4.昼食をいっしょに
「貝塚さん、昼飯いっしょに食わね」
昼休みになったので貝塚さんを昼食に誘ってみた。
「……」
返事がない。ただの屍……ってそんなのはいいんだよ!
貝塚は俺を見つめたまま反応がなくなってしまった。最初から反応がないってのとは違う。きっと俺がわからないほどの薄い反応はあったんだ。たぶん。
「俺と、貝塚さん、いっしょに、昼飯、食べない?」
言葉を区切りながら、指差しながらのボディーランゲージで伝えてみた。
「はっ。わ、私と……?」
「最初からそう言ってんだけど」
こんなにも言葉を伝えるのって難しかったっけ?
貝塚は無口というか、コミュ障ってやつなのか? それとも男性恐怖症だとか。
そのへんも聞きながら確かめていければいいか。とにかく彼女のことが知りたい。
「で、どっすか? 俺と昼飯いっしょしない?」
「そ、その……」
わたわたしている貝塚がかわいい。
彼女はキョロキョロと教室中に目を動かす。なんか気にしてるのか?
「その……」
そのまま貝塚は口をつぐんでしまった。うつむきながらもその耳は赤くなっていた。
俺は辺りを見渡してみる。
「……とりあえず場所変えようぜ」
「あ……」
貝塚の手を取るとすぐに引っ込められてしまった。ちょっとショック。
「い、行くから……大丈夫……」
貝塚はカバンから弁当箱を取り出して立ち上がる。俺が歩き出すとその後ろをちょこちょことついてくる。
「おーい雄介。飯どうすんの?」
「俺貝塚さんと食うから。今日はいっしょにできないぞ。悪いなー」
「なん、だと?」
教室を出る間際にクラスメートの男子から声をかけられる。理由を話すと驚愕したといわんばかりのおもしろい顔になりやがった。優越感がむくむくと湧き上がってくる。
ふっ、悪いな。女子と昼食を共にする。これは男子として勝利者ではなかろうか。断言してもいいか。俺は勝者だ!
優越感から胸を張って歩く。相変わらず貝塚がちょこちょことついてくる。俺の隣に並ぼうっていう気はなさそうだった。
ちょいちょい後ろを確認しないとどっか行ってしまうんじゃないかって不安になるな。存在感が薄いから余計にそう感じてしまう。
むしろおしとやかな大和なでしこタイプと思えばそう悪いものではないか。考え方だな。
「あ、あの……。どこへ……?」
貝塚がおずおずと尋ねてきた。
ああ、なんとなくで教室出ちゃったから行き先を決めてなかった。
男としてしっかりリードしなければ。貝塚はこれから俺のカノジョになる(予定)女子なのだ。
できれば二人っきりになれる場所がいい。それはどこか?
「そうだな……屋上とかどうかな?」
そんな提案をしていた。