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37.真相 3

(神無木命は……敵の正体に目星がついてたはずだけど)


 だから当たり前のように、聖也も情報を得ていたと推測していた。だが本当に知っていたとしたら、もっと賢く立ち回れたとも思う。


「今までの話が本当なら、会長は命さんから託されたんでしょう? 勿体ぶってないで全部話してください!」

 業を煮やした雷が、目上に対するには些か乱暴に怒鳴りつける。普段であればそこまで無礼な態度は決して取らないはずだが、真面目一辺倒の雷でも儀礼を取り繕う段階は過ぎていた。


「いいや」

 聖也はゆっくりと頭を振った。

「彼女は確かにある特定の人物を怪しんでいた。だが、何か証拠がある訳ではない。あの日も目撃すらしていない」

 静かな眼差しは質問者の雷から、ちらりと別の方向へと動く。聖也は全員に視線を投げると、最後は青花に固定した。 

「ただ……信頼して親しくしていた人物だったのだと言った」


(そういえば、言祝木さんもそんな話を……)




『私にも信じられないんです』

『まさか……あのひとが、なんて』




 神無木命が東校舎に赴く直前に蓮と交わした会話の中にあった。直接聞いた蓮以外に証人はいないが、公に供述している以上、偽りである可能性は低いだろう。

 学院を入学して3ヶ月足らずの新入生が信じるに足る相手であり、且つある程度親密にしていた人間であれば自ずと限られてくる。

(確かに生徒会メンバー内にいるって考えるのが妥当かもしれないけど)

 しかし青花が出会った全員とも、そんな様子はなかった。

 何より元々封じの役割を担う六根の家系の一員なのだ。尤も玲生や蓮のように一時的に闇堕ちした者もいるが……。


「君は、どう思う? 当代の」

「……私ですか?」

 青花を見つめたままの聖也が尋ねた。

 先々代の巫女姫を親に持ち、先代の神無木命と最後に触れ合った聖也には、当代と目される青花が特別な存在に思えるのだろう。

「俺を疑うか?」

「いえ。斎木さんは敵じゃない。嘘も言ってない。わかります」


「だったら……命さんと親しい間柄の人間に、敵とやらがいるってことになる」

「親しいってー? 恋人ってこと?」

「いや、神無木さんは男女交際は興味ないと言っていたが……」

 険しい面持ちで雷が断定すると、玲生が不愉快そうに言い、遥真が的外れに突っ込む。

「違うだろ。友人おれらん中にいるかもって話だろーが。わかってて逸らすなよ、天木」

 蓮は再度舌打ちして、玲生を嗜めた。

「そーお? 彼氏、友達……あとは身内って線もあるんじゃん?」



「――身内」



 ぽつりと一言、何かを思い出したかのような呟きが廊下に低く響いた。

(……兄ちゃん?)

 玲生の科白に引っ掛かりを覚えて言葉を発したのは忍だった。一瞬真剣な表情を浮かべて、忍は青花の方を振り返る。

「うーん……」

 難しそうに唸りながら、忍はやや乱暴に自身の頭髪を掻いた。


「いや……うん、何と言うか、別にこんな場面でいきなり思い出しちゃったのはわざとじゃないんだけどな? 俺はお前らの言ってること、実はあんまよく解ってないしな」

「兄ちゃん?」

「でも言わないのもどうかって感じだよなぁ……」


 小さく息を吐くと、忍はおそらく失礼は承知の上で、長い人差し指をひとりの人物に向けた。


「こないだ病院で会ったときも紹介されなかったからな。名前もわかんなかったし、今の今まで全然気がつかなかったんだけどさ」

 指が示す方向へ、全員の視線が集中する。

「青花の彼氏くん」



「君……()()()()()くん、だよな?」



 + + +



「……は?」


 開口一番に間の抜けた声を上げたのは雷である。

 続けて瞠目したまま星乃を凝視し、一歩二歩と後ずさる。驚愕が大きすぎて他の感情は表せないといった体で、雷は身体をよろけさせた。

「何、言って……え? 星乃さん……? 神無木って、いったい……」


「そうだな? 憶えているよ」

 追い討ちをかけるように忍が言い放つ。

「俺は葬儀で一度会ってる。扇浜高校の制服を着てた。星乃くん……神無木のひとつ上のお兄さんだろう?」

「は……?」

「先生、それマジ……?」


 同じく動揺を隠し切れない玲生が、常の明るい声音を真逆に裏返し、息を詰めるように問うた。

「彼氏くんが神無木ちゃんの兄貴……?」

「おい! ちょっと待てよ、そんなの初耳どころじゃねーよ!」

 蓮は眦を厳しく上げて、勢いに任せたまま、利き手でどんと壁を叩く。

「おい……あんた!」


 その憤りの矛先は青花へと向かった。

「あんたは知ってたのか?」

「そうだよ……あんたは同じ学校の後輩で、ずっと星乃さんと一緒にいたんだから、知らない訳ないよね?」

「妹ちゃん、そーなの?」

「え、えと……」

 三方から一辺に詰め寄られ、青花は迫力に負けてたじろいだ。下手な言い訳も出てこなかった。


「それは……まあ。だって珍しい苗字ですし」


 無論、青花は星乃の姓など()()()()()()()()()

 扇浜高校の新聞部は部員同士が下の名前で呼び合う慣習がある。正規の部員である友人につられて、青花も星乃の名ファーストネームで呼ぶようになっただけだ。


 だから最初に雷から手紙を見せられたときも、神無木命が乙女ゲームの主人公ヒロインの名だと気づく一方で、もうひとつの関係性も当然に察知した。

 だが――それを訊こうとした際、星乃は青花の言葉をやや強引に遮り、明言を避けた。




『星乃先輩、あの……()()()()って』

『そう、6月の終わりだったね。不幸な事故だった』




 ほんの短い科白の内に、星乃は青花に悟ってほしい事実を含めた。

 初夏に星乃が妹を亡くし、その後しばらく学校を休んでいた件は、実のところ扇浜高校内ではそれなりに知られている。新聞部員の友人がいる青花はもちろん情報を得ていた。

 繊細な話題であるため大っぴらではなく、また星辰学院の事故と結びつくような噂がなかったのは、騒ぎにならぬようある程度の規制が敷かれていたのだろう。


(いや、最初は驚いたけどね。まさか星乃先輩が神無木命ヒロインと兄妹とか、絶対に偶然じゃないじゃん)


 つまりストラップは必然的に新聞部の部室に隠されていた。

 もしかしたら青花自身すら、運命に引きずられ、関わるべくして星乃と出会ったのかもしれない。


 ただずっと気になっているのは、例の乙女ゲームのキャラクターに神無木命の兄弟が登場したかどうかだ。

 こればかりは未プレイの青花には把握できない。星乃が他校生であることから、単に設定上の存在程度というケースも考えられるだろうが……。


 真相は知れない。

 すでに青花たちは皆、ゲームの展開とは違う物語ストーリーの中で生きている。


(でも本当は、先輩なら)

 

 立場的にも状況的にも、星乃は唯一解答を握っている可能性がある。以前からそう考えていた青花は、見慣れた横顔を探り見た。

 痛いほどの視線を受けても、冷静な星乃は狼狽えることすらない。ただほんの少しだけ困ったような仕草で、僅かに首を傾けた。

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