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13.君の遺した消えない傷痕 2

『平成**年3月**日』


 まず目に飛び込んできた日付の古さに、青花は吃驚する。

「えーと、これ12年前の新聞記事ですか?」

「だね。まあ新聞部って基本古参だから」

 青花の肩から覗き込むように、星乃がファイルを確認する。

 二人はほぼ同時に捜索の対象を発見した。



「あった……ストラップ」



 ファイルのほぼ真ん中を仕切るように、ストラップは挟まれていた。金の鈴と御幣に付いている白い紙垂という雷から伝え聞いた特徴と一致する。

 それだけであれば、ちょっと変わったコンセプトのストラップでしかない。

「どう思う、青花ちゃん?」

「えと……何ていうか、私にはちょっと光って見えるんですけど」

「うん」

 星乃は少し悩みながら言った。

「……実は俺にも」

「ってことは」


 振り返った青花に、星乃が頷き返す。

「発光する塗料なんかが使われてるようにも思えないし、参ったね」

「うーんやっぱり、不思議な力が秘められてるとかですかね」

「できたら俺たち以外にも確認してもらいたいけど、安易に見せる訳にもいかないよなあ……」

 ストラップを手にすべく覚悟を決めて、星乃はファイルに指を伸ばす。

 しかし、その動きは直前で止まった。


「先輩?」

「……何か変じゃないか? この記事」

 指摘されて、青花はスクラップの記事を読む。

 不審点はすぐに判明した。



『■■公園■■池で■■■■■■■事故』

『近隣の■■で■■■いた■■が足を滑らし■■したものと■■れる』

『■■されたのは■■■■』

『■■及び■■■■■が必死の■■に■■■も■■らず』

『■■■■■■■■■■君(■■歳)』


 

 辛うじて文字が拾えたのはこれだけだ。

 他の部分は掠れて消えかかっているか、虫食いのように潰されており、とても判読は不可能だった。

 古い新聞とはいえ、他のページのスクラップに比べて劣化が激し過ぎる。星乃が言うように不自然だった。


「? 何ですかね?」

「事故の記事……? 固有名詞とかが全然読めないな。あと顔写真なんかも」

「なぜ?」

「さあ……」


「いや……待って。公園、か」


 記事を凝視する星乃の瞳には、深刻さと真剣さが入り混じる。何かに思い至ったが、確証は得られていない場面で見られる表情だ。

 おそらく星乃は検証が必要だと言う。短い付き合いながら青花には予測できた。

「ちょっと調べてみるよ」

「はい」

 青花は素直に受け入れた。星乃が穏やかに見えて意思の強い人物だと、すでに理解していたからだ。

 加えて星乃は懸案事項を告げた。

 

「それで、このストラップだけれど……」



 + + +



 今日は帰れと星乃から部室を追い出され、青花は駅に向かった。

 最低限の務めは果たしており、最大限の成果は上げている。臨時部員としては役に立っている方だろう。もともと帰宅部の青花が暇を持て余していたとしても、とことん付き合う義理はない。

(ただなあ……この件に関しては、どうしても気になっちゃうんだよね)

 取材と称するにも、そろそろ不自然な感は否めない。好奇心なら止めろと一蹴するには重い。

(先輩はどこまで追いかけるんだろう)


 巻き込んだのは、巻き込まれたのはどちらだったろう。

 こうして星乃と離れて独りになると、急に不安になる。一方的ではなかったと思いたいが、流されて依存していた部分はある。


(あーやめやめ。折角時間空いたんだから、それこそ久々に家でゲームでもやーろうっと)


 沈んだ気分を無理にでも盛り上げるべく、青花は顔を上げる。

 駅前はいつもの通り、扇浜高校の学生が多く歩いていた。学校の逆側は一部ロータリーになっており、夕方は出迎えの自家用車が停まっていることもある。

 公立高校なので裕福度はピンキリとはいえ、家庭によっては過保護な身内がいる場合もある。

(うちには関係ないけどねー)

 一般庶民代表としてそう思った青花だが、数秒後、自身の認識は誤りだと修正を余儀なくされた。


 そう――ロータリーでやけに見慣れた車種と見飽きた顔に出くわしたのだ。


「青花ー。こっちこっち」

「は?」

「よお、遅いぞ」

「……兄ちゃん?」


 車内からYシャツ姿でひらひらと手を振っていたのは、星辰学院に教諭として勤める青花の実兄、しのぶだった。


(はあ!?)

 あまりにも突然の待ち伏せに、青花は面喰らう。

「何やってんの、兄ちゃん」

「お前を迎えに来たに決まってるだろ、お嬢様」

「キモイ。死ね」

 照れ臭さと羞恥心に負けて、青花は悪態を吐く。周囲に同じ学校の生徒がいる中で、いったい何の罰ゲームかと頭を抱えた。


「ひでーよ、青花。兄ちゃん泣くぞ」

「うっさい、帰れよてめー」

「柄悪っ」

「可及的速やかに帰ってください、お兄様」

「冷たっ」

「……くくっ」


「え?」

 割って入った笑い声で、青花はようやく車中に忍以外の人間がにいることに気がついた。

「は……え?」


「先生、妹ちゃんと仲良いねー」

「可愛いだろ」

「顔似てるのに、あんま似てないよねー」

 後部座席から聞こえた声の主は、星辰学院の制服を着ていた。声はやや高めだが、男子生徒であることは間違いない。


「な……」


 青花が驚いたのは、日本人にしては珍しい彼の容姿のせいだった。

 金に近い茶髪、青みがかった双眸、北欧系のような白い肌、異国の血が混じった顔立ち――。


天木あまぎ……玲生れお?」

「……は?」


 フルネームを呼び捨てにされて、相手は不快感を露わにした。しかしそれも一瞬、散らばった愛想を即座に取り戻すと、社交辞令たっぷりの笑顔を過剰なまでに振り撒いてくる。

「あっれー? 空木先生の妹ちゃんとどっかで会ったっけなー? 僕、可愛い女の子を忘れる訳ないんだけどなー」

「あ、いや……その」

「あーこいつ星辰うちの生徒会ファンなんだよ。扇浜でも話題なんだってさ。優しくしてやってくれよ、天木くん」

「へー。光栄だなー」

 忍がフォローにもならない茶々を入れると、玲生は剣呑な瞳はそのままに、底意地の悪い微笑みを見せた。


 ――これは性格が曲がっているタイプだ。

 攻略対象者というゲームの事前知識がなくとも、初対面の第一印象で明白である。美少年の眩い笑顔にも騙されず、青花ははっきりと判断した。

(星辰学院2年で生徒会では渉外担当。北欧ハーフの天木玲生)

 兄という思わぬ伏兵から齎された邂逅は、星乃の助けがない青花の警戒心を限界まで引き上げたのだった。

【攻略対象者(星辰学院生徒会)】

・生徒会長…斎木聖也(未登場)

・副会長…言祝木蓮(第10、11話)

・渉外…天木玲生(第13話~?)

・会計…貴木遥真(第11話)

・書記…御木雷(第4~7話)

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