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ハデスロード  作者: 西郷隆成
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覇道を行く男

それはレイオウドウが《ナビゲーター》と入学手続きを行っている時のことだった。

王審教導院の入り口の鳥居に一人たたずむ影があった。

レイオウドウとの接触によって両腕を失い、しかし殺されることもなく生き残った男の姿があった。

「うーん、いっそのこと殺してくれれば楽だったのですがねぇ〜」

名をジン・マドウ、普段は身分を王審教導院の門番と偽っている男だ。

そんな彼はレイオウドウが予想した通りただ殺せば死ぬという存在ではなく、性質 『嘘八百うそはっぴゃく』、自身の死に対して八百回まで嘘として偽ることのできる能力、つまりジン・マドウを完全に殺すためには八百回殺さなければならないというわけだ。

しかし、この性質は死にのみ効果を発揮するため中途半端に傷を負った今の状況には役に立たない。

「一応回数制限があるので出来ることなら節約したいんですがねぇ〜まぁ両腕落とされて止血も出来ないのですぐに死ねますかねぇ〜?」

拷問対策用に痛覚を遮断しているのでよくは分からないが、現在進行形で血を流している状態なので数分もあれば死んで性質によって蘇るだろうという算段だった。

結構な回数死んではきたが、ほとんど即死に近かったので出血死を体験するのも珍しい、そう思って待ってはいるのだが。

「少しフラフラしますがそれだけですねぇ〜このまま意識を失うように死ぬのなら睡眠と変わりませんねぇ〜」

損をした気になるのは普通のことなのだろうか、いやそうではないと思う。

ふと足元を見ると赤があった。今なお自分から流れ出ている血液と切断された両腕から流れる血とついでに最初に落とした眼鏡だ。

今となって拾い上げることすら出来ないが、不備などがないかは少々気になる。

眼鏡は自分と違って本当に壊れる物だからだ。

すると地面に水溜りのようになっている血がピチャと音を立てた。

自分が出した音ではない。

ジン・マドウの神経は一瞬で警戒態勢に入った。

音源を咄嗟に探すと、自分のすぐそばに今までにはなかった巨大な影が存在した。

身長は2mを越え、どこぞの提督が着るような真っ黒な服を身にまとい、服の上からでも分かる隆起した鋼の筋肉が日に焼けた皮膚の下についている。

これが遥か昔の戦争時代なら軍人としてかなり地位についていそうな大男だった。

顔は逆光で見えないが、口元は厳しく結ばれているのが分かった。

ジン・マドウはこの男を知っていた。

「ダ、ダイ・ガモン様?」

震える声でジン・マドウは尋ねた。

ダイ・ガモンと呼ばれた大男は静かにその重い口を開いた。

「参謀委員…事態を説明しろ、何故なにゆえお前が負傷している」

そして硬く重厚な声が放たられた。

その問いにジン・マドウは即座に答えることが出来なかった。

「い、いえ…これはその…」

曖昧な回答にダイ・ガモンはため息をついた。

ため息といっても驚異的な肺活量によって延長された嘆息だ。

そして再び重厚な声を轟かせた。

「参謀委員、まだ自らを囮とした諜報活動を実行しているのか」

「も、申し訳ありません!学級委員たる貴方様にこんな見苦しい姿をお見せしまして!このジン・マドウ誠に申し訳なく思っております!」

ジン・マドウは意識して口調を変えて話した。

そしてこれはジン・マドウの命乞い…ではない。

ジン・マドウは本当に自分の敬愛する学級委員の名に泥を塗るような失態をした自分のことを情けなく思っていたし、どんな罰でも甘んじて受けるつもりでいた。

そして両腕がない体を懸命に折り、額をまだ乾かない自分の血へと擦り付けて土下座をした。

それを見たダイ・ガモンは自分の靴がジン・マドウの血で汚れるのも構わず、彼に歩み寄るとその豪腕で自分の服の袖を引きちぎり、ジン・マドウが「えっ」と言う前に彼の右腕を縛って止血した。

「ダイ・ガモン様⁉︎そんなことをされては貴方様のお召し物が‼︎」

ずさささ、と立って後ずさるジン・マドウに対し、ダイ・ガモンは気にする素振りもなくもう一度今度はもう片方の袖を引きちぎった。

「顔を上げよ、参謀委員。われは事態を説明しろと言ったのだ。勝手に自分で自身の行動を失態と決めつけるものではない。それにわれの前に血を流すことは不敬に値する。」

「で、ですがそれでは…」

くどい、われの命令を無視するのか」

何か言おうとしたジン・マドウにダイ・ガモンは厳しい口調で言った。

「は…はいぃぃ!仰せの通りにいたします!」

自分が敬意を払っているつもりでもそれが不敬と判断されてしまえば、ジン・マドウになす術はない。

ジン・マドウはダイ・ガモンに止血されるのを神妙な表情で見ていた。

止血が終わってジン・マドウは自分の体からほとんどの体温が奪われていることに気づいた。

止血が後数分遅ければ死んでいただろう。

しかし、それと引き換えにダイ・ガモンの袖が犠牲になり、服や靴にも大量の自分の血が飛び散っているのを見るとやるせない気持ちになった。

「感謝致します、ダイ・ガモン様」

「この程度で礼などいらぬ。服など幾らでも変わりはある」

「しかし…私とて性質によって生き返ることができ…」

「参謀委員」

また強い口調で呼ばれ、ジン・マドウは三度硬直した。

「命とは一部の例外を除いて有限だ。われとて命とは一つ、一度しか死ねぬし年月が過ぎれば自然と消えてしまう。八百個の命を持ち、八百回も死ねることはこの世で一番の贅沢と断言できる。しかし、一個の命の重みは全てにおいて平等だ。意識は継続し、身体は回復すると言ってもお前という存在が一度この世から失われることに変わりはない。いいか参謀委員、われの命とお前の八百分の一の命が失われることは同等なのだ。

そのことを認識し、自分の贅沢を謹み、何より質素であれジン・マドウ。痛覚がなくても危機感を持ち、痛みがなくても警戒を持ち、一つの命を大切に思うのだ。そしてーー」

そこでダイ・ガモンは言葉を切り、まっすぐジン・マドウの目を見据えて言った。

「生き抜いて不甲斐ないわれを支えてくれ」

その言葉は確かにジン・マドウの胸に届いた。

「貴方様は不甲斐なくなどありません。最強たる私たちのリーダーでございます。ですが、そうおっしゃるなら今後このような諜報はやめることにいたします」

そう言い、深々とお辞儀をした。

ダイ・ガモンは一切笑うことなくむしろ表情と精神を引き締めた。

「参謀委員」

「はい、事態の説明ですねぇ?」

「そうだ、おおよその推測は出来るが、直接対面したお前から直に聞きたい」

ジン・マドウの口に元の口調が戻ってきたのは徐々にだが緊張がとれているということだった。

「流石でございますねぇ、しかし話をお聞きになるよりも録音レコードを見た方が詳細に状況を把握できると思いますがねぇ?」

録音レコードとはジン・マドウの異能『録音眼レコードアイ』で記録された過去の映像ともいうべきものだ。

瞬間的な攻撃に対しても後で再生し何度も確認することで何が起きるかを精査する。

このジン・マドウの捨て身の諜報活動では主にこちらの方が重要視される場合が多い。

しかしそれを聞いたダイ・ガモンは眉を寄せ、太い首を横に振った。

「…否、それでは間に合わん」

「はい?いったい……まさか⁉︎」

ジン・マドウは一瞬その意味を捉えられなかったが、そこは彼もB組を預かる参謀委員の身だ。すぐにダイ・ガモンの真意を理解した。

何に間に合わないのか、それはレイオウドウがE組に着くのに間に合わないということだ。

暗にダイ・ガモンはこう言っているのだ。

『レイオウドウが教室クラスに着く前に彼を殺す』と。

「いけません!貴方様の手を煩わせるなど…」

再び取り乱そうとするジン・マドウをダイ・ガモンは手を振って制した。

「本来ならば諜報活動、新入生の身体測定せんべつなどの雑事は体育委員であるわれがすべきことだ、それを現状参謀委員に丸投げになっているのはわれとて看過出来ぬ」

「しかし、貴方様はすでに学級委員になられておりますねぇ!学級委員が容易に動いてはなりませんねぇ!」

われが自ら動く理由は他にもある、止血の時にお前の両腕の傷を見た。なかなかの手練れであるようだな」

「うっ…」

ジン・マドウは『傷口を見ただけで相手の技量が分かる』というダイ・ガモンの弁をいっさい疑わない。

しかしその言葉を認めるならば、ダイ・ガモンが手練れという実力者を止められるのはダイ・ガモンだけだと肯定しているようなものだ。

「で、では美化委員か保健委員に任せてはどうですかねぇ?」

ダイ・ガモンは少し考える素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。

「否、保健委員の戦闘力はお世辞にも高いとは言えん。美化委員はおそらく実力的には拮抗するだろうが、被害が拡大する上に性格上に難点がある」

ジン・マドウも参謀委員を預かる身として仲間クラスメートの実力は把握している。

ダイ・ガモンが言ったことは的を射たものだとジン・マドウにはすぐに判断できた。

「で、ですが…」

「参謀委員」

なんとか反論しようとするジン・マドウをダイ・ガモンは再び制した。

「参謀委員、時間的に余裕は無いのだ。襲撃はわれが決めたことだ、何を言われようと意思を曲げるつもりはない。諦めて相手の情報を伝えろ、それともわれをこれ以上ここに止めておく気か?」

「滅相もありません!」

頑ななダイ・ガモンも遂にジン・マドウも折れ、レイオウドウの入学時のことを詳細に語り始めた。

詳細を語り終えた時、ダイ・ガモンは腕を組み熟考していた。

「血管を微塵も潰す事無く、なおかつお前が気づかぬ一瞬で両腕を斬り飛ばす…か。一流の剣士であるかは判断出来ぬが一流の殺し屋であることは間違い無いと見るべきだろうな。さらにお前の策を全て見通した上で感情に流されて軽率に殺すこと無く先を急いだか。実力よりもむしろ異常に染まった思考の方が厄介かもしれん…」

「不甲斐ないことに何をされたかは全く分かりませんでしたねぇ…切断直後に叫ぶことができましたが、その時にはすでに奴は元の体勢に戻っておりまして申し訳ありません」

「謝る必要は無い。事前に心構えが出来たのは僥倖ぎょうこうだ。それだけでもお前の働きに価値はあったぞ、参謀委員」

「尾褒めに預かり光栄ですねぇ」

そこでダイ・ガモンは一つ大きく頷いて言った。

「そろそろ行くとしようか、まだ入学手続きが続いているとは思うが万が一ということもある」

「貴方様には必要ないかと思いますがどうかお気をつけて下さいねぇ」

ジン・マドウは深々と一礼した。

ジン・マドウはダイ・ガモンの移動手段を知っている、現れた時もそうだったように顔を上げればダイ・ガモンはいないだろう。

だからジン・マドウは気持ちを切り替えるため顔を上げて深呼吸をしようとした。

しかし、それは顔を上げることすら叶わなかった。

ダイ・ガモンの太い豪腕がジン・マドウの細い胴体に手を回し、宙に浮かせたからだ。

「えっ?ダイ・ガモン様⁉︎」

両腕がなくなっている分軽いとはいえ、腕一本で人間1人を軽々と持ち上げていることには流石としか言いようがない。

しかし、何故自分が抱えられるのかジン・マドウは分からなかった。

「命は大切にしろと言ったからにはわれもその言葉に責任をもとう。両腕を失っては両腕を回収することも難儀であろう。それに本部きょうしつ戻る際に殺されては意味がない。われ本部きょうしつまで運ぶ、後は保健委員に手を借りて治療と回復に専念しろ」

ダイ・ガモンのもう一方の手にはジン・マドウの細い両腕がすでに握られていた、眼鏡を指で挟むように回収しているところが抜かりない。

確かにダイ・ガモンの主張は理に適っているが、ジン・マドウを抱えたことでさらにダイ・ガモンの服が血で変色していた。

「時間が惜しい、反論は受け付けぬぞ参謀委員」

ジン・マドウは今回は素直に諦めた。どうせ抵抗しても無理矢理連れて行かれるのだろう。

ならば従ってこれ以上ダイ・ガモンの時間を奪うことのない方が良いと判断したからだ。



そして二人の姿は跡形も無く消えた。

残されたのはジン・マドウの大量の血液だけだった。


薄暗い照明の中、部屋の最奥で『老神ろうしん』は鮮血を吹き出し刻まれ続けていた。

「…ぐっ……がふ…がぁぁ…」

断続的に聞こえるのは『老神ろうしん』のくぐもった呻き声。

しかし幾度も血を吐き幾度も首を落とされても『老神ろうしん』は死なない。

老神ろうしん』の性質『不死身ふしみ』はどんな攻撃にさらされたとしても『老神ろうしん』の生命活動を途切れさせることはない。

老神ろうしん』の体は斬撃を受け、血が飛び散り傷を負っているが、いつの間にか壁や床の血痕は跡形も無く消え傷は元通りの老人の皮膚に戻る。

降り注ぐ無数の斬撃の中で『老神ろうしん』は考える。

派手な服装の襲撃者と対峙し、戦闘が始まった瞬間から今までのことを。

(確かに『地獄眼じごくがん』は奴を正確に捉えたはずじゃ!奴はナイフを振り下ろすことすら出来ず床に今も倒れておる!ならば何故これほどの数の斬撃が…⁉︎)

床に倒れた襲撃者は『老神ろうしん』の目から見ても確実に死んでいると分かる。

(まさか!同じ異能を持つ者が他に十数人おるとでも言うのか⁉︎)

その時カツンと床に靴を降ろす音が響いた、『老神ろうしん』がその者に『地獄眼じごくがん』を向けようとした瞬間。

「むぅ…!」

身体中を襲っていた斬撃が『老神ろうしん』の顔に、正確には『地獄眼じごくがん』に集中した。

もはや『不死身ふしみ』の再生力も追いつかず顔から血を弾け飛び続けた。

視覚を奪われた『老神ろうしん』の耳に足音が近づくのが聞こえた。

そして次に『老神ろうしん』の耳に届いたのは声だった。

「マサカこれだけ顔面を斬り刻まれても死なないトハナ。『不死身ふしみ』の名は伊達ではないようダナ」

それは確かに先ほどまで『老神ろうしん』が相対していた派手な服の襲撃者の声だった。

老神ろうしん』はなおも斬撃を受け続ける中言葉を紡いだ。

「おま…えはた…しか…に…しん…だはず…じゃ」

「アアそうダナ」

老神ろうしん』の質問に対する答えは軽いものだった。

まるでそれを何度も繰り返し体験したかのような口調だった。

「…な…らば……なぜ…」

「カンタンなことダ。サッキお前に殺されたのは俺で、今お前の前に立っているのも俺で、途切れることなく斬撃を放っているのも俺ということダ」

その言葉だけで百戦錬磨の『老神ろうしん』は何が起こってるのかを理解した。

(そうか!この男の性質は分身か、それに近い自己複製能力じゃな!『対象追尾ロックオン』という便利な能力を持っていたとしても、この施設をたった一人で蹂躙するのは不可解だとは思っていたが、自己複製能力を持っているなら幾らでも説明はつく)

自分が複数人いて、かつ死角から確実に攻撃を放てるのなら。

例えば進入の時、監視カメラを壊せば、カメラには映らないだろう。

例えば戦闘の時、自分が隠れていても相手に攻撃することができるだろう。

例えば移動の時、トラップがあろうと死んでも代わりは幾らでも用意できるだろう。

そして今この時、絶え間なく斬撃を放ちながら、なおかつこうして『老神ろうしん』と会話できるだろう。

(しかし解せぬ、自己複製能力は便利だがそれ以上に希少性が高い…その理由はほとんど場合、自分が複数人おるという現実に精神が耐えられなくなるからじゃが、この男その影響を受けておらんのか…?)

「シカシ、これだけ切っても殺せないトハ…スデニ脳まで斬撃が届いているというノニナ」

老神ろうしん』の疑問をよそに男はオモチャのような小さなナイフを手の中で弄ぶように回しながら呟いた。

「トリアエズは撤退するとしようカ。目的は果たせタ、モウここに用はナイ」

老神ろうしん』の頭は削られ過ぎて顔の凹凸が分からないようなものだった。

常人ならこの事態を見るだけで失神してしまうだろう。

踵を返して去ろうとする男に『老神ろうしん』は動いた。

それは日常なら誰もが普通にする行為、顔に手を当てたのだ。

次の瞬間、『老神ろうしん』の腕は無数の斬撃によって吹き飛んだ。

(やはり『対象追尾ロックオン』は距離の制約を飛び越えるだけで攻撃を相手の指定の部位に送ることはできんようじゃな…)

もちろんそんな必要があるのは『老神ろうしん』くらいなものだろう。

そして一瞬の隙が生まれた。

老神ろうしん』の『不死身ふしみ』にとっては一瞬の隙が作れれば十分だった。

不死身ふしみ』の再生力を全て右眼に集中。

真っ赤に染まった肉の足りない顔面の右側に白の眼球が生み出された。

男が振り向く、だがもう遅い。

視認するだけで発動するのが、絶対にして最強の致死性を誇る異能『地獄眼じごくがん』。

そして『地獄を見せる右眼』が発動し、男はさっきの「自分」と同じように床に倒れ伏して動かなくなった。

老神ろうしん』を襲っていた斬撃が消えた。

その間に瞬く間に『老神ろうしん』の顔は元に戻る。

皮膚や凹凸、それらも含めて戦闘があったことなど微塵も感じさせない出来上がりだ。

しばし静寂、そして…








「ムダダ」

また声と共に今度は先ほどの倍の斬撃が『老神ろうしん』を襲った。

「ぐっ……」

「ツクヅク驚かされるナ、アノ一瞬で

しかも右眼の眼球だけ再生するとはもはや人を超えた化け物のヨウダ」

カツンという靴を床に降ろす音が響いたが、カツン…カツン…カツン。

今度は足音は一つではない。

実に十数人の足音が部屋の中に響いた。

十数人が一度に二、三人ずつ言葉を紡いだ。

「タシカにお前ハ」

「化け物ダ、ダガ」

「オレもすで二」

「ヒトの道を捨ててイル」

(部屋にいる十数人が動いている様子はないのぉ…つまりまだ、おそらくもっと施設内に奴の分身がいるのか…)

「サテ、オレモ」

「学習しようカ」

「同じ轍は踏むマイ」

そう言うと十数人の男は全く同じ動きで一斉にナイフを構えた。

(何故じゃ⁉︎これほど分身しておきながら何故精神に何の異常もなく行動できる⁉︎)

左端の一人が動き、ナイフを前に突き出した。

老神ろうしん』は反射的に腕を構える。

しかし何度目か分からないグチュという肉を潰し割く音が腕と顔の両方から聞こえた。

「ぐっ…突き技に変えたのか…」

老神ろうしん』の腕は貫通され、攻撃は右眼まで正確に届いていた。

老神ろうしん』の右眼が治る前に今度は左から二番目の男がナイフを突き出した。

そして三番目、四番目と続き、最後まで回ると一番最初に戻る。

前回の反省で反撃の隙も与えない連続の一点集中攻撃だった。

老神ろうしん』の『地獄を見せる右眼』は強力な技だが弱点はある。

それは一度に見せられる地獄の数は一つ、つまり一度に一人しか殺せないということだ。

どうにかして隙を作ったとしても一人殺すのがやっとだろう。

老神ろうしん』は腕で右眼を庇うことをやめた。

そして連続的に途切れることなく、『老神ろうしん』の攻撃手段を奪う突き技に晒される右眼。

二人の間には元から圧倒的な戦力差があったのだ、それは運や偶然で覆すことはできない。

しかし、どちらがどちらに対して強いのかはまだ決着していない。








老神ろうしん』は閉じていた左眼を開いた。

次の瞬間、全てが地獄と化した。


レイオウドウが《ナビゲーター》と話した白い部屋から次に見た光景は荒れた荒原だった。

背後には王審教導院の入り口と同じ鳥居があり、内部が歪んでいる。

(なるほど、これがゲートだったか)

《ナビゲーター》の説明を自ら蹴ってしまったのは失態だったと、レイオウドウは後悔していた。

正しい情報は得れば、得るほど役に立つ。少なくとも嘘であるかは置いて少しでも多くの説明を聞いた方が良かったと思い返していた。

(ただのアンドロイドごときに俺が感情を乱すとは最近いささか人間らしくなり過ぎているな)

済んだことは仕方ないとしか思うことができない。

レイオウドウは気持ちを入れ替えてゲートからおそらくE組に続いているであろう一本道を歩き始めた。

(まぁ《ナビゲーター》に嘘は言っていないがな。どちらにせよ、教室クラスとやらが掌握出来ないものなら全員殺し尽くすまでだ)

レイオウドウが決意を新たに固めたそのときだった。

ブンッ

という音とともに目の前の道の真ん中に大男が現れた。

(早速か…偶然、とは考えにくいな。あの門番がもう情報を届けたのか、よくこの短時間で本部きょうしつまで戻れたものだ。)

俺は目の前の大男を観察した。

戦闘が1日に何度くらいあるのかは分からないが、一つの戦闘にかまけて注意が疎かになる時間は意外に避けたいものだ。

相手を観察し、弱点を捜すのは基本中の基本だ。

身長は約2m、提督が着るような真っ黒な服を身にまとい、体型は筋骨隆々と言っていい身体つきだ。

異能と性質によって戦力が判断される現代において体格というのは昔と評価が逆転している。

昔は筋骨隆々の身体は畏怖と憧れの象徴だったようだが、今では肉弾戦特化の性質なら細身の体でも音速を超える速さで動くことができる、まぁ俺がその良い例だが。

つまりは時間と大変な労力をかけて筋力をつける理由は主に体を大きくしたいか、性質が弱く異能が強いため少しでも身体能力を向上させたいかのどちらかに絞られる。

(だがこの男さっきから見ているかぎりでは一瞬たりとも隙を見せていない。道に仁王立ちしているようで、こちらからは見えにくいようにつま先を半歩ほど曲げ、膝を落としている)

そこらにいる筋肉を見せびらかすようなチンピラとは次元が違う。

ダイ・ガモンの鋭く、そして何もかも見通すような眼光を見据えながらレイオウドウはそう考えた。

レイオウドウと大男の距離は約20m、レイオウドウの一つ目の異能ならあってないような距離ではある。

(距離があるにもかかわらず、まるで間近で相対しているような重圧を感じるな。何倍にも押し固められた闘気…この大男、おそらく只者ではない)

そしてレイオウドウはその大男に問うた。

推測は出来るが、断定は出来ない。ならば嘘をつかれる可能性を含めても問うておいた方がいいだろう。

「何者だ?」

大男が現れてからレイオウドウが質問するまでおよそ2秒、その時間で大男の真の実力まで推測したレイオウドウの観察力と予測は圧倒的と言える。

「我はーー」

大男は閉められた口を開く。

硬く、それでいて信じられないほど重厚な声が轟いた。

事態はレイオウドウの想定を上回っていた。

レイオウドウが異常な世界に浸かっているとするならば、大男は異常な存在そのものであると言っても過言ではなかった。

「B組の学級委員兼体育委員ーー」

レイオウドウは失敗を犯した。

目の前にこの男を認めた時点で、闘うか逃げるかの判断を下し、どちらにしても全力を尽くすべきだったのだ。

だが、もう遅い。

男は言った、その名を誇ることもなく、誇示することもなく、ただ自分の名前を明かしただけだという口調で名乗った。




「覇帝ダイ・ガモン」




(五帝クラス⁉︎)

二人は対峙した時から一瞬の隙も相手に与えていなかった。

それは異常な者こそが出来ることだが、レイオウドウはこの時、ダイ・ガモンと同じ五帝の一人である天帝のことを不覚にも考えてしまった。

それが隙となった。

そしてダイ・ガモンはその隙を見逃さない。

レイオウドウは知る由もなかったが、ダイ・ガモンは闘うと決めたならどんな相手に対しても敬意として全力を尽くす。

そう、五帝クラスの膨大な力の全力で尽くす。

くぞ愚かな罪人よ、貴様の命を我が部下への謝罪の証として貰っていくとしよう」

それは手は抜かないと名は聞かないという宣言だった。

そして殺すという宣告だった。

ブンッ

ダイ・ガモンが言葉放った瞬間、ダイ・ガモンの体はレイオウドウの目の前まで肉薄していた。

(なっ⁉︎)

この戦闘は一歩目から音の速度を超えた。

レイオウドウが王審教導院で最初に戦ったのは最強に最も近い男だった。


人間の眼というものは一つではない、また大抵の生物には眼が二つある。

この二つの眼を人間は利き腕のように一方を酷使したりすることがある、片眼だけ視力が落ちたりするのはその典型的な現れだが、視力だけ測ってみれば使い慣れた眼よりも普段使っていない方の眼の方が視力が良いことの方が多いのである。

老神ろうしん』は左眼を開いた。

無数の突きを右眼に受けながらしかし確実に左眼は捉えた。

眼の前にいる十数人の襲撃者の姿、ではなくこの部屋もっと言えばこの空間全体を。

そして空間が地獄と化した。

「ナニ⁉︎」

壁という壁が、床という床が全て真っ赤な炎となった。

それは地獄に来たる咎人を焼き尽くす獄炎。

たった豆粒一つの火炎を地上に持ち込んだだけで地上の全てを焼き尽くすと伝えられる炎が燃え盛り、叫喚地獄の下に位置する地獄。

地獄眼じごくがん』のもう一つの力。






『地獄が魅せる左眼』、そして『老神ろうしん』はこの地獄の存在を世界に定着させるために告げた。






焦熱地獄しょうねつじごく、顕現」




そしてその言葉とともに焦熱地獄の獄炎は特定の形を持たず、まるで獣のように十数人の襲撃者に襲いかかった。

襲撃者の派手な姿と獄炎の光が交錯し、バンドのステージのような趣きがあるが聞こえてくるのは大衆を魅了する美声の歌声ではなく。

「うぎゃああぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

男達の断末魔の悲鳴だけだった。

それは廊下からも聞こえた。

おそらく襲撃者が待機させていた自分の複製達だろう。

焦熱地獄の火炎は地下の廊下を伝わり、襲撃者の残党を連鎖的に焼き殺していく。

たったの10秒、それだけで『老神ろうしん』は広大な研究所地下の制圧を完了した。

これが『老神ろうしん』。

ただの死なないだけの老害ではなく、幻覚だけの対人しかできない老人でもなく、ただ眼を開けるだけで世界を作り変えるすべを持った『老神ろうしん』。

真っ赤な獄炎の世界で『老神ろうしん』は静かに呟く、この世界で唯一存在できる者として。

「誇ると良い、お前達はこのワシに人ではなく神として力を振るわせたのじゃからな」

そして『老神ろうしん』は左目を閉じた。

するとさっきまでの光景がまるで嘘のように全てが元に戻った。

唯一違うのは派手な襲撃者の姿が死体も含めて一人もいない事だ。

しかし、それ以外は『老神ろうしん』が『地獄が魅せる左眼』を発動する前の部屋と何ら変わってはいなかった。

(やはり発動の負担よりも顕現させた地獄を覆う結界の維持の方に精神力を削られるのぉ)

この絶対の神としてわざに何のリスクもないわけではない。

(豆粒一つの火炎を逃すだけでも地上が滅ぶ、おいそれと使うわけにはいかんか)

そう、神としての力を使うなら容易に世界を壊しかねない。

だから力そのものではなく力を制御する方により神経を使わなければならない。

しかしその事を含めても欠点補ってあまりある威力だった。

そして『老神ろうしん』は息を吐いて気持ちを切り替えた。

椅子の背もたれに体重を預ける。

老神ろうしん』の驚くべきは能力に留まらない。

戦闘開始から遂に椅子に座ったその姿勢を崩す事はなかったのだ。

あれだけの攻撃を受けながら全く回避しようとしなかった。

老神ろうしん』は自覚していないことだろう、しかしそれはこう示している、「避けるまでもない」と。

(さて、なかなか面白い相手じゃったな。セレラは退避させておるから『地獄が魅せる左眼』の影響は受けておらんはずじゃが、そろそろ呼び戻して研究所の復旧と研究員の補充など手配してもらうかのぉ)

老神ろうしん』が次の行動を決めようとしているその時だった。


ジジ…ジィ……

「ん?」

施設内に取り付けられたスピーカーからノイズ音が断続的に聞こえ始めたのだ。

(妙じゃのぉ。電気系統の配線などは奴によって全て使用不可の状態になっておったが、セレラが直したとは考えにくいしのぉ)

「…ジィ…ジ…オ……ジジ…イ、キコ…ジエテ……ルか?」

すると、ただノイズだった音が形を持ち始めた。

例えるなら古いラジオのチャンネルを合わせているような感じだろうか。

(なんとなく嫌な予感しかしないのはどうしてかのぉ)

背中に理解不能の悪寒を感じた『老神ろうしん』は肩をすくませた。

老神ろうしん』は相手の強さに震えを感じることはない、昔はあったが今はそれを感じることがない程度には歳をとっているという自覚がある。

嫌だ、とか苦手意識があるのは主にレイオウドウなど自分と同じ人外と…。








「はぁ〜い!

聞こえてますか〜⁉︎『老神ろうしん』!聞こえてますね〜⁉︎『老神ろうしん』!聞こえてたらオッケー!」

…面倒くさい奴。

状況は容易に予測できる。

このスピーカーから流れるけたたましい声がどういう奴のものかを予測するのは異常の部類に位置する『老神ろうしん』にとって簡単過ぎて欠伸が出るほどだった。

しかし『老神ろうしん』はこのとき状況が分かってしまう自分を恨んだ。

「誰じゃ、いったい」

一応問うておく。

可能性は皆無に等しいがこの時『老神ろうしん』は、あっすいません間違えました、的な答えを心底期待した。

「はい?俺!俺!俺だよ!忘れたんですかぁぁぁ⁉︎」

(なんじゃただの俺俺詐欺か)

ただの俺俺詐欺師にこの研究所の施設内の通信設備をジャックできるほどの技能の持ち主などいないのだが、『老神ろうしん』はそれを頭から意図的に締め出した。

老神ろうしん』は半ば現実逃避気味にそう結論し、施設内に通じるマイクに向かって言葉を放った。

「あ〜ワシに息子とかいないんでのぉ、他を当たってくれんか?」

やんわりとした口調で言い切る。

「あ〜そうでしたか〜それでは……っておおい!ちょっと待て!」

(見事なノリツッコミ、ウザいのぉ)

「さっきまで戦闘してただろ⁉︎俺だよ!あんたに数十体くらいコンガリ焼かれたやつ!」

(いやとっくに分かっておったが…)

「はて?誰じゃったかのぉ?近頃物忘れが激しくてのぉ、ワシも歳じゃな」

「いやいやいやおかしいだろ⁉︎何分前の話だよ⁉︎物忘れってレベルじゃねぇぞ!」

「本気でウザいのぉ」

「はぁ?誰ですか〜?」

「とにかく黙ってくれるか?耳が痛くて敵わん」

「さっきは俺の話を聞いてただろ⁉︎なんだその変わり身!早すぎだろ⁉︎人はそう簡単に変われますか〜⁉︎」

(性質が自己複製能力だと聞いてまさかとは思ったが…)

「お前、もしや本体と複製で性格を変えることで自分の精神を保っておるのか?」

「ピンポンピンポォォォォン‼︎‼︎その通り!自分の言うことを自分の思った通りに実行してくれる忠実な部下!つまり俺!最高だろ⁉︎な⁉︎」

やっぱりそういうことじゃったか…と『老神ろうしん』はぼやいた。

個人が複数いることで精神が崩れてしまうなら、複製する前のたった一人だった頃の自分をオリジナルと定義し、複製によって増えた自分を自我を薄くして性格を変えれば、姿は全く同じでも性格は違う自分ができることになる。

体感的には双子、三つ子の原理だろうか。

双子や三つ子は姿形が似ていても精神のあり方が異なるため一緒に暮らしていても精神に何ら異常をきたしたりはしない。

複製した自分達は自我が薄いために互いを認識しても精神が耐えられないということもないだろう。

ただこの襲撃者の性質には唯一にして致命的な欠点が一つある。

「複製した自我が薄いお前さんの方が人間としてできるのではないかのぉ?」

「こらぁぁぁ!クローンの方がオリジナルよりできるだとぉぉ⁉︎そんなわけがあるか‼︎‼︎クローンどもはユーモアがないだろうが!」

「なくても人生困りはせんじゃろう」

「はぁ⁉︎ユーモアのない人生、誰が送りたいですか⁉︎人生楽しく生きたいに決まってるだろおぉが‼︎‼︎」

「耳が痛いわ、クローンだせ」

「だせ、とはなんだ⁉︎オリジナルの俺をのけものにする気かぁぁ‼︎⁉︎」

「そうじゃ」

「即答するなよ!否定しろよ!」

だんだん相手をするのが苦痛になってきた『老神ろうしん』は椅子から離れて部屋の中を歩きながら通信をジャックしているだろう襲撃者の位置を探った。

電波の発生源がどこから出ているか、それを割り出せれば正確な位置が掴めるだろう。

(このあたりかのぉ?)

壁際のモニターに映った電波の発生源は研究所の入り口から約200mほどのところだった。

老神ろうしん』は左眼をもう一度開いた。

発動する『地獄が魅せる左眼』。

しかし、今度は『老神ろうしん』の周りに地獄の火炎が発生することもなければ、部屋が燃えるわけでもなかった。

老神ろうしん』はさっきとは別の言葉を呟いた。



針山はりやま地獄、顕現」



顕現した地獄は歩くだけで足を血だらけにし、その針は何よりも鋭いと言われる針山地獄。

老神ろうしん』は針山地獄から針山の内の極細の針一本を顕現させた。

それは地獄として『地獄眼じごくがん』に定義された空間で伸張し、『老神ろうしん』のいる地下から襲撃者のいるであろう電波の発生源へと伸びた。

「否定しろよ!……ゔっ!」

百戦錬磨の『老神ろうしん』は一撃で見事に襲撃者の心臓を捉えた。

「が…くそっ!……………」

断末魔の悲鳴は聞こえなかった。

その代わり…






「いっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎この野郎!人を何度も虫みたいに殺しやがってほら見ろ!また死んだだろうが!」

鬱陶うっとおしく面倒くさい抗議の声がハウリングともに聞こえてきた。

「なんじゃお前、本体を入れ替えることも出来るのか?つくづく面倒くさい奴じゃのぉ」

テンションが最高潮に近づく襲撃者に反比例して『老神ろうしん』のテンションはいよいよ最下層に突入しようとしていた。

「本体を入れ替える?本体ならさっき死んだわ!誰を殺したのかも忘れたんですかぁぁぁ⁉︎ボケたんですかぁぁぁ⁉︎『老神ろうしん』!」

(うわぁウゼェー)

「つまり本体が死ぬと自我を抑えていた複製の内の一体の自我が本体として復活するというかのぉ。記憶が共有出来るのは便利だと言うほかないようじゃな」

それはもし襲撃者を完全に殺そうとすると世界に何人いるかも分からない襲撃者の複製も全て殺し尽くさなければならないということだ。

老神ろうしん』は思った、それはもはや『不死身ふしみ』と同等かそれ以上の能力ではないのか、と。

(心底ウザいやつじゃが何故ここまでの能力が何のリスクも無しで使えるのじゃ。いや、『不死身ふしみ』と同様に何か絶対に不都合があるはずじゃ)

老神ろうしん』は記憶を辿り、思考を巡らせ、相手の弱点を探そうと熟考するが、襲撃者はそれを読んでかただの性格かそれを妨害していた。

「はぁ〜い!

分かりましたか〜⁉︎『老神ろうしん』!分かりましたね〜⁉︎『老神ろうしん』!分かってたらオッケー!」

(いい加減、うるさい!)

この時『老神ろうしん』は自分に対して散々くたばれ、くたばれと言うセレラやレイオウドウの気持ちが少しだけ分かる気がした。

ウザい相手なのに殺しても殺しても復活する、そんな生き地獄がこの世にあったことを長く生きていた『老神ろうしん』でも初めて知ったのだった。

(でもワシはウザくないからのぉ、そこだけが唯一の違いかのぉ)

セレラやレイオウドウが聞くと全力で否定しそうだが『老神ろうしん』にその自覚はないのだった。

「なぁ〜『老神ろうしん』〜」

やっと少し落ち着いたのか襲撃者は気軽な口調で『老神ろうしん』に話しかけてきた。

「なんじゃ?弱点でも教えてくれるのか?」

「だからなんで俺を殺す方向に話を持っていくんだ⁉︎」

「敵じゃからじゃろう」

「…ん?それもそうか」

「やはりお前、複製の方が優秀じゃのぉ」

「なんだとぉぉぉぉ⁉︎」

「面倒くさいのぉ」

老神ろうしん』の本心を語るならもう面倒くさいし、レイオウドウを追うなら追うでいいから早く撤退してほしいというものだった。

研究所はどうとでもできるだろう。

今は疲れた精神を休めたいのだった。

「なぁ〜『老神ろうしん』〜人が神を倒すにはどうしたらいいと思う?」

「いきなりなんじゃ?もうお前の相手をするのは正直嫌なのじゃが…」

「まぁそういうなよ〜これだけ聞いたら俺は王審教導院に行くからさ」

(まぁそれなら問いの一つくらいはいいかのぉ)

襲撃者に一刻も早く撤退して欲しかった『老神ろうしん』にとって襲撃者からのこの言葉は好都合以外の何物でもなかった。

「人が神を倒す手段じゃと?それは今のワシとお前のことかのぉ?」

「まぁそう思ってもらって構わね〜よ」

老神ろうしん』はこれが最後と思って少しは真面目に答えを出すことにした。

そうじゃな、前置きした上で『老神ろうしん』は言った。






「阿呆が。そんなものありはせんよ。この国に限らず世界中において神とは人ならざる最上の存在として君臨するのじゃ。人より上であるから神であり、神であるなら人より上なのじゃ。そんな神に対して人間は全くの無力でしかない。どんな神話にも人間が人間であるかぎり一度たりとも神を倒せたことなどできはしない。無力な人間にできるのはただ無様に地に這いつくばって神にひたすら祈ることじゃ」

しばし沈黙が流れた。

老神ろうしん』は嘘を言ったとは思っていない。

この話は事実であり、現にこの襲撃者は『老神ろうしん』を翻弄したものの結局一歩たりとも『老神ろうしん』を動かすことができなかったのだから。

しばらく通信機から襲撃者の声が聞こえた。

「まぁそうだな、俺があんたに全く敵わなかったのが良い証拠だ」

「ふん、分かったならそれで良い。ワシはもはやお前が王審教導院に行くのを止めはせん。やつに挑むなりなんなり好きにするがいい。」

やっと終わる、と『老神ろうしん』は思った。

「しかしな〜『老神ろうしん』〜」

しかし、まだ終わらなかった。

「まだ何かあるのか?」

「人に神は殺せね〜よ。それは分かった、だがな〜人が神に対してしたことがお祈りと信仰だけとは限らないんだぜ?」

その言葉ともに




ズズゥゥン!




という振動が研究所を襲った。

明らかに地震ではなかった。

「な、なんじゃ⁉︎」

そもそも『老神ろうしん』がいるこの研究所は震度7の地震だろうがびくともしないように綿密に設計されているのだ。

老神ろうしん』の口調が変わる。

「いったい何がどうなって…ぐっ…」

すると、ひときわ大きな揺れが地下を襲い、『老神ろうしん』の足元の床にヒビが入った。

そして、もう配線が繋がっているのかすら微妙なスピーカーから襲撃者の声が響いた。

「確かに神は殺せなかったさ。しかしな〜相手の殺害と自分の勝利はイコールじゃないだろう?始めに俺の複製クローンが言ったはずだぞ『老神ろうしん』、『死なないからと言って負けないなどとは思っていないだろうな?』と。」

襲撃者が語る間にさらに揺れは大きくなる。

「ま、まさか!貴様!」

老神ろうしん』は叫ぶ、神として人に。

「ある意味、複製クローンどもは俺より優秀だったかもな〜真の狙いが確実に完遂されるように時間を稼ぎ、仕掛けを寸分の狂いなく仕上げたのだからな〜。人が神に勝てる唯一の手段、それはーー」

ノイズ混じり、いよいよ聞こえなくなりそうなスピーカーから最後に襲撃者はいった、人として神に。








「封印だよ、『老神ろうしん』。」

ドォォォン‼︎‼︎

その音とともに地下研究所に襲撃者の複製が仕掛けた無数の爆弾が一斉に起爆した。

大量の爆発ともに研究所の地下が崩落する。

爆発の威力は地下ゆえに外を出ることは出来ず、爆破の勢い全てが地下に押し付けられた。地上にあった研究所の一部は地面に沈み込むようにして沈み込み、大量の粉塵を空へと吐き出した。破壊はそこで終わらない、爆発の衝撃で発生した震動が周囲の地面に影響を及ぼし、今まで研究所があった深い穴に流れ込むように大地が崩れた。

一時の間を経て破壊が収まっても湧き上がった粉塵と元々研究所があった場所に出現したぽっかりと空いた窪地が破壊の規模の大きさを物語っている。

その煙の中で動く影はあった。

その影は立ち上がって、電波を収束しジャックする機械を懐にしまい込み、腕を振り上げて拳を握り勝利の雄叫びを上げた。

「しゃぁぁぁぁ!!ふうぅぅぅいん!!かんりょぉぉぉぉぉ!!」

金と赤の入り混じった髪と黒いサングラス、紺色のローブを羽織ったダンサーやミュージシャンのように派手な格好をした男。

さっきまで『老神ろうしん』と相対していた襲撃者だった。

「いや〜驚いたぜ〜まさか『老神ろうしん』が実在してたとはな〜あれだけの複製クローンを使って全く敵わないとは恐れいったわ」

そこで襲撃者はぐるりと辺りを見回す。

「護衛官のセレラだったか?彼女は撤退したのか?まぁこないならどうでもいいがな。どうせ目的は果たせたしな」

襲撃者は武器に使っていたオモチャのようなナイフを指でクルクル回しながら一人言を呟いた。

「それにしても…」

そして地下に埋もれた研究所の跡地をちらりと見ると前へと歩き出した。

「王審教導院か…死んでないといいがな〜あいつ。なんたってお前を殺すのはこの俺なんだからな〜!」

老神ろうしん』をも封印したほどの脅威が迫っていることをレイオウドウはまだ知らない…。


このときレイオウドウは『老神ろうしん』のことなど微塵も頭になかった。

なぜならレイオウドウの標的である天帝センジャドウ、異能と性質を二つずつ所有するレイオウドウですら殺せるかどうか判断がつかないというほどの相手と同等クラスの脅威が一瞬にして襲いかかってきたからだ。

ブンッ

という音とともに覇帝ダイ・ガモンはレイオウドウに肉薄していた。

2mを超える巨体、全身に鋼鉄の筋肉を備えるその身体と濃密に纏った闘気は相手に戦闘不能になるほどの重圧を放つものだった。

ダイ・ガモンは肘を下から突き上げるように立て、その豪脚を踏み込みレイオウドウへと突き出した。

そのダイ・ガモンの闘気が凝縮された肘は到底躱せる距離ではなく、躱せる攻撃でもなかった。

並大抵の人間ならば僅かな隙をつかれたこの状況ではなすすべがなく瞬殺されるだろう。







ただ、レイオウドウは並大抵ではなかった。

異常の中で生きてきた、生き抜いてきた百戦錬磨の男だった。

隙をつかれていてもレイオウドウの思考は状況を正確に把握し分析する。

(高速移動で生じる風圧がない…つまりこの高速移動は速度によるものではない。現れたときの音とこの高速接近…異能によるものか性質によるものかは判断できないが、おそらく俺が先ほどゲートに送られたのと同じ空間移動か…。そう仮定するならばこの肘による攻撃も一見早く見えるが、実際には人間が出せる程度の速度しかない…さらに攻撃に用いたのは肘、いくらここまで接近されているとはいえ物理的射程は短い)

ダイ・ガモンのような巨体がもし、音速を超える移動を行ったならば当然のことながらその移動の余波によって凄まじい風が発生するはずなのだ。

うちわをゆっくりと仰いだだけでも風は起こるのだから。

そしてレイオウドウはさらに思考を加速させる。

(空間移動は異能の可能性が高いな、性質ならばわざわざ物理攻撃を仕掛けてくる理由が思い当たらない。性質ならば射程拡張型ではないな、おそらく常時発動型か接触発動型とだろう、身体強化型の可能性もあるにはあるが…それならもっと肘は早くこちらに届いているはずだ。どちらにせよ肘に触れるのは得策とは言えないか…いっさい触れることなくやり過ごすしかない。)

肘は寸分違わずレイオウドウの顎を狙っていた、この顎を打撃されれば脳が揺らされ判断力が鈍らされる。

ダイ・ガモンの肘が目の前に迫ったとき、レイオウドウは一つ目の性質を発動させた。







性質『絶体パーフェクト』、この性質の定義は『意志の力を身体能力として具現化する』というものだった。

簡単に言えば、出来ると強く思えばその強靭な意志がそのまま肉体に反映されるというわけだ。

高く飛びたいと思えば、10mでも飛べるようになる。

早く走りたいと思えば、100mを5秒で駆けることも可能。

当然ながらこんなに便利な能力にリスクが存在しないわけではない。

意志の力が肉体の力になるというのは逆に言えば、心の片隅にでも『どうせダメだろう』という思考が存在すれば、『絶体パーフェクト』の能力は激減してしまうのだ。

必要なのは自分を何よりも信じる力と揺るぎない鋼の自信、その強さによってできることは段階的に変わっていく。

レイオウドウがどの段階にいるのか定かではないが、ダイ・ガモンの肘が間近に迫ったレイオウドウは





音速を超える速度で動いた。





(俺は音速で動くことができる)

その意志に従い、『絶体パーフェクト』は発動し、レイオウドウの肉体が強化される。

レイオウドウは地面を右足で蹴り、ダイ・ガモンから距離を取るためバックステップで後ろに下がった。

ダイ・ガモンが突き出した肘は先ほどまでレイオウドウの頭があったところを正確につき、そしてピタリと静止した。

(肘が通り抜けるのではなく、俺の頭があったところをついた形で停止している…。下手な格闘術ではないな、何かの武術に精通しているのか?)

絶体パーフェクト』を発動したにも関わらず、レイオウドウの体はダイ・ガモンからさほど離れてはいなかった。

なぜならレイオウドウは渾身の力で地面を蹴り飛ばし、後方に下がったからだ。

どういうことかというと地面がレイオウドウの蹴りに耐え切れず、えぐられた。

ボゴッ!

という衝撃音とともに地盤が無数の石と砂になってダイ・ガモンへと襲いかかった。

たかが石と砂、ダイ・ガモンの巨体と鋼の筋肉からすれば本来は何の障害にもならないほどの些細な出来事だったが、たった一つ違ったのは速度だった。

その石と砂は全てが音速を超える蹴りによって飛ばされたものだったということ。

当たれば並みの防弾チョッキなどは貫通しうる威力をもった石と砂がマシンガンを超える数を伴ってダイ・ガモンへと殺到した。

ダイ・ガモンの使う空間移動は一見便利な能力だが弱点がないわけではない。

(空間移動の主な弱点は二つ、咄嗟の発動ができない点と連続では空間移動ができない点だ。重要なのは後者、前者は発動者の精神に依存する弱点のためダイ・ガモンのような異常には効果が薄いが…後者は空間移動能力そのものの欠点だ。五帝とはいえ能力の弱点を消すことはできないはず、空間移動能力者は移動と移動の間に生じる隙は平均1秒だがダイ・ガモンの場合はその半分だとしてもたいして驚かんが…)

だからレイオウドウはカウンターで攻撃を放ったのだった。

ダイ・ガモンが空間移動能力を使うかぎりこちらから攻撃を当てるのは困難だろう。しかし向こうが攻撃してきてのカウンターならば回避に空間移動は使えない。

さらに性質が身体強化型でなければ身体能力による回避も間に合わない。

(さぁ…どうなる?)

大量の石と砂はその速度に相応しい破壊力を伴い、ダイ・ガモンへ殺到した。









「無双!」

ダイ・ガモンがそう叫んだ瞬間、石と砂がダイ・ガモンに接触し、全てが砕かれて破片が重力に従い垂直に落ちた。当然のことながらダイ・ガモンの肌には傷どころか土埃さえ付着していない。

(なに⁉︎)

レイオウドウもこれでダイ・ガモンを倒せるとは全く考えていなかった。

しかし、何の防御もとることなく全ての石と砂が防がれるとも思わなかったのだ。

ダイ・ガモンの性質が身体強化型ではないと想定していたのも要因の一つだった。

しかし、事態は動いている、レイオウドウの動揺は一瞬だった。

そしてレイオウドウは最初のバックステップで後方に下がった状態のまま思考する。

(砕かれた破片が垂直に落ちている、接触発動型か?まるで石と砂が一瞬にして威力を失ったように見えたが…。いや実際その通りだ、やつに接触した破片は音速に近い慣性さえ失われて真下に落ちているのだから)

レイオウドウの感想はここまでだった。

感想の次は対応策だ、一瞬でも思考と行動を止めれば死ぬ。それがこの異常な世界での数少ない原則であることをレイオウドウは知っていた。

ダイ・ガモンは突き出した肘を戻そうとするだけでそれ以上の行動を起こそうとはしていなかった。

おそらく空間移動能力の回復を待ち、回復し次第一気に距離を詰める考えだろう。

レイオウドウはダイ・ガモンのその行動に安心するより脅威を感じていた。

(この一瞬で俺が音速以上の速度で動いていることに気づき、無駄な動きをせず、音速で動く俺を確実に捉えられるように空間移動で接近するという判断に至ったか…やはりこの男はただ者ではなく、俺と同じ異常な者ということか)

レイオウドウは小さなバックステップを終え、蹴った右足とは逆の左足で地面を捉えようとしていた。

バックステップというわずかな時間の間にここまでの思考を行ったレイオウドウだが、ダイ・ガモンへの攻撃を待つ気はなかった。

(ここで決める)

ダイ・ガモンは現在、空間移動の反動から回復しようとしているところだ。

(先ほど回避と同時に行ったカウンター攻撃でダイ・ガモンは俺の攻撃が一旦終わったと思っていることだろう。俺と同じレベルの思考速度ならば、俺と同じだけの思考の間があるということだ。だからそこを突く。カウンター攻撃でダイ・ガモンの性質が接触発動型なのか常時発動型なのかに絞ったが、絞るだけではなく確定させてもらおうか)

小さなバックステップでダイ・ガモンとレイオウドウの間に出来た3mほどの距離、これは二人にとって大きいとも小さいとも言えないものだった。

片や攻撃手段が肉体であるが空間移動を持つダイ・ガモン、片や音速を超える速度で動けるレイオウドウなのだから。

しかし、この時有利なのはレイオウドウだった。

なぜならレイオウドウの一つ目の異能はダイ・ガモンのような移動系ではなく、遠距離攻撃系だったからだ。







異能『風化圧縮ふうかあっしゅく』、この異能は簡単に言えば風を操って攻撃するものだが、そのやり方はかなり回りくどい方法だった。

ただ風を操って相手にぶつけるのではなく、一旦空間を立方体のように区切り、内部の空気を圧縮、そして立方体の一面を外してその方向に圧縮した空気を送り込むというものだった。

弱点は内部に不純物が入れば、その威力が落ちてしまうことだ。

圧縮の際に不純物が邪魔をし、最悪の場合異能そのものが不発に終わってしまう。

しかし、手間をかけている分その威力は同系統の異能を持つ者達の中ではトップクラスといっていいものだった。

例えば、10Km先の相手の眉間に立方体を定義すれば10Kmの狙撃を行うことができ、なおかつ対象の体内に証拠が残ることもない。

レイオウドウが暗殺者、殺し屋として仕事を受ける時には大体の場合においてこの異能を頻繁に使っていた。

レイオウドウはこの異能をダイ・ガモンの背後に使った。

立方体は一辺約1m、それを同時に10個も定義した。

もちろん余波がレイオウドウに及ばないように調節している。

(接触発動型なら攻撃が接触にした瞬間だけ能力が発動する、ならば常に接触している風を使って攻撃すれば発動しないはずだ。常時発動型なら微妙だが能力の定義によってはこの『風化圧縮ふうかあっしゅく』で貫けるだろう)

レイオウドウは攻撃を放った。

10個同時ではなく、1、4、5と時間差をつけて人体を吹き飛ばすほどの風をダイ・ガモンへ放ったのだ。

ダイ・ガモンは何の身動きもしなかった。

レイオウドウは目に力を入れた風は本来見えないものだ。

しかしレイオウドウには性質『絶体パーフェクト』がある。

(俺は風の流れを見ることができる)

その意志の強さがレイオウドウの肉体の性能を圧倒的に上げる。

風化圧縮ふうかあっしゅく』の最初の一撃がダイ・ガモンに接触した。

そして砕かれた。

(なに?)

第二撃、第三撃が同じようにダイ・ガモンに接触し、同じように砕かれる。

いや、正確には吹き散らされたというべきだろうか。

風の流動を視覚で捉えられるレイオウドウはそう思った。

風化圧縮ふうかあっしゅく』によって作られた風の弾丸はダイ・ガモンに当たった瞬間、まるで威力を失ったように吹き散らされたのだ。

動揺は一瞬、予期してたからこそレイオウドウはそこで思考を止めることはなかった。

(ダイ・ガモンの性質は常時発動型か…一番厄介なものだな。いや…五帝クラスならこのくらいは当然と言ったところか、問題は全ての攻撃に対してあの性質が発動するのかという点だな。推測しようには情報がまだ少ない、砂利による制圧攻撃、『風化圧縮ふうかあっしゅく』による他方向一点集中攻撃、二つの共通点はどちらも自然物による攻撃であることくらいだな。どちらにせよ、もっと攻撃の数を増やすべきではあるか…だが……)

ダイ・ガモンの空間移動から0.5秒経過。

ブンッ

ダイ・ガモンの巨体が消え、レイオウドウの真正面に出現した。

さっきほどの全く同様の動作で肘を突き上げてきた。

その光景にレイオウドウにとっては少し期待外れだった。

(次に空間移動を使うなら左右か、背後だと思っていたが正面とはな。…まぁ左右か背後を狙うつもりなら最初の空間移動で行っていなければ不自然ではあるが。)

しかしこれはレイオウドウにとっては好都合だった。

ダイ・ガモンが貴重な0.5秒を消費してるのに対してレイオウドウは先ほどと同じ対応をすれば良いだけなのだから。

そしてダイ・ガモンの攻撃を躱している。

つまりもう一度同じ動きをすれば、ダイ・ガモンの攻撃を確実かわせるというのは分かっているのだ。

(すでに両足とも地面についている。さっきの同じように砂と石による迎撃をしてもいいが、それこそデジャヴだ。何もせずに防がれるだろう。ならば今度は大きく…)

念には念を。

先ほどは迎撃のために使った力を今度は全て回避に回す。

それによってレイオウドウの身はダイ・ガモンから大きく距離をとれるはずだ。

空間移動を持つダイ・ガモンにしてみれば、あってないようなものだろうがダイ・ガモンの移動に0.5秒というタイムラグがあるのに対してレイオウドウは常に音速で動くことができる。

レイオウドウの足はバックステップのために地面をしっかりと踏みしめた。

そしていきなり崩された。

(なにっ⁉︎)

まるで地面にバックステップのための反動を奪われてしまったような奇妙な感覚をレイオウドウは感じた。

(…地面が揺れた⁉︎これは揺れ方…地震ではない⁉︎…)

地面を踏みしめた瞬間、地震に似た揺れがレイオウドウの足を捉えていたのだ。

それがレイオウドウからバックステップのための反発力を奪い、相殺してしまった。

その原因はダイ・ガモンにあった。

空間移動を終えたダイ・ガモンが足が地面に衝撃波を与えたのだ。

(震脚だと⁉︎しかしここまで振動が届くほどの強さなら奴の足の方に多大なダメージがあるはずだ⁉︎)

震脚という技はレイオウドウにも憶えがあった。

建物内などで大きな音を発生させたりするときに使ったものだがここは大地、震脚で生じる衝撃波などほとんどが地面に吸収されてしまうだろう。

しかしダイ・ガモンはレイオウドウを崩すほどの震脚を行ったのだ。

レイオウドウが驚いたのは震脚の威力よりもそのタイミングだった。

レイオウドウが跳ぶために反発力を得るその瞬間を狙うなどどれほどの鍛錬があればできるだろう。

ましてやレイオウドウは『絶体パーフェクト』により音速以上の速度で動いているのだ、それを確実に捉えて震脚を行うなど神業にも等しい。

さらにダイ・ガモンも震脚を行ったままさっきと同じように肘を突き出してきた。

(これほどの震脚を行ったというのに反動すらないのか⁉︎むしろ肘の速度が上がっている⁉︎)

「くっ…」

レイオウドウはとにかく回避を行おうとしたダイ・ガモンの性質は得体の知れないものだ。

触れられれば何をされるかわかったものではない。

しかし震脚によって足は崩されているのでバックステップは行えない、この時点でレイオウドウのとれる動きは左右への回避くらいのものだった。

だが、それはダイ・ガモンに決定的隙を与えてしまうことにもなる。

左右への回避は身体を捻らなければならないからだ。

絶体パーフェクト』では間に合わない…そう判断したレイオウドウは異能『風化圧縮ふうかあっしゅく』を発動した。

対象は自分、多少の負傷を覚悟の上で風による回避を選択したのだ。

これなら体勢を崩すことなく真後ろへ移動することができる。

無論多少のダメージを負うため『絶体パーフェクト』を防御専念で発動しておかなければならないが。

(俺の身体は鋼鉄よりも硬い…!)

そしてレイオウドウは『風化圧縮ふうかあっしゅく』を発動させ、真後ろへ下がろうとした。

しかしそれは叶わなかった。

ダイ・ガモンがまるで氷の上を滑るように高速でレイオウドウに接近してきたのだ。

(なん…だと⁉︎)

ダイ・ガモンは音速以上で動いているわけではない、今の高速接近もレイオウドウにとってはとるに足らないことだった、その移動が震脚の後でなければ。

凄まじい震脚を行ったならば、当然地面だけではなく震脚を行った自身の足も揺れる。

これが震脚を行った際の反動というものである。

せっかく震脚による振動で相手の足を崩しても自分まで硬直しては元も子もない。

しかしその反動を糧として技の威力を上げる武術というものは遥か昔に存在した。

足に届いた反動を上半身まで増幅しながら伝播させ、その反動を利用し腕の攻撃の威力を上昇させるのだ。

先ほどダイ・ガモンの放った肘が先ほどよりも速度が上がっていたのはこの震脚の反動を肘まで増幅して届けたからだった。

しかし、いくら体勢を崩せたからと言ってもレイオウドウは音速以上の速度で動いている。

まともな格闘技が当たることはないだろう。

ここにダイ・ガモンのカラクリはあった。

一つ目は先ほどと全く同じ状況で全く同じ攻撃を繰り出したこと、これによりレイオウドウは今回も同じ方法でかわせると無意識の内に思い込んでしまった。

二つ目はダイ・ガモンには震脚した後でもまるで氷の上を滑るように高速で距離つめることのできる『活歩 (かつほ)』という特殊な歩法を習得していたことだった。

この二つの要因が重なり、レイオウドウの思考を鈍らせた。

だが、レイオウドウは止まらなかった。

諦めたその時点で命は消える。

(防御専念…!)

レイオウドウが『風化圧縮ふうかあっしゅく』を自分に使用する時点で発動させていた身体を鋼鉄並みの硬度にする『絶体パーフェクト』は既にレイオウドウの肉体を文字通り鋼の肉体へと昇華させていた。

さらにレイオウドウは左右の腕を胸元で組み、今できる最大限の防御姿勢をとった。

(もしダイ・ガモンの性質が相手の攻撃を全て無効化するようなものでも、相手の身体の硬度まで対応できないだろう…!)

鉄や硬いものを殴れば、逆に自分の拳を痛める。

レイオウドウはこれを自分の身体を使い実行した。

そしてダイ・ガモンが迫る。

『活歩 (かつほ)』によってさらに速度を増した肘が正面からレイオウドウのクロスした腕の真ん中を突こうとする。

ダイ・ガモンの表情は闘いが始まってから微動だにしていなかった。

まるで感情など闘いに不要、レイオウドウの心情を体現しているかのような態度だった。

その引き締まった顔の口の端がが注意してみなければ見えないほんのわずかだが上がった。

ダイ・ガモンは腕を伸ばした。

(…はっ?)

レイオウドウはこの時、闘いが始まってから初めて思考を止めた。

意味が全く分からなかったからだ。

ダイ・ガモンの伸ばした腕がレイオウドウの腕を潜り抜け、腹に触れようとする。

だがこれではダメージは全く通らない。

手は拳を握っているが肘を伸ばしきってしまっているのでそれ以上の動作が出来ない、これではレイオウドウにダメージを与えることが出来ないのだ。

何故ダイ・ガモンがこの絶好の機会をみすみす逃そうとするのかレイオウドウには全く分からなかった。

考えられるとすれば、自らがダメージを負うのを避けたということだろう。

(俺の硬化を見破った?いや、見た目に変化はなかったはず…では何故こいつは…)

その時レイオウドウは見た、間近で見たダイ・ガモンの口角が少しばかり上がっていることを。

それは侮蔑でも嘲笑でもなかった。

それが示す意味は賞賛、闘う者への敬意、紛れも無いダイ・ガモンの礼義だった。

ダイ・ガモンの伸ばした腕の拳がレイオウドウの腹部に触れる。

その瞬間、レイオウドウの背筋に電流のように寒気が走った。

まるでダイ・ガモンの拳が見た目以上の質量を伴っているようだ。

レイオウドウの肉体と精神にこれまで感じたことのないような危険信号が貫いた。

(何だ…?ただ触れられただけだ。それなのに何故俺は危機感を感じている…?奴の笑みか?だとすれば…まさか、まさか…まさか!ここまでのことがダイ・ガモンのシナリオだったとでも言うのか⁉︎)

スゥゥ、というかすかな音をレイオウドウの鋭い聴覚が捉えた。

(呼吸音…?…なにか来る!回避しなければっ!)

レイオウドウは自分の直感に従った、下がることを諦めダイ・ガモンに背中を向けてでも左右に回避し、いや一刻も早くこの剛拳から逃れたかった。

レイオウドウはクロスした手を下に下ろし、何とかダイ・ガモンの腕をどかそうと…。











発勁はっけい!!」

ダイ・ガモンから大気を揺るがすほどの咆哮とともにその技は放たれた。

地面がダイ・ガモンを中心として放射線状にひび割れる。

ドンッ!

レイオウドウを体内でダイナマイトが爆裂したような衝撃が走った。

視界が白い光に塗りつぶされ、今まで思考を刻み続けていた脳は人生最大の激痛に支配され、何も考えることが出来なくなった。

「グ…ハ………」

気づけばレイオウドウは大量の血を吐きながら吹き飛ばされていた。

口から絶え間なく溢れる血が宙に赤い線を描く。

レイオウドウは足を崩されていたとはいえ、防御姿勢をとっていた、にも関わらず踏ん張ることすら出来なかったのだ。

いやそれを言うならそもそもレイオウドウの身体は性質『絶体パーフェクト』によって鋼鉄以上の硬度に強化されていたのだ。

正面からトラックが突っ込んでこようが傷ひとつつかないほどに強化された防御を何故ダイ・ガモンは破れたのか。

何も分からない、何も理解できない、何も考えられない、レイオウドウにそんな余裕は微塵もなかった。

思考が断片的にスパークする。

(痛イ、腹…なか、痛…血がデテ、硬度…ダイ・ガ、モン…が、何故?)

吹き飛ばされながら、身体を蝕む凄まじい痛みに耐えながら、レイオウドウはなんとか思考を明確にしようとする。

そう、思考を止めては死ぬのだ。直前にそれを体験した。もう止められない。

(カンガえろ…かんがえろ、考えろ!奴に今何をした⁉︎奴を見てこの状況をどうにか打開し……?)

時間が早く過ぎたり、また遅くすぎることは誰でもあるだろう。

もうこんな時間か、まだこんな時間か。

そういう感情を体験することは日常で無数にあるだろう。

同じ10分でも人よっては長いと感じたり短いと感じる人はいるはずだ。

それは集中力の差だと言われている。

レイオウドウの思考は今まで加速と呼ぶべき状態にあった。

1秒で複雑な思考を組み立て行動していた。

しかし激痛の中で思考が止まった時、予想よりも僅かに早く時間は過ぎていた。

吹き飛ばされ、地球の重力に従い落下する時にレイオウドウが見たのは無人の荒野だった。それが意味するのは









0.5秒、経過…

ブンッ

ダイ・ガモンがレイオウドウの背後辺りに出現した。

今度は肘がレイオウドウの右脇腹の背部付近を捉える、何の衝撃もなく凄まじい重圧を伴って。

スゥゥという呼吸音。

今度は恐怖を感じる暇もなかった。

(しまっ……‼︎‼︎)

発勁はっけい!!」

ドンッ‼︎‼︎衝撃波がレイオウドウの体内で発生した。

重ねがけされた衝撃波はレイオウドウの体内で反響し内臓を無茶苦茶にかき混ぜる。

ビキビキビキと先ほどよりも大きく大地がひび割れる。

今度はレイオウドウの身体が吹き飛ばされることはなかった。

それどころかピタリと空中で停止した。

それはつまりレイオウドウの運動エネルギーが全て攻撃に転化されたことを意味していた。

口から泡まじりに吐き出される鮮血がダイ・ガモンの軍服に赤い斑点を作った。

時が止まったように二人の身体が止まり、そしてレイオウドウが地面へと落下した。

膝をついたレイオウドウが口から地面へ血をぶちまける。

「…ガ……ハ…」

何本の骨が砕けたのか、どれだけの血管が切れたのか、どれくらいの血が流れたのか。

もはや『絶体パーフェクト』を形にすることも出来なかった。

意識が痛みに支配され、傷を治癒するという簡単な思考も肉体を改変するほどの強さを生み出すことができない。

それは当然だった、レイオウドウの身体はすでに意識を保っているのが不思議なくらいの傷を負っていたのだから。

常人ならとっくに生きることを放棄しているような状況だ。

ダイ・ガモンが放った一撃、いや二撃はレイオウドウが放つスピードをつけた鋭い攻撃とは対極に位置するものだった。

遅く、それでいて鈍く、そして信じられないほどに重い一撃、人間が放てるとかどうかすら疑わしいほどの威力を持つ打撃だった。

その打撃は鈍いがために今もなおレイオウドウにダメージを与え続けていたのだ。

内臓が揺らされ、三半規管が混乱し、骨が軋むものだった。

しかしレイオウドウは常人であることを、無力な人間と成り果てることを拒否してきた。

奴らより長く生きる、そしてあの男を血を分けたあの男を必ず殺すために。

(………まだ…だッ!)

レイオウドウは気力で痛みに流されそうな意識を無理矢理現実に引き戻した。

性質『絶体パーフェクト』は意志の強さに応じて身体能力を上げる。

では人間にとって意志の力が最大になる瞬間とはどこか?

それは死に直面したときだ、圧倒的な力の前に屈してしまえば何も起こらない。

だがその状況において諦めず、ただ生きたいと望むものの意志は何よりも強固になり、肉体を限界を超えた動作ができるまでに覚醒させる。

(俺は…全ての傷を一瞬で治癒できる‼︎)

ダイ・ガモンの打撃が身体を破壊しようと暴れ回っていてもそれ以上の治癒力があれば破壊されようと即座に修復できる。

レイオウドウの傷が一瞬で治癒された。

そして地面を吹き飛ばし、ダイ・ガモンの前に2mの距離を開けてレイオウドウは再び立ち上がる。

顔と服に大量の血を流しながら、その目は紅く燃えていた。

(今ならば俺は何でもできる‼︎こいつを…この男を…絶対殺す力を‼︎‼︎)

自分の身体にかつてないほどの力が湧き上がってくるのをレイオウドウは感じた。

思考は停滞から超速に変わり風の流れすら遅く感じるようなレベルだ。

ダイ・ガモンの空間移動によるタイムラグである0.5秒はすでに過ぎている。

これからどこに現れてもおかしくない。

しかしレイオウドウの知覚にもはや死角はなかった。

(どこに移動しようと今の俺は確実に対処できる‼︎)

ブンッ

そしてダイ・ガモンの身体が消える。

しかしレイオウドウには分かった。

ダイ・ガモンが現れるよりも早くダイ・ガモンが現れる位置を掌握した。

レイオウドウの左斜め後ろ…。

(そこだぁぁ‼︎‼︎‼︎)

レイオウドウは力の限り右の拳を握り締めふるった。

拳の速度は音速の2倍に届きそうな猛烈な勢いだった。

周りの速度に空中の塵との摩擦で電気に似たプラズマが生じるほどだった。

それでもレイオウドウの意志が続くことで拳が風圧や熱でダメージを負うことはない。

ブンッ

ダイ・ガモンの空間移動が終了する。

今までは一瞬に思えたダイ・ガモンの空間移動も今のレイオウドウにとっては十分に目で捉えられる速度だった。

(遅い‼︎‼︎)

さらに異能『風化圧縮ふうかあっしゅく』を瞬間的に自分の右肘に発動させ、威力でさらに加速を上げる。

絶体パーフェクト』が最高潮に達しているレイオウドウですら拳が砕けそうになるほどの空気抵抗が前からの重圧となって襲いかかる。

(振り切れ‼︎‼︎)

意志が具現化され、空気抵抗の壁を破って拳がダイ・ガモンに飛ぶ。

ダイ・ガモンはこの戦闘が始まってから初めて驚愕の表情を浮かべた。

さっきの笑みと違い、明らかに本人の意図は別に反射的に出てしまったものだ。

レイオウドウには意識の超加速の中でそれがはっきりと感じられた。

そしてレイオウドウの音速を遥かに超えた拳がダイ・ガモンの分厚い胸板へと吸い込まれるようにして届いた。

直撃の瞬間、凄まじい衝撃波が辺りに撒き散らされ空気が弾け飛んだ。

辺り一帯に余波が伝わる。

そして
















無双むそう








レイオウドウの渾身の一撃はダイ・ガモンの胸で受け止められた。

ダイ・ガモンは無傷どころか1mmすら動かなかった。

レイオウドウの渾身の拳は確かに届いた、ダイ・ガモンには全くダメージはなかった、かすり傷一つ与えることができなかった。

ただそれだけのことだった。

「は?」

その間抜けな一言が自分の口から出たことをレイオウドウは自覚していなかった。

レイオウドウは間違いなく人生で最大と言ってもいいほどの一撃を叩き込んだはずだった。

安易に倒せるとは考えていなかった。

しかし全く動じないというも想定外だったのだ。

それはあまりにも簡単であまりにも残酷な現実だった、つまりレイオウドウが死力を尽くそうとダイ・ガモンには一切のダメージを与えることはできないのだ。

突破口どころか対応策くら見えない…。

ダイ・ガモンにとってレイオウドウなど相手にならない、取るに足らない存在だという事実がレイオウドウの胸に突き刺さり、行動を完全に止めてしまった。

ふとレイオウドウは胸に違和感を感じ、自分の胸部を見た。

するとダイ・ガモンの腕があった。

無造作に伸ばされたその腕はレイオウドウの胸に拳を当てていた。

「ぁ…」

喉から掠れた声が漏れた。

ダイ・ガモンに笑みはなかった、先ほどの驚愕の表情も消え去り無表情な鉄面皮が顔を覆っている。

そしてダイ・ガモンは静かに呟いた。

目の前の全力を尽くした相手を讃えるように、無表情だがどこまでも真剣な面持ちで。

「…見事だ」

ドンッ‼︎‼︎

生じる衝撃波の後に乾いた荒野に一陣の風が吹いた。

今度こそ崩れ落ちるレイオウドウ、勝ち誇ることもなく佇むダイ・ガモン。















古来のある国では正しき道徳を用いて国を治める統治を『王道おうどう』と呼んだという。

その仁徳に基づく政治を行う者を民主は『聖君』だと言った。

しかし、国を統治する方法は『王道おうどう』だけではなかった。

それはいわば『王道おうどう』の対極、『王道おうどう』が正しき道徳と仁徳に基づく政治を行うならば、その統治は圧倒的な武力と力に基づく策略によって行われていた。

それは、『覇道』。

それを行う者を民主は『聖君』と対比し、『暴君』と呼んだ。

圧倒的な力を持って力を制す。

力を持たぬ弱者は圧倒的な力を持つ強者の前に立ちはだかることは許されない。



覇道をく男、覇帝ダイ・ガモン





































倒れ伏したレイオウドウの意識が《何か》によって覚醒された。

その手が虚空を掴む。

虚空から《何か》の意志が漏れてきた。

『喰ゥッ‼︎斬ルゥゥ‼︎‼︎喰ラウ斬ル‼︎‼︎喰喰喰喰喰ウウウウウウウゥゥゥゥゥッッ‼︎‼︎‼︎』

「…分かった」

(第二異能…発動‼︎)



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