1話
合作初投稿です
「荷物の運びこみはこれで以上です」
「あ、はい、お疲れ様です」
目の前の積み上げられたダンボール、これを一人で片付けなくてはならないことを考えると憂鬱になってしまう。
俺が一人暮らしを始めるべく引越してきたアパートは、長年潮風に晒されて見た目はとても貧相に見える。
が、しかし、内装は見た目に反してしっかりしており、1Kでなおかつ希望であった東側に窓がついてる間取という条件もしっかり満たしているのだ。
おまけに家賃も似た条件の物件に比べて半額ときたもんだから俺は即決した。
……今思えば外観が悪いという理由だけでここまで破格なのは怪しい。
もしかしたら、事故物件なんじゃないだろうか?
いや、せっかく田舎を抜けだして、ここ琴桜町に引っ越してきたのだ。
これから"海坂 悠"こと俺の新しい生活が始まる一日目に、辛気臭い事を考えるのはやめよう。
気をとりなおして整理を始めよう。
所詮は男一人暮らしの生活品だ、直ぐに終わるはずだ。
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全然終わらねぇ……
昼ごろから始めたのに、家具の配置にこだわっていたらいつのまにか日が傾いている。
まだ肌寒く感じるこの季節、コタツは最優先に出した。
いけない、夕飯の事すっかり忘れていた、炊飯器と米は実家から持ってきたから、夜の分と次の朝の分を今のうちに炊いとこう。
じゃ炊飯器の準備もできたし、そろそろ買い出しにいかないとな。
早く行かないと店閉まっちゃうな。
ホコリを払い落として財布だけ持って家から飛び出した。
……
………
買い物を終えて袋をぶら下げながら俺は戦慄していた。
閉店時間23時だと!?
俺の住んでいた田舎では7時には店が閉まっていたのだ。
そんなカルチャーショックを受けつつ帰り道に商店街に寄ってみた。
取り敢えずちょっと見るだけだ、周辺の店の状況は少しづつ把握していきたいからな。
一通り見まわって商店街から出口に向かう。
「そこのアンタたい焼き買っていかない?」
「え、俺のこと?」
威勢のよい声に呼び止められて足を止めてしまった。
「アンタあんまり見ない顔だね、ここに越してきたばかりかい?」
「まあ、そうですが……」
「だったらうちのたい焼きを食べないと、ここいらで一番おいしいんだよ」
中々に図々しいおばちゃんだな。
「じゃあ、粒あん一つ下さい」
「アンタ食べ盛りなんだから一つじゃ足りないでしょ?これアタシからの引越し祝いでカスタード一つオマケしてあげる」
前言撤回、見ての通りの太っ腹なおばちゃんだった。
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商店街を抜けての帰り道、俺は四苦八苦していた。
ここは港街なだけあって坂が多い。
行きは下り坂なのだが、帰りは上り坂。
しかも、手荷物を抱えての急勾配、流石にこれは嫌になるな……
体温を下げようとかいた汗に潮風が当たって気持ちが良い。
帰宅途中右手を向くとそこには、夕日によって赤く染まった枝垂桜が揺れていた。
この風景、写真に収めたかったな…
そう思いながら気がつくと、いつのまにか俺は桜の木の下に立っていた。
辺りを見渡して気づいたがどうやら公園らしい。
俺はベンチを見つけた、そこでさっきたい焼きを買ったことを思い出し休憩がてら食べる事にした。
ベンチに座り、前をみると太陽が沈みかけていて海が朱色染まっていた。
まさか引っ越して来てそうそうにこんな素晴らしい風景を2つも見つけるなんてなんて、カメラ持って来ておけば良かったと後悔した。
夕日が落ちるところを見ながらたい焼き取り出して、食べてみると中身はカスタードだった。
先につぶあん食いたかったなぁ、そんなことを思いつつ食べていると足元に猫が集まって来た。
そういえば猫が多い街って聞いたことがあったな。
「カスタードも案外悪くないな」
あのおばちゃんに感謝しながら食べ終わった。
足元にいた猫が体を擦り付けてきたから、少し猫とじゃれついていると、背後に気配を感じた。
気になって後ろを振り返ると、枝垂桜をバックに少女が立っていた。
薄暗いはずなのにこの少女の姿ははっきりしている。
こちらを見つめている大きな瞳からは何故か目が離せない。
本当にこの少女は人間なのだろうか?
しばしの気まずい時間が流れる。
は!いかん、これは気まずいってレベルじゃないな。
取り敢えず声を掛けるか?しかし、なんて声を掛ければ……
「え、えっと君は――」
ぎゅ~
なんか鳴った。
しかし、変わらず少女はこちらを見つめている。
いや、正確には俺の隣あるたい焼きの入った紙袋か?
恐る恐るそれを差し出した。
「……これ食べる?」
少女はコクンと頷いてからそれを受け取ると、直ぐに中身を取り出して食べ始めた。
「君の名前は?」
「……」
「近くに住んでるの」
「……」
「俺最近ここに引っ越して来たばかりで――」
って、は!これじゃたい焼きをエサにナンパしてるみたいじゃないか!
「ご、ごめんね、俺もう帰るから」
俺は荷物持って早々に公園を立ち去った。