第三話 竜国の宿
数週間が過ぎ、一行は竜国の宿屋に到着した。
竜国の宿屋は見たこともない建築様式で、二階建ての木造だった。
宿の周りには美しい庭園があり、謎の石のオブジェクトが置いてある。
「変わってるな」
「失礼なこと言うなってジン、これが竜国の文化なんだよ。んじゃ、俺は受付を済ませてくるぜい」
ウァルスはそういうと、宿の中に入っていった。
竜国はトアペトラのように貿易を禁じたりはしなかったが、ウエラルドやクアランドのように積極的な友好関係は築いてこなかった。
だからかなり独自の文化が出来上がったのだろう。
剣技が生まれたのもこの国だと聞いた。
だからといって、この国の剣豪に勝負を挑もうと言うわけではないが。
団員が全員中に入ったのを見て、ジンもその後に続いた。
※
部屋は馬車の中のメンバーと同じになっていて、異能士団だけで四部屋も使うことになった。
しかし元々竜国への旅人は少ないのか、空き部屋にはかなり余裕があった。
だから団員たちは何の後ろめたさも感じずに泊まる事ができた。
「エマ、出発した時からずっとそれいじってるけど、何それ」
一番端の女子部屋にて、ラーナは金属の塊を指さして言った。
「これは電磁狙撃銃と言う武器らしいです。色々工夫が必要なものらしいので、もっと手軽に使えるものにして欲しいとディルセイから依頼されたんですよ」
「…あいつナイフ持ってたわよね」
「おそらく近距離用でしょう。この武器は遠距離専門ですから」
そんなことを話している二人とは別に、ティリアとローズは窓際でくつろいでいた。
窓際の机には見たこともないような菓子があり、二人はそれを食べながら緑色の茶を飲んでいるところだ。
「そう言えばローズさんってどうやって戦うの?」
「え…?」
「なんかあるでしょ?例えばこう…剣いっぱい出して戦うとか」
両手を勢いよく広げてみせるティリアに、ローズは少し困ったような顔をした。
「えと…水魔法…かな?」
「ん?いや、戦い方」
「そ、その質問難しいよ…」
「あれっ、なんかごめん」
小さな手で頭を抱えてしまうローズに、ティリアは顔を引き攣らせて謝った。
まさか戦闘スタイルを聞いて困る戦士がいるとは思うまい。
「じゃあ気分転換に庭散歩しに行こうよ」
「…いいの?」
「うん、散歩嫌いだけど」
思わず口を滑らせてしまうティリアであった。
※
夕食が終わり、異能士団の団員たちは風呂に入っていた。
『露天風呂』なるものを見てひとしきり騒いだ後、団員たちで団欒した。
だがそんな時でもジンは、旅館から数十メートル離れた場所で剣を振っていた。
剣技は繰り出せば繰り出すほど、魔力運搬が正確になっていく。
魔力運搬が正確になれば、それだけ剣技の威力が増す。
『黒炎』が使えなくなった以上、早急に他の剣型の威力を『黒炎』と同じくらいまで上げる必要がある。
そのため、少ない空き時間でも剣を振る必要があるのだ。
「『極星』はまだ未完成…体に剣型が慣れてねえか」
クロスの必殺剣技『極星』は、ジンの『黒滅斬』を超える力を持つ。
しかしジンの『極星』は、『黒滅斬』にすら及ばない。
剣技は魔法とは違い、運搬技術さえあればどんな剣技でも強力なものが放てる。
複雑な魔力回路である『黒炎』を行使してきたジンならば、クロスの『極星』を超えているべきなのだ。
仮説としてあげられるのは、剣型に慣れるのに時間がかかるということ。
もしくは、剣型にも向き不向きがあるということ。
「まあいい、前者だろうが後者だろうが、剣技を出し続ければいい話だ」
ジンはすでに、剣技、必殺剣技、カウンター剣技、剣域、その他のありとあらゆる剣の技術を習得している。
だから持っている剣型に慣れさえすれば、ちゃんと戦えるようになるのだ。
そう信じて、ジンは剣を振り続けた。
夜になり、皆が部屋で盛り上がるであろう時間になっても、剣を振り続けた。
※
「へーい、みなさん。これから火山に向けて出発しますからね、ローズさんに水属性の加護をかけてもらいましょうね」
ぱんぱんと手を叩いて言うウァルスに従い、団員たちは全員ローズに魔法をかけてもらった。
ローズはかなり多くの水魔法を開発している。
この加護は、火山の温度に適応して水の結界を作り出す魔法だ。
「これ本当に大丈夫なのか?団員みんなで裸になった方がいいんじゃねえか」
「火山を甘く見過ぎなんだよ、変態野郎」
ホルスの発言にディルセイが毒づいたところへ、エマが銃を持って歩いてきた。
「ディルセイ、完成しましたよ」
「おお!サンキュー!いやー、お前さんほんと優秀だな」
ありがたく電磁狙撃銃を受け取ると、ディルセイは繁々と銃を眺め、やがてギターケースの中にしまった。
「氷属性魔法の技術を応用して、『黒雷の弾丸』を撃ってから1分でオーバーヒートを回復できるようにしました。しかし撃つごとに回路が歪むので、あまり撃ち過ぎると弾道がずれます。そこは貴方の狙撃技術でカバーできるようにしておいてください」
「分かった。ずれた回路は整備しなくちゃならねえのか?」
「いえ、回路は自分の場所を把握しています。時間が経つごとに戻っていくでしょう」
『黒雷の弾丸』…ディルセイの必殺技は放熱が激しいため、一度の戦いで一度しか使うことができなかった。
それが何度か使えるようになったならば、ディルセイの戦闘は大いに楽になったはずだ。
「これで魔窟に着いても問題なく戦えるな」
そう言って、ディルセイは火山を見上げた。




