第一話 曖昧
「お前らなんで一緒にいんの?」
アレク達が入所した次の日、ウァルス、フィクス、ディルセイ、ホルス、オーラスが一緒にカードで遊んでいるのを見て、ジンは眉を顰めた。
料理の当番は初期メンバーのウァルス組、訓練所事件直後に入所したジン組、それ以降に入所したディルセイ組に分かれていたはずだ。
これほどまでごちゃごちゃなメンバーが、昼間から一緒に遊べるわけがない。
「新人のエマって人いたでしょ?彼女が魔法科学…みたいなのが得意みたいで。ウァルスが使ってた騎士を召喚する魔法を、機械を使ってもっと複雑にしたんだって。僕もよくわからないけど」
「つまりなんだ、もう料理しなくていいのか?」
「うん、エマが作った機械が全部やってくれるよ。ジンも一緒に遊ぶ?トランプっていう道具でさ…」
フィクスが説明をしている側で、ジンは少しだけ口元を歪めた。
それは朗報だ。
料理をする時間がなくなるのならば、ジンが修行に励める時間も長くなる。
「じゃあ礼を言わねえとな。エマって人はどこにいんだ」
「研究室があるらしいぜい。俺たちもあんま場所知らねえから、自分で行きなー」
「そうか」
ウァルスの言葉に頷き、ジンはその場を後にした。
そしてジンがいなくなって数秒後、オーラスが不思議そうに首を傾げた。
「彼は復讐鬼でしょ?僕はもっとエルド団長みたいに冷たいのかと思ってたけど、意外と仲間意識強いんだね」
しかしその場の誰もが、苦い顔をしている。
「うん?違うのかい」
「あいつはただ団長と同じになりたくねえだけだよ。だから無理にでも仲間を意識してるやつだって思われたいのさ」
ホルスが考え込むような顔をして言った。
「あいつのことは、異能士団でも問題になってる。あいつの復讐に対する態度にも、いろんな意見があるんだ」
「例えば?」
「例えば俺やウァルス、レクト、ガイナルやルフなんかは、あいつの考えを肯定してる。恋人を目の前で残虐に殺されれば、綺麗事なんて言ってらんねえだろ。俺はあいつに同情してる」
なんだか辛気臭い空気になってきたので、フィクスが居づらそうにもじもじしてる。
「じゃあそこの可愛い青髪の少女…」
「…男です」
「これは失礼、僕はてっきりボクっ娘的なやつかと思ったよ。それで君やディルセイなんかは名前上がってなかったけど、彼の復讐を否定しているのかな?」
ディルセイは黙り込んでいるので、フィクスが答えることにした。
「僕はジンと幼い頃からずっと一緒だった。だからイリアのことをどう思っていたのかも分かってるつもりだ。だからジンに復讐はさせてあげたい…けど…」
「けど?」
「最近考えが変わってさ。クロスとティリアの気持ちになって考えてみたんだ。このまま堕ちていくジンを僕たちが肯定して、クロスやティリアはどう思うんだろうって」
クロスとティリアはジンやイリアのことを慕っていた。
そんな憧れの存在であるジンが、同じく憧れの存在であったイリアの死を悲しみ、自分たちのそばを離れてしまう。
そしてそんなジンのことを、周りは肯定する。
クロスとティリアにとってそれは悪夢でしかない。
だからフィクスは変えたいのだ、ジンの心を。
彼が復讐鬼でなくなれば、事が良い方向へと向かう。
ジンの心の成長にもつながるだろう。
「なるほど、それでディルセイは?」
「俺は簡単だよ」
ディルセイは寂しそうに笑って言った。
「ただ師匠の遺言が忘れられねえだけだ」
※
「エマって人はいるか?」
「はい」
機械で埋め尽くされた部屋を見て、ジンは顔を顰めた。
トアペトラに行った事がないジンにとっては、少し刺激が強かったようだ。
「なんですか?」
「あ、いや、料理する機械について礼を言おうと思ってな。ありがとう」
「なるほど」
エマはそういうと、椅子から立ち上がってジンの方を見た。
「挨拶はしに来ないのに、なぜ礼だけはしに来たんでしょうか」
「…どういうことだよ」
「いえ、なんとも曖昧な人だなと思いまして。もう退室してもらって結構ですよ」
そう言われたので、ジンは渋々退室した。
まさか礼を言って怒られるとは思っていなかったので、流石のジンも少し面食らっていた。
曖昧、その言葉が特に引っかかっていた。
気にすべき言葉でもないだろうに。
「ジン」
不意に呼びかけられ、ジンは呼ばれた方向を見た。
レクトだ。
「帰ってたのか」
「…まさか最初に君に会うとは思わなかったよ…。よければみんなを集めてくれる?」
「というと?」
レクトは満面の笑みで言った。
「やっと魔窟を見つけたんだ」




