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シンデレラ~立身出世編~そのよん。

「あ、お帰りなさいお母さん達。随分遅かったですね」

「……三日も連絡がなかったのに、何一つ心配する素振りを見せてないわね、この娘……」


 ようやく帰宅した家族を、雑巾片手にのほほんと迎え入れるシンデレラに、継母ままはは達はげんなりとしながら呟きます。


 本来であれば一晩だけの牢屋生活だったはずなのですが、互いが互いに話を蒸し返しまくって鉄柵越しに罵り合い、止めに入った兵士にも食って掛かった結果、拘束期間が延長されたのです。完全に自業自得です。


 その間シンデレラは、継母&三姉妹の脅威が存在しない、実に平和な生活を満喫していました。実を言えば、継母達がお城に拘束中である事は、舞踏会の翌日にお城へ出掛けて問い合わせていたので知っていました。『じゃあ、伝言でも頼んでおこう』とはならない辺り、シンデレラの現・家族への愛着というものが伺えます。


「それよりも、後ろの方々は? お城の人達ですよね。お母さん達の付き添いでしょうか?」

 継母達の背後に目線を送りながら、シンデレラは言います。


「いえ、確かにそれもありますが、それとは別の用事があります」

 そう言ってお城の人は、片側だけのガラスの靴を取り出します。


「この靴は、王子が舞踏会の夜に出会った女性が履いていた靴です。王子はその女性を結婚相手としたいとの事なのですが、彼女は名も告げずに去って行ってしま

い、現在捜索中なのです。手掛かりとなるのはこの靴のみで、これに足がピッタリと合う女性を……どうなされました?」


 話を聞いていたシンデレラの、『信じられない』と言った表情に、お城の人は首を傾げます。


「ならばその靴!」と、継母。

「まずは私達が!」と、長姉。

「履けるかどうかを!」と、次姉。

「試してみましょう!」と、三姉。


 ババンッ! と効果音でも聞こえて来そうな勢いで、見事なポーズを決めてみせます。どうやら、チームワークは復活したようです。


「あ、あなた達は対象外です」

 そんな四人を、お城の人はバッサリ切り捨てます。まあ当日は牢屋の中だったので、当然の判断でしょう。


「あの……! 私に履かせて下さい!」

「……はあ? あんたなんかに履ける訳ないじゃないの」


 志願するシンデレラに、継母は蔑むような目で言います。三姉妹も、「天地がひっくり返ってもあり得ねー」とばかりに笑います。


「はい、どうぞ」

 そんな彼女等をよそに、お城の人はシンデレラの前に靴を差し出します。


 靴の履き口にシンデレラの足が通され、


「ああっ! ピ、ピッタリだ!!」

「「「「何じゃとて!?」」」」


 五人分の、微妙に方向性の違う驚愕の声が響きました。


「ぐ、偶然よ! ドレスを持っていないシンデレラが、舞踏会に行けるはずがないわよ!」

 継母が動揺しながら叫びます。


「そんな時こそ、魔法使いアイちゃんの出番だよーー!!」

「「「「「誰だ!?」」」」」


 そして、いきなりの魔法使いさんの乱入に、五人分の方向性の揃った驚愕の声が響きました。


「あ、アイちゃんだ。どうしたの?」

 ただ一人、平静を保ったままのシンデレラが尋ねます。


「ふふん。ちょっとしたアフターサービスよ。つー訳で、智仁武勇ーー!!」

 言うが早いか、アイは魔法の杖を振りかざします。杖の先から生まれた虹色の光が、シンデレラを包み込み、


「「「「ええええええええええええええええええ!?」」」」

「おお、そのお姿は……! 確かに、舞踏会で見た事が……!!」


 そこには、高貴なる姫君を思わせるような、ドレス姿のシンデレラが立っていました。






「あ、あのですね、シンデレラさん」

「はい」

 媚びるような声色の継母に、お城行きの馬車に乗ったシンデレラが返します。


「色々あったれども、私達ずっと家族ですよね?」

 いけしゃあしゃあと継母は言いました。三姉妹も、格上の相手を前にした野生動物の如き瞳でシンデレラを眺めています。


「それで?」

「ええと、つまりですね? あなたが王子様のお嫁さんになると言う事は、あなたの家族である私達も、一緒にお城で暮らすのがあるべき姿じゃないかなー、って」

「なるほど。そう言う事ですか」


 得心が入ったとばかり、シンデレラが頷きます。


「もちろんです。私達は、家族です」

「じゃあ……!」

 継母達の顔が、ぱあっと明るくなります。


「例え離れて(・・・)暮らしても、家族です。あなた達と過ごした日々は、決して忘れません。ええ、忘れませんとも」


 そして、続けて出て来たシンデレラの言葉に、継母達は硬直しました。


「取りあえず後日、うやむやのままだった父の財産について家族会議を開きましょうか。その後私は、あなた達の暮らしに干渉するつもりはありません」

 淡々と、感情を抑えた声で言います。


「私の『家族』は、お父さん(・・・・)お母さん(・・・・)だけです。あなた達も、無理に私を家族扱いする必要はありません。もう、これまでにしましょう」


 真っ白な状態で固まる継母達に、シンデレラはそう告げました。






「ねえ、あれで良かったの?」

 お城へと向かう馬車の中で、アイはシンデレラに尋ねます。アイが馬車に乗る必要はないのですが、「折角だし、ちょっとお話したい」と言って、付いて来たのです。


「良かったの、って?」

「いや、あの家族に今までずっと酷い目に合わされて来たんでしょ? 仕返ししたいとか思わないのかなって。何なら魔法の力で逆さ吊りにして、足裏に釘(中略)とかするけど?」

「怖いよ!?」


 まるで新選組副長のような発想をするアイに、シンデレラは戦慄を憶えます。


「……ま、まあ、あの人達に恨みとかは沢山あるけれども――」

 一つ深呼吸をし、


「――もう良いの。もうあの人達のために、私の人生を使う必要なんてないんだから」

 笑顔を見せながら、シンデレラは言いました。少し複雑な、それでいて晴れやかな笑顔でした。


「……ま、シンデレラがそれで良いのなら、良いや」

「私からも質問。あのガラスの靴、何で十二時を過ぎたのに元に戻らなかった

の?」

 事実、脱げなかったもう片方の靴は、元のボロ靴へと戻りました。


「ああ、アタシが空気読んで魔法重ね掛けしておいたの」

「何その手厚いけどピントのズレたサポートは!?」


 わざわざ舞踏会場まで出向いて、残されたガラスの靴に魔法の重ね掛けを行う位であれば、シンデレラ本人に魔法の重ね掛けをした方が良かったと思います。


「良いじゃん、結果はこの通りなんだからさ。……あ、それとね」

「うん? 今度は何?」

「もうあなたには、『灰かぶり姫(シンデレラ)』って名前は要らないんじゃない? この機会に返上しちゃいなよ」

「そうだね」


 アイの言葉に、シンデレラは頷きます。


「だったら、元の名前に戻そうか。私の本名はね――」

 そして『彼女』は、自身の名前を口にするのでした。






 こうして『シンデレラ』と呼ばれていた少女は、王子様と結婚をして、末永く幸せに暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。


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