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プロローグ

本作品は女性が主人公ですが、彼女は本編においての「語り手」でもあり、

そして何より本作品は「コメディ」です。

男女問わずお気楽に読めるファンタジーを心がけたつもりですので、

よろしければ一読してやってください。

 遥か昔、この世界は偉大なる精霊たちによって作られたという。


 地精霊は世界の基盤となる大地を生み出した。

 火精霊は大地に脈動の焔を与えた。

 水精霊は生命を生み育む水で大地を潤した。

 風精霊は火や水が世界の隅々まで行き届くよう風を吹かせた。


 そして最後に聖なる光をつかさどる聖精霊が、世界に祝福を与えたという。


 地には緑が生い茂り、海には魚が生まれ、陸には獣が生まれ空には鳥が舞い踊った。

 そして人が生まれ文明を築き、世界は輝きと命で満ち溢れた。


 だが───この美しき世界を我がものにせんとする者が現れる。

 魔の領域に属する邪悪なる「魔物」。そしてその頂点に立つ強大な魔物の王、「魔王」である。


 魔王率いる魔物の群れは町を襲い人を襲い、獣を喰らい、森を汚し、海を汚し、空は絶望の曇天に覆われて地上に日差しが届かなくなった。

 人々は希望を失い、地には悲しみと絶望と嘆きばかりが蔓延した。年寄りは病に伏せ、大人たちはうなだれ、そして子どもたちからは笑顔が失われた。

 こうして世界が破滅の危機に瀕した時、一人の予言者が現れ、こういった。


「魔王現れ世を乱す時、五つの精霊の加護を受けし勇者が立ち、これをうち滅ぼすであろう」


 果たして予言者の言葉通り、五つの精霊の加護を受けし五人の勇者が現れた。

 精霊の刻印をその身に刻みし勇者たちは、その神秘の力もて魔物の軍勢と勇敢に戦った。

 そして、ついには魔王を退け、全ての魔を闇の世界に追放したという。


 偉大なる精霊の加護を受けし五人の勇者のうち、地精霊の加護を受けし勇者以外の四人はそれぞれ国を興し、初代の王になったと伝えられる。


 聖精霊の勇者はロートヴァルド王国を。

 火精霊の勇者はベルクガンズ王国を。

 水精霊の勇者はルヴィナール王国を。

 風精霊の勇者はバルラヌス王国を。


 ただ一人、地精霊の勇者のみが「魔王が再びこの世界に侵攻し、世界に闇と不幸をもたらさぬよう、私は大地の果てで監視していよう」と国を興すことをせず、旅立ったと伝えられる。


 地精霊の勇者の自己犠牲と献身の心根に四人の勇者はいたく感じ入った。

 そして「我ら四つの国は王国連合となり、永遠の友情と平和を誓わん」と盟約を交わしたという。


 幾星霜の時は流れ───魔物の侵攻はなく、世界は平和だった。

 初代の王、すなわち勇者たち亡きあとも、その子孫たちは盟約を守り続けた。

 四つの王国は互いに支え合い、共に栄え、世界は永遠に平和なままであろうと、誰もがそう思っていた。


 だが十九年前、状況は一変する。


 ロートヴァルドに生まれし王子に、聖精霊の刻印が刻まれていたのだ。

 レオナルドと名づけられた王子は、聖精霊の加護を受けし勇者。勇者が生まれたということは即ち、再びこの世界に魔王、そして魔物が侵攻してくるという証でもある。


 同じ年、残り三つの王国にも王子が誕生し、そのいずれの体にも精霊の刻印が確認された。


 ベルクガンズの王子アントニオには火精霊の刻印が。

 ルヴィナール王国のラファエロ王子には水精霊の。

 そしてバルラヌス王国のウィリアム王子には風精霊の刻印が刻まれていた。

 王国連合は色めきたった。


 すぐさま各地にいち早く魔物出現を警戒するための監視所が作られ、それと同時にある機関の設立が検討された。

 王子たち四人の勇者が逞しく成長した時、勇者を支え、共に戦う勇敢な騎士、剣士が必要とされるだろう。

 王子たちもその者たちと共に切磋琢磨することで、勇者としての使命感や勇気を養っていくに違いない。


 かくして、「勇者アカデミー」が設立された。

 多くの貴族、騎士の子弟が入学を認められた。精霊の加護こそないものの、一人ひとりが国の防人たらんと、厳しい鍛錬が彼らに課せられた。

 彼らと共に「勇者アカデミー」に入学した四人の王子たちも、すくすくと育っていった。

 彼らは自らが勇者として精霊の加護を受けていることに慢心せず、武を学び、文を学び、互いに競い合い、友情を育み、立派な若者となった。


 だが、彼らには憂慮すべき問題があった。


 そう───大地の精霊の加護を受けし勇者の発見が報告されていなかったのだ。

 古の予言によれば、魔王の侵攻ある時は五つの精霊の加護を受けし勇者が現れ、これをうち滅ぼす、とある。

 逆に言えば、五人の勇者が揃わなければ、魔王を退けることはできないのではないか───レオナルド王子に刻印が確認されてから、もちろん王国連合では各地に伝令を発し、地の精霊の刻印を刻まれた赤ん坊の探索を全国民に命じた。


 しかし、どこからも五人目の勇者発見の報はなく、十九年の歳月が流れた。

「五人目の勇者は、まだその力に覚醒していないのではないか」

 そんな憶測も流れた。


 四人の勇者はかなり早いうちから精霊の力に目覚め、レオナルドなどは僅か五歳にして聖なる光を自在に操ることを覚え、他の三人の王子たちも幼少の内にそれぞれの精霊の力を使えるようになったのだ。

 五人目の勇者が一向に見つからないのは、勇者がその力にまだ目覚めていないのではないか───そんな噂がささやかれていたときだった。


 レオナルド王子が十九の誕生日を迎えたその夜、彼は夢の中で五人目の勇者と出会ったのだ。

 相手の顔や姿こそわからなかったが、感じられる力の脈動は、自分の聖なる光の力と同質のものだと感じられた。

 そして、その力の持ち主がいる方向も。


 レオナルドは翌朝直ちに「勇者アカデミー」に掛けあい、五人目の勇者探索の許可を申し出た。そして、残る三人の勇者王子と共に王都を出奔したのだった。



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