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11 初めての女子寮!(前篇)


 それから一週間が過ぎ、エリザベスさんは正式に入学が許可されました。


 もちろん、その一週間の間にラファエロさまが彼女の制服をご注文なさり、晴れて私と同じ制服で一緒に登校るんるんるん……と言う感じではまったくありませんでした。


「お、おはようございます、エリザベスさん!」

「………………ごきげんよう」


 それだけ言うと、ぷいと行ってしまう彼女の後を、私は必死に追いかけます。

 なんと言いましょうか、とほほな気分です。


 どうやらエリザベスさんは、田舎村の村長の娘風情が五人目の勇者であったという現実に、果てしなく不満を覚えているようなのです。

 まあ、そういう人たちは学内にもまだ沢山いそうなので、そのことはもう気にしないようにしているのですが。


「へえ、お前さんがこのアカデミー二人目の女子生徒にして、女騎士志願者ってわけか。まあ、よろしく頼むぜ」

「ふぅ~、世の中モノ好きがいるものだねえ。女性は美しく着飾って、優雅に詩を口ずさんでいるのが一番だと思うんだけど」


 アントニオさまとラファエロさまの反応は……まあ予想通りでしたね。

 それより、今日は久しぶりに王子殿下さま方そろい踏みです。

 よい機会なので、私は前々から考えていたあることを、皆さまに相談する決意を致しました。

 

 それは───引っ越しです。


「マリア、僕の邸に不満があるなら、どうして早く言ってくれないんだい。やはりあそこは狭すぎたんだね」


 いえいえいえ、広すぎです、豪華すぎです、不自由なさすぎです。

 けれど、王都に来て既に一カ月余り、私はず~っとレオンさまのお邸に御厄介になっているのです。


 邸では食事はもちろん、私は掃除も洗濯もしたことがありません。

 ああ、一張羅の洗濯だけは人さまに任せたくなくて、自分でやりましたが。それ以外はすべて使用人の方々がやってくださるのです。


 しかし、あまりにも不自由のないその暮らしは、庶民育ちの私には居心地のいいものではありませんでした。


「私以外の皆さまは寮での共同生活、私だけがあんなぜいたくな生活をしているというのは、どう考えても不公平ではないでしょうか。ですから私、どこかに部屋を見つけてそこに移り住もうかと前々から思っていたのです」

「寮生活って言っても、僕たちも別に炊事や洗濯をしてるわけじゃないけどねえ~」

「それに、生活費の足しになるかもしれないと思って、こういうのを始めたんですが……」


 と、私は鞄に忍ばせてきたそれをお見せしました。


「えっ……これ、キミが縫ったのかい、マリア。すごいじゃないか」

「こういうの、手で縫って作るのか? か~っ、めんどくせえなあ」

「ほう、マリアくんにしてはいい趣味だね。地味なキミにはぴったりの作業だ」

「初心者ながら、仕事は丁寧だと評価できる」


 それは、まだ作りかけの花の刺繍でした。

 いまはまだ素人の手すさび程度ですが、もう少し腕を積めば売り物になるかもしれません。

 しかし、皆さま口々に「売るなんてとんでもない」と仰るのです。


「前にも言ったけど、キミの学費生活費に関してはすべて王国連合から出ることになっている。これはキミが気を使うようなことじゃないんだ」

「そぉんな手間暇かけたもの売るなんて、もったいねえって」

「いちおう仮にも勇者の手作り刺繍ともなれば、王立美術館で保存してもいいんじゃないかな? まあ、もっと腕をあげてからの話だけど」


「……キミには勇者としても、学生としてもすべきことが山積している。エリザベスが入学を許可され、彼女から学ぶべきことも多々あるのに、それでも敢えて一人暮らしを?」


 ううっ、皆さま仰ることはわかるのですが。


 特に最後のウィリアムさまの正論に私はたじたじとなります。けれど、これは私の心の問題でもあるのです。

 上げ膳据え膳、家事労働をな~んにもしないという状況が続くと、体が、心が労働を欲するのです。こういう庶民の気持ちは、王子さま方には理解していただけないのかもしれませんが、これ以上レオナルドさまのお邸に住み続けていると、私の気が安らぎません。


 と、ここで思いがけない方から助け船が出されました。


「そういやあ、あのエリザベスって娘はどうなってんだ? 自分の家から通ってるって言うなら、そいつはこの学園のルールに反するってもんじゃねえか、レオン?」

「む? いやしかし、彼女は登校できる範囲に自分の屋敷があるわけで」

「そいつは俺たちだって同じだろう。勇者アカデミーの生徒は寮生活が原則。違うかい?」


 まさかのアントニオさまからの疑義に、レオンさまも難しい顔をなさいます。


 そのとき私はまたまた素晴らしいアイデアを「きゅぴーん!」と閃いたのです。

 これなら私の希望がかなうと共に、エリザベスさんとの距離も縮まることでしょう。


 私はそう確信していました。




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