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4.届いた手紙 2

(まさか、幽霊とか言わないよね……ははっ)

 噂を思い出し、青花は密かに妄想する。

 だが未知への不安は否定するまでもなく、星乃によって打ち消された。

「誰かいる」

「へ?」

 星乃は迷わずにドアの近くにあるスイッチを触り、部屋の電気を点ける。


 瞬時に明るくなった室内には、確かに人がいた。

「えっと……」

 青花はやや戸惑う。

 床に尻餅をついている男子生徒が、気まずそうに二人を仰ぎ見ていた。その姿を視認すると、星乃が不審そうに言った。


「文芸部の部員じゃないね」

「えっ、そうなんですか?」

「そのくらいはわかるよ」

「あ、そうか。お隣の部室だから部員だったら、当然顔見知りですよね」

「……」


 男子生徒は黙秘する。

 文芸部の所属でないのなら、部外者が勝手に入り込んだということか。いや、もちろん青花のように事情があってお邪魔するケースもあり得なくはないだろうが、電気を消してこそこそとする意味はわからない。

「1年生……じゃないですね? 多分、見覚えないので。私が知らないだけだったらすいませんけど」

「2年でもないね」

「じゃあ、3年の先輩ですか?」

 青花は意外に思う。あまり大柄でないその生徒は、童顔というか幼いというか、男子にしては可愛らしい顔立ちをしていたからだ。


「いや、……違う」

 不意に、星乃の声と表情に緊張が走った。

「……っ」

 男子生徒はあからさまに動揺する。

「君、この学校の生徒じゃないよね?」

「はあ!?」

 思いもかけぬ結論に、青花は驚いて目を瞠いた。男子生徒は扇浜の制服を着ているのに、面識がないからと言って他校生と断定できるものなのか。

 青花の疑問を星乃はすぐに察した。

「これでも俺は、全校生徒の顔と名前を把握してるんだよ」

「マジっすか。新聞部ぱないっすね」

「まあ、特技なんだ」 

 得意気に言う星乃に、青花は素直に感心する。扇浜全校生徒の人数を考えるとかなり凄い。


 に、しても――。

 本当に他校生であるとして、わざわざ扇浜高校の生徒になりすましてまで、校内に侵入したということか。いったい彼は何者で、何の目的なのか。

 後から考えれば、すぐに教師に連絡するなりが正解だっただろう。突拍子もない事態に、青花はおろか星乃でさえ混乱していたのだ。

 二人はしばしの間、不審人物が口を開くのを待ち続けた。



 + + +



「ごめん――」


 床に座ったままの男子生徒は、やがて諦めたようにぽつりと呟いた。

「でも事情があるんだ。できたら大事にしないでほしい」

「……君は?」

「みき」

「うちの生徒じゃないのは確かだよね」

「正解。制服は借り物」

 ミキと名乗った男子は、観念したとばかりに両手を上げる。

(あれ……?)

 名前の響きと特徴的な容姿が、ふと青花の記憶の端に引っ掛かった。


 唐突に脳裏に浮かんだ絵姿がある。

 漫画的なイラストだが、無理矢理に現実の人間とだぶらせてみる。

(みき……御木? ……ってまさか)

 今は扇浜の地味な制服を着ているが、もし彼が他校の、それも例の学校・・・・の制服姿だったとしたら。

「まさか、星辰学院の?」

「!?」

 青花が思いつきをそのまま口にすると、相手は明らかに狼狽える。



(星辰学院1年の御木みきあずま――!?)



 唖然としたのは青花も同じだった。

「御木くん……御木雷くん?」

「……そうだけど」

「知ってるの、空木さん?」

「えっと……名前、だけ」

 嘘ではない。青花はからからに乾いていく喉をごくりと鳴らした。


 御木雷、星辰学院生徒会メンバーで、子どもっぽい見た目とは裏腹に、生真面目で責任感の強い性格である。

(って設定。憶えている。つまり彼は)


(……あのゲーム・・・・・の攻略対象者)







 正直な話、ゲームアプリ『星に願いを、君に想いを』と星辰学院の件は、すでに半年も前の出来事として、青花の中で関心は薄れていた。不思議且つ不可解な現象ではあるが、証明も難しく、追及したところで何がある訳でもない。況してや他校に通う青花に影響は皆無だ。

 唯一心配だった兄の忍も、現状特段問題なく勤めている。高校入学からの慌ただしさにかまけているうちに、実はゲームの謎など殆ど忘れかけていた。


(嘘……今頃になってこんなことってあり?)

 今度はゲームのキャラクターが現実に、それも目の前に現れる――などとは。


「そうか……あの・・星辰学院の」

「星乃先輩?」

 含むところを感じさせる物言いに、青花が小首を傾げる。

 星乃は答えず雷に尋ねた。

「御木くんね。確か星辰の生徒会にそんな名前の1年生がいたと思ったけど」

 さすが情報通(青花認定)の星乃である。扇浜だけでなく、星辰学院の生徒すら特定できるのか、と青花のみならず言われた雷もぎょっとする。

「そう、僕だよ。あんたは……星乃さん? さっきから尋常でないと思うんだけど、何者?」

「仰々しいな」


「ただの、扇浜の新聞部部長だよ」

 勿体ぶることもなく、星乃が身分を明らかにする。訊かれてもいないのに青花が続けた。

「私はただの後輩の空木です」

「俺たちは君のことを通報、とまでいかなくとも、先生に話す義務がある」

「まあ、まともだね」

 雷も問題行動の自覚はあるようだ。

(そうだよ、このひと不法侵入者じゃん)

 星乃が言及するまで学校に報告する必要すら思いつかなかった青花は、自分の対処能力の低さに落胆する。


 険しい表情のまま、雷は徐に立ち上がった。身長は青花より少し高い程度で、微塵も凄味はない。

(あーなるほど。可愛い系っていうかショタ枠? いやいや、見かけはこれでも高校生だし)

 曖昧な記憶から攻略対象者のキャラを思い出すと、何となく顔がにやけてしまう。雷はそんな青花を不快そうに睨んだ。

「僕はできたら星乃さんにだけ事情説明したいんだけど」

「はあ?」

「まあまあ。御木くん、こちらも証拠を残したいというか、複数の方がいい。ICレコーダーも持ってるけど、使われたくないだろう?」


 星乃の言葉に、雷は仕方なさそうに頷いた。

「わかったよ」

「おっけー。学校に報告するかは、君の話次第だ。俺と空木さんで相談のうえ判断する。それでいいかな?」

「妥当だね」


 こうして双方同意に至ったため、青花と星乃は事情聴取に臨んだ。

 外はすっかり暗くなり、雨音はどんどん勢いを増していた。



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