第七話 復讐
「へへへ、誰から殺ろうかなー」
鈍の両刃剣を二本持ち、リオは品定めするように異能士団を見回した。
現在この場にはホルスとレクトがいない。
だから前回の魔窟のようにリオを押さえ込むことはできないだろう。
団員たちに緊張感が流れ始めた。
「流石にあれは一筋縄じゃいかないね」
魔導兵最強と謳われたオーラスさえも、リオに対して警戒心剥き出しで構えている。
だが、一人の男は違った。
「この時を…待っていた」
聞いたこともないような声に、団員全員が声の主の方を見た。
ウァルスだ。
普段の間抜けづらからは想像もできないほど、憎悪のこもった鋭い眼光をリオに向けている。
「『難攻不落の領域』」
直後、凄まじい魔力がウァルスを覆った。
見た目では何も変わっていない。だが魔力の存在を認知している者なら分かる。
数多の魔法の壁『シールドオーラ』が、ウァルスを守るようにして囲っているのだ。
そして…
「『インフェルノ』『ブリザード』『プラズマ』『テンペスト』」
淡々と魔法をとなえ、リオに向けて各属性の中級魔法を放っていく。
それはもはや固定砲台だ。
これこそがウァルスが唯一編み出した魔法。
絶対に侵入できない領域を作り出し、そこから永遠に魔法を放ち続けるのだ。
しかしその魔法を全て剣でかき消し、リオはウァルスに突進していく。
「お前ぇ!1ミリも血が見えねえじゃねえかぁ!」
怒りに身を任せ、リオはひたすらに魔法の壁を剣で殴り続けた。
流石の力だ、ウァルスを包む魔法の壁は段々と弱くなっていった。
しかしそれを埋める技がウァルスにはある。
「『複合儀ハザード』」
火が、氷が、雷が、嵐が、全てリオに向かって放出された。
リオの剣に付着した属性魔力によって、上級魔法の条件が満たされたのだ。
「くっ…」
苛立たしげに顔を歪めながら、リオは飛び下がった。
そして向かってくる魔法を的確に剣で捌き、再びウァルスを見据えた。
そして目を見開いた。
何故なら、ウァルスを中心とした半球のバリアに、リオだけが閉じ込められていたからである。
「何をする気だよ…!」
「『ワープ』」
口元を歪めるウァルスの頭上には、巨大な『ワープ』の魔法が出現していた。
そこから降ってくるのは、数多の中級魔法のルーン石。
その数は千を超えていた。
「『ディザスター』」
その魔法は、ウァルスの必殺技だ。
適当にルーン石を宙に放っているだけなため、周囲にも被害が出る。
だから事前にバリアをはって、対象にのみ攻撃できるようにしているのだ。
だからよほど運が悪ければ、一発も当たらない可能性があるのだ。
そう、よほど運が悪ければ。
「…は?」
リオとは反対方向に全て飛んでいく魔法の弾を見て、ウァルスは唖然とした。
そして確信を持って背後を振り返った。
「…ローズか」
「あ…」
ウァルスの眼光は、リオに向けられたものと一切変わっていない。
今はただ、邪魔なものを排除することだけしか考えていない。
「『ガイア』」
巨大な岩の槌を地面から生やし、ウァルスはそれをローズに放った。
それは無慈悲にも彼女を正面から叩き、やがてローズは壁に叩きつけられてしまった。
「『ガイア』」
二発目がローズに直撃したところで、ようやく異能士団全員が動いた。
「し、『シールドオーラ』!」
「『風神・暴風剣』!」
「『星』!」
オーラスがローズを壁で囲い、フィクスがウァルスを飛ばしてローズから離れさせ、クロスがウァルスを拘束した。
まだ状況が把握できていないが、まずは欠片を持ってここから脱出せねばならない。
ウァルスが機能しなくなったのならば、リオはジンたちで止めるしかないのだ。
「クソ…やってやるよ…!」
ジンが呟き、ウァルスを抑えている者以外の全員が武器を構えた。
それを見て、リオは顔を輝かせた。
だが…
「いいねえ!さあ、全員切り刻んで———」
「『隠者』!」
直後天井から降ってきた黒い影が、リオの頭上を覆った。
レクトだ。今着いたところだろう。
また前回のように、異能でリオを閉じ込めるつもりだ。
リオは顔に焦燥を浮かべて、慌てて影から出ようとした。
しかし出られるはずもない。リオが走る速度と同じ速度で、影が広がっているのである。
「またかよぉ!クッソがああああああああああああああああああッッッ!!!!」
そう叫ながら、リオは影に飲まれていった。
※
異能士団は再び、竜国の宿で世話になっている。
だが現在は病院にいて、ローズを皆で囲んでいる状態だ。
ウァルスは念のため、オーラスとエマが監視する個室に入れておいた。
そのため安全にローズを医務室で治療することができる。
「いや、なかなか酷いです。『シールドオーラ』も戦意結界もない生身の彼女をよくここまで平気でいたぶれるものですね」
『リカバリー』を次々に施しながら、ナリムは感心したように言った。
ローズは戦闘など一度も経験したことがないのかと言うほど、華奢で小柄だ。
腕なんかはジンなら平気で折れそうなほど細い。
そんな彼女が岩の塊を二度も直撃されている。
間違いなくウァルスは殺す気だったのだろう。
「ローズはなんでリオを庇った?」
ジンの質問は、その場のほぼ全員が聞きたいことだろう。
ローズは仲間を裏切るような人ではないし、動機も見当たらないのだ。
「俺から話すぜ」
部屋の端で腕組みをしていたホルスが手を挙げた。
「ズバリ、リオはローズの兄ちゃんだ」
「…なるほど」
その一言で、その場の全員が納得したように頷いた。
以前ローズはジンに言っていた。
相手側にも理由があるなら、話し合いで解決すべきだと。
おそらくローズは、リオを説得したいのだろう。
逆にウァルスは、なんらかの理由があってリオを殺そうとしている。
だからローズは、殺されそうになっているリオを守ろうとしたのだ。
そして邪魔者を、ウァルスが排除しようとした。それだけのこと。
「…ッ」
不意に目眩がした。
この行為に、ジンは何か違和感を感じたのだ。
「悪い、席外す」
そう言って、ジンは外に駆け出した。
※
街から外れた小さな丘で、ジンはため息をついた。
憎悪、それを感じてジンは怖くなった。
一体何が怖くなったというのか。
「俺がヴァルタイユを憎むこと…?」
そんなはずはない。
ジンがヴァルタイユを憎むことに、デメリットが存在しないのだ。
イリアが殺されて、皆悲しんでいる。
それほどまでに彼女は優しい人だった。
クロスとティリアも、きっとジンのように悲しんでいるに違いない。
それでも世界を救うという肩書きを背負ってしまったから、感情を表に出せないのだ。
だからジンが彼らの分も、復讐を果たさねばならない。
だってジンはあの二人の…
「ぐっ…!」
突然、鈍色の思い出がジンの脳裏を焼き焦がした。
「…そうだよ…俺は…あいつらのために…」
悲痛に顔を歪めてジンが蹲っていると。
「満足か、ジン。そうやって憎しみを正当化して」
怒りに声を振るわせたフィクスと、ディルセイが背後から歩いてきた。
「よお、お前さんに復讐なんざさせねえよ」
そう言って、ディルセイはナイフを握った。




