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29.お祭り騒ぎとぼっちの君と 3

 実を言うと、貴木遥真とは彼の怪我が落ち着いた頃に一度会っていた。それもわざわざ扇浜高校新聞部の部室に足を運んでもらったのだ。文化祭より前、ほぼ10月の終わりの週のことだった。


 以前に忍び込んだ御木雷と同じように、遥真は扇浜高校の制服を着用して、他校生だと悟られずにやって来た。

 理由は遥真自身の希望だった。星辰学院でもなく外でもなく、例のストラップの隠されていた場所を見てみたいと言われ、星乃が了承した形だ。青花ももちろん同席した。


「ここにあのストラップが……?」

「うん、あそこの資料棚にね」

 入室するなり部室内をぐるりと見渡して、遥真は不思議そうに首を傾げた。

「不審な点でも?」

「いえ、自分も何かあるのかと思って」

「と言うと……」

「彼女が選んだならそれなりの場だったのではないかと」


 否定するということは予想とは違ったのだろう。なるほど、と星乃は遥真の疑問を察してスクラップ帳を手渡した。

「それに挟まってたんだよ。今は栞が代わりに挟んであるけど、そのページに」

「……これは」

「えっ!?」

 遥真が開いたページを覗き込んで、青花は驚きの声を上げる。


 そこにあった切り抜きは、以前とは変わり果てていた。

 あのとき僅かに残っていた文字も何もかも黒く塗り潰され、残されたのは日付部分だけだった。灰色の紙が辛うじて新聞の切れ端だと主張している。

「気がついたらそうなっていたよ。見つけた直後に写メ取って転送して保存したから、以前の状態は確認可能だけどね」

「どういうことでしょう……」

「貴木くんはどう思う?」


 星乃は悩ましく眉間を寄せる客人に尋ねた。

 スクラップ帳をじっと見つめながら、遥真はぽつりと答える。

「……干渉」

「え?」

「時間、いや因果律に干渉しているのか」

 独り言のように、遥真は意味のわからない用語を呟いた。やはり何やらオカルティックな話になってきたのではないかと、青花と星乃は互いに顔を見合わせる。


「神無木さんは多分、このページ……この記事の内容を残したかった。だから敢えてここに隠した」

「つまり、記事が今みたいにまったく読めなくなると知ってた?」

「おそらく」


 遥真は短く肯定した。

 だがストラップと共に記事を発見したときには、すでに虫食い状態だった。遅きに失したということだろうか。

 後悔とも落胆ともつかぬ気分で、三人はしばし無言でスクラップ帳を眺めた。


「……自分も、実は星乃さんに訊きたいことが」

「うん?」

 考え込む星乃に、遥真は訊き返した。

「何か気になる?」

「ええ、是非教えてほしい」


 遥真は真っ直ぐに星乃を見た。


「もし貴方が知っているのなら――」



 + + +



 そんなやりとりを、青花はふと思い出す。遥真と会うのはそれほど間が開いていないため、記憶はまだ鮮明だった。



 玲生が呼び出しをかけてから数分も経たずに、遥真は地学室にやって来た。制服ではなく、いつぞや見た胴着姿だ。

「剣道部何かやってんだっけ? 運動部は場所足りないから今回は文化部優先で自粛だよねー?」

「いえ、これは自分が身動きしやすいようにです」


 礼儀正しく先輩に一礼すると、遥真は表情も変えずに答えた。相変わらず硬派の見本のような佇まいで、長身の背を更にぴんと伸ばしている。

 先日会った際にも快方に向かっているようだったが、ガラスで負った怪我は殆ど治癒したらしく、包帯も取れている。普段から鍛えているせいか、回復力も高いのだろう。


「やあ、貴木くん」

「どもです」

「どうも、先日は失礼しました」

「まーとりあえずみんな座ればー?」


 部屋の片隅に重ねてあった丸椅子を持ち出して、玲生が促す。狭い室内に4人が座ると、さすがに暑苦しかった。

「じゃあ手短にー」

 当たり前のように中心の位置に座る玲生が、緊張感なく告げる。

「東校舎は午後イチだけ開けてもらえることになったから」

「へえ」

「ほんとは終日閉鎖なんだよー? 斎木にバレないよう生徒会名目で先生に頼むの大変だったんだからねー」

 反応の薄さに、玲生はむぅっと子どものように拗ねた。

「君に頼まれたから、動いてやったんだけどー?」

「貸し借りゼロだろう?」


 星乃は平然とあしらった。

 確かに玲生に対しては物言える立場ではあったが、生徒会の渉外役にあっさり優位に交渉を持ち掛けるあたり、星乃も手慣れている。

「えー? 妹ちゃんに借りがあるのは認めるけどー? 君にじゃないんだよ」

「ま、まあまあ落ち着いてください、天木さん。今回は私からもお願いってことで。ありがとうございます!」


(何故に私が仲裁を……)

 釈然としない青花だったが、不用意に波風を立てるのが望ましくないのはわかる。本気でなかったか渋々か、引いてくれた玲生に手を合わせた。

(先輩もらしくない)

 常であれば相手を軽々しく挑発などしないはずだ。普段は鷹揚な星乃も何かぴりぴりしている。


「いーけどー。別に鍵開けてもらうくらい、ほんとは簡単だしね」

「そうなんですか?」

「まーねー。僕が頼めばね。実はちょっと恩に着せてみたかっただけー」

「そういえば、この間も遅い時間なのに入れましたもんね」

「あれはもともと開いてたんだよ。うちの校舎は当直の先生が帰り際に閉めて回るもんだから、結構夜遅くまで出入り可能なんだよねー。ブラックだから残業多いらしくてさー」

「え?」

 玲生の説明に、青花は何か引っ掛かりを覚えた。

「正門はさすが頼んで開けてもらったけど。あの日は飲みに行っちゃった先生が多かったから、ちょっと手間取ったなー」



「……星乃先輩」

「うん」

「あのぅ、例の事故のときって、渡り廊下側でない方の出入り口も確か閉まってたんじゃ」

「ああ……」

 星乃は首を縦に振る。

「閉まってたはずだ」

「ですよね。当直の先生はまだ巡回前だった……」

 青花が抱いた疑問など、星乃はとうに気がついていたのだろう。驚いた様子もなく、冷静に頷き返される。


(だったら本当にあの仮説は)


 テスト開けに星乃と交わした会話を思い出す。

 言祝木蓮が駆けつけたとき、何者かの手で東校舎は施錠されていた……。


(じゃあ、本当に……?)


 神無木命は閉じ込められたのか――。

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