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アリとキリギリス~潜入編~

 あるところに、アリ君達とキリギリス君がいました。


 アリ君達は毎日毎日、せっせと食料を自宅の倉庫に運んでいました。一方のキリギリス君は毎日毎日、自由気ままに遊んで過ごしていました。


「おいおい、アリ君達。食料なんて、その辺に沢山あるだろう。わざわざ家に運ぶ必要なんてないさ」

 脳天気に言うキリギリス君に、


『それは違うッス。今は良くても、冬になったら食料がなくなるッス。だから、食料が豊富にある今の内に確保しておくッスよ!』

 アリ君達は声を揃えてそう返しました。元気の良いバイト君のような声でした。


『と言う訳で、仕事に戻るッス! キリギリス君も今の内に食料集めておくが良いッス!』

 そう言うとアリ君達は、再びせっせと食料を運び始めました。


「ふふん、心配性だなアリ君達は。そんな事は冬になってから考えりゃ良い事じゃんか」

 勤勉なアリ君達を笑い飛ばし、キリギリス君は遊びに戻るのでした。






 そして、冬がやって来ました。

 冬に対する備えなど全くしていないキリギリス君は、


「寒い、寒いよ!? 食料も全然ないし、これやばくね!? 良し、アリ君達のところ行って食料分けて貰おう!」

 他力本願な結論に至りました。


 寒さと空腹に耐えながら、キリギリス君はアリ君達の自宅へと向かいます。


「おーい、アリ君達ー! メシくれ!」

『どうもッス、キリギリス君! 断るッス!』


 キリギリス君の申し出に、アリ君達は即答しました。


「ちょっと位良いじゃん! こっちは腹減って死にそうなんだし、メシ分けて

よ!」

『だから、冬が来る前に食料集めておいた方が良いって言ったッス。自業自得の結果なんスから、諦めるッス』


 食い下がるキリギリス君ですが、アリ君達の答えは変わりません。揃って呆れたような目線を送りながら、スッパリと言い切りました。


『せめてもの情け、このパンあげるッスから、もうたかりに来ないで欲しいッス』

 食パンを一枚差し出しながら、アリ君達は言いました。






「ち、畜生、あの薄情者達め……。困っている俺を前に、食パン一枚しか渡さないなんて……」

 食パンを噛りながら、キリギリス君は言います。図々しい事この上ない発言ではありますが、それに突っ込みを入れる者は辺りにはいませんでした。


 風を凌ぐために岩陰に隠れ、辛うじて所持していたマッチで焚き火を起こし、寒さを凌ぎます。飲料水は、辺りに積もった雪を焚き火であぶり、溶け出したしずくを吸います。雪を直接食べるのは身体を内側から冷やす事に繋がるので、特に体力が落ちている時などはやめた方が良いのです。


「だけど、このままじゃ餓死してしまう……。やっぱり、余裕のある内に食料確保しておいた方が良かったか……」

 悔いるように、キリギリス君は言いました。皆さんはこのキリギリス君の失敗を教訓として、余裕のある内に十分な備えを、


「あ、そうだ! アリ君達の家の倉庫に忍び込んで、食料を調達すれば良いじゃんか!」

 全然悔いてはいませんでした。言うまでもなく窃盗は普通に犯罪ですので、皆さんは真似しないで下さい。


「頭良いな俺! 良し、じゃあ早速Go!」

 空腹も疲労も何処へやら、キリギリス君は元気よく立ち上がり、アリ君達の家へと向かいました。






「こちらキリギリス……待たせたな。潜入スニークポイントに到着……」

 アリ君達の自宅倉庫内に忍び込んだキリギリス君は、渋い声で言いました。まるでどこかの伝説の傭兵みたいなセリフですが、やっている事は単なる泥棒です。


 アリ君達の自宅倉庫は鍵が掛かっておらず、素人のキリギリス君でも余裕で侵入する事が出来ました。と言うか、普通に扉を開けただけです。


「ふっふっふ。アリ君達、随分と不用心だな。……あったぞ、食料だ」

 暗い倉庫内を懐中電灯の明かりで探り、キリギリス君は積み上がった食料を発見しました。アリ君達の数を考慮に入れても、余裕で冬を乗り越えられる程の蓄えである事が判りました。


「これなら、俺が持って行ってもバレそうにないな。……そうさ、ここにある食料達も、アリ君達より俺に喰われた方が幸せに決まってる事は明らかに明確だしさ。これは彼等を救う一種の善行の一種な訳だからさ……」

 論理的にも文法的にもおかしな言い訳を誰にともなくこぼしながら、キリギリス君は暗がりの中を歩いて行きました。


 その時――


 床の振動と共に、キリギリス君の背後で『ガシャァンッ!』と言う音が聞こえて来ました。『ピピピピッ』やら『ウィィ……ン』やらの音もセットです。


 キリギリス君がそ〜っと後ろを振り返ると、


『侵入者ヲ発見ンンン……! 侵入者ヲ発見ンンン……!』

「何か、明らかに殺気剥き出しでこっちを見ている、完全武装の機械がそこには居たんだけど!?」


 朗読の手間を省いてくれるセリフを、キリギリス君は叫びました。


 暗闇に妖しく浮かぶ、カメラレンズの赤い光。四本の腕にはそれぞれチェーン

ソー、ガトリングガン、対戦車ロケットランチャー、レールガン。それら武器群を真っ直ぐにキリギリス君へと向けています。


 アリ君達は、不用心などではありませんでした。ただ、愚かなる獲物を誘い込んでいただけだったのです。


『排除開始ィ、排除開始ィ……!』

「ちょ、ちょっと待った、俺はまだ何も取っていない……」


『侵入者ァァァ……!』

『排除ォォォ……!』

『開始ィィィ……!』


「更に増えた!? 良く隠れるスペースあったな!? ……て言うか本当に待っ

て!? 今すぐに帰る」


『『『『排除開始イイイイイイイイッ!!』』』』


 有無など言わせませんでした。


 合計四機の武装機械達の|鬨の声(ウォークライ)と共に全装備が咆哮を上げ、キリギリス君へと襲い掛かりました。






「どうやら、マヌケな泥棒が引っ掛かったみたいッスね」

「流石はオイラ達謹製の警備ロボ、良い仕事してくれたッス」

「誰かと思えば、キリギリス君じゃないッスか。盗っ人にすとは、情けない話 ッス」

「まあ、十分に痛い目に遭ったみたいッスから、警察は勘弁してやるッス」


「………………むきゅ〜……」


 ボロ雑巾以下のナニかと化したキリギリス君を担ぎ上げながら、アリ君達は言いました。


『もう来るんじゃないッスよ』

 そのままキリギリス君を適当な場所に放り投げ、アリ君達は去って行きます。


 どろぼう、よくない。


 身体の上にしんしんと雪が降り積もって行く中、骨の髄まで叩き込まれた事をただただ噛みしめるキリギリス君でしたとさ。


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