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その末に

作者: 明莉子

 裕福ではないけれど、貧乏でもない。いわゆる中流層、庶民の子として私は生まれ、そして育った。母は口やかましくも優しく、父はよく働き休日には一緒に海や山へ行った。弟とは時々けんかをしつつも仲良く野球やテレビゲームをした。私が中学校へ入学した頃に柴犬を新たな家族として迎え入れジローと命名した。


 そんな私も少年といわれる年齢ではいつまでもおれず、大学進学を決意し、それなりの勉強をして都会の大学へ見事入学することができたのである。地元の大学でも何の不都合もなかったのではあるが、これまでずっと田舎育ちの身としては、やはり一度は都会に出てみたいという憧れもあったし、何よりも一人暮らしがしてみたいという強い願望もあった。両親は金銭的負担もあるだろうに、それでも何の不満も言わずに私を送り出してくれた。


 さて、そんな大学生活も一年と少しが過ぎ、私は早くも第二学年へと進級していた。アルバイトをしたり、新しくできた友人と遊びに出掛けたりと忙しいながらも充実した日々を送った。成績も主席とまではいかなくともトップ層に入る程度には良いものが取れ、「集い」と呼ばれる成績優等なものだけが選ばれる会に出席させてもらい大学関係者たちにお褒めの言葉を頂いた。


 大学二年生、GW明け。冷たい風が体と衣服との間を通り抜ける。ケータイのコール音が鳴り響く。名前はディスプレイに表示されていない。


 「はい」


 「もしもし、こんにちは。Aと申します。××××さんでよろしかったでしょうか」


 「はい」私は答えました。


 「ああ、良かった。少し異常が見つかってね。持ってあと一年くらいだと皆が考えてるんだ。それでも三年なんだ。まったくスバラシイよ、君は」


 「そうそう、回収はその頃だよ。じゃあ学生生活を楽しんでね。期待しているよ」


 「……」


 電話は終わっていた。私の体は震えていた。Aと言っていた。異常と言っていた。あと一年と言っていた。三年と言っていた。スバラシイと言っていた。


 分からない。何も。

 人違いではないかと疑った。

 しかし、そうではないと分かる。その理由は分からない。


 ケーサツへ連絡しようかと考えた。カゾクへ、ユージンへ? しかしそれはいけないことだと分かる。


 異常、私の!


 解った、解った、解った。


 私は選ばれたのだ!


 いやいや、今この一本の電話によって選ばれたのではない。私は最初から選ばれていたのだ。既定路線が敷かれていたのだ。


 私の体はまだ震えていた。どうやら今日はいつの間にか終わって明日になっていた。明日が始まってすでに八時間経過していた。それはもう今日なのである。


 今日から今日はずっと続いていく。

 そんな事は分かり切っている。

 だから私のすることは決まっている。

 季節は夏に移行中。ぬるい風がまとわりついた。


 覚悟をするのはもう遅い。


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