04
何の店なのか、すぐにはわからなかった。
狭く薄暗い店内、その壁に隙間なく並ぶ額縁、他には何もない。
さっきの影はどこに言ったのか、店内には店員すらいない。
不気味な雰囲気だ。
こんな店があったなんて知らなかった。
健太は滅多に姿を現さない好奇心に負け、ゆっくりと店内を回ってみる。
額に入っているのは、写真だった。
綺麗な風景、家族の集合写真、変な形をした石まで、いろいろな写真が飾られている。
健太はその写真たちに心を奪われて、夢中で店を1周していた。
そして一番奥にある1枚の絵で、思わず足を止めた。
銀色の世界。
普通は雪に覆われた世界のことをそういうのだろう。
この写真に、雪はない。
しかし、銀色の世界だ。
「その写真が気になりますか?」
突然の背後からの声に、健太は思わずヒッと悲鳴をあげた。
振り返ると、杖に体を預けた、シワの目立つ老人が立っていた。
白髪は短く整えられているが、声からして女性だ。
恐怖を感じ何もいうことのできない健太をよそに、老人はゆっくりと健太に並ぶ。
「これは、雲の写真。下からでも、上からでもない、雲の中で撮った写真。下から見ているだけでは、この水滴の1つ1つがこんなに輝いているなんて、わからないだろう」
人間みたいだねと、老人は優しく笑った。
「この日は大雨だったようだよ。地上から見れば、今日みたいな薄暗い灰色だろう。こんな世界があるなんて、空を飛ばなきゃ出会えないだろうね。」
健太は老人の話を聞いて、ますますその写真に見入ってしまった。
その写真の先に広がる世界から、離れられなくなっていた。
「それ、持っておいきよ。私が持っているより、君が持っていた方がいい。」