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24 マリアと王子でパンチ・パンチ・パンチ!

年内最後の更新です、どうぞよろしく

っていうか、もう残りわずかなんですが(あっ、番外編もあったな)


 怒りにまかせ、自分の国の軍勢を一掃しようとしていたレオナルドさまも落ち着き、どうにかその場はおさまった……と思われた時のことです。


「なっ、これはあの時と同じ気配だ……」

 ウィリアムさまの言葉に、アントニオさまたちも空を見上げます。

「な、なんだあれはぁああああっ」


 銀騎士に恐れをなしていたロートヴァルド軍の兵士たちも空を見上げ、みな一様に恐れおののいています。

 そこに渦巻いていたのは、空に落とした墨のようなおぞましい影。


<我は、目覚めり───>


 王宮大舞踏会で邪悪な悪意を私たち、いえこの世界そのものに向けていた「魔王の影」。

 それがいま再び、姿を現そうとしていました。

 しかも今回は以前と違い、兵士の皆さんにも見えているようです。

 再び影の悪意を感じた私の心に、凄まじい怒りがこみ上げてきました。


「あいつ……! 今度はアントニオさまの国に被害を及ぼそうと言うの? 許さない!」

「マリア、僕から離れないで! アントン、ラファエロ、ウィル!」

「おうよ、任せとけっての!」

「こんな戦いやすい場所で現れてくれるとは、気がきくじゃないか」

「待て、気配の広がり方が尋常じゃない……警戒しろ!」


 ウィリアムさまが言い終えるより先に、邪悪な気配は空いっぱいに広がり、おぞましい気配は形となって、無数に出現しました───魔物の群れです。


「ぐぉおおおおんっ」

「ぎしゃぁあああっ」

「ききぃいいいいっ」


 巨大トカゲ型の魔物、猿人型の魔物、牙をむく狼型の魔物、コウモリのような空を飛びまわる魔物、そして───巨大な翼をばさりと広げるドラゴン。

 何百、いえ何千という魔物の群れが姿を現し、そしてその中心に、空をも覆い尽くさんとする巨大な黒い影が私たちを見下ろしていました。


「まっ、ま、魔物だぁあああっ」

「ええい、うろたえるな、全軍、攻撃態勢!」

 魔物の群れに驚いたとはいえ、さすがロートヴァルド軍です。

 直ちに陣形を整え、魔物への攻撃準備にかかります。しかし魔物の群れの数は一〇〇〇人余りのロートヴァルド軍を遥かに上回っています。


「ほ~っほっほっほ、その程度の数で我がベルクガンズを襲撃とは、舐められたものですわねえ」

「魔王軍、相手にとって不足なし!」

「やっほ~、マリアちゃ~ん」


 ベルクガンズの三女傑、キャサリン王女さまたちがベルクガンズの軍勢を率いて、王城から出陣してきました。

 それを見たアントニオさまが「やれやれ……」と眉間を抑えておられます。

「ここんとこ大したイベントがなかったから、姉貴ども張り切ってやがる……」

「頼もしい限りじゃないか、ハッハッハ」

「来るぞ───!」


 ウィリアムさまが構えたのは「風鳴かざなりの弓ラヴァローザ」。

 きゅぉおおお……っと風の鳴る音が響いたかと思うと、竪琴を思わせる形状の弓を中心に空気が渦巻いていきます。

 風を操るウィリアムさまの聖宝具です。


「先手必勝……!」

 きゅばっ。

 目に見えない無数の矢が空を裂き、空を舞うコウモリ型の魔物がずばばばばっと数十匹同時に撃ち落とされ、ロートヴァルド軍から歓声が上がります。


「やるじゃないか、ウィル! 僕も負けてられないよ!」

 水流が宙を舞い、魔物たちに襲いかかります。

 その素早い動きは地面を駆けまわる狼型の魔物を十数匹同時にとらえ、体に巻きついて宙に持ち上げます。

「ぐるぅうぉおおお……っ」

「足の速そうなやつは優先的に倒させてもらうよ!」

 ラファエロさまが手首をくっとひねると同時に、「水の鞭ネフィリール」は魔物の体に食い込み、刃物のようにその体を分断してしまいます。

 魔物はチューニングを乱され、光と共に消失します。


(す、すごい、お二人とも……)

「よぉおおっしゃぁああ──────ッッッ」

 ごおおっ、と劫火を噴きだす槍を構え、アントニオさまが飛び出します。

 眼光鋭く捕らえたのは、十メートルを遥かに超える大型ドラゴンの群れ。「豪炎の槍ガエンザン」がその巨体を一撃で真っ二つに、いえ一匹どころかまとめて数匹もの竜を見る間に打ち倒し、アントニオさまは戦場を駆け抜けます。

「おら、おら、おら! ウィルのレコードくらいあっという間に塗り替えてやるぜぇえっ」


「マリア、僕の後ろに隠れているんだよ」

「はい、レオナルドさま!」


 レオンさまの体から立ち上る白銀のオーラが、再び巨大な銀騎士を出現させます。

 しかしさっきのような怒りに任せた姿ではなく、神々しい清浄な光を放つ銀騎士が剣を一振りすると、魔物の群れは数十、いえ百匹以上がまとめて吹き飛ばされ、浄化されていきます。


「おぉおお、勇者殿下さまたちの力を見よ! 我らも負けておれぬぞぉおお!」

「ロートヴァルドに後れを取ってはいけませんよ、皆さま!」


 ロートヴァルド、ベルクガンズ両軍の兵士たちもがぜん勢いづき、魔物の軍勢は総崩れとなります。

 数で劣勢だったはずの両軍はじわじわと魔物を追い詰め、そこに勇者王子の追撃が加わって、魔物は見る間にその数を減らしていきます。


(わ、私も皆さまのお手伝いを……)

 そう思って私は大地の籠手を出現させます。

 けれど舞踏会のときのような巨大なものはまだ出せず、両手にはまる程度のものしか出てきません。私はまだ地の精霊の力を自由自在には使いこなせないようです。


「ええと……や、やっぱり魔物を直接ぶん殴らないといけないのでしょうか……」

 けれど、レオンさまたちがそんなことを許してくれるはずがありません。

 なにか、今の私の力で魔物を攻撃する方法は何かないでしょうか……と思っていると、ふとある方法が胸の奥にポツンと浮かびました。

 そうです、このやり方なら、私でも魔物を攻撃できるかもしれない!

 そう思ったらふつふつとイメージが固まり、私は大地の籠手をぐっと握りしめ、ある言葉を無意識に叫んでいました。


「ロケットッ……パ~~~~~~~ンチッッッ!」


 ずっどぉおおおおおおおんんんっっっ。


 突き出した両手からどかんと飛び出した「大地の籠手グランディール」。

 神秘なる精霊の籠手は宙を飛び、猿人型魔物のどてっ腹をぶち抜いたかと思うと、狼型の魔物をぶっ飛ばし、コウモリ型の魔物を次々と撃墜したのち、ドラゴンの脳天に突き刺さりました。

 そして、これらすべてを打ち倒してから私の手に戻ってきたのです。


「マリア、すごい技じゃないか! それなら魔物と直接対峙しなくても、攻撃できるというわけだね! ところで……パンチはわかるけど、ロケットってなんだい?」

「さ、さあ……なんとなく口走ってしまっただけですので……」


 それはともかく、私の参戦も加わって、魔物軍はさらに数を減らしていきます。そしてとうとう最後の一匹を銀騎士の剣が斬り裂きました。

「さあ、これで残るはお前だけだぞ、魔王!」

「一斉攻撃だ、嬢ちゃん!」

 アントニオさまの言葉にラファエロさまとウィリアムさまも頷き、水霊の鞭と風鳴の弓を構えます。

 ガエンザンから噴き上がる巨大火柱、ラファエロさまの放つ水柱、ウィリアムさまの手元から風の矢が打ち出され、そこにレオンさまの銀騎士の剣、そして大地の籠手が宙を飛んで空を覆う影に激突しました。


「うむ、我が弟と勇者王子たちにマリアどの、見事…………ッ?」

「やぁ~ん、全然効いてないよぉお~~~っっ」

 エルデさまとミュゼールさまの言葉に、私たちは息を飲みました。


 私たち全員の一斉攻撃を受けたはずの「魔王の影」は、まるでダメージを追った様子もなく、私たちを見下ろし、強烈な悪意を向けて来たのです。


「くっ、なんてやつだい。ノーダメージとか反則だろう?」

「ただ各々の攻撃をぶつけるだけじゃダメなんだ。僕ら五人全員の精霊の力をまとめないと……マリア!」

「は、はいっ」


 レオナルドさまは他の三人の勇者王子さまを呼び寄せると、私を中心にして円陣をお組みになられました。


「精霊の力がいちばん不安定なマリアを中心に、僕らの力をマリアに集中させるんだ。そしてまとめ上げた力を奴に一気にぶつける」

「おうよ、嬢ちゃんが俺らの力をまとめて、あの野郎をぶちのめすんだな」

 聖・火・水・風の力がぐんぐん上昇し、私の中に流れ込んできます。

 いつもは不安定な地精霊の力ですが、四人の王子さまから放たれる精霊のエナジーによって活性化し、私の体の中に神秘の力が充満してゆくのが肌で感じられました。


 それは命を生み出す力、未来につながる力。

 魔物や魔王のような刹那的で破壊と蹂躙しか生み出さない邪悪とは一線を画すものなのです。


「マリア、この世界の創世神話を知っているね?」


 レオンさまの言葉に私は頷きました。

 それは、この世界に生きるものなら誰もが知っている、世界の始まりの物語です。


「地精霊は世界の基盤となる大地を生み出した……」

 私に続いてアントニオさまが言葉を引き継ぎます。

「火精霊は大地に脈動の焔を与えた……」

「水精霊は生命を生み育む水で大地を潤した」と、ラファエロさま。

 そしてウィリアムさまが静かに口を開きます。

「風精霊は火や水が世界の隅々まで行き届くよう風を吹かせた」


「……最後に聖なる光をつかさどる聖精霊が、世界に祝福を与えたという。魔王! この世界のどこにもお前の存在する余地はない! 元いた世界に帰るがよい!」


 そうです、レオンさまの言うとおりです。


(あなたたちに……あなたたちになんか、この世界は渡さない!)


 空いっぱいに広がる真っ黒で邪悪な影、いつしか私は魔王の影と同じくらいに巨大化し、それと対峙していました。


 体にまとっているのは風のローブ。

 そして両肩に羽織っているのは焔と水のヴェール。

 背中に背負った輝かしい銀の後光は、聖なる輝きそのもの。


 私は両手にはめた大地の籠手グランディールを振りかざし、それを力いっぱい魔王の影に叩きこんでいました。



「往・生・せいやぁああああああ~~~~~~~ッッッッ!」



 そのときの光景を、後にロートヴァルドの兵隊さんはこのように語っておられたとか。


「凄かったよ! 身の丈三〇メートルはあろうかという巨大な女神さまが、魔王と対峙して!」

「ああ、風のローブに焔と水のヴェールをまとい、銀の光に包まれた神々しい姿で!」

「籠手をはめたその鉄拳を魔王の影に叩きこんで、魔王を見事に撃退したんだ!」

「ああ、その美しくも気高い姿は、なんというか、あれだ」

「そうだ、まさしくあれこそが」



「「「「「……勇者番長!」」」」」



 ずこーっ、とそれを聞いた私はすっ転んでいました。



サブタイトルの元ネタを知っている人は……来年いいことがあるかもしれません

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