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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第八章 記憶の囚人と復讐鬼
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第五話 運も実力の内

 ペタペタという足音が聞こえ、ウァルスたちは慌てて身を隠した。


 服を着た魔物の集団だ。

 ディルセイたちの報告通り、文明は発達しているらしい。


「…ウァルスさん…ここ多分見つかりますよ…」


 クロスが小声で訴えているのを見て、ウァルスは周囲を見渡した。


 今三人が隠れているのは、通路にあるくぼみだ。

 通り過ぎる魔物たちが奇跡的に全員反対方向を向くという奇跡でも起こらなければ、見つかってしまうだろう。


 まだ相手の戦力が掴めていない状況で戦うのは危険だというウァルスの考えで、今は隠密行動を優先したい。

 だからここは乗り切らなければならない。


「…ローズ」


「…うん」


 ウァルスがローズに合図をすると、目の前を通り過ぎようとした魔物たちが一斉にウァルスたちから目を背けた。

 正確には、ウァルスたちとは反対方向の窪みを見た。


「おい!あれアビーが無くしたって言ってたやつじゃね!?」


「あ!ほんとだ!やべえ、まじ助かったわ!」


 魔物たちはひとしきり騒いだ後、落ちていた落とし物を持って通り過ぎて行った。


「えと、今のは?」


「こいつの異能、『節制』の能力だ」


『節制』、それは運を高める異能だ。

 少しでも可能性があるならば、運命を強制的にそちらへねじ曲げることができる。


 それを聞いて、クロスは困惑していた。


「え、でもそれ最強じゃないですか。勝負事に勝つ可能性があるなら、絶対勝てるんですよね」


「…運命はそんなに簡単じゃないです。…最初から勝てる可能性のない相手がほとんどですから…」


 そう言って、ローズは俯いた。


 彼女はかなり強い戦闘能力を持っているのだが、自分のことを弱いと思ってしまっている。

 だからすぐに落ち込んでしまうのである。


 …それがウァルスにとって好都合ではあるのだが。


「まあ、とりあえず先に進もうや」


 そう言って、ウァルスは通路を再び歩き始めた。



 ※



「思っていたよりも監視は甘いですね」


 街の裏道を進みながらエマは言った。


 この街はかなり広いため、見張りを配置するのは難しいのだろう。

 それにエマたちのような侵入者が現れることもほとんど無いため、監視自体の必要性が薄い。


「せっかく平和に進めてるんだし、なんか男と女っぽいことしようぜ」


「…それはどういう意味ですか」


 ホルスの提案にエマは眉を顰めた。


「ズバリ、俺の嫁に相応しいかどうか確かめさせてくれ」


「はあ?」


 何を言っているのだろうかこの男は。

 一体そんな話がどこから出てきたと言うのだ。


「ローズは恋愛なんかに時間割けないって言うし、ラーナはフィクスと付き合ってるし、ティリアはなんか俺のこと嫌ってるし、ナリムは一回付き合ったけど、なんか変な実験に付き合わされるし…、もう残ってんのお前しかいなんだよなー」


「消去法ですか。私は仮に消去法だとしても、あなたを選ぶことはありませんが」


「ええ…、俺ってそんなに嫌われてんの?」


 ここ数日共に過ごしただけで、ホルスという男のことはだいたい理解できた。

 ただの女たらしである。


 顔は整ってなくはないが、性格がこれではどうしようもない。

 それに…


「私には好きな人がいるので」


 そう言われて、ホルスはキョトンとした。


 この男ならば、「え、誰?誰が好きなん?」と言ってくるだろう。

 エマの『女教皇』の思考速度を使っても、これ以外の結果が想像できない。


 しかし彼は、ただ悲しげに微笑んだだけだった。


「そっか、それは仕方ないな」


「え?」


「よし、さっさと魔窟を攻略しようぜ。もしかしたら誰かもう欠片見つけてるかもな」


 呆気に取られるエマには目もくれず、ホルスは再び路地裏を進んでいった。



 ※



「宮殿内部が騒がしいね」


 壁に耳を張り付けながらオーラスは言った。


「…俺たちはどうすればいい?」


「待機。僕たちは戦闘以外何もできないんだから、明確な攻撃目標ができるまでは行動はしないよ」


 そう言われたので、アレクとティリアは再び床に座り込んだ。


 ウァルスは作戦を何も指示しなかった。

 だから欠片を見つけるにしても、どう行動するのがベストなのかわからない。


 それに、この魔窟の中の魔物たちは一つの民族だ。

 無慈悲に虐殺することなど、それこそ悪ではないか。


 そのため戦闘しか脳がないメンバーにとって、この隠密行動はほとんど何も意味がないものとなっている。


「でも騒がしいってことは、内部でなんかあったんですよね。あたしは誰かが戦闘を仕掛けたんじゃないかと思います」


「流石にそんな短絡的な真似は…」


 言いかけたところで、オーラスは持っている通信石が光っていることに気づいた。

 慌ててそれを起動させると、ラーナの声が聞こえてきた。


 《みんな聞いてる?》


「こちらオーラス、聞こえてるよ」


 《ディルセイだ、聞こえる》


 《エマです、問題ありません》


 《ウァルスも大丈夫だ。なんかあったか?》


 皆の声を確認すると、ラーナは説明を始めた。


 《多分アタシたち、奇跡的に欠片の近くについたんだと思う。今分かりやすいくらい豪奢な格好の魔物がこっちに向かってきてるのを確認したわ。門番みたいなやつと、フィクスたちが交戦してる》


「どこに向かえばいいんだい?」


 《王族がこんなすぐに出て来られるわけがない。多分王族の住処と通じてるのよ。だから目立った城みたいな、宮殿みたいな、そんな大袈裟じゃなくていいからとにかく王家っぽい建物を探して、そこからこっちに来なさい》


 そう言って、ラーナは通信を切った。


「だそうだよ」


 オーラスは通信石をしまって言った。


「ようやく僕たちの出番だね」

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