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10 ライバル登場?(後編)


「それで、エリザベス・バートンの入学を認めてほしい、と」


 ここ、学長室には私とエリザベスさん、そしてたまたま公務がキャンセルとなり登校してきたレオナルドさまとウィリアムさまがいらっしゃいました。


「はい、私はこの勇者アカデミーに入学以来、皆様に大変よくしていただいてきましたが、まだまだ若輩者。これ以上皆さまにご負担をおかけするのも憚られますし、同じ女生徒がいれば殿下さま方のお手を煩わせることも少なくなるのではと……」

「しかし、王国連合では女性に騎士の称号を授けることを認めてはいない───彼女自身は入学するだけ時間の無駄なのでは」


 理路整然と正論を語るウィリアムさま。

 本当にこの人はいつも無表情と言うか、堅物と言うか。


「ウィリアムの言うとおりだ。キミはどう思っているのかね、エリザベス・バートン」

「が、学長さま。わ……私は……」


 あれっ。


 なぜかエリザベスさんの顔は喜びに満ち溢れているどころか、渋い顔です。

 てっきり私の提案を聞いて、さぞお喜びになるものと思っていたのですが。


「まあ、マリアの気持ちもわからなくはないよ。アカデミー唯一の女子生徒と言う立場は、何かと不便なこともあるだろう。それが二人になれば心強いに違いない」


 さすがレオンさまはいつも前向きポジティブ男子です。

 私の提案も応援して下さるようで、ホッとしました。


「学長───エリザベス・バートンは貴族の娘です。そのことはマリアにとって大いに貢献するものと思われますが」

「どういうことだね、ウィリアム」

「はい。マリアは今後、我々のような公務をこなす必要が出てくるでしょう。公の場では様々なマナーが必要となるもの。諸国要人との謁見、園遊会、晩餐会、舞踏会……そういう場に今のままの彼女を出席させたら、どうなるでしょう」

「それはまた……ぞっとしないねえ」


 淡々と話すウィリアムさまの言葉に、私はだんだん話が明後日の方に逸れていってるのを感じ、不安が胸に広がって行きます。


 公務……私が公務、レオンさまたちがなさっているお仕事をするということですか?

 要人との謁見、園遊会に晩餐会に、ぶ、舞踏会~~~~っ?


 舞踏会!


 それは女の子の永遠の憧れ、華やかな空間……だと思います。

 見たことありませんので。

 そこには美しいドレスときらきらした宝石で着飾った貴族の令嬢が、素敵な男性を相手にくるくると優雅に、蝶のように花のように舞い踊る夢の舞台───に決まってますよ、ええ。


 だから、見たことないんですって。


「けっ、けどあの、わ、私が舞踏会とか、舞踏会って言うのはつまり、殿方と踊るんですよね」

「舞踏会だからな」とウィリアムさま。


 そっ、そんなの無理に決まってるじゃないですかぁあああ~~~っ!


 ええ、村でもダンスくらい踊りますよ。

 収穫祭ではみんなで呑んで食べて騒いで楽器を鳴らし、男も女も陽気に踊るのです。

 ですが……焚き火を囲んで円になって踊ったり、めいめい勝手な動きでリズムに乗って手を打ってはしゃぐ程度のこと。

 特に決まった作法なんかありません。

 それにみんな───普段着だし。


「それはもちろん、おいおいに学んでもらうよ。なにしろマリアくんは『勇者』なんだから。勇者には勇者としての立場、果たすべき責任と言うものがある」


 ぎろっ。

 ここでなぜかエリザベスさんが私をすごい目で睨みつけてきました。

 ああ、このストレートな敵意、なんだか久しぶり……なんて呑気なことを言ってる場合ではございません。


「ふむ、そうか。僕たちでも教えられることはあるが、マリアは女性。女性にしか教えられないマナーと言うのもあるしね。その点、エリザベスくんがいてくれれば大助かりだ」

「もっとも、これは我々……マリアにとってのメリットであり、エリザベス・バートンにとってはなんらのメリットにもなりません。あくまで一方的にマリアがエリザベス・バートンを利用する関係。その上、彼女は騎士にもなれない」


 え、ちょ、ウィリアムさま?


 私そんなつもりでエリザベスさんに入学してもらおうと言いだしたわけじゃないですよ。

 ただ同じ年頃の女の子がもう一人学校にいれば、さぞ学園生活も楽しくなるだろーなーという軽い気持ちで提案しただけで……


 第一それじゃあ、私がものすっごく図々しい人間みたいじゃないですか。


(ひえええ、めっちゃ睨まれてます……)


 それにしても、これは大誤算でした。

 もはや自分が精霊の加護を受けし勇者になってしまったというのはどうしようもないことで、諦めかけていたのですが……まさか勇者として魔物と戦う以外にも、そんなお仕事をさせられるだなんて、思ってもいませんでした。


 ただの田舎村の村長の娘風情が、各国の偉い人にご挨拶したり、舞踏会に出るだなんて。

 レオンさまたちは王子さまですから当り前としても、庶民の私だけそういうのは免除ってことで通用しませんでしょうか……。


「そのことですが、学長。女性に騎士の称号を与えるのは、いけないことなのでしょうか? 僕は疑義を唱えます」

「な、何を言い出すんだレオナルド! そんなことは当たり前じゃないか」

「どういう理由で?」

「う……それは、昔より定められたことだ。伝統は守られるべきだろう」


 ですが、なぜかレオンさまは自信満々です。


「学長。騎士と言うのは文武、品位に優れた者に与えられる称号です。ではもし男性よりも文武品位に優れた女性がいたとしたら、その者は騎士の名に値するのではありませんか?」

「むう、しかし伝統が……」


 苦渋の色を浮かべる学長さまに見えないように、ウィリアムさまが「ふっ……」と小さく笑みを浮かべました。

 珍しい、というか、ウィリアムさまにはレオナルドさまが何を仰ろうとしているのか、理解なさったようです。

 私は舞踏会で無様にひっくり返る自分の姿を想像して、苦悶していたのですが。


「学長、伝統などと言う曖昧なものは、いつ、どんなきっかけでひっくり返るか知れたものではありませんよ」

 ひ、ひっくり返る? あわわわわ。

「なにより、ここに生きた証拠がいるではありませんか」


 いきなり肩を掴まれ、「ずいっ」と私は学長さまの前に押し出されました。

 なにが起こったのか理解できず、私は目を白黒させます。


「僕たちは何の根拠もなく、勇者と言えば男だと思い込んでいました。だから、各地の捜索隊が何年かけても五人目の勇者を見つけられなかった。そう───地の精霊の加護を受けし五人目の勇者は、女性だったからです!」

「むう───」


 学長さまは言葉に詰まってしまいました。

 おそらく、先日の戦闘実技のことも学長さまの耳には入っていることでしょう。

 私が勇者であることは、もはや疑いようのない事実なのです。


「我々は女騎士どころか、女勇者を目の当たりにしているんです。男しか騎士になれないなんて、そんなしきたりにはもうなんの意味もないんですよ」


 そう言って、レオンさまはエリザベスさんの方に向き直りました。


「エリザベス・バートン。キミは自分が騎士に値する人間であることを、キミ自身の手で証明する必要がある───この学園でね。キミが誰もが認める文武品位を示すのなら、僕は喜んでキミを初の女騎士に推挙しよう」

「ほ───本当ですか?」

「ロートヴァルド王国の王子、レオナルド・ロートヴァルドの名において誓おう」


 あぁっ、なんとまっすぐでお優しいレオナルドさまの瞳。その瞳が今は私に向いていないのが、ひたすら残念です。

 その後、学長先生は「上と相談しよう」と仰ってくださいました。

 とりあえずこの場でエリザベスさんの入学は許可できないまでも、考えていただけるということです。これは私にとってのみならず、彼女にとっても喜ばしいことだと思うのですが……なぜか彼女は敵意に満ちた視線を私に「だけ」向けてくるのです。


「それではレオナルド殿下、ウィリアム殿下。今日は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 …………あれ? 私は?


 するとエリザベスさんは燃えるような赤毛をぶるんと振ると、「びしいっ」と私に指を突きつけるやこう宣言したのです。


「私は……お前が勇者だなどとは絶対に認めんッ!」


 あれ~、前にどこかで聞いたようなセリフです。


「私のような、剣の腕を磨き騎士を目指してきたものなら、せめて貴族の娘ならまだしも、田舎村の、村長の娘が精霊の加護を受けし勇者だとッ! 私は認めぬからなぁ~~~~っっっ」


 そう叫ぶや、エリザベスさんは一瞬泣きそうな表情を浮かべてから、くるりと踵を返して走り去って行ってしまいました。

 あとに残された私はただ呆然と立ち尽くすほかはなく……私の背後に佇んだレオナルドさまは、苦笑交じりにこう仰ったのです。


「ああ……これはライバル登場ってところだねえ、マリア」


 ちょ、なにか面白がってやいませんか、レオンさま!

 私はなにか、とてつもなく余計な災難を呼び込んでしまったのではないでしょうか……



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