3話
春休みが終わり、今日は琴桜高校の入学式だ。
これから新しい学園生活が始まることを考えると、胸が高まる。
だがそれと同時に少し緊張してしまう。
「朝飯はこたつの上に置いといたから、今日は昼までに帰ってこれるからその時作るわ、じゃあ行ってくる」
「…ん」
頷くのを確認すると、俺は事前に確認していた通学路を歩き出す。
学校までは二十分ほどであり、俺の住むアパートよりも高い丘の上にある。
先程から、自転車で通学する学生目立つ。
ちなみに俺は徒歩通学だ。通学路には見事な桜並木があり、これを自転車でさっさと通り過ぎてしまうのは勿体無いと思うのだ。
まあ、坂道を自転車で登るのが嫌だという理由の方が大きいのだが。
ミヤに会ってから3日が過ぎた、あれから変わった事といえば、ミヤが居座る様になった事と俺がミヤにユウって呼ばれるようになったことぐらいで、あまり変わりがない。
ミヤには家に帰らなくても大丈夫か?などの質問をしてみたが、その度首を横に振るだけで、他に何も喋ろうとしない。
ミヤはミヤで俺の事に興味を示すこともなく、家にいるだけ見たいな感じである。俺はミヤの事を飼い猫とでも考えようかと思っていた。
本音を言えば、このままでいいのかは少し疑問である。だが、あれだけお腹を減らしていた少女を今更追い出すのも少し気が引ける。
そうこう考えるうちに正門に到着した。
めちゃくちゃ古い校舎だな~田舎の分校よりも古いんじゃないかな?
この高校設立されてから今年で六十三年目を迎え、その貫禄も古めかしい校舎から滲み出ている。
学校から来たプリントによると今日の入学式は、一度自分の教室に行ってクラスメイトが集まったあと、体育館に纏まって行くということらしい。
ちなみに一年生の教室は二階にあり、俺の教室は一年三組だ。
玄関に入り上履きに履き替え、自分の靴箱に外靴を入れて自分の教室にむかう。
中学の頃は暇つぶし目的で少し話す程度の関係はいくつかあったが、家に帰ったあと再びどこかに集まってまで遊ぶことなど殆ど無かった。
べ、別に友達がいなかったわけじゃないんだからね!!
誘われることは何度かあったが、近くの裏山に写真を撮りに行くことを優先していたから、友達と呼べる友達はいなく、あの時はこんな感じの友人関係でいいなと思っていた。
だが、新天地に来て少し心細く感じているのも確かだ。出来れば少し仲のいいやつが出来たらいいなと思っていたりする。
ここが俺の一年間過ごす教室か。
教室のドアは空いており、クラスメイトがちらほらいる。
集合時間の三十分前に来るなんて都会の学生は真面目なのか!?
「おはよう」
「おはよー」
「席ってどう座ればいいんだ?」
「廊下に座席表が貼ってあるから見てきなよ」
おっと、どうやら見逃していたようだ。
「そうなんだ、ありがとう」
もう一度廊下に出てみると、座席表が書かれたプリントと名簿がが貼りだされていた。
えーと、青木、安藤、石塚、市村、海坂だから俺は出席番号は五番か。
座席表を見ると窓側から出席番号順に並んでいたため、俺の席は窓側の後から二番目になっていた。
再び教室に入り自分の席に腰を下ろす。
ちょっと早く来過ぎたか、どうやって時間を潰そうと考えてると、前の開いていたドアが急に閉まり、ドンッ!っという音と共に開かれて、チャラそうなイケメンが入ってきた
「うぃーす、おはようコレから学生生活を共にする同士諸君!」
うわ~エライ張り切った奴だな。
あのテンションはあまり得意じゃないかな。
「あれ、俺の席どこだよ!?」
「廊下に張り出されているから見てきなさいよ」
「まじで?サンキュー」
俺に座席表のことを教えてくれた女子が応対している。
あの子は委員長タイプだろうか?短髪でメガネを掛けているし、見た目はいかにもって感じだが。
確認し終わったのか、彼はズカズカとこちらにやってきて目の前の席に座り、急に後ろを振り返って一言こちらに言ってきた。
「お前海坂って言うの!?、メッチャ珍しくね?どこから来たの?」
「えーと地方の田舎からで、実家は農家やってます」
やばい勢いに負けて敬語になってしまった。、
「農家!?農家なのに海坂っていうのかよ、マジ面白いじゃん。あとお前変な喋り方だな」
「ああ、ちょっと奇想天外な人物が現れてな」
「奇想天外な人物?誰よそれ、そんな奴がいるなんてこの先楽しみだな!」
たった今、こいつは俺の中でUMA認定された。
流石にお前だよとは言えない。
「おっと、自己紹介忘れてたな"市村 覚"って言うんだ。お前は?」
「俺は"海坂 悠"っていうんだ。よろしく」
「おう、よろしく」
突拍子も無いが、悪いやつではなさそうだ。
髪型も少しワックスで形を整えて居る程度で、そこまでチャラくはない。
目つきも穏やかで、所謂イケメンの部類なのだろう。
そんなことを考えていると、つかつかと先程の少女がやってくる。
「覚、さっきから聞いてたら、初対面の人に馴れ馴れしいんじゃないの?」
「うげ、風花じゃねーか。またおんなじクラスかよ……」
「またってねぇアンタ、さっき座席表のことを教えた時に話してたじゃない!」
良く分からないが、二人は知り合いらしい。
「えーと……」
手慣れた様子のやり取りに言葉が淀んでしまった。
「おいおい風花、お前のせいで俺の友達第一号が困ってるじゃねーか!?」
「わ、私のせいなの!?どう考えてもアンタのせいでしょうが!」
目の前で激しい言葉のドッチボールが繰り広げられている。
もちろん俺は思いっきり蚊帳の外だ。
「こいつは"鹿島 風花"って言うんだ。家が近所で爛れ縁ってやつだ」
「ば、バカ!今から自己紹介しようと思っていたところよ!それにそれを言うなら腐れ縁よ。」
「な、なるほどな。二人は仲がいいんだな」
「「はあ!?」」
なんだこの夫婦漫才、息ぴったりじゃないか。
少し興奮していた二人だが、鹿島風花の方が一度ため息に近い深呼吸をすると再び顔をあげて話し始めた。
「改めて自己紹介するけど、私は"鹿島 風花"っていうの。"風花"って呼んでね」
「俺は"海坂 悠"だよ。"悠"って呼んでくれ」
「ついでに俺のことは"サトル"と呼べ」
端から見ればこの風花って女の子、少し厳しいイメージが有ったんだが案外話しやすそうだ。
そんなやり取りをしていると、いつの間にか時間が経っていたようで、教室はクラスメイトでいっぱいになっていた。
「君達、そろそろ席についてくださ~い」
言われて教卓を見ると、若い女性の先生が立っていた。
あれが俺たちの担任の先生か?少し初々しい感じがある。
先程まで、立って喋っていた生徒もみんな自分の席に座る。
「今日からこのクラスとなる"倉島 奏"です!私は担任の先生は初めてです。至らぬ点が多々あると思うのですが、精一杯頑張るのでよろしくお願いします」
若いとは思っていたが、担任を持つのは初めてなのか。
まだ名も知らないクラスメイト達が、うおー女教師だ!とか、先生質問いいですか!などと騒いでいた。
「え、えーと質問ある人は挙手をお願いします!」
そういうと、クラスの半分ほどが手を上げた、主に男だが。
勿論目の前の覚も思いっきり手をあげている。
先生は名簿を見ながら生徒を一人指名する。
「じゃあ手が真っ直ぐと上がっていた"安藤"君!」
「倉島先生は彼氏とかいますか!?」
「え、え~と……」
初っ端から飛ばしていくな~
何故がここで覚がキーっ!と悔しそうな顔をしていた気がするが、見なかったことにした。
「ま、まだ彼氏はいません」
質問した佐藤くんは、ヒャッハァ!!と、世紀末のゴロツキみたいな唸り声をあげていた。
その周りでは、"まだ"ってどういう意味だ?と、興奮した様子の男子生徒が歓喜していた。
その言葉の意味に気づいたのか、倉島先生が顔を真赤にして――
「も、もう質問は終わりです!!」
「「「えっー!?」」」
まあ、そうなるだろうよ……。