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25.本命 5

 12年前の日付で刊行された読めない新聞記事。

 斎木聖也の両親が亡くなった年。


「ぐ、偶然……?」

「さてね」


 絶句する青花を横目に、星乃も神妙な表情を浮かべる。

 この気味の悪い連鎖は何だというのか。

 先程星乃は指折り謎を数えたが、そのどれもが無関係ではなく、複雑に絡み合っている。解決の糸口はどこにある?


「はあ。お手上げです。わけがわからないよ」

「ひとつひとつ積み上げていくしかないね」


 女子高生らしからぬ渋面を作ってぼやく青花に、星乃は苦笑した

「他の件はともかく、例えばオカルト方面をクリアにするのはどうかな? 『巫女姫』様」

 わざとらしく茶化して言うと、星乃は制服のポケットからスマホを取り出す。

「実は今日、貴木くんと会う約束をしてる。あっちもテスト終わったみたいでね」

「おお! さすが先輩」

「向こうは生徒会の都合があるから、連絡待ってたんだけどね。そろそろかけてみようか」

「おなしゃす!」


 ファンタジー的側面から問うのに、まず貴木遥真に着目した星乃の意図は理解し易い。「巫女姫」とかいう、如何にも創作にありがちな恥ずかしい呼称を青花に授けたのも彼だ。最もその手の情報に詳しいと判断していいはずだろう。

 もちろん知識を求めるのならば、本当は天木玲生でもいいのだろうが、性格的に癖があり、素直に開示するとは思えない。遥真も扱い辛い相手ではあるが、まだ嘘は言わないように思えた。



 星乃は電話をかけた。しかし残念ながら相手の応答はなく、スマホには接続中の画面が虚しく表示され続ける。

 また後でかけ直すかとスマホを仕舞おうとしたそのとき、今度は逆に着信があった。折り返しと思い画面を覗いた星乃が相手の名を見て眉を顰めた。

「先輩?」

「……御木くんだ」

 目的の人物とは違う相手からの連絡にやや躊躇いながら、星乃はスマホ画面をドラッグする。


「もしもし」

『ああ、星乃さん? 遥真に着信があったのわかったんだけど、あいつ今、電話できる状態じゃなくてさ。僕が代わりに』

「? 何かあった?」

『察しがいいね。……遥真は怪我で病院に運ばれた。僕もそこにいる。もし詳しい話が聞きたいんだったら、今から来てくれない?』


 星乃が音量を上げたため、傍らの青花にも通話の内容は聞こえた。突然の事態に二人は息を呑み、大急ぎで部室を後にし、指定された病院へと向かったのである。



 + + +



「集団ヒステリー?」


 病院に駆けつけた二人が聞いたのは、どこかで聞いたようなありきたりな単語だった。


 さて――星辰学院からやや離れた総合病院で、青花と星乃は雷と落ち合った。

 病院に足を踏み入れ、最初に雷を目にした際、二人は驚きを禁じ得なかった。怪我をしたのは遥真だと言っていたはずの雷も、ところどころ切り傷だらけで、治療の跡があったのだ。

 肝心の遥真はまだ意識すらないらしい。


 いったい彼らに何が起こったのだろうか。

 疑問符だらけの二人に対して、憔悴し切った面持ちの雷は簡単に説明を続けた。

「興奮した生徒たちに詰め寄られて、窓ガラスが大破。遥真は背中からざっくりやって出血多量。僕は掠り傷で済んだけどね」

「ひえ……」

「何だってそんな事態に?」

 当然の疑問を星乃が呈する。熱量に乏しい現代社会の高校生がそこまで理性を逸脱した行動を取るとは、常識的に考えて信じ難い。


「最初は文化祭の話がきっかけだった。その……実は事故があった東校舎が、学校側によって使用禁止になったんだ。今日はテスト明けというのもあって、各部活動に対してその説明会があった」



 理由があるとすればそれだけだ。雷は複雑な心境のようだった。

 そもそも安全が保障されない、或いは疑わしいと外部に目される東校舎の使用禁止は、学校からすれば当然の処置だったろう。生徒会としても否やはなかった。

 だが、出し物に今まで東校舎を利用してきた部活もいくつもあった。そういった部にとっては、事実上の文化祭出店禁止に他ならない。

 しかし学校側の意図として、今年の文化祭の方針は「緊縮」なのだ。人死にが出た年に派手に騒ぐのは外聞が憚られる。精々各クラスの出し物や演劇や音楽のステージで我慢しろという命令だった。


「けれど知ったことじゃないって生徒も多いからね。自分たちとは関係ないところで自粛させられるなんて耐え難かったんだろう」


 各部活代表者の苦情の声は大きかった。

 説明する生徒会も辟易するほど、文句と野次は度を越していた。

 やがて、幾人かの生徒が明らかに異常と思える興奮状態を発症するに至る。

 病的な表情が広がっていくのを、雷はすぐには気がつかなかった。ただ普段より感情的になっているだけに見えた。

「気のせいかと思った……あのときと同じ、黒い靄を認めるまでは」


 雷は信じ難いとぼやきながらも、見た通りをそのまま語る。

 自分が目撃した人々が勢いのまま迫ってきた恐怖を。その容赦ない勢いと逃れられないと覚悟した瞬間を。

「驚きを通り越して」

 疲れ果てた声音で雷は告げた。

「皆、頭がおかしくなったかとしか思えなかったな。僕たちは押されるままになって、多勢に無勢で数的に止められなかった。結局勢い余って、窓の近くにいた遥真の背中がガラスを突き破った……みたいな感じかな」

 

 その時点で皆が一様に正気に戻る。いや、動揺のあまり逆の方向でパニックに陥った生徒も多少いたようだ。

 遥真の背にはガラスの破片が突き刺さり、制服が血で染まる。雷や他にも窓の近くにいた生徒の一部は、やはりガラスで掠り傷を負った。

 異常を察知した教師らが乗り込んでくる。

 その頃には例の黒い靄は見事に霧散していた。生徒たちは我に返って自身の言動に唖然とするばかりだった。


「この間、副会長の家で色々見ていなければ、僕も目の錯覚だと思い込もうとしただろうね」

 だが、すでに雷は知っている。

 学院にいる何か、「呪い」という名の良くないもの――自分たちの敵の存在を認識していた。

「遥真に言われて、御木うちの爺さん連中から、家に伝わる話とかも仕入れたしね」


 子々孫々に伝わるはずだった家系の秘密と能力――「六根」と呼ばれる特殊な立場と、封印に纏わる神無木命との因縁に考えさせられるものがあったのか、雷は嘆息する。


 以前よりは視界も思考もクリアになった。

 とは言え、わからないことは未だ多い。

 黒い靄により生徒たちが操られ、雷と遥真が襲われたとして……当然相手の狙いは敵対勢力の弱体化だろう。

 学院内に質の悪いものがいて、それが己の敵であり、神無木命も狙われていた事実は認めるしかない。更にその得体の知れない相手は、自分たちすら標的として射程に入れてきている。


「細かいことはまだ理解できていなかったり、判明していない部分もある。でもひとつだけ、多分あんたたちも知っておいた方がいい情報がある」

 おそらく今日もし何もなければ、遥真から伝えられていただろう。

 雷はそう前置きする。

「例の『呪い』……いや、もっと元凶である存在について。あんたたちも見たよね、命さんの姿を。あれは幻影だったし不完全だったみたいだけど、そういうのも特徴のひとつらしいんだ」


「有体に言うと……敵は()()()姿()()()()している可能性がある」

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