15 緊張の里帰り……?(前篇)
「ふむ、伝説の聖宝具か。マリアにも当然、キミだけが使える聖宝具があるはずだ」
本日は王子殿下揃い踏みでご登校。
ということは、国のどこかに魔物が現れたという知らせがないということです。
せっかく五人そろっているのだから、と本日は私の精霊の力の鍛錬をすることになりました。
「まずはボクの聖精霊の力。『白銀の聖剣ローディルード』だ」
レオナルドさまが右手を天にかざしますと、何もなかった空間から銀色に輝く聖剣が出現しました。精霊の力によって作られた伝説の武器です。
「次は俺の『豪炎の槍ガエンザン』!」
ごおおっ、と焔を引いて出現した槍を構えるアントニオさま。
その焔に対抗するように空中に水が走り、鞭のように唸ったかと思うと、それはラファエロさまの手の中に納まりました。
「この『水霊の鞭ネフィリール』はこんなふうにも使えるんだよ……!」
ぴっきーん、と水の鞭は一瞬で凍りつき、氷の剣になります。
きらきらと輝く剣は確かにラファエロさまによく似合っています。
「───『風鳴の弓ラヴァローザ』」
最後にウィリアムさまが手にしたのは、まるで竪琴のような不思議な形状の弓でした。
風は目に見えないのでよくわかりませんが、きっとあれもすごい力を秘めた聖なる武器なのでしょう。
(それにしても……やっぱり皆さま、そのカッコいい名前が付いているのですね)
ええと、申し訳ありません。
私なんだか複雑な気分です。
男の方と言うのは、ご自分の振るう武器にそのようなカッチョよい名前をお付けになるものなのでしょうか。それが普通の感覚なのでしょうか、
女の私には、ちょっと理解できないというか、なんだかものすごく恥ずかしい気分になるのはなぜなのでしょう。
そう言えば以前、村の悪ガキ、ガズが木でできたおもちゃの剣に「超勇者専用スーパーアルティメットサンダーウルトラバスターソードブラック改マークⅡ」という名前を付けて威張っていて、それを聞いた私は「うわぁ」と思ったものです。
(それはそれとして───)
剣・槍・鞭・弓となると、私の武器はどういう形をしているのでしょう、想像もつきません。
もしかして「大地の金槌ドンドコドン」とか、「溶岩の釘抜ガンガラガン」とか、そういう武骨な武器だったりするのでしょうか。
いやな予感しかしません。
「その昔、魔王を闇の世界に退けた五人の勇者のうち、地精霊に関する文献は極端に少ないんだ。だから、その聖宝具に関しても不明な点が多い」
「ええと、たしか他の勇者さまのように国を興さず、旅立たれたんですよね」
「そうだよ。魔王の再侵攻がないよう監視するため、地の果てに旅立ったんだ。バルラヌス王国には古い文献が最も多く残ってるんじゃないか、ウィリアム?」
レオンさまの問いに、黒髪眼鏡の王子は無言で頷きます。
「バルラヌスは王国連合の中では最も小国だけど、古い魔法の知識なんかも多く残っているんだ。そのため、神秘の国と呼ばれることもある」
「嬢ちゃんの聖宝具に関する文献とか残ってるんじゃねえか、ウィリアム」
「……可能性はある」
いつも冷静沈着なウィリアムさまは、「風鳴の弓」を虚空に消失させ、言葉少なに頷きました。
「せっかくだから、久しぶりに里帰りがてら、捜してきてあげたらどうだい? もちろん、マリアくんも一緒に」
「ああ、それはいいね、ラファエロ。マリアも王都だけじゃなく、他国に赴いて見聞を広めるのはいいことだよ」
「じゃあ、決まりだな。学長には俺が言っといてやるよ」
……あれ? なにか流れがおかしなことになってませんか、皆さま。
「ええと、私の聖宝具に関する文献をお探しになるため、ウィリアムさまがご自分の国にご帰郷なさる……んですよね?」
その認識ですよね、わたし間違ってませんよね。
「ではマリア。明朝、女子寮まで馬車を迎えにやるので、いつもの登校時間に合わせて準備を」
え……ええと………………えぇええええええ~~~~~っっっ!
気がつけば、私はウィリアム殿下と共に、バルラヌス王国に行くことになっていました。
王子さまと連れだって、そんな恐れ多い……というか、ウィリアムさまは眉一つ動かさないのですが、こ、この方とずっと一緒で、私は緊張と息苦しさでどうにかなってしまうのではないかと、わりと本気で心配していました。
そして翌朝。
「マリアどの、道中気をつけていって来られよ」
エリザベスさんに半ば押し出されるように、私はバルラヌス王家専用の馬車に乗って、一路バルラヌスに向かうこととなったのでした。




