02
春という季節が、健太は嫌いだった。
面倒だ。
高校生活も3年目。
クラス替え、浮き足立ったクラスメイト、緊張した新任の先生。
新しいが溢れる季節。
ただしそれは、健太にとっては何もポジティブではない。
健太が座ったのは窓際の一番後ろ、この席順も、健太の心を映し出しているのかもしれない。
ポジティブな言葉をつらつらと並べる先生の話に耳を塞ぎ、健太は窓の外に視線を投げた。
どんよりとした曇り空。
今にも雨を落としそうな真っ黒な雲が、見える限りの空を覆い尽くしている。
おい、という言葉に、健太はハッと我に返った。
前の席の男が、健太に向かって紙をペラペラと降っている。
悪いと言って受け取る。
それを見計らったように、先生の言葉が教室中に響いた。
「いいか、今年はみんなの人生にとって、最も重大な1年だ。付属の大学もないウチの高校では、皆等しく受験を迎えることになる。努力をすれば、それ相応の結果を得られるだろう。ただそれは逆も同じ。先生にできることは、みんなが努力できる環境を作ることだ。そこで、その紙を配った。」
健太は紙に目を落とす。
書いてあることは簡潔だ。
・将来の夢
・その夢に向けての人生プラン
健太は誰にもバレないよう、深くため息をついた。
こんなの、まるで中学の進路相談だ。
「みんなが思う夢を、先生に教えて欲しい。この大事な1年を任された僕には、みんなの夢をサポートする責任がある。まずはこの紙に、自分の想いを綴って欲しい。僕らの1年は、この紙を持って初めてスタートするんだ!」