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遺文化交流  作者: あいし
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本日付けニートと女

彼女と出会った日は、コンビニのバイトをやめた日の帰りだった。

途中、立ち寄ったスーパーから出たときには、すっかり暗くなっており、街灯がつきはじめていた。田園風景が広がり、周りには自動販売機すらない。

「雨降ってるな。」

俺は傘をさして、小雨の中を1人で歩く。

雨の音以外は何もせず、車も通らない。水溜まりがどんどん大きくなっていく。

その中で俺は将来の不安や、生き甲斐について考えていた。

東京で就活に失敗した俺は、逃げるように実家に帰って来た。

しばらくは両親の手伝いをしながら上手くやってたのも束の間。交通事故によって両親は亡くなった。

一応、姉はいたが海外で結婚して家をすでに出ている。

俺は1人になったのだ。


将来の不安というが、しばらくは親の遺産を食い潰せばいい。まだまだ十分な生活ができる。

でも、コンビニのバイトをやめた俺は何をして生きればいいんだ?

新しい就職先を探す?新しいバイト先を探す?学校に通う?

それとも、あの店長にもう1度頭下げてみる?……まさか、そんなことはしない。

どの選択肢も、面倒だった。

何のために働くのか?

何のために食べるのか?

何のために生きるのか?

俺には難しい問題だと思った。


そんなことを考えてるうちに無駄に広そうな平屋が見える。

俺の実家だ。

「……ん?」

家の前で、女が1人うずくまっていた。その体は全身傷だらけで体は雨で濡れている。

黒髪で、リクルートスーツのようなものを着ており、顔はよく見えない。

「あの、大丈夫ですか?」

俺が声をかけても返事をしない。どうやら気を失っているようだ。

酔っぱらい?いや、傷だらけだから何かの事件に巻き込まれた人なのかもしれない。

警察に連絡したほうがいいのか?

俺は携帯を取りだし、電話をかけようとした。そのとき女が俺の方を見た。

「大丈夫ですか?」

「ぁ……エ?」

「ここ、俺の家なんですけど……。」

「……?」

俺のいうことを理解していないようだ。

よく見ると、目は灰色で、肌は白く、整った美しい顔をしていた。もしかしたら外国人なのかもしれない。

たしか、バルト沿岸の国の人がこういう色になるんだっけ?

俺はしばらく、どうするべきか悩んだ。

「……。」

すると、女は黙って立ち上がって服についた埃を落とした。

どうやら比較的に元気に見える。

「あの、よかったらうちで休んで行きませんか?怪我してるみたいですし、雨も降ってますし。」

俺は玄関の引き戸を開けて、そう言う。

普段の俺なら絶対にこんなこと言わないだろう。

俺は彼女に興味があった。

なぜ傷だらけなのか、なぜ俺の家の前にいるのか。

そのうえ、日本人ではなさそうだ。

彼女は旅行者?何かの事件に巻き込まれた被害者?

気になることがあると首を突っ込みたくなるのは悪い癖だ。

女はキョロキョロと周りを見て、

「……。」

俺が言ったことを理解したのか、俺の家に入る。

「ただいまー。」

俺は洗面所へ行き、女にタオルを渡す。

「簡単にご飯作りますから。テレビでも見て待ってください。」

俺はリビングにあるテレビのスイッチを入れ、ニュース番組にする。

女はタオルで、顔を拭く。椅子のほうを指指すと、女は立ち上がり椅子に座りながら今度は頭を拭く。

俺は、スーパーの袋から食材を取り出す。

お湯を沸かしながら、食パンに玉ねぎやウインナーをのせてオーブントースターにいれる。

「……?」

女はその様子を不思議そうに見ていた。

俺は皿の上に完成したピザトーストをのせる。

そして、ティーポットに茶葉を入れて上から熱湯を注ぐ。

「はい、出来ましたよ。紅茶ですけど、大丈夫ですよね?」

そう言いながら俺は、テーブルに2人分のピザトーストと、淹れたての紅茶を置く。

「冷めないうちに食べてください。」

俺はそう言ったが、彼女は首をかしげるだけで何もしない。

まるで目の前にあるものが一体何かとは理解できないというように。

「えっと……ご飯です。」

俺は自分の皿のピザトーストをかじる。

それを見てからよくやく『食事』であることを理解したようで、ピザトーストを食べ始めた。

やはり彼女は興味深い、と俺は思った。

どこの国の人間だってこれが食べ物であるとわかると思う。

しかし、彼女にはわからなかった。

つまり、彼女は特殊な環境で育ったのか、それとも病気や体質なのかもしれない。

俺はその点がますます気に入った。

「お風呂洗ってきますね。」

食事が終わったあと、俺は風呂場に行った。

「そういや、2階にお姉さんの服があるはずだったな?それと、お客さん用の布団も出しておかないとな。」

風呂を洗いながら色々なことを考える。


彼女があの様子だと、しばらく俺の家で暮らすかもしれない。

正体のわからない彼女、そう考えるとちょっと楽しみだった。


ようするに俺は、生き甲斐を見つけたのだ。



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