まずは仮死状態
エピローグ
「○○君、幽霊っていると思う?」
「いるよ。 」
「本当!?じゃあ、この前死んじゃった夏菜のおばあちゃんもこのへんにふよふよ浮いてるのかなぁ」
「それは違うよ。幽霊っていうのは、死んだ人だと思われてる。けど、本当は違うんだよ」
「じゃあ幽霊ってなに?」
「仮死状態にある人のことなんだ」
「かしじょーたい?夏菜が好きなのはチョコレートと、飴と、あとそれから…」
「仮死状態っていうのは、簡単に言うと生きてもない死んでもない人のことだよ」
「へぇー。○○君って物知りだね」
「仮死状態にある人は、幽霊としてさまようことになるんだ。答えを探すために」
「答えってなんの?」
「仮死状態になった人がある条件をクリアしていれば、神様から選択肢を貰えるんだよ。だから、どれを選ぶのか決めなきゃいけない。」
「へぇー。でもなんで、○○君そんなこと知ってるの?」
「それはね、僕が……」
これが私の1番古い記憶
第1章
下校のチャイムが、夏休みの始まりを教えてくれた気がした。
周りでは、みんなが計画を立てているみたいだ。
バイト、プール、スイカ割り…夏休みらしい言葉がたくさん聞こえてきて、私も思わず笑顔になった。
(春美とも、帰りながら計画たてなきゃなー)なんて考えてると、
「夏菜!帰ろー」
なんてタイミングのいいやつだ。
外に出ると、もわっとした熱気がこもっていた校舎内とは違い、風が気持ちよかった。
「春美は夏休み何するか決めたー?」
「考え中〜。夏菜は?」
「私も考え中〜」
「真似しないでよー!」
2人でこんなくだらないやりとりしながら帰るこの時間が、私は本当に好きだ。目立ったことはしたくない。幸せに青春したい。普通が、平凡が1番だ。
「おーい、夏菜?ぼーっとしてどうしたの」
「幸せだなーと思って」
「私も幸せだよ!さっきね、めっちゃいい感じのカフェ見つけたのー!」
春美はいつも幸せそうに笑うから、私まで笑顔になってしまう。
「何ていうお店?」
「えーっと…なんだっけ?」
はいでた。こういうの、なんとか現象って名前があるんだよね。もう何現象かも覚えてないけど。
春美は、首のあたりを指さしながら言った。
「あー、もうなんだっけー?もうここまで上がってきてるのに!」
「思い出したらでいいよ?」
「夏菜もあるでしょ?どうしても出てこないこと」
その言葉を聞いて、私はあることを思い出していた。
「あの時、あの男の子最後なんて言ってたんだっけ…」
「あの男の子って、誰?」
「わかんない。名前も忘れちゃって」
春美は何だそりゃ?って顔をして、すぐにまあいいやっていう顔に変わった。
私も、まあいいやで終わらせようと思った。そう思った。
なのに、なんでこんなに頭から離れないんだろう。
あの話をした男の子は誰?
最後なんて言ったの?
「あーーー!もう思い出せない!」
「もう、急に大きな声出さないでよ。そんな名前も知らない男の子より、彼氏でもつくりなよ〜」
「今はそういう気分じゃないし…あ!私図書館行ってくる!」
私は我ながらいい考えを思いついてしまい、一気にテンションが上がった。そして、春美のテンションが一気に下がったのも見てわかった。
「春美は一緒に…」
「行かなーい。じっとしとくの苦手」
まあそうだろうなって思ってたから、そこまでガッカリはしなかった。
「じゃあ、家に帰ったらlinaするね〜」
「ok!いい本見つかるといいね」
春美と別れた私は、足早に図書館へと急いだ。もやもやしている時やイライラしている時、悲しい時もこの図書館に来ればなぜか落ち着いた。早く行きたい。このもやもやした気持ちを、何とかしたい。
次の瞬間。
あ、死んだ。まずそう思った。
今私の目の前にあるのは車で。すごいスピードで。
信号無視したらダメじゃんなんて思いながら、その真っ赤な車が視界いっぱいに広がる様をみていた。いや、これは私の血か。全てがとてもゆっくりに見えた。しかし、本当に遅くなっているのではない。
次の瞬間。
私は私を見ていた。いや、見下ろしていた。血塗れの私を。
“仮死状態”この言葉が頭の中をぐるぐるとまわっている。
なんで。なんで。なんで。なんで。
薄れゆく意識の中で、救急車のサイレンが聞こえた気がした。