かぐや姫~創造編~そのいち
昔々あるところに、竹取を生業とするお爺さんが住んでいました。
彼は毎日、野山へ出掛けては竹林から竹を取り、それを加工しては様々なものを作り出していました。
そんなある日の事です。
お爺さんがいつものように竹取りに精を出していました。その時、竹やぶの薄暗がりの中から、微かな光が漏れている事に気が付きました。
怪しんだお爺さんが光源の方へと近付いてみますと、一本の竹の筒が、内側から光っているのを見付けました。
こりゃあ何かあるに違いないと思ったお爺さんは、手にしたナタを振るいます。竹は普通、ナタでは簡単に切れないものですが、お爺さんの熟練の技の前では関係ありません。中のものを切らないよう筒の上側の節ギリギリを刃は捉え、見事に竹を両断してしまいました。
「さて、中には何が……こ、これはっ!?」
お爺さんが驚きの声を上げるのも、無理はありません。
筒の中には何と、女の赤ちゃんが収まっていたのです。
大きさは三寸(約九センチ)程。穏やかな表情を浮かべるその赤ちゃんは、身体中から黄金色の光を放ち、この世のものとは思えぬ美しさと神々しさをその身に纏っていました。
お爺さんは、筒の中から赤ちゃんをそっと抱き上げ、
「この子はきっと、後継者のいないワシのために天が授けた子供に違いない! 早速連れ帰って、ワシの持つ技術を教え込むんじゃぁっ!」
「一片の迷いも見せず言い切ったなこのお爺さん!? もうちょっとこう、厳かな雰囲気とか挟まないかな普通!?」
小躍りしながら叫びます。これには赤ちゃんもビックリです。
「おやこの子、もう喋る事が出来るのか。じゃあもう明日から訓練を始めても良いじゃろう」
「そして、私が喋れるって事実をすんなりと受け入れた!? 想定してた反応とだいぶ違うなあ!?」
赤ちゃんが言っても、のれんに腕押しの如くお爺さんは気にしません。彼女を抱え、スキップしながら帰路に着くのでありました。
「……と言う訳で、この子の名前は『なよ竹のかぐや姫』に決めた。なよ竹はしなやかな竹、かぐやは光り輝く、の意味じゃ」
「ええ、異存はありませんわ、お爺さん」
「お婆さんも、私の存在に何ら疑問を抱かないしさあ!?」
帰宅してからお爺さんはすぐに、妻であるお婆さんに事情を話し、赤ちゃん――かぐや姫を家で養う事の同意を取り付けました。竹から現れてここまで、小骨ほどの引っ掛かりもなく事が進み、むしろ事態の根源であるかぐや姫こそが、一番の戸惑いを見せているのでした。
「……はあ……。何か地球って、そんな良いところじゃなさそうね……」
「ん? 何か言ったか、かぐや姫?」
ベビーベッド代わりに竹籠の中に寝かされたかぐや姫がボソリと言うのに、お爺さんが尋ねます。
「何でもないわ。……それよりもお爺さん、私に技術を授けるうんたらの話をしてたでしょう? 一応、聞いておきたいんだけど」
「おお、その話か」
話を振られたお爺さんは、一つ咳払いをします。
「ワシは普段、取った竹を加工して、様々なものを作り出しているんじゃ。かぐや姫には、その技術を学んで貰うつもりじゃ」
「実はわたくしも、微力ながら手伝いをさせて頂いてますのよ」
お爺さんの言葉を補足するように、お婆さんが付け足しました。「へえ」と頷いたかぐや姫は、興味が湧いた様子で言います。
「なるほど、ちょっと面白そうね。具体的には、何を作っているのかしら。籠と
か、ざるとか、器とか?」
「いや、確かにそれらも作っとるがな。ワシが主に作るのは、芸術品じゃ」
「あら、素敵じゃない。見せてくれる?」
かぐや姫は籠の中から期待に満ちた視線を送ります。
「うむ、良いじゃろう」と言ってお爺さんは、部屋を仕切っている屏風の前に立ちます。そして縁に手を掛け、
「さあ、見よ! これが、ワシの自慢の作品達じゃあ!」
パーンと一気に開け放ちました。
屏風の奥には、お爺さんが作り上げた芸術品が、棚という棚に並べ置かれていました。
種類も大小も様々な、熟練の技を凝らした作品群は静かに、しかし心に何かを訴え掛けるような確かな存在感をそれぞれに秘め、佇んでいました。
彼女は声を上げるのも忘れ、しばしそれらを眺め、
「……ってコレ、単なるフィギュアじゃないの!?」
やがて我に返り、見たままの光景を端的に表す叫び声を上げました。
ステッキ片手にポーズを決める、魔法少女。
敵機に向かって銃器の狙いを定める、人型巨大ロボット。
二頭身サイズにデフォルメされた、犬耳の獣人。
部屋の棚に並ぶラインナップの尽くが、画面の向こう側の存在で占められていたのでありました。
「単なる、と言う辺り、見る目はまだまだじゃな。それぞれの微妙な表現方法の違いに気付かんとは」
「いや、知らない上にそう言う事じゃないわよ!? コレ芸術じゃなくて、ただの趣味よね!?」
「何を言うか。ここにある模型は、もはや芸術の一種と言って差し支えないん
じゃ。見てみろ、このキャストオフ搭載の一品を」
「幼児の目の前で、得意気に美少女キャラのスカートを脱がすな!? て言うか、明らかに材質が竹じゃないわよね!?」
「いいや、材質は全て竹じゃよ。竹製プラスチックとか、竹製ABSとか、竹製PVCとか」
「この『頭に竹って付けりゃ何でも許される』感満載の発言と来たら!!」
予想の斜め異次元を突き破る『様々』の正体に、かぐや姫は天を仰ぎます。生憎家の中では、天井の骨組みしか見えませんでしたが。
「という訳で、かぐや姫よ。お前にはワシの持つ技術の全てを受け継いで貰うぞ。そして目指せ、竹模型マスター!!」
「いや別に目指したくないわよ!? 模型とか、そんな興味ないし!!」
「取り敢えず、お前が作業出来る程度に成長するまでは、座学中心で行こうかの。早速、明日から始めるからな」
「人の話聞きなさーーーーい!!」
かぐや姫の叫んでも、お爺さんは意に介しません。部屋の隅に積んであったハウツー本を手に取り、明日に向けての準備を始めるのでした。




