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17.回想シーンは慎ましく 1

 プールサイドでの波乱は未だ収束していない。



 天木あまぎ玲生れおの顔面に一撃を入れると、空木うつぎ青花あおかはその場にへたり込んだ。全身の力が急激に抜けていくのを自覚する。

「は……っ」

「青花ちゃん!」

 即座に星乃ほしのが青花の元に駆け寄った。両肩を支えるように掴まれ、青花は安堵の息を漏らす。

「せん、ぱい」

「良かった、間に合って」

「先輩……いつから」


 後頭部のごく近くに星乃の吐息を感じ、不謹慎ながら青花は顔を向けることができなかった。振り返らずに尋ねると、星乃は苦笑する。

「『神無木かんなぎみこととか呪いとか、全然私の知ったことじゃないんですよ』……かな」

「う……すみません」

「いい啖呵だけど、まったく無茶をする。連絡をくれたとき、たまたまこの近くにいたから良かったものの、なんで止めたのに行っちゃうかな」

「返す言葉もございません」

 実は玲生から誘いがあった段階で、青花は一度星乃に相談している。夜分ということを除いても危険の匂いを察して星乃は制止したが、青花は自身の判断で渦中に飛び込むことに決めた。その迂闊で短絡的な行動すらも予測して、星乃は星辰学院まで来てくれたのだ。


「でも先輩、近くって?」

「ああ……それはね、彼のところだよ」

 星乃は立ったまま放心している玲生――の背中から腕を回して抑えている言祝木ことほぎれんを指して言った。

「言祝木さんの家に? なんで!?」

「もちろん、取材だよ」

 当たり前のように星乃は答えた。

「というより情報収集かな。青花ちゃんも知っての通り、()()()()()も含め、きちんと当事者が把握してる事実を検証しておきたかったんだよ」

「あ……」


 言われて、青花は思い出す。

 そもそも今回ストラップの力を無条件に信じて発揮できた理由を説明するには、今より少し前――即ち一昨日に起こった出来事を語らねばならない。

 そう、二人が本当の意味でファンタジーの世界に足を踏み入れた日のことを。






 ◆ ◆ ◆



 ――さて、突然だが話は3日前に遡る。

 それは青花と玲生が知り合った日、つまり例のストラップを発見した日であるとも言える。



 ストラップが見つかってすぐ、当然ながら星乃はまず依頼者であるところの御木みきあずまに連絡をした。結果一度どこかで会って手渡しする約束になったのだが、青花はそれまでの間ストラップを預かるよう星乃に頼まれた。

「それでこの、ストラップだけれど……当面青花ちゃんが持っててくれないかな」

「私が、ですか?」

「うん。何となくそれがいいように思うんだよ。言われたんだろう? 貴木たかぎ遥真はるまくんに」

「何となくって、先輩らしくもない」

「俺だって勘を頼りにすることもあるけどなあ」



『他でもない。君が手に入れるんだ』



 囁くような低い声が、今も青花の耳に残っている。

 攻略対象者のひとりである遥真に、確かにそう告げられた。

 何の意図があるのかは不明だ。あのとき遥真はおそらく、青花に対して何かを感じ取っていた。逆に青花自身も彼に引っ掛かりを覚えているから気になっている。


「御木くんから貴木くんにも伝えてもらうように言ってある」

「えーっと、それって日曜の一件を御木くんにも話しちゃったってことですか?」

「一応あらましはね。言祝木くんのストーカーが暴れたところに偶然行き合って、やっぱり偶然居合わせたらしい貴木くんと協力して、まあ何とか穏便に場を収めたって」

「う、嘘はないですね」

「さすがに『呪い』がどうのとか、青花ちゃんが見たっていう超常現象?は話せなかったな。憶測や感覚で物を言うには、電話や文字だとどうにも複雑でね」


 元より雷自身は事故の第一発見者たる蓮に疑いを持っている。対して、遥真は何か思うところはありそうだが、蓮に抱く感情は疑惑というより懸念のようだった。

 そのあたりの微妙なニュアンスを機械越しに伝えるのは、星乃であっても難解と判断したのだろう。雷とはいずれ直接対話せざるを得ない。

「とにかく、御木くんと正式にセッティングできたらすぐ伝えるから、ストラップは青花ちゃんが預かっててくれる?」

「うーん、まあ仕方ないですね」


 青花は渋々ストラップを手にした。

 ぼんやり光っているのも薄気味悪いが、実際に触れると少し熱を持っているように思える。特に青花の身に影響があるとまでは言えないものの、厄介事の種になりそうな爆弾を抱えた心境である。

「怖いなあ……」

「じゃあ、これは?」

 無意識に呟いた青花に、星乃が手を差し出した。

「? 何ですか?」

「近所の神社で売ってたお守り袋みたいな? ちょっと大きめで巾着っぽいから、入れておいたらいいんじゃないか?」

「おお。さんきゅーです」


 赤地に金糸で紋様が縫われたお守り袋を星乃から受け取ると、青花はストラップを仕舞い込み、赤紐で巾着の口を結んだ。ポケットに入れて持ち歩くにも邪魔にならず、丁度いい大きさだった。

 鈴のストラップにもしっくりくる。星乃はストラップを発見したときを見据えて、予め用意していたのだろうか。何とも周到な性格である。


「それじゃ、今日のところは私は帰った方がいいんですよね?」

「うん、俺はあの記事について、ちょっと集中して調べたいから。ごめんね。御木くんとは明日か明後日にでも会えるようにしたいんだけど、向こうの都合もあるし、日時決まったら連絡入れるよ」

「りょーです」



 そして――青花は新聞部の部室を去り、星乃は残った。

 それから数十分もしないうちに、青花は駅前ロータリーで兄と兄の車に乗った玲生に遭遇することになるのだが、その話は前述の通りなので割愛する。



 結論から言うと、雷とは翌日にすぐ会う段取りとなった。

 あちらの生徒会の仕事も忙しかろうと、星乃は日程についてはほぼ任せたようだが、気が急いていたのは相手の方だったらしい。

 更にもうひとつ、雷からは伝言があった。

 ――貴木遥真も同席を望んでいる。

 想定の範囲内だね、と星乃は青花にそう言って、口端を上げた。

時系列的には14話と15話の間です

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