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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第一章 黒炎の剣技
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第一話 剣型と剣技

 色が抜けたような白髪の少年——ジンはその『剣技(けんぎ)』に見惚れていた。それはまだ未熟な剣技だが、力強く、そして速かった。


「やったジン!僕、剣技が出せた!」


 女顔の少年、フィクスは目を輝かせながらこちらを見た。

 フィクスの髪は青色で男なのに髪を首元まで伸ばしている。瞳は紫電の色。身なりは質素で、普通の街少年といったところである。

 そしてその小さな手に握られているのは大剣だった。

 普通これくらいの歳の少年は片手剣を選ぶものだが、彼は大剣の方が扱いやすいらしい。


「流石、これでまたお前との距離が延びちまったよ」


 ジンは苦笑いを浮かべて言った。


 世界に存在する四つの大国のうちの一つ、このウエラルド王国は、優れた剣士によって成り立つ国家だ。

 国王をはじめとした強者が政治を行い、王国騎士団などの武力によって秩序を正す。

 当然、ジンやフィクスのような少年は強さを求めることになる。


 恥ずかしながら、ジンはまだ剣技を出せたことがない。それどころか、フィクスとの戦闘で勝てたことがない。

 才能がないと言えば良いのか、ジンが互角に戦える相手はほとんどいない。


「さっそくお前の親父に報告したいところだが、時間もあれだ、さっさと学校行こうぜ」


「も、もうこんな時間…せめて学校のみんなには自慢したいな」


 フィクスは褒められたかったのだろう。肩を落としたが、すぐに姿勢を正してジンの後に続いた。

 目指すは学校、15歳以下の少年少女が集う学舎だ。一般的には、まず学校を卒業してからそれぞれの目標へ歩んでいく。

 商人になりたければ商人の学校へ、旅人になりたいのならギルドへ、そして兵士や騎士団になりたいのなら——


「ウエラルド王国訓練所で、俺は最強になってみせる」



 ※



 学校は、教師が授業の終了の合図を出したところで終了する。

 もうすでに合図は出ていて、下校する生徒の声で校内が賑わうようになってきた。


 授業が終わっても羊皮紙に向かい続けるジンに、少女が一人話しかけた。


「何やってるの?」


「ん?ああ、イリアか」


 イリアは赤髪を伸ばした藍色の目をした少女で、ジンとは幼馴染の関係にある。唯一、ジンが互角に戦える相手だ。

 質素な服装から除く肌はきめ細やかで、可愛らしく整った顔立ち、スタイルが良いほうというわけではなく、胸部はどことなく貧相な感じであった。


「ほら、フィクスが剣技出せただろ?俺はそのコツを掴むために、色々とメモしてるんだよ」


「ああ…そっか…そんなに心配しなくても、そのうち出せると思うよ」


 イリアは気の毒そうに言った。その反応に、ジンは居心地が悪くなった。

 彼女なりの思いやりがあるのだろうが、ジンとしては普通に接して欲しい。


「ジン、イリア、帰るよー」


 バッグをもったフィクスがこちらに向かって手を振っているのが見える。

 ジンはため息を吐いてから羊皮紙をバッグにしまい、後を追った。


 一緒に帰ろうと言っても、フィクスとイリアの家は校舎のすぐ近くの住宅街にある。距離は200m程度のものだろう。

 楽しい話題でもあげてみれば、あっという間に家に着いてしまう。

 今日もそんな調子でフィクスとイリアは家に着き、ジンは二人と別れを告げた。

 二人の家とは少し離れた場所にジンの家はある。


「ちくしょう…なんであんな高いところに家なんて建てたんだ。大事なのは見た目じゃないだろうが」


 ジンは文句を言いながら、丘の上に建つ立派な我が家を見上げた。

 ジンの家は黒い煉瓦と石垣で作られた、この王都では珍しい高級な屋敷だ。

 庭の敷地は直径100mほどだろうか、男物の服一人分が干されていて、程よい生活感があった。

 何故そんな屋敷にジンが住んでいるのかと言うと、


「よう、ジン」


 不意に背後から声がかかったので、ジンは振り向く。

 二人の男がいた。

 一人は燃える様な赤い髪が獅子のように生え散らかした中年の男で、物騒な鎧を身につけている。

 ニカっと豪快に笑う歯は真っ白で、健康に気をつけているのがよくわかる。

 そしてもう片方は黒髪にところどころ赤が混じったような髪の青年で、長い髪を後ろで結んでいる。彼が身につけているのは、訓練所の訓練服だ。


「ザパース爺さんと兄貴じゃないか、帰ってくるなんて珍しいな」


「だからっ、俺はまだ爺さんなんて呼ばれる歳じゃねえって!」


 ザパースは豪快に笑うと、青年の肩を叩いた。


「エルドが訓練所じゃトップでよ、俺の監視下じゃもう育たねえから、明日旅にでも出そうかと思ってな!」


「…は?」


「聞けよジン、俺が強すぎて育児放棄までされてしまうらしい」


 エルドが冗談めかして言った。

 だが、ジンはそれどころではない。

 ザパースは訓練所の所長で、親を失ったジンとエルドの育て親だ。

 そんなザパースが生徒の指導を放棄するなど、今まで一度もなかった。

 それどころか、ジンの知る限りでは勇者以外で指導放棄された剣士は一人もいない。

 それほどまでに兄が強いというのか。ジンは劣等感で押しつぶされそうになった。


「勇者みたいな扱い受けてんのな…」


 ジンの言葉にエルドは一瞬考え込む様な仕草をしたが、やがて不敵に笑った。


「ということは、俺が勇者以降のエスパーダ家最強の剣聖ということになるな」


 ジンとエルドの姓、エスパーダ、それは類稀な剣の才能を持つ者を生み出し続けた剣聖の家系を表す。

 生まれる者は決まって剣の才能を持ち、剣聖という職は必ずエスパーダ家が勝ち取ってきた。

 1000年前、世界を脅かす魔王を倒した勇者も、エスパーダ家の剣聖だったという。


 この世の中、強い戦闘力を持つと高い権力が得られる。

 剣聖家は剣の道を極めた者。良い暮らしが出来るのも当然のことだ。

 ジンが高級な屋敷に住めるのも、剣聖の家の力あってこそである。


「俺はこんなに弱いのにな」


 ジン・デルフ・エスパーダは、無力な自分の掌を見つめた。

 そんな劣等剣士のさまを、ザパースは静かに見ていた。



 ※



「何か悩みがあるなら話しなさい」


 食事の席、ザパースはジンに言った。

 今日はエルドを旅に送り出す前夜の食事、食卓には豪勢な料理が並んでいた。

 ライスはもちろんのこと、シチューグラタン、鳥型ドラゴンのチキン、ビーンズのサラダ、ピザ、デザートのフルーツポンチなどなど。

 さっきまで夢中でチキンに齧り付いていたジンは、不意打ちをくらった気分だ。


「悩みって、何で急にそんな話題になったんだよ」


「今日の夕方、何か悩み混んでいるような感じがしてな」


 そう言われて、ジンは黙り込んだ。悩み、と言われれば心当たりしかない。

 もちろん、自分自身の弱さについてだ。

 朝、フィクスは剣技を繰り出すことに成功し、エルドは訓練所じゃ手に負えないときたものだ。

 剣聖の家に生まれた身として、これだけ周りに強者がいれば、劣等感を感じないわけがない。


「何か悩みがあるなら話しなさい」


 再び同じことを言われ、ジンはため息をついた。

 エルドもジンのことを心配そうに見ていたので、これは話しておいた方が良さそうだ。


「今朝、フィクスが剣技を出せたんだ」


 ジンがそういうと、ザパースとエルドはきょとんとして顔を見合わせた。

 そして吹き出した。

 特にザパースに関しては、眉をひそめて大口開けて、実に苛立たしい顔で笑っている。


「はあ?なんで笑うんだよ。まだほとんど話してないだろ」


「いや、言いたいことは大体分かった」


 エルドは苦笑した。

 なんだかよくわからないが、何故か腹が立つ。


「さっき笑ってしまったのは謝る。お前がそのことで真剣に悩んでいるのも理解はしている。ただな、お前がそんなことで悩む必要はないんだ」


 エルドはそういうと、ザパースを指さした。


「長い間訓練所所長を務める手練れの剣士ザパース、この人は『型無(かたなし)』だ」


「はぁ!?初耳だぞ!」


 ジンはテーブルを勢いよく叩いて立ち上がった。

 型無は、『剣型(けんがた)』を持たない者のことを指す。

 剣型とは、人間が持つ剣の属性だ。属性は世界に8つ存在し、一つの剣型に主属性と副属性がある。

 ひとつ、フィクスで例をあげると。

 彼の剣型は『嵐』で、主属性は雷、副属性が風。

 このように主属性を持つ者はあまりいなく、大体のものが副属性のみの剣型を持っている。


 そして剣型の最大の特徴が、『剣技』の作成。

 剣技とは、普通では繰り出せない超強力な属性付きの攻撃で、自分の体内にある魔力を消費して繰り出す。朝にフィクスが繰り出した剣技は、彼の持つ『嵐』の剣型でしか使えない剣技だ。


 そんな剣型の機能が欠陥して生まれてくる者、それが型無。

 型無がプロの剣士を目指すことなどほとんどなく、なれたとしてもそこらの一般兵士が関の山である。


「剣技が使えない能無しの俺でも訓練所の所長に慣れるんだぜ!剣型持ってるお前が落ち込むことじゃあねえよっ!」


 ザパースは豪快に笑ってジンの肩を叩いた。

 そんなこと言われても、ザパースは特例だろう。

 それに、「剣技が出せなくても下には下がいるもんだから元気出せ」なんて言われても納得できるはずがない。

 内心でそう呟きながら、ジンは座り直した。


「まあ気楽にやってけよ。剣技が出せてない奴なんてお前の同級生で五万といるし、剣技が出せるようになる年齢も個人差がある。一生剣技出せない奴なんているわけないってことだ」


「それに気休めではあるんだが、ジンは一応だけど父さんに決闘で勝ってるだろう?」


「いや…あれは違うと思うんだが…」


 そういいつつ、ジンは過去のことに思いを馳せた。



 ※



「ジン、決闘をしないか」


 父、デルフはそう言った。

 おそらく、ジンが毎日懸命に特訓しているからだろう。父親として稽古してやりたくなるのも普通だ。

 急なことで驚いたがジンは目を輝かせた。


「やる!」


 そう言って、ジン達は庭に出た。そして父と決闘形式の稽古を行った。

 異変が起きたのはそのあとだ、父は急に心臓を押さえて倒れたのだ。

 ジンは顔を青くして兄に伝えに行った。


 なんと父は、心臓病を患っていたのだ。

 それがたまたまジンとの決闘で悪化し、結果命を引き取ることになった。


 世間はある程度デルフの死を予想してはいたが、やはり剣聖の消失のショックは大きかった。

 やがてエスパーダ家にザパースがやってくる。

 期待の兄弟を訓練所の所長が面倒を見る、世間もこれで満足し、実際にエルドという最強の剣士を生み出した。

 そして現在に至るというわけだ。



 ※



 ——数ヶ月後、

 夕食の席、ザパースとエルドに元気付けられたあの日から、ジンはイリアとフィクスと共に特訓を続けた。

 剣技を使えることは最後まで無かったが、剣技が使えないなりに努力して、身体能力の向上に成功した。

 そして現在、学校を卒業したジンはとある建物の前でガッツポーズをしていた。


「来たぜ、憧れの訓練所!」


 ジン、イリアが訓練所に入ることが無事決定した。

《キャラクター紹介》


○ジン・デルフ・エスパーダ

剣聖の家系に生まれた、第一章の主人公。

兄への憧れ、そして使命感から騎士を目指す。


○イリア・ラフィエ

ジンの幼馴染。ジンと同じく騎士を目指している。


○フィクス・エルレド

ジンの幼馴染。女の子のような容姿だが、性別は男。

ジンと同じく騎士を目指している。剣型は『嵐』(主属性:雷、副属性:風)


○エルド・デルフ・エスパーダ

ジンの兄で、今代の剣聖。


○ザパース・グレイクス

ジンとエルドの育ての親で、ウエラルド訓練所の所長。

王都内でも屈指の実力を誇るが、実は『型無』。


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