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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第八章 記憶の囚人と復讐鬼
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第八話 目覚め

「…なんだお前ら。何しに来た」


「君を救いに」


 真面目な顔でそう言うフィクスを、ジンは嘲笑った。


「ほお、じゃあヴァルタイユでも連れてきてくれたのか?」


 その言葉に、フィクスは黙り込んだ。

 代わりにディルセイが前に歩み出た。


「復讐復讐、その割には手段を選ぶんだな。この半端野郎が」


「あ?」


 半端野郎、その言葉がジンの心に火をつけた。

 ジンも腰から剣を抜き、ディルセイに剣先を向けた。


「てめえ、二年前馬車の件で俺に負けてたよなあ?まさかそのちっぽけなナイフで勝つつもりか?」


「だったらかかって来い。その借り物の剣型でな」


 直後、ジンが爆ぜるように動いた。

 一瞬でディルセイの懐に潜り込み、魔剣イグニスを振るった。


 しかしディルセイがもう片方の手に仕込んでいたナイフではじかれ、タックルで反撃した。


「ぐ…ッ」


「おらどうしたぁ!」


 よろけるジンに、ディルセイのストレートが正面から入った。

 そのまま押し倒され、馬乗りになって顔面を殴られた。


「ああ!?俺は二年前と一切変わってねえぞ!」


「く…、…そッ!」


 ジンは戦意を解放し、戦意結界を使ってダメージを軽減した。

 そしてそのまま起き上がり、ディルセイに剣を振り下ろした。


「お前さんの動きは、そんな単調だったか!?」


 だがディルセイは振り下ろされた剣を難なくかわし、再びジンの顔面にストレートを決めた。


 タコ殴りにされ、ジンの意識はだんだん遠のいていった。

 そしてそのままあの鈍色の世界へと…


()()()()()()()()()()()()()は、どこいっちゃったんだ。ジン」


 その言葉に、ジンは目を見開いた。


 目の前にある光景は、悲しみに目を伏せるフィクスと、拳を振るうディルセイ。


 そうだ。ジンが今いる世界は鈍色じゃない。

 色があって、物語があって、仲間がいる。


「目え、覚ませやぁぁぁぁ———ッッッ!」


 もう一度ディルセイに殴られ、ジンの意識は暗転した。



 ※



 鈍色の世界の中で、ジンは立ち尽くしていた。

 目の前にいる少女が、消えかけていたからだ。


「待ってくれ!まだ消えないでくれ!」


 にっこり微笑む少女を、ジンは必死に掴もうとする。

 だがその手は、彼女の体を掠めるだけだった。


「大丈夫だよジン君。君がいるべき世界はここじゃない」


「でも!もうお前に会えなくなるのは嫌だ!」


「大丈夫」


 ジンの目を見据えて、彼女は言った。


「ジン君にはもうたくさん仲間がいる。君がそれに気づいてないだけだよ。だから私がいなくても大丈夫。それに…」


 ジンの背後を見て、彼女は微笑んだ。


「あの子達の『兄貴』なんだから。しっかりやらないとだめだよ」


「あ…」


 ジンの後ろには、訓練生の仲間達がいた。

 そしてその先頭には、クロスとティリアがいる。


 思えば最近、あの二人に兄貴と呼ばれた試しがない。

 あれはジンのことを見限っていたからだろう。


「俺、今からでもやり直せると思うか?」


「出来るよ、大丈夫」


 根拠はない。

 だが彼女に言われると安心できる。


「でもいいな」


 背中を向けて、少女は言った。


「私もみんなみたいな仲間の輪に入りたかったな」


「…ごめん」


 イリアが死んだのは、ジンに力がなかったからだ。

 守れる力さえあれば、イリアはまだ生きていたかもしれないのに。


「いいよ、その代わり…」


 鈍色の涙が、ジンの目に映った。


「生まれ変わったら、みんなの輪に入れてね!」


「…あ」


 涙を流して微笑む彼女は、やがて鈍色の光に包まれて消えていった。


「…ッ、…絶対だからな…!」


 ぽろぽろと溢れてきた涙を必死に拭きながら、ジンはつぶやいた。


 やがて鈍色の世界は崩壊する。

 ジンの思い出の場所も、大切な人も、全て。



 ※



「目、覚めたみたいだね」


 草地で起き上がったジンを見て、フィクスが安心したように言った。


「ああ、目が覚めた。ありがとな」


「…本当によかった」


 ジンは先程殴られた箇所を確認した。

 全て治っているのはおそらく、フィクスの『愛の悪魔フォルネウス』による治癒だろう。


 遠くで見ていたディルセイは、何かを思い出したように近づいてきた。


「ジン、悪かった。さっき借り物の剣型って言ったのは、別に『黒炎』を使えって意味じゃねえ」


「…どう言うことだ」


「お前さんが復讐一筋なら、『黒炎』使ってなんぼだろと思ってな。みんなを守る最強の剣士になりたいんなら、『黒炎』は使わないほうがいい」


 禁属性の剣型は強力だ。

 復讐を果たしたいのならば使うべきだろう。


 ジンはそれを使わなかった。

 手段を選ぶと言われたのはそのためだろう。


 だから半端野郎なんて言われたのだ。


「禁属性を使うか使わないかはお前さんに任せる。そう言うこった」


 そう言って、ディルセイは街に向かって歩いて行った。


「さあジン、帰ろう」


 勢いよく立ち上がり、フィクスはジンに手を差し伸べた。


「僕たちの仲間のもとへ」

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