14 お茶会ですよ、お茶会!(後編)
あっという間に週末はやってきて。
私はバートン家の馬車に乗って、エリザベスさんと共にアインバッハ家に向かいました。
この日ばかりはエリザベスさんもしっかりドレスアップして、頬に紅もさしています。
私もラファエロさまに選んでいただいた一番豪華なドレスに身を包み、エリザベスさんにアクセサリーもお借りしました。
大粒の真珠のネックレス……ここここれ本物ですよね。
「あの、やっぱりこんなものお借りできません」
「いや、マリアどののそのドレスにはそれがいちばん似合うはず。遠慮しないで使って欲しい」
そういうエリザベスさんの髪にも宝石の輝く髪飾り。
なんだか夢を見ているような気分で訪れたアインバッハ家の庭園は、さらにゴージャスでした。
色とりどりに咲き誇る花、その中央の丸テーブルには銀の食器に銀の燭台、銀のポットになんだか見るからに高そうな茶器。おそらく値段を聞いたら心臓が止まること請け合いです。
そして私たちを出迎えて下さったのは、金髪を豪勢に縦カールにしたお嬢さま、いえここまで来ると「お姫さま」と言ってもいいんじゃないでしょうか。
赤毛のエリザベスさんが美人系だとすると、超美少女系お姫さまがそこにいらっしゃいました。
「まあまあエリザベス・バートン。よく来て下さったわ、そして『五人目の勇者』、マリア・マシュエストさまですわね、わたくしのようなものの招きを受けて下さって、光栄に存じます。わたくし、フランソワーズ・アインバッハと申します、どうぞお見知りおきを」
そう言って金髪美少女は深々と私に頭を下げるのです。
「ふほっ、本日はっ、お、お、『おねまき』に預かりまして」
いけません、私そうとうテンパってます。
なのにそんな無様な私にフランソワーズさんは天上の笑みを向けて下さるのです。
ああ、生まれも育ちもよいお嬢さまは、その心まで清らかでいらっしゃるのでしょう。私のようにてきとーに、大雑把に育った人間とは訳が違います。
そしてぴしりと糊のきいた執事服を着た若くてハンサムな男性がお茶とお菓子を出して下さいました。エリザベスさんもいつもと違って優雅で上品な物腰です。
いえ、彼女の場合、やはりこちらが本当の姿なのでしょう。
「エリザベス・バートン。本日は貴女にぜひお祝いの言葉を贈りたくて、お茶会を開きましたの。あなた、ようやく念願の勇者アカデミーへの入学を許可されたんですってね」
「……ええ」
「バートン家が騎士を輩出したのも今は昔……次期当主のあなたがいい婿取りをして早く跡継ぎの男児に恵まれるようにお祈り申し上げていたら、何をどう勘違いなさったのか、自ら騎士になるなどと言いだしたときは、本当に驚きましたわ」
ええっと。
バートン家……エリザベスさんの家はかつては有名な騎士を輩出した古い名家だそうですが、エリザベスさんは一人娘。お婿さんを迎えなければ家が途絶えてしまいます。
その上で男の子を産んで、その子を騎士に育てないといけないと、つまりそういうことです。
ぶっちゃけ成り行きで世襲してきた村長職と違って、貴族の血統を絶やさないためにはそれなりの努力が必要なわけです、大変です。
「わたくし、心配してましたのよ、あなたがアカデミーに足しげく通い始めて、直談判を始めた頃から。そうしたら、とうとう本当に入学なさっただなんて、近年まれに聞く珍事。まさに『虚仮の一念岩をも通す』ですわねホホホ」
フランソワーズさんはやはりエリザベスさんの幼馴染です。
お友だちのエリザベスさんが念願を果たしたと知って、嬉しくてこのお茶会にご招待されたのでしょう。
友だちっていいものです。
「けれど、いざ入学してもあなたとマリアさま以外の生徒はみな殿方ばかりなのでしょう? いろいろご苦労も多いのではなくて」
「座学に関しては問題ないし、戦闘実技や体力づくりもちゃんと付いていけている。心配は無用」
「そうですわねえ、あなたは昔から女性とは思えないほど体力に恵まれていて、舞踏会でも男役が務まるんじゃないかと言うほど女らしさに欠けるきらいがありましたものねえ、おほほほほ」
「そ、そうです! エリザベスさんは本当にすごいんです!」
突然会話に割り込んだ私に、フランソワーズさんは少し目を丸くしました。
いまのは、お行儀が悪かったでしょうか、マナー違反でしょうか。
でも、私はどうしても言いたかったんです。
「この国で騎士の称号を得られるのは男性だけ……エリザベスさんはそれを知った上で、それでも決して諦めずに学長先生にかけあって、それでようやく入学を認められたんです。剣だってすごいんです、練習試合で男子生徒に勝ったんですよ!」
「殿方に? 剣で? あ、あなた本当にそこまでひどい乱暴者に」
「そうなんですっ! ニールセンっていう、いけすかない乱暴者に、ばしーんって、ずばーんって勝っちゃったんです! ええ、誰がどう見たってエリザベスさんの完全勝利でした」
私はあの時の興奮が甦るようで、はしたなくも拳を振り回してその時の様子を活写してご覧に入れました。
フランソワーズさんもきっと私の熱演が伝わったのでしょう。
「まあ」「なんてことかしら」「信じられませんわ」などとエリザベスさんの強さに感心してらっしゃいます。
「し、しかしマリアさまのような精霊のご加護を受けたわけでもないのに、殿方を剣で打ち倒してしまうなんて……エリザベス、あなたそんな暴れん坊ではどこの殿方も恐れて近寄ってまいりませんわよ、はしたな」
「そうですよね、あのニールセンだって学内でこそこそしてます。けど、他の生徒さんたちはエリザベスさんのお話を聞きたがるようになったんですよ、モテモテです!」
「ま、マリアどの……」
「いえいえ、マリアさまこそ女の身でありながら精霊のご加護を受けた勇者。さぞや殿方からおもてになるでしょう、エリザベスさんと違」
「私は……どちらかというと皆さまに恐れられていると申しましょうか……」
そう、美人でスタイルがよくてしかも強い、そんな三拍子そろったエリザベスさんに比べて私はと言うと「怪力勇者」「岩石勇者」「残虐勇者」扱いです。
「先日もですね、ついうっかり試合で対戦相手の方を挽肉にするところでした……私なんてとてもとても~」
「ひっ、ひきにく!?」
ああ、これ言わない方が良かったでしょうか。
それからも私はエリザベスさんや学園のことをあれこれ説明したのですが、フランソワーズさんはなんだかしどろもどろになったり、目が泳ぎだしたり、いま一つ会話がはずみませんでした。
やはり私のような庶民とお嬢さまとでは、話も合わないのでしょうか。
結局、お茶会はうやむやのうちに終わってしまい、私とエリザベスさんはアインバッハ家を後にしたのです。
馬車に乗って帰る途中、私はしょげかえってしまい、エリザベスさんに頭を下げて謝罪しました。
「今日はすみませんでした……私、きっと失礼なことして、フランソワーズさんを怒らせてしまったかもしれません……」
「何を言っているのだ、マリアどの? 今日は本当に助かった」
へっ?
な、何を仰っているのでしょう、エリザベスさんは。
「昔から、あいつはちくちく人に嫌みを言うのが好きで……私が騎士を目指していると知れば、やれ男勝りだのがさつだの婿の来てがないだのと……今日だって何度も私に嫌みを言おうとするところを、マリアどのにはぐらかされて目を丸くしていた。なんとも痛快だった」
いやみ……とか仰ってましたでしょうか。
私はてっきりフランソワーズさんは、心からエリザベスさんをお祝いしたいものだとばかり思っていたのですが。
どうやら彼女たちの間には複雑な確執があるようです。
「でも、お友だち……なんですよね?」
「友と言うより悪縁だな、あれとは。それより、いまの私にはマリアどのがいる」
わ、私ですか?
「うむ、私とマリアどのはいまや同窓の友ではないか。私などはまだまだ修行中、未熟な若輩者だが、マリアどのの学友として肩を並べられるよう、努力は怠らぬ覚悟だ」
いえいえ、エリザベスさんが未熟だったら、私なんかどうなるんですか。
本当を言えば、いま「勇者辞めてもいいよ」って言われたら、速攻で勇者の看板なんか返上して田舎に帰りたいくらいなんですから。
「マリアどの、明日からも立派な騎士、勇者となるべく鍛錬を積んでいこう」
両の目に豪々と炎を燃やすエリザベスさんに圧倒されつつ、彼女が私のことをお友だちと言ってくれたことに私は感動していました。
田舎娘の私と貴族の令嬢であるエリザベスさんがお友だちだなんて……私は嬉しくて、その夜なかなか寝付けなかったのです。




