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シンデレラ~立身出世編~そのさん

 お城の舞踏会会場は、実に華やかな空気に満ち溢れていました。

 国中から集まった男女が飲み、語らい、そして舞い、一夜の宴を心ゆくまで堪能していました。


「ふう……」

 そんな中、一人浮かない顔を浮かべている男性が居ました。他でもない、この国の王子様です。


 この舞踏会の目的の一つは、彼の結婚相手を選ぶ事です。けれども、王子様の気に入るような相手が、中々見付からないのです。


 つい先程も、三人姉妹を引き連れた未亡人の女性が近付いて来ました。最初こ

そ、良く訓練された軍人による四人一組フォーマンセルの如き連携で、自分達のアピールを行っていました。


 しかし、抜け駆けを目論んだ上官ははおやに対して部下しまい達が反旗を翻し、その流れで日頃それぞれが互いに抱きあっていた鬱憤うっぷんが盛大に噴出。取っ組み合いの、それはもう醜い争いが繰り広げられるに至りました。


 当然、兵士がやって来て拘束しました。現在、牢屋で頭を冷やして貰っていま

す。


 彼女達は流石に例外ですが、他の参加者に対しても、今一つ心惹かれるものを感じません。このままでは、結局決まらず仕舞いでお開き、と言う事もあり得るかも知れません。


「……ん? 何か騒がしいな?」

 王子様が、ふと気付きます。何やら参加者達のざわめき声がするのです。


 何かのトラブルか? と一瞬疑いましたが、どうもそうではないみたいです。むしろ、何かを褒め称えているかのような空気です。


 興味を憶えた王子様は、そちらの様子を見に行きます。そこには、


「おい、一体誰だよ、あの娘」

「なんて美しい……。何処かのお姫様みたい」


 参加者からの称賛を浴びる、それはそれは美しい一人の女性が居たのです。






「き、来ちゃった。遂に舞踏会に来ちゃったよ、私……」

 きらびやかな光と、優雅な音楽に包まれた会場に足を踏み入れ、シンデレラの口から感激の言葉がこぼれました。


 正直な話、お城に到着した時点では、まだ不安を拭い切れませんでした。長年の不幸生活の癖で、『何かの手違いで入場出来ないのでは?』と言うネガティブ思考が、どうしても頭を離れなかったのです。


 ですがこの通り、何ら問題なく入場出来ました。もう何も怖くありません。心ゆくまで、舞踏会を楽しんで良いのです。


 さて、どうしよう。

 思案するシンデレラの前に、一人の男性が歩み出ました。そして、その手を差し出し、


「そこの美しいお嬢さん。僕と一緒に踊って頂けますか?」

「ええと、すみません。どちら様ですか?」

「これは失礼。僕は、この国の王子です」

「ああ、王子でしたか。……えええええっ!? 王子様!?」


 返って来た答えに、驚きます。まさか、舞踏会に来てすぐに憧れの人と出会えたばかりか、向こうからダンスのお誘いが来たのですから。


「ははははは、はいっ。よよよ、喜んでっ」

 軽くパニックになりながらも、シンデレラは頷きます。差し出された手を取り、


「おおお、お願いしましゅっ」

「そんな緊張しないで。気を楽にして」

「は、はい。……あ、あの、私、こう言うダンスとか初めてで……」

「大丈夫、僕に任せてくれれば良いよ」


 そう言って王子様は、心をとろけさせるような素敵な笑顔を浮かべるのでした。






 一体どれだけ踊ったのか、分かりません。

 シンデレラにとって、それは正に夢のひとときでした。


「うん、初めてにしては中々上手だよ。君、センスあるじゃない」

「あ、ありがとうございます……」


 王子様の言葉に頬を朱に染めながら、シンデレラは言いました。当初はぎこちなさを残していた彼女のダンスも、王子様直々の指導によって中々の動きになっています。


 私、今なんて幸せなんだろう……!


 シンデレラの心は、充足感で満ち満ちています。ずっとこんな時間が続けば良いのに、と心の底から思っています。


「時間……?」


(今夜の十二時になったら魔法は解けて、元に戻っちゃうから――)

 ふと気が付いたシンデレラの脳裏に、アイの言葉がよぎります。


 ちらり、と時計に目をります。


 現在、十一時五十三分。十二時まで、あと七分です。


「た、大変!?」

 思わず叫んでしまったシンデレラに、王子様を始めとした周囲の怪訝そうな視線が集まります。


「ど、どうしたんだい?」

「え、えと、えと、あの」


 シンデレラは慌てます。このままでは、公衆の面前で元のボロ服姿に戻ってしまう事になります。会場から追い出されてしまうだけではなく、王子様の失望を買う事にも繋がりかねません。


 急いでここから脱出しなければ。

 そう思うが早いか、シンデレラは、


「あの私! たった今電波を受信しまして! すぐに家へ帰って来いとの指示が入りました!」

 いくら何でもそれは、と言う内容の嘘を付きました。


「そうなのかい? だったら、城の者に送り届けさせて……」

 そして王子様は、すんなりとそれを信じました。もうちょっと疑っても良いと思います。


「いえ結構! では、私はこれで!」

 そう言ってシンデレラは踵を返し、スカートの裾を持ち上げながら駆け出しました。


「ま、待って、君! せめて名前を!」

 王子様の引き止める声を背中に浴びますが、足を止めはしません。そのままシンデレラは、会場の外へと飛び出しました。


 城門へと続く長い下り階段を、急いで駆け下ります。しかし、


「あっ……!」

 途中で足が引っかかり、ガラスの靴が片方脱げてしまいました。


 シンデレラの背後からは、複数人が追い掛けて来る気配がします。恐らく、兵士達でしょう。


 立ち止まる暇はないと判断したシンデレラは、そのまま走ります。城門付近に待機させている馬車まで、あと少し。


「……間に合った! 急いで出して!」

 転がり込むように馬車へと乗ったシンデレラは、御者に言います。元ネズミの御者は、無言で馬に鞭を入れて馬車を走らせました。


 そのままシンデレラ達は、夜闇に覆われた街の中へと消えて行くのでした。




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