また今度
誰にでも失敗はある。
僕も失敗をした。取り返しのつかない失敗を。
ある日、僕は姉ちゃんの家にいた。姉ちゃんっていうのはよく遊んでくれた近所の女の子。僕はいつも姉ちゃんって呼んで可愛がってもらっていた。
その日は姉ちゃんの家族と一緒に出かけることになった。
近くで夏祭りがあるのだ。
僕は姉ちゃんと一緒に楽しんだ。
夏祭りから帰るとき、僕の手にはヨーヨーとスーパーボールが握られていた。
僕はスーパーボールで遊びながら帰っていた。地面に向かった投げる。そして捕る。それを繰り返していた。
僕はスーパーボールに夢中になっていた。だから赤信号に気づかず、そのまま進んでいた。
気付いた時には車が目の前にあった。
目を覚ました時、近くでみんなが泣いていた。僕はもう助からない。姉ちゃんが助けようとしてくれたらしいけど、間に合わなかった。また、姉ちゃんも足に怪我をした。当分は車椅子での生活になるらしい。
僕のせいで姉ちゃんが怪我をした。僕は何もできない。
自分の無力さに憤りを感じた。
僕は姉ちゃんに全てを頼り切ってしまっていた。優しい姉ちゃん。その笑顔がもう見れないと思うと、涙が出てきた。それが、僕の最後の行動だった。
僕は姉ちゃんの役に立ちたい。今度は僕が姉ちゃんを助けたい。その一心だった。
普通ではあり得ないことを神は起こした。
神は彼の強い意志を感じ、その望みを叶える。
僕は…。生まれ変わった。記憶を持ったまま。姉ちゃんの妹として。
最初はただの子供だった。しかし3歳くらいからだんだん記憶を取り戻し、5歳で完全に元の状態に戻った。
僕は姉ちゃんの役に立つ。
でも。姉ちゃんはもとのような笑顔を見せなくなっていた。
僕のせいで、足がなくなったから?
元に戻ってよ姉ちゃん…。
今日からは僕が妹として、姉ちゃんを喜ばせるんだ。姉ちゃんの笑顔を取り戻すために。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私には弟がいた。血は繋がっていないから本当の弟ではないのだけども、弟のように可愛がっていた。
あの子といると、とても楽しかった。
無邪気な顔が眩しくて。いつも笑顔で。
弟は交通事故にあって死んだ。私も助けようとしたけれど、自分が怪我を負っただけだった。
私はあの子に支えられて生きてきた。あの子がいたから生きようと思えた。
あの子がいなくなった時、私はこの世から消え去ろうと思った。
家族には辛い思いをさせるけれど、自分も辛い思いをしたくなかったから。
そんな中、妹が生まれた。
最近、妹は私を笑わせようとしてくる。その様子を見るたびにあの子のことを思い出してしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
姉ちゃんは笑わない。それどころか、泣き出してしまうこともあった。
泣かないでほしい。姉ちゃんに、涙は似合わない。
何がいけないんだろう。
僕は考えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は足が悪くても、学校に行く。数少ない友達に会える場所だから。
車椅子生活になってから、体育系の友達は減った。代わりに、文科系の友達は増えた。
その友達はいい人。私を馬鹿にすることなく普通に接してくれる。
男子は基本的に馬鹿にしてくる。あいつらはそういう人種なのだ。
「ねぇ、あんた最近顔色悪いよ?どうしたの?」
「そうよ!悩み事があるなら言いなさい!」
「私たちで役に立てるなら…。」
優しい友達。でも、巻き込むわけにはいかない。
「全然…。大丈夫…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は何の役にも立てていない。
僕は決めた。生前、僕がとった行動をすれば思い出して笑ってくれるんじゃないか。そして、気付いてくれるのではないか。僕が僕であることに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんで?なんでそれを知っているの?それは、弟の得意技じゃない。
でんぐり返しからの私に向かって、バー!(変顔)
私を笑わせた弟の最強技。
なんであなたはそれを知っているの?
どうして?なんで?
あなたは私を見守っているの?私が心配で笑わせようとしていたの?答えてよ。
あなたは誰なの?
「姉ちゃん、気付いた?」
やっぱり。
「ごめんね。姉ちゃんの笑顔が見たかったんだ。」
謝るのはこっちだよ。ずっと笑ってなかったもんね。
「でも、さっき笑ってくれたね。」
あんたの最強技は一撃必笑だもん。
「姉ちゃんにはね、笑顔でいてほしいんだ。」
私はあなたを助けられなかった。
「でも、僕は幸せだったんだ。二回も姉ちゃんのそばに居ることができたから。」
幸せだったの?こんなだったのに?
「でも、僕はそろそろ行かなきゃ。」
もう行っちゃうの?
「目的は果たしたから。」
私を笑わせるためだけに戻ってきたの?
「もちろん!」
あなたは優しい。今も、これからも。待っていて。私があなたのところに行くまで。それまで待っていて。
『また今度ね!』