスの剣型は『山嶺』、主属性が炎と氷の剣型だ。

 カウンターもできる、そして突きによる攻めも可能。

 まさに攻守万全の剣型だ。


「『色男突き』ィィィィィィ———ッッッ!!!」


「く…っ」


 かなりまずい状況だ。

 それにホルスは短期決戦型ということしか知らなかったため、『戦車』以外の対策をほぼ全くと言っていいほどしていなかった。


 その『戦車』の対策も無意味だった。

 ホルスが『戦車』を発動すれば、間違いなくフィクスは敗北するだろう。


(何か…ないのか…!)


 ホルスの攻撃を捌きながら、フィクスは考えた。


 ホルスのスピードの源。

『戦車』以外の何か。


 リオに匹敵するだけの、スピードとパワーを、どうやって得たのか。


「…もしかして」


 フィクスが何かを思いついた瞬間…


「『男前斬り』ィィィィィ———ッッッ!!!」


「あぶな…っ」


 腕に大きな切り傷を負ってしまった。

『ヒール』で治せるくらいのギリギリのラインだ。


 だがフィクスは諦めていない。


 フィクスの予想が正しければ、この後ホルスが全力を出してくる。

 もしそうなれば、フィクスにも勝機はある。


「『戦車』!」


 ホルスは()()炉のような炎を纏った。

 そして文字通り全力でフィクスに切りかかった。


「今だ!『フォルネウス』!『アバドン』!」


 《ウッフ、いいタイミングじゃない》


 《…任せよ》


 低く、甲高い奇妙な声と、低く響くような声とともに、『愛の悪魔フォルネウス』と『力の悪魔アバドン』が召喚された。


 その直後、フィクスの体に無数の傷が刻まれていく。

 だが…


「あれ治ってね?」


 ジンの言葉に、東の控室の団員たちはフィクスを凝視した。


 フォルネウスの回復速度が、ホルスの攻撃速度を上回っていたのだ。

 だからほぼ無傷でホルスに向かって行っている。


 いや、フィクスの回復速度が異常なのではない。

 ホルスの攻撃速度が遅いのだ。


「君は最初、『戦車』を解放した!そして僕がラプラスを使ったのと同時に、その力を抑えていたんだ!だから最初より攻撃速度が落ちている!アバドンの肉体強化と、フォルネウスの回復速度で攻撃を無効化できるレベルまで!」


 フィクスはホルスに向かって叫んだ。


「だから今の君は、ただの燃料の無い『戦車』に過ぎない!『雷神・豪剣』———ッッッ!!!」


 フィクスの必殺剣技が、ホルスの腕を切断した。


「勝者、フィクス・エルレド」


 エルドが手を挙げたのと同時に、準備室から歓声が湧き上がった。

《キャラクター紹介》


○ホルス・ゲルザーテ

異能士団の団員で、女癖の悪い少年。

団員内でのムードメーカー的な存在だったが、人数が増えるにつれてその地位は崩れ始めている。

剣型は『山嶺』(主属性:炎氷)、戦意解放力は75%。

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