お出かけの物語 一色 恵編
5月5日(月) こどもの日
俺は7時半に起きる。
昨日は儲けたな。これで財力が65000になった。
しかし異世界君は強敵だった。完全に負けたと思う。クイズでも彼女がいるという面でも。
ぶっちゃけクイズで勝てたのって大神さんがそこまで賢くなかったからだしな。
あんなキャラがいたとは……一体誰があんなキャラ考えたんだよ。
俺は朝食を食べ、スマホを確認する。
メールが1件着ていた。差出人は恵だ。
やっときたな。待ちくたびれたぞ。えーと何々『朝の9時に学校の最寄り駅に集合ね。遅れたら罰ゲーム』と書かれていた。
ちょっ!9時ってあと1時間じゃん。
俺は、服を着替え、財布や飲み物を持ち寮を出る。
俺は駅まで早歩きで向かう。
なんとか集合の5分前に着くことが出来た。あ~良かった。あいつ時間にうるさいからな。遅刻してたらどうなるか分からなかったぞ。
「あっ!零!遅いよ」
恵が会って早々文句を言ってくる。何でだよ。
「はぁ!まだ集合5分前だしこれでも急いで来たんだぞ」
「でもでも!それじゃあ30分前に来てた私がバカみたいじゃない」
30分前って俺が家を出た頃じゃねえか。どんだけ早く来たんだよ。
「すまん」
大量に文句はあったがここは潔く謝っておく。ここで言い訳とかしたらまた恵に文句言われるからな。これが長年の経験という奴だ。あまり嬉しくねえな。
「じゃあ行きましょう」
恵は笑顔で言う。
その笑顔に不覚にも俺は恵に見とれてしまった。
恵はかなりおしゃれをしている。もともと明るくスタイルが良いので昔からモテていた。
その恵がおしゃれをしているのだ。そして笑顔を振りまいてるのだ。見とれても仕方がないと思う。
俺は誰に言い訳してるんだろ?
「今日はどこに行くんだ?」
まさかまた天王寺じゃないだろうな?
「着いてからのお楽しみ」
はぐらかされてしまった。こうなったらもうついて行くしかない。
俺は、恵について行き天王寺に行く。また天王寺なのか!?
ところが恵は天王寺からJRに乗り換え、西九条駅でJRゆめ咲線に乗って西へ向かう。
あっ!わかった!
ここから先は俺の予想通りの道順を歩きとある遊園地にやって来た。
「おお!ここはユニバー「零」
恵に俺のセリフを遮られた。
俺はおそるおそる恵の方を見る。
そこには鬼の形相で立っている恵がいた。
「ねぇ、著作権って知ってる?」
「は、はい」
俺は恐怖のあまり声が裏返る。
「このゲームは所々許可を取らずに使っている所もあるの。不用意に実名を出すのはやめなさい」
「はい。分かりました」
俺は即答した。恵を怒らせたときに反論するとろくな事にならないからな。
俺達は1日フリーパス券を買い中に入る。
「恵どこから回る?」
「そうね…まずはあのジェットコースターから行きましょう」
機嫌が直ったのはいいがいきなりジェットコースターか。
まあいいか。今は恵の好きなようにさせておこう。
というわけで俺達は早くもかなりの列が出来ているジェットコースターの列に並ぶ。
「人がいっぱいねー」
「そうだな。ここまで人がいるのか、ゲームの中なのに……」
「そういえば愛さんがかなりリアルに作ったって言ってたよ」
ここはそこまでリアルにしなくても良かったんじゃないかな。
余計なことしやがって。
20分ほど待ちようやく俺達の番が来た。
おおう……1番前かよ。
「やったね零。1番前だよ!」
「あ、ああ。そ、そうだな」
俺はなんとか普通に答えた。
コースターが発進してだんだん登っていく。当然のことだが登るにつれてどんどん高くなっていく。
どれくらい登ったのだろうか。ようやく頂上についた。
「零、そろそろだよ」
恵が俺の手を握ってくる。俺は一瞬手に意識がいったがすぐにそんなことを気にする余裕がなくなる。
「「「キャアアア」」」
コースターは重力に引かれどんどん加速していく。
早え。やばい朝一でこれはキツい。
右に曲がったり1回転したりアクロバティックすぎる。
ようやく終わった。ジェットコースターは俺も好きだが、やはりいきなりは駄目だ。
「あー面白かった」
楽しそうだな恵よ。
「あれ?零、どうかしたの?元気ないね」
「いや、何でも無い。ただいきなりジェットコースターだったからな」
「なら次は少しゆるい奴に行こっか」
「そうしてくれると助かる」
俺達は次に小さい子供が乗るようなジェットコースターに来た。
いやいやゆるいけどさ。なんでまたジェットコースター!?
「ここなら大丈夫でしょ」
そんなドヤ顔されても反応に困るよ。なんで名案を思いついたみたいな顔してんの。なんか腹立つよ。
結局乗った。
ゆるかったから特に気分が悪くなることはなかった。ただ周りが子供ばかりなのに俺達だけ高校生同士で乗っていたので、周りの目が痛かった。
次に俺達は車に乗って過去に行くアトラクションに乗った。
俺はこのアトラクションが好きだ。なんか過去に行くってだけで格好良く思える。
恵も楽しんだようだ。
「零、やっぱりあのアトラクションおもしろいよね」
「ああ、そうだな」
「ねえ!零がもし過去に行けたなら何がしたい?」
いきなりだな。過去に行けたらか……
「そうだな……俺だったら戦国チートやってみたいな」
「戦国チート?何それ?」
うーん。どう説明すればいいのか。
「例えば織田信長は武田に長篠の戦いで火縄銃を使って勝っただろ?」
「うん。有名だよね」
「もし武田が火縄銃の存在をしっていたらどうなると思う?」
「それは分からないけど織田側は作戦が失敗して混乱するだろうから武田が有利になるよね」
「そう。戦国チートとは現代知識を使って戦いをコントロールすることが出来るんだよ」
これであってるよな?大丈夫だよな?
「何それ?ずるくない?」
いや、そんな普通の反応返されても……俺からしたら反応に困る返答だよ。
「だからチートなんだろ」
「なるほど」
「じゃあ恵は何をしたいんだよ?」
「そうね…私だったら……」
そう言って考えてこむ恵。考えてこんでるだけで絵になるから反則だよな。
俺がやったら、なにかいやらしいこと考えてるとか言われたことあるしな。あれはトラウマものだったよ。
「やっぱり友達とかを助けてあげたいな」
恵らしい答えだな。俺にはそんな立派な答えを出せそうにない。
「そうか……優しいな恵は」
「そんなことないよ。ただ取り返しのつかない事だけは友達じゃなくてもやって欲しくないから」
そういって少し淋しそうな表情になる。恵にもいろいろあったんだな。俺は『人生の勝ち組だろ』としか思ってなかった。
やっぱり人間なんでもかんでも上手くいくなんてことはないんだな。
「なんか暗くなっちゃったね。そろそろお昼ご飯にしようか?」
恵は話題を変えてくれる。そういう空気の読めるところもモテる要因だったんだろう。
「そうだな。何が食べたい?」
俺はいろいろ頑張っちゃう幼なじみに今日くらいは昼飯を奢ろうと思った。
「え、何?奢ってくれるの?」
「ああ。今日だけな」
俺はぶっきらぼうに答えた。やっぱり俺が空気を読むなんてガラじゃない。俺は自由気ままに日常を過ごすのが似合っている。
それでも──
「ありがとう!零!」
恵は太陽のように輝いていた。そんな笑顔であった。
俺は気恥ずかしくなり顔を背ける。
──感謝されるのは悪くない気分だ。だからたまにくらいは空気を読んでも良いだろう。
「何?照れてるの?」
「う、うるさい!そんなこと言うならもう奢らないぞ!」
俺は逃げるように歩き出す。
「ごめんって。もう言わないから奢ってよ」
そんな俺を恵は追いかけてくる。
「それで零、私うどん食べたい」
そして普通に話しかけてくる。
えっ?
さっきまで良い感じになってたじゃん。なんか物語の完結っぽい雰囲気出してたじゃん。
今のセリフはしんみりとした雰囲気ぶち壊しの一言だよ!?
これもし狙ってやってたら完結フラグクラッシャーの異名を貰えるよ。
結局いつもの様子に戻ってうどんを食べに行った。なんか釈然としなかったけどうどんは美味しかった。
「で、零。次はどこに行く?」
なんか1時間前の出来事がなかったことにされている。なんか感動的な感じがなかったことにされている。
「じゃあ恐竜の急流滑りに行こうぜ」
「いいわね。さっそく行きましょう」
結局、俺には感動が作り出せないということか。でも今日は遊びにきたのだ。感動はいらなかったな。俺はそう思うことにした。
俺達は急流滑りにやって来た。
「おい、恵。レインコート買っていくか?たぶん濡れるぞ?」
「別に買わなくて良いよ。どうせ零が守ってくれるし」
だから反応に困るセリフを慎め。なんて言ったら良いかわかんないんだよ。
「分かったよ。ちゃんと守ってやるよ」
今度は恵が顔を赤くする。少しはやり返せたかな?
俺達は急流滑りに乗り、疑似ジュラ紀、白亜紀を体験する。
「零来るよ!ちゃんと守ってよ!」
クライマックスだ。俺達はボートごと坂を滑り水に突っ込む。
水しぶきが上がり客を濡らしていく。
俺は恵に水がかからないように覆いかぶさる。なんとか恵に水がかかることはなかったが、俺が全身びしょ濡れになってしまった。
たぶん俺のサービスシーンは誰も期待してないんだよ。ごめんよみんな。恵のサービスシーンがなくてごめんよ。
「アハハハッ零びしょ濡れじゃない」
恵が大笑いする。くそっいつか仕返ししてやる。覚えてろよ。
俺は売店でTシャツを買い、トイレの中で着替える。ズボンは売ってなかったので濡れたままだ。
気持ち悪い。早く着替えたい。
唯一の救いは覆いかぶさったため上半身だけが濡れズボンはすぐに乾きそうだということぐらいだ。
「ねぇ零。そのズボン乾かすためにも熱いやついかない?」
「そうするか」
俺達はなんて言えば良いのかわかんないけど、本当に燃えるアトラクションにやって来た。
そこでズボンはかなり乾き、ほとんど濡れているのが分からないくらいになった。
このアトラクションはズボンを乾かすためだけに行ったので特に面白いことは何もなかった。
次にこの遊園地で室内最大のジェットコースターに行った。
「ここってクルクル座席が回るから結構楽しいんだよね」
「俺はあまり好きじゃないな。回りすぎると酔うんだよな」
恵は主に絶叫系ならなんでもいいらしい。俺はちゃんと選ぶけどな。
あとこのアトラクションに設定されているストーリーが少しウザイ。たぶん身長足りなくて乗れないようなお子様くらいにしか受けなさそうなストーリーだ。
「零、進んだよ」
後ろから恵が催促してくる。はいはい。詰めればいいんでしょ。
「恵ってさ、本当に絶叫系好きだよな」
「えっ、だってスリルがあるからさ。楽しいじゃん」
なんか男子みたいなセリフだな。
◇
俺はこのアトラクションが終わったとき案の定酔った。
「やばっ!吐きそう」
「ちょっと零、大丈夫?」
恵がお茶を手渡してくれる。俺はお茶を飲み少し休憩していると体調が良くなってきた。
「もう大丈夫だ」
「そう?なら最後に観覧車乗ろ」
観覧車か……デートの最後によく乗るあの観覧車か…
まあいいか。リア充共を見なければ大丈夫だ。
俺達は観覧車に乗る。
「こうやって観覧車に乗るの現実の小学生以来だね」
「そうだったか?」
「そうだよ。零はすぐに忘れちゃうんだから」
恵は呆れながら言ってくる。悪かたっな。忘れやすくて。
俺は何か別の話題がないか捜すため窓の外を見る。
「おい、恵。見てみろよ。綺麗だぞ」
俺は窓の外を指さす。それにつられ恵も窓の外を見る。
「本当だ。夕日が綺麗に見える」
俺達は観覧車に乗っている間、この素晴らしい景色を楽しんだのであった。
俺達は観覧車から降りるとゲートを出て帰る為に駅へ向かう。
そこから電車に乗り最寄り駅まで帰ってくる。
「零、今日は楽しかったね」
「ああ。あんなに思いっきり遊園地で遊んだのは久しぶりだったな」
「ねぇ零。今日は付き合ってくれてありがとね」
恵が俺の頬にキスをする。
「今日のお礼❤」
恵はいたずらっぽく笑い改札を出て行く。
俺はしばらく動くことが出来なかった。頬を手で触りボーッとしていた。そのせいで近くに同じ学校の生徒がいるのに気付かなかった。
しかもその生徒は噂好きな1つ上の生徒会長。七草 御影であった。
これがとある事件?に発展することになる。それを知るのはゴールデンウィークが終わってからであった。
あれを事件と呼んで良いのか分からないけど……
コミュ力が10上がった。財力が5000減った。スキル『デート』を手に入れた。
やっぱりあれってデートだったんだ。
意味深な終わり方にチャレンジしてみました。