表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/32

サルカニ合戦~逆襲のカニ編~そのいち

 昔々あるところに、一匹のカニがいました。彼女は、複数匹の子供を持つ母親ガニでした。


 ある時、親ガニがおにぎりを持って歩いていました。するとその途中でばった

り、柿の種を持ったサルと出くわしました。


「ああ、腹減った……お、ちょうど良い時におにぎりがあるじゃんか。ヒョイぱくゴクリ、と」

「躊躇なくカニのおにぎり取り上げて食べたよこのサル!? 文句言う間もなく食道通過させちゃったしさ!?」

「細かい事でうっさいなあ。ほれ、代わりに柿の種やるから」

「投げないで!? て言うか全く吊り合わないと思うんだけど!?」


 親ガニは抗議の声を上げますが、まるで取り合う様子も見せずにサルは立ち去って行きました。


「はあ、しょうがない。家に帰ったら、この種を庭に植えてみようかしら……」

 溜め息を吐きながら親ガニは呟き、再び歩き始めました。





「……これで良し、と。じゃあ早速、水を与えましょう」


 帰宅した親ガニは、子供達が見守る中早速、庭の片隅に柿の種を蒔きます。そして暢気に歌を口ずさみながら、側に置いていたじょうろをハサミで器用に掴み上

げ、種を蒔いた場所へ水を注ぎました。


「柿の種、今すぐ芽を出しなさい。この要求を受け入れられない場合、ほじくり返した上で燃やしちゃうぞ☆」


 歌詞の内容が、全く暢気ではありませんでした。終わりだけ可愛く言っても、誤魔化せるものではありません。


 親子ガニが見守る中、無理難題を吹っ掛けられた柿の種は、


『母ちゃん母ちゃん、柿の芽が出たよ!』

「言ってみるもんねー、本当に芽を出すなんて」


 植物の限界を超える速度で、にょきにょきと芽を伸ばし始めました。余程危機を感じたと見え、樹木に生長するまではあっという間でした。


「それじゃあ、この調子で。……柿の木、今すぐ実をならせなさい。この要求を受け入れられない場合、私のハサミでちょん切っちゃうぞ☆」


 軽い狂気すら感じる歌詞を、親ガニは薄っすらと笑みを浮かべながら口ずさみます。何となく、彼女の心の闇が垣間見えるような気がする光景です。


 親ガニの言葉が余程恐ろしかったと見え、柿の木は即座に果実を膨らませます。そして、まばらに未成熟の青い実を残しつつも、あっという間に枝いっぱいの柿の実をみのらせました。


『母ちゃん母ちゃん、早速柿を取ろうよ!』

「そうね。……でも私は木登り苦手だし、どうやって取ろうかしら……」


 柿の木の下で、親ガニが腕組みをして考えます。そこへ、


「ああ、デザート食いたい……お、ちょうど良いところに柿の実が生えてるじゃんか。スルスル登ってヒョイぱくゴクリ、と」

「ここカニだからね、さっき柿の種くれたサル!?」


 えらく都合の良いタイミングで先程のサルが通りすがり、家主の許可もなくさっさと木に登って柿の実を取り始めました。


「あ、あんたが食べるのはまあ許すから、せめて私達の分の柿も取ってよ!」

「えー、ヤダ」


 親ガニの言葉に、サルは鬱陶しそうに顔をしかめます。自己中極まりない態度です。


「いやそもそも、その柿は私達のもの……」

「あーうるさいうるさい。そんなに欲しいなら、ホイ」

「想像外の豪速球が飛んで来た!? ってコレ、まだ熟れてない固い実じゃない

の!!」


 親ガニの抗議を遮るかのように、樹上のサルは手近に実っていた青く固い実をもぎ取り、親ガニに向かって投げ落としました。重力のおかげでもあるとは言え、相当な速度です。


「ホイホイホイホイホイホイ」

「ちょっ!? 本当に危ない……きゃあっ!?」

『母ちゃん!?』


 サルが雨あられと投げ落とした青い柿の実の一つが、不幸にも親ガニを直撃しました。彼女はそのままぐったりと倒れ、ピクリとも動きません。


「良い気味、良い気味。じゃ、ごっそさーん」

 慌てふためき親ガニへ群がる子ガニ達を尻目に、サルはさっさと木を降りてそのまま立ち去って行きました。






 ――翌日。


「……うう……」

『か、母ちゃん、しっかり……』


 親ガニは病院のベッドの上で、苦しそうにうめき声を上げます。


 あの後すぐに子ガニ達が医者を呼んだおかげで、彼女は幸いにも一命を取り留める事が出来ました。しかし全身に及ぶ包帯姿は見るからに痛々しく、子ガニ達の表情を一様に悲痛の色へと染め上げました。


 母親の容体を心配しつつも、医者から「もう大丈夫だから、君達は一旦自宅へ帰りなさい」と言われ、子ガニ達は病院を後にしました。


 その帰り道――


「ボ、ボク達の母ちゃんをあんな目に合わせるなんて。あのサルめ、絶対に許さないぞ!」

 一匹の子ガニが発した言葉に『そうだ、そうだ!』と他の子ガニ達から次々と同調の声が上がります。自分の親を理不尽に傷付けられた子供達として、それは当然過ぎる感情でした。


「でもボク達まだ子供だし、あのサル相手じゃ分が悪いんじゃないかな……?」

「そんな、やる前からそんな弱気でどうすんだよ!」

「いや、一理あるだろ。ここは慎重に策を練るべきだ」

「数で押せるんじゃないか? 相手は一匹、こっちは多数だし」


 子ガニ達の間で、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が巻き起こります。意見は違えどその志は同

じ、親ガニの仇討ちです。皆が皆、真剣に論を交わします。


 そして、導き出された結論は、


『だったら、仇討ちを手伝ってくれる人を探そう!』

 子ガニ達は早速、目に付いた人へと手当たり次第に声を掛け始めました。


 必死の協力要請の結果、


「何と言う非道! 良し、ならばこの私が力を貸してあげよう!」と臼。

「オーケイ、オーケイ。ワタシ、手伝うネ」と栗。

「ウフフ、あたいあんた達みたいな子、嫌いじゃないわ」とはち

「……良いだろう」と牛のふん


 彼等四人(?)が協力を約束してくれました。『手当たり次第』にも程があります。一体どんな流れで、牛の糞に声を掛けるに至ったのでしょうか。


『これなら行けるぞ! 憎きサルめ、首を洗って待っていろ!』

 それでも、行けると踏んだようです。子ガニ達は胸の前でハサミを握りしめ、天を仰ぎました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ