お出かけの物語 四ツ原 奏編
5月6日(火) 振替休日
ゴールデンウィーク最終日。
今日はさすがにゆっくり出来るだろう。しかし昨日はビックリしたな。いきなり頬ではあるがキスされたのだから。
恵ってあんな事する奴だったかな?
それはともかく今日は何をしようかな。宿題はすでに終わっているし、どこかに出かける用事も無い。
とりあえず明日の準備をしておこう。暇だしな。
俺は明日必要な教科書等をカバンに詰め込んでいく。
あっ!画用紙とデッサン用鉛筆買ってない。
後で買いに行かなきゃ。ああ良かった。今確認をしたお陰で忘れ物をせずに済みそうだ。
俺は食パンを焼きバターを塗る。今日はスタンダード使用だ。
朝食を食べ終え、洗濯など家事を終わらせる。
ここがゲーム始めてから面倒くさくなったところだよな。
現実だと、自動洗濯乾燥機があるから比較的楽なんだ。
俺はテレビを付け最近のニュースを見る。なんかプロ野球で40数年ぶりに日本記録が更新されたらしい。
ほほー凄いな。まあ現実だと俺は関係ないことだ。
俺は9時に寮を出る。早く出過ぎると店が開いてないんだよ。
俺はデッサン用鉛筆と画用紙を数枚買う。早くも予定が終わってしまった。本格的に暇になったな。
その辺ぶらつくか?
そう考えていたところで声をかけられる。
「零さん。お久しぶりですね」
話しかけて来たのは、翔の妹でプレイヤーの中で唯一結婚している四ツ原 奏だ。
奏ちゃんは長い黒髪をツインテールにしている。そして可愛らしい笑顔であった。
しかし声は明るいのになんか雰囲気がどんよりしている。
「奏ちゃん久しぶりだね」
「本当に久しぶりですよね。私ずっとたった一人でチアリーディングの練習やってたんですよ」
やばい!なんか地雷踏んだ!
「なのに誰も来てくれないし……」
やっぱり地雷じゃないか。とくに翔。お前の妹だろ。ちゃんと練習見てやれよ。俺にとばっちりがきてるんだよ。
俺はどこかにいるであろう翔に文句をいう。
「ご、ごめん。ちょっと忙しくてさ」
「へー。そうなんですか?いったい何やってたんですか?」
うっ。ゴールデンウィークの間デートしかしてねえし。どうする。なんて言えば誤魔化せる?
「実は宿題がなかなか終わらなくて……」
「でも零さんって以外と賢かったですよね?」
これも駄目か。あと以外ってなんだよ以外って。俺は普通に頭いいと思うけどな。
こうして考えてる間も奏ちゃんからは、黒いオーラ的なものが出ている。
誰か助けてくれ。このオーラをなんとかしてくれ。
なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。なんも悪いことしてないじゃん。
「ほらなんか単純作業の方が時間がかかるじゃん」
「あの英語の宿題ですか?」
「そうそれ!あれメッチャ面倒くさくてなかなか進まないんだよ」
「そういえば零さんって英語駄目でしたっけ」
ようし。あと一押しだ。
「そうなんだよ。あんだけアルファベット書いてるとどこまで書いたか忘れたり、1行抜けてて書き直したり大変だったんだよ」
「なるほど零さんの事情は分かりました」
よっしゃ。説得成功!
「では社長や兄さんはどうしたんですか?」
説得出来てなかった!まだ追求してくる。
「さ、さぁ。俺ずっと寮にいたから分かんないな」
「それもそうですね。では今度直接聞いてみます」
た、助かった~。社長を犠牲にしたが大丈夫だろ。翔は自業自得だし。
「力になれなくてごめんね。そのかわり今日1日奏ちゃんに付き合うよ」
「本当ですか!?やっぱり零さん優しいですね」
なんかものすごく食いついた。なんか嫌な予感がする。
「じゃあ零さん。今日近くの女学院で学園祭やってるんですよ」
「じょ、女学院?」
「はい」
「それって女性しか入れないんじゃ……」
「そこは大丈夫ですよ。ちゃんと男の人も入れます」
あ~良かった。女装させられるんじゃないかって心配になったぜ。
「それで学園祭に一緒に行けば良いの?」
「零さんは一昨日、天王寺でカップル対抗クイズ大会があったの知ってますか?」
知ってるも何も参加して優勝しちゃったよ。
「それが学園祭に何か関係あるの?」
「そのカップル対抗クイズ大会を真似てカップル対抗運動会をやるらしいんですよ」
「へ、へぇー」
運動会って安直だな。女学院って聞くと賢いお嬢様がいるイメージなんだけど以外と馬鹿なのか?
「その運動会で勝つとクイズ大会みたいに賞金は出ないんですけど体験入学が出来るらしいんですよ」
「男子が入学して良いの?」
「今、その女学院は共学化の話が出ていて試しに男子も入学させてみるらしいです」
運営の試しに入学させれそうな男子を捜すのが面倒くさいという本音が漏れている企画だな。
「その試しの入学期間ってどのくらいなの?」
「えっと……確か来年の1月から3月いっぱいの3ヶ月らしいです」
「いやいや学校があるから無理じゃん」
「そこは既に話を通してるらしいです。もし優勝したのが学生だった場合は留学という形でその学校から5~10人を女学院に入学させるらしいです」
既に根回しされているだと!?どんだけ楽したいの?その行動力を男子捜すのに使えば良いじゃん。
「ちなみに予想でいいから参加者はどれくらいなのかな?」
「ざっと2000組は超えますね」
多すぎる!?なんでそんなにいるの?本家より多くね。賞金十万円より魅力なの!?
「なんでそんなに多いか分かる?」
「なんでもこの女学院はかなり有名みたいで全国から集まってるらしいです」
「女学院に入学しようとする男子がそんなにいるとは……」
「まあここの女学院は綺麗で可愛い娘ばかり集めていますからね……おそらく利害関係の一致で参加してくる人がほとんどでしょう」
ようは女学院に入りたい男子と女子が手を組んだってことか。
穴だらけな企画だな。超運動神経の良い変態がいたらどうするんだよ。そんんことになったら終わりだぞ。
「とりあえず零さん。私はこの女学院に入ってみたいので手伝ってください」
「わかったよ。ああ…これで俺も男子の仲間入りか……」
「いいじゃないですか。零さんハーレムとか好きでしょう?」
「そりゃあ好きだけどさ。なんか違くない?」
これってただ周りに女子が多いってだけで、全然ハーレムじゃないよね。むしろ女子によってたかっていじめられるパターンだよね。なんか班行動するときとか確実にはぶられるやつだよね。絶対居心地の悪さを感じるやつだ。
「零さん諦めましょう。参加する以外に道はないのです」
くそっいい笑顔で言いやがって。今日1番輝いてるんじゃねえか。さっきまでの機嫌の悪さはどこいった?
「わかったよ。もともと今日1日付き合うって言ったのは俺だしな」
「零さん。やけに物わかりがよくなりましたね」
「そんなに変か?」
俺だってこのゲーム始めていろいろ努力をしてるんだよ。主にコミュニケーション能力の方向で。
「いえ、むしろかっこよく見えますよ」
「そうか…」
「なんか嬉しそうじゃありませんね?」
いやだって既婚者に言われてもな……独身の美人さんが良いな。
俺って容姿が平凡だから性格で勝負するしかないんだよな。
「あ、分かりました。私が既婚者だからでしょ」
「お前は心でも読めるのか?」
「零さん。分かりやすすぎるんですもん」
なんか皆に言われている気がする。そんなにわかりやすいのだろうか……
ああ、スキル『無表情』が欲しい。
俺達は女学院までやってきた。今は10時半だ。その運動会とやらは12時かららしい。
なら今のうちに昼飯食っとくか。
学園祭だけあってかなりの屋台が出ている。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、たい焼き、焼きおにぎり、から揚げ、フランクフルト等々たくさんの飲食店がある。栄養が偏り過ぎている気がするが……
「奏ちゃん、何が食べたい?」
「そうですね……クレープとかどうですか?」
昼飯じゃねえ!!クレープはどちらかというとおやつとかデザートの分類だろう。
なんで昼飯に食べるという選択肢が出てくんの!?
「そうじゃなくて、昼ご飯ね」
「ああっそっちですか。ちゃんと主語を言ってください。主語を」
「すいませんでした」
なんか俺、最近年下になめられすぎじゃね?
まじでなんとかしないとやばいかもしれない。
俺達は昼飯に焼きそばを食べることにした。
「美味いな…」
「ですね…」
会話が続かない。普通に美味いから反応に困る。
メッチャ美味しいとか、クソまずとかならリアクションのしようがあったんだけどな。
「そいえば零さん。ステータス上げの方はどうなっていますか?」
「あんまりだな。コミュ力はまあまあ上がったと思うけど他が全然だな」
「ですよね。頑張って練習しても5上がれば良いほうですし…」
奏ちゃんも苦労してるんだな。
俺だけがステータス全然上がってないんじゃなくて良かった。
「零さんはどうやってコミュ力上げましたか?」
「いろんな人と会話してたら上がってた。愛さんとか社長とか恵とか後輩君とか」
「プレイヤーと話してもステータスって上がるんですね」
「そうだよ。プレイヤーならステータス変わらないとか思ってたら大間違いだよ」
「何かあったんですか?」
奏ちゃんが心配そうに聞いてくる。
「別に何もないけど…どうかした?」
「なんかステータス関係で嫌な事でもあったのかなって」
「それなら普通にあるよ」
「ええっあったんですか!?」
奏ちゃんは何をそんなに驚いてるんだ?
別におかしなことは言ってないだろうに。
「もしかして印象力だだ下がりとかですか?」
「なんでわかんの!?」
「いや、零さん見かけたときガラ悪そうな人だなって思っちゃたんで」
まさか印象力がこんなことになってるとは……ていうかこのまま女学院に行くことになっちゃたらマジでやばくね。何とかして印象力上げないと。しかも急いで。
やることがいっぱいだな。
『ただいまよりカップル対抗運動会のエントリーを開始します。参加される方は至急正門までお越しください』
今は11時か。つまりエントリー終了後即何かやらされるな。
「零さん。それでは受付にいきましょう」
「はいはい」
俺達は正門に向かう。正門にはすでにたくさんの人が来ていた。
「人がいっぱいだ……」
「零さん。覚悟を決めましょう。行きますよ」
俺は奏ちゃんに引きずられるように受付に連れていかれた。
「それではこの用紙に必要事項をご記入ください」
受付の人に紙を渡される。
え~と名前逢坂 零、相方四ツ原 奏、年齢15、性別男、職業学生、出身校は……
出身校?
俺、自分の通っている学校名知らないんだけど。
「奏ちゃん、俺たちの通ってる学校名ってなに?」
「零さん……自分の通ってる学校名くらい知っときましょう」
ものすごく呆れられた。さすがに学校名を知らないのだから仕方がない。
「返す言葉もございません」
奏ちゃんは人差し指を上に向け先生が生徒に説明するようなポーズをとって――――
「虹鳥専問学園ですよ」
―――得意げに説明する。背伸びしてるみたいで可愛い。
「そんな学校現実にあったけ?」
「愛さんの話だと3つの超名門校を合体させた名前だそうですよ」
「ふ~ん。助かったよ、奏ちゃん」
「その分競技で活躍してくださいね」
プレッシャーが……ううっ帰りたい。
しばらく待っているとアナウンスが流れる。
『これにてエントリーを終了させていただきます。今回の応募者数1789組3578名です。それではさっそく競技を始めたいと思います』
奏ちゃんの予想は外れたようだ。俺としては参加人数が減って助かった。
『第1競技はマラソンです。これから敷地内を1周してもらいます。上位16人が2回戦進出となります。ただ上位16名の中にペアがいた場合は繰り上げて17位の人を16位とします』
つまりペアのうちどちらか1人でも上位16人に入れば良いのか。
「零さん。ここはお願いします」
おい何開始そうそう諦めてんの!!
『それでは皆さん行きますよ。レディー……ゴー!!』
参加者が一斉に走り出す。
俺も負けじとトップ集団の中に入る。
敷地内を半分ほど走ったころ周りはだいぶばてていた。
やっぱりここでも運動能力が中学生レベルという設定はいきてるんだ。
よし!これなら。
俺は一気にトップに躍り出る。
『おおっと!ここでトップに立ったのはなんとも平凡な姿の少年です!』
平凡で悪かったな!
俺は後ろに誰もついてきてないことを確認しペースを緩める。
この後なにが起こるかわからないのだ。
体力を残すことに越しておくことはない。
そして俺はぶっちぎりのトップでゴールにたどり着く。
「零さん。お疲れ様です」
「なんで奏ちゃんがここにいるの?」
「私は走ってませんから」
「………」
走れよー!!
俺は心の中で絶叫した。
運動能力が15上がった。
次回はゴールデンウィーク編最後の物語
さあ零君は女学院への切符を手に入れることができるのか!?
活動報告に短編をアップしました。よろしければ見ていってください。