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7.届いた手紙 5

「まあ、いいか。ここでいつまでも推理ごっこをしてもしょうがない」

 新聞部部長としての好奇心でもっと突っ込んでいくかに思えた星乃は、意外にもあっさりと態度を翻した。

「え、いいんですか?」

「御木くんが嘘を吐いてるようには思えないし、経緯や手段は正直あれだけど、悪意や企みがあるようでもない」

「こんなもので見逃してくれるってわけ?」

 拍子抜けして脱力する雷に、星乃は念を押すように告げる。

「再犯しないならね」


「星辰学院内で何があったのか、個人的には関心はあるよ。かと言って、初対面の俺たちにこれ以上詳細を話すのも憚られるだろうし、口を割る気もないんじゃないか?」

 高校生のわりに大人の対応を見せつけて、星乃は泰然と微笑った。

「とはいえ、乗り掛かった船だ。ストラップはこちらで探してみよう。だから不法侵入はもう止めるんだね」

「いや、でも」

「で、もし見つかったら、そのときは改めて取材したい。ああ、他校のことだし、別に記事にする気はないんだけど」

「……面倒くさい性格だね。それこそ初対面の僕の戯言なんかでも、確かめずにはいられないんだ」


 いいよ、と雷は肩を竦めて了承する。


「探し物は任せるよ。……違うな。関係ない人に頼むなんて筋違いだとは思うけど、叶うなら協力をお願いしたい。手紙の真意は正直わからない。でも命さんが残した最期のメッセージだから、何とかしたいんだ」

 律儀に頭を下げて、雷は正式に依頼した。

 青花も否やはない。星乃や雷とは異なるベクトルであっても、興味があるのは同じだった。


 ……そう、気になる点は散在している。


 ストラップは本当にアイテムなのか。

 実際には何にどう役立つのか。

 遠回しな手紙で雷を選んで伝えた理由は?

 知られたくなかった相手とは誰だろう。

 何故、知られてはいけなかったのだろう。


(変なこと考えちゃうけど)



 神無木命の事故――とは。



(いやいやいや、事故だよ事故。警察だって調査したはずだし。ヤバイ怖い)

 物騒な推測は止めておこう、と青花は精神的安定を選択する。ただでさえ、今日は動揺することが多過ぎる。これ以上の複雑化は完全に許容範囲を越えていた。


「それじゃ、本格的な捜索は明日以降ってことで。もう結構遅いですし、このへんでお開きにした方がいいんじゃないですかね?」

「なんであんたが仕切るのさ」

「まあ確かにそろそろ下校しないと。雨も酷いからね。後日にしよう」

「了解」

「くっ……あからさまに態度違いますね」


 雷は星乃の言うことは素直に聞き入れた。釈然としないが、星乃の人徳を誉めるべきなのだろう。二人は連絡先を交換して、今後の動向を随時話し合うことに決めたようだ。

 行き掛かり上――と信じたい――関わってしまった青花としては、ストラップ捜索隊の頭数程度には協力するにしても、主体的に巻き込まれる必要はないだろう。

 この時点ではまだそう思っていた。







 三人揃って文芸部の部室を出た後、雷とはその場で分かれた。

 次いで自分たちも帰宅するべく、二人は新聞部の部室に荷物を取りに戻る。そこで星乃は改まって青花に告げた。


「お疲れのところ悪いけれど、空木さん」

「はい?」

「そうだな、明日明後日は新聞部の活動日だから、残念ながら来週になっちゃうかな。とりあえず日にちを決めておこうか」

「あ、お手伝いですね」

それも・・・ある」

「も?」


(ちょっと待って……なんかヤバイ気が)


 青花が一個人に対し警戒心を抱いたのは、このときが初めてだった。

 表面上は穏やかな笑みを湛えているが、本能が彼を油断できない人物と断じている。正確に言えば、厄介事に引きずり込もうという意図を感じる。

「いや、ちゃんと手伝いますよ?」

「それはありがとう。でもね、俺としては」


「空木さんが何を知っているのか、聞きたいな」

「へっ?」


 青花はぎくりと表情を強張らせた。

「何を……って」

「星辰学院――」

「……!」

「ずっと動揺してたのも、隠していることがあるのも、バレバレだったよ」


 ――さて、洗いざらい話してもらおうか。

 追及する瞳の奥には、穏やかさの欠片も見出だせない。追い詰められた小兎のごとく、青花は身を縮こませる。


(ひぃぃぃぃっ)


 青花は数瞬後には観念した。

 そして話は最初に戻るのである。






 ◆ ◆ ◆



 結局のところ、後日星乃が文芸部に適当な理由をつけて本棚を探させてもらったが、ストラップは発見できなかった。

 尤も、先日の件からたかだか一週間しか経っておらず、捜索にかけたのも小一時間程度だ。まだ進展は望めない。

 青花自身は星乃の疑問に答えるために費やした時間と緊張により、すでに疲労困憊だった。

 

「まあ、他の部室かもしれないからね」

「本当に部室棟のどこかにあるんですかね。誰かが拾ってる可能性もありでは?」

「どうかな。大事な物なら、そう簡単に他人の手に渡るところには隠さないんじゃないか」

 もう少し慎重なタイプかと思ったが、意外にも星乃は楽観的である。

 どちらかと言えば、ストラップよりも与太話に興味が移ったのか、まだ話し足りないという雰囲気だ。迷惑極まりないと、青花は辟易する。

「もっと熱心にやりましょうよ。御木くんに大口叩いたんだから、怒られますよ」

「……ああ」


 雷の名を出すと、星乃は少しだけ表情を変えた。

「御木くんとはね、あれから一度会ったよ」

「はい? い、いつ?」

「あの日の翌日に。もともと学校同士が近いから簡単だよ。まあ、お互い忙しかったからほんの数分だけど」

「知らない間に何やってんすか……」

 確かに雷は星乃に一目置いた様子で連絡先も交換していたが、まだ目的を達成していない段階で、厚顔にも程がある。

 青花は呆れて再び机に突っ伏した。


「彼が本当に星辰の学生なのか、確認しただけだよ。検証は大事だろう?」

「まあそうですけど。そのためにわざわざ?」

「行った甲斐はあったよ。そういえば青花ちゃんのお兄さんのこと訊かれたんで、他の情報と引き換えに話してしまったけど。事後報告でごめんね」

「は? 何すか、それ」

「名前は同じだし、顔似てるなって思われてたみたいだよ。似てるの?」

「顔はまあ言われます。でも結構年齢離れてるんですよ」


 それよりも自分の身内話と引き換えに手に入れた情報とは何だ、と青花に星乃に詰め寄る。

「何を聞いたんです?」

「うーん、そうだね。面白いものをくれただけだよ。……ああ、そんなに興味があるならどうかな、青花ちゃん。次の日曜は暇だね?」

 星乃は先程取材協力の勧誘(強制)をしたときと同種の笑顔を浮かべた。もちろん青花に拒否権はなかった。

「へ? に、日曜ですか……」

「ちょっと遅くなるから、必要なら家のひとに了解を取ってね」


 返答を待たずに、星乃は手早く財布から二枚のチケットを取り出すと、押し付けるように一枚を青花に手渡した。

「はい」

「え……と?」

「御木くんから貰ったんだ」

「えーっと?」

 意味がわからないまま、青花は手にしたチケットを確認した。黒地に白い字で小さく書かれた概要は読み難い。裏面には地図が載っていた。



STAR&LUCKスタートラック vol.6

 9月**日(日)

 OPEN 17:30 START 18:00

 musiccharge ¥1,000- 1drink ¥500-』


 

「……ライブ?」

「そう」

「まさか、御木くんが出るんですか?」

「いや、違うよ。ただ言われたんだ。『気になるなら直接会ってみれば』って」

「会うって……誰、に?」

「何だろ。容疑者、かな」


 星乃は不穏な単語を冗談めかして口にした。その眼差しに一瞬だけ真剣な光が宿ったように見え、青花は息を呑む。

「この間、御木くんが言ってたよね。彼女がストラップのことを知られたくなかった人物が、学院内にいたんだろうって」

 まだ記憶に新しい雷とのやり取りを思い出し、青花は軽く頷く。


(それでもって、ライブ……バンドってことなら)


「誰だかわかってるね、青花ちゃん。それもゲームの話?」

「う、まあ……」

 事情を知られているということは話が早い反面、厄介でもある。察しの良すぎる先輩に、青花は容易に翻弄されてしまう。

「じゃあいいね、日曜日は」



「ライブハウスに行こう――」

次話より「ライブハウスに行こう」

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