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シンデレラ~立身出世編~そのに

「それじゃ、行って来るわ。大人しく留守番しとくのよ」

 継母はシンデレラにそう言い残し、三姉妹と共にお城へと向かって行きました。


 静かになった家の中で、シンデレラは久方振りに訪れた平穏を満喫します。こっそり用意した食事を済ませ、お湯で軽く身体を洗い流しました。本当は髪も洗いたいところですが、下手に身なりを綺麗にすると勝手にお風呂に入った事がバレてしまいます。あの捻くれた継母達がイチャモンを付けて来るのは、火を見るより明らかです。


「はあ……。私も舞踏会に行きたいなぁ……」

 揺らめくロウソクの火にその横顔を照らされながら、シンデレラはため息を付きました。その視線は、手元にある招待状へと注がれています。


「きっと、楽しいんだろうなぁ。もしかしたら私、結構上手く踊れちゃったりし

て。そして、王子様に気に入られて……。キャ〜〜ッ!」


 しばしの間空想にふけり、シンデレラは身悶えします。しかし、慣れない静寂にすぐ意識が現実へと引き戻され、心に虚しさが降り積もります。


 夢踊る、憧れの舞踏会。しかしそれは遥か高い壁となってそびえ立つ、ドレスコードの向こう側。シンデレラにとっては、決して辿り着く事の出来ない幻の世界なのです。


「ああ、何で私こんな目に合わなきゃいけないんだろう……。お父さん、お母さ

ん、何で私を置いて行っちゃったの……? 誰か、助けてよ……」


 自身の不幸を改めて噛み締め、みるみる内に気持ちが沈んで行きます。目に薄っすらと滲んだ涙が、しずくとなって頬を伝う寸前――


「ちょっとー、開けて開けてー!」

 突然、玄関からノックと共に声が聞こえて来ました。


 誰? まさか、お母さん達が帰って来た?

 シンデレラは思わず身構えてしまいましたが、いくら何でも帰って来るのが早すぎます。それに継母達は、合鍵を持っているのでノックなど不要ですし、何よりも声が違い過ぎました。


「はーい、今行きまーす」

 少し安心したシンデレラは、目元の涙を拭いながら玄関へと向かいます。


 ドアを解錠し、ノブを回して開き、


「アタシの名前はアイ。心に傷を負った魔法使い。モテカワスリムで恋愛体質の愛されガール♪」

「セールスお断りです」


 そして即座に閉め、鍵をガッチリ掛けました。シンデレラにも、ソレがセールスなどではない事は分かっています。更に面倒な気配がしただけなのです。


「ちょ、待ったーー!? ごめん、真面目にやるから開けてよーー!!」

「ノックうるさいですよ!? 分かった、分かったから、静かにして!?」


 ドアをガンガン叩きまくって懇願する、自称魔法使いさんに気圧され、シンデレラは慌てて鍵を開くのでした。






「酷いなぁ、いきなり閉めるなんてさー」

「ごめんね、いきなり閉めて欲しいのかなと勘違いしちゃったのよ」


 アイと名乗る少女を(不本意ながら)家に招き入れたシンデレラは、取りあえず彼女に椅子を用意しました。


「ありがとー」と、遠慮なくドッカと座ったアイへ、シンデレラは尋ねます。


「……それでアイさん、一体何の用事なの? あなた確か、魔法使いとか何とか言ってたけど……」


 確かにアイの姿は、黒ずくめの三角帽子にローブ、先端に星型の飾りが付いた杖と、これ見よがしに魔法使いではあります。ですが当然、服装だけで職種(?)を判断する事は出来ません。それを失念すれば、店員っぽい服装の人に「◯◯って何処にありますか?」と尋ねて、「いやあの、客なんですけど……」と冷たく返って来るという悲劇に見舞われるかも知れないのです。


「そーそー、魔法使いなのよアタシ。魔法の国からやって来ましたー」

 足をブラブラさせながら、アイは言います。


「実はね、シンデレラ。アタシはあなたに、舞踏会へ参加するチャンスを与えに来たのよ」

「……ほえ?」

 そして、アイの口からサラッと出て来た言葉に、シンデレラは思わず気の抜けた返事を返していました。


「魔法の国があなたの事を見てたんだけどね。あなたって、超が付く程に不幸な境遇じゃん? なのに、毎日健気に耐え抜いている。もうお上の人達が『何とかしたげたい!』って感涙にむせびまくって、偉い騒ぎなの。そこで、何とかするためにアタシが派遣されて来たって訳よ」


 アイの言葉を、シンデレラは信じられない、と言った顔で聞いていました。確かに『魔法の力で幸せに!』と言った類の空想ならした事はありますが、本気でそんな事を言われるなどとは思ってもいませんでした。


 当然、鵜呑みには出来ません。


「ええと、そもそもあなたが魔法使いだって言う証拠は?」

 シンデレラの反応を予想していたのでしょう。アイは「ふふんっ」と胸を張り、「まあ、手っ取り早く魔法を見せてあげるのが一番ね。そうだなぁ……、カボチャとトカゲとネズミ。探して持って来てくれる?」


「……? うん……」

 首を傾げながらも、言われた通りにします。台所からカボチャを持って来て、罠に掛かったネズミを持ちます。ナイスなタイミングでトカゲも現れたので、それもバッチリ確保しました。


「ここじゃ狭いから、外に出よう」とアイに促され、シンデレラはカボチャその他を手に外へと出ました。

「うん、そこに置いて。危ないから、ちょっと離れてねー。……じゃあ、早速行くよ」


 シンデレラがカボチャ他から離れたのを確認してから、アイは杖を振りかざし、


智仁武勇ちじんぶゆう御代ごよ御宝おたからーーっ!!」


 何やら呪文らしきものを唱えました。それは本来、子供が痛い目に遭った時にあやすための言葉ではないのかと、シンデレラは思いました。ちなみに、これが『ちちんぷいぷい』の語源だったりします。


 それは脇に置いておくとして。


 アイが呪文を唱えると、杖の先から虹色に輝く光が生まれ、たちまちの内にカボチャ他を包み込んで行きます。


 やがて光が虚空へと掻き消え、


「嘘……! 凄い!!」

 そこに現れたのは、カボチャが変化した立派な馬車と、トカゲが変化した白馬、ネズミが変化した御者でした。


「どーよ、これがアタシの力よ」

「あなた、本当に魔法使いだったのね! びっくりしちゃった!」

 自慢気なアイに、シンデレラは目を輝かせます。


「さあ、最後の仕上げよ。智仁武勇ー!!」

 再び杖から虹色の光が生まれ、シンデレラを包み込んで行きました。


 やがて光が消え去ると、


「これが……私なの!?」

 シンデレラが着ていたボロボロの服は、純白の美しいドレスへと変化していました。足には、透き通るようなガラスの靴。


 これなら、ドレスコードも何のそのです。シンデレラは遂に、憧れの舞踏会への参加資格を得たのです。


「おー、バッチシ似合ってるじゃん」

 一仕事終えたアイが、うんうん頷きながら言います。


「ありがとう、アイちゃん。本当にありがとう……」

「ほらほら、泣いたら美人が台無しだよー。さあ、乗った乗った」

 思わず涙ぐむシンデレラに、アイは馬車へ乗るよう促します。


「アタシの仕事はここまで。今夜は思いっきり舞踏会を楽しみなさいな、シンデレラ。……それと、一つ大事な話」

「ん?」


 馬車に乗り込み、お城へと向かおうとするシンデレラに、アイは付け足します。


「アタシの魔法は、制限時間付きなの。今夜の十二時になったら魔法は解けて、元に戻っちゃうから、それまでには家に帰って来るのよ」


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