断章『彼(か)の歌』
――忘れ物はありませんか?
……みつからないものですか?
たいせつ、だったのですか?
ならばわたしは、あなたのために捧げましょう。
この、真白き小さな花束を――……。
伝承の唄は、何度でも語り継がれ、やがては、彼らに届く。
世にも美しき花畑の中央、ちいさな墓標。
少年と少女は出逢う。
――まるで、「あの日みた夢」のように。
……まるで、「あの時の約束」のように。
少年は歌う。
流浪の旅路、終わりなき地平に、たったひとつ、帰りたい場所があった。
いつか、と思う。
いつか僕が、大きくなったなら。
幼き誓いは、青空に溶けて消えた。
少年は知っているのだ。
自分の生まれた意味を。
再び、祝福された理由を。
少女もまた、知っているのだ。
自分が死んだ理由を。
再び、赦された意味を。
やがてふたりは、「もう一度」出逢う。
小高い丘の上、見渡す限りの白い花々、ぽつんと立った、朽ちた教会。
10年の歳月が、ふたりの心臓に、銀色の糸を結ぶ。
永遠にも等しい、別たれた日々を繋ぐのは、たったひとつの、淡い口づけ。
青年が紡ぐ、伝承の唄。
<いずれ幸福へと至る悲劇>、<罪と救済の物語>。
彼はもう、間違えない。
彼女もまた、正しくはない。
ふたつの花弁が交わるとき、再び、扉は開かれる。
天国と地獄のはざま、はたして彼らは、どんな未来を視るのだろうか……。