第六話 : 私の運勢力は53万✕0です
少しずつ読んで下さる方が増えているみたいで、こんにゃく、感激です!
では始まります。
おれは、自分のステータスをもう一度じっくり見た。
もしかしたらさっき見えた表示はただの蜃気楼、勘違いかもしれない。砂漠のオアシスかもしれない。そうに違いない。
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名前:アケミヤ ヒカリ
LV:1
HP:15
SP: 5
MP: 3
種族:ヒト(異世界)
性別:男
属性:
職業:
装備適正:
魔法適正:『火』E 『水』E 『風』E 『土』E
称号:『異世界人』『元囚人』『不運』
能力値
STR:7
VIT:7
INT:7
RES:7
SEN:7
AGI:7
LUC:0(固定)
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…………。
やっぱり見間違いではなかった。
これで目の前(『ステータス・アイ』だから目の中、と言った方が正しいだろうか?)のあり得ない現実が現実になってしまった。
超現実が現実になる瞬間、つまりはSFの幕開けである。
……いや、そうじゃない。
SFと言えるものなら言いたかったが、やはりこれは事実。
名前はいい。カタカナになって漢字はどこいったんだ、などといちゃもん付けるほどおれは狭量じゃない。当たり前だ。
種族も日本人だから『ヒト(異世界人)』で間違ってはいないだろうし、性別ももちろん男だ。
だが、そこから下が既におかしい。
というか下から全部がおかしい気がする。
『属性』とは、語歌堂さんも言っていた『風』等のタイプの事だろう。おっさんの説明では、誰でも一つの属性に該当する、みたいな話ぶりだった気がする。
『火』だったらいかにも勇猛果敢、ってイメージでカッコ良さげだし、『水』だったら冷静沈着でクールな印象だ。『風』なら、戦闘では行動が読めないが美味しいところを攫っていく、トリックスターな感じだろう。『土』は……、うん。
だから、おれはどの属性になっても別に良かったのだ。決して「土属性はイヤだ、土属性はイヤだ……」と、喋る帽子を被って祈っていた訳ではない。絶対そんなコトは無い。
しか、見てくださいこれ!
ほら、真っ白!
洗剤のCMも裸足で逃げ出すレベルの驚きの白さ!
ついでに『職業』も白い!
火でも水でも風でも土でもない。
ノーマルか。おれはノーマルポケ○ンだったのか。
……つまり、おれには職業も属性も無いということである。更に言えば、その下の『装備適正』までもが空欄になっていた。
なんでおれのステータス、揃ってボイコットしてるんだろう。
『魔法適正』には文字があるにはあった。そこは安心した。
だが、待って欲しい。
『属性』の後に付いてる字がその適正のランクだってリベリオールさんも言っていたハズだ。
下がEから上はSまで、ランクが定められているんだと。
おれの魔法適正に付いてるアルファベットはEであった。
Eは、最低値である。
Eは、ランクの中で最も最弱である。
Eは、ピンキリの中でもピンに位置す
もういいよ!!
繰り返す必要ないだろおれ!!
その下を見る。
『称号』というステータスが表示されている。
称号っていえばやはり、『~~を行ったから、周りの人からそう呼ばれる』というアレだろう。『ケンゴウ』とか、『ハカイシン』とか、果ては『ウスノロ』とか呼ばれるアレだ。
おれの称号はと言うと。
・『異世界人』
・『元囚人』
・『不運』
だった。
……どうしよう。
異世界人という単語ですら不吉なものに見えてきてしまった。
と、アイに表示された『異世界人』の称号に意識を傾けると、画面がサッと切り替わった。
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『異世界人』:生まれ、由来によるもの(カテゴリA)
ボーナス:なし。
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うわ! なんか表示された!
これはつまり、称号はただ周りに呼ばれる云々だけでなく、所有者に付加効果がある場合も考えられるのか。
……嫌な予感がしてきた。
見たくないという気持ちを抑えつつ、おれは他の二つの称号を見る。
表示が切り替わる。
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『元囚人』:生き方・名声によるもの(カテゴリB)
ボーナス:一般に主に用途が殺傷用、武器とされているものが全て装備できなくなる。ただし、例外として調理用のナイフなど持てないことが生活に支障をきたす道具に関しては、この制限は免除される。
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うわああああああああ!
やっぱりあった、マイナスの付加効果!
称号のボーナス付加効果には、要らない子がやって来る可能性もあったのが現実となったのだ!
元囚人って、あれか、牢屋に入れられてた所為で付いちゃったのか。
犯罪者が牢屋から出た時に再度罪を犯さないように、それならいっそのことと武器を持てなくしてしまうのだろうか。
いや、確かにそれなりに効果的だと思うけどさ!
どうすりゃいいのさコレ! 勇者って言われて異世界に呼ばれたのに、武器が持てなくなっちゃったよ!
そんな称号付けられたら、どうやっておれは『侵攻』と、魔物と戦えばいいのさ!?
果物ナイフ等ならセーフ? それならフライパンか? 調理用具つながりのフライパンで戦えばいいのだろうか。
なるほどそれなら大人が子どもに、子どもが大人になれる超名作RPGでも使ってたから大丈夫ってそんなワケないだろ! どうやって戦うのか想像も付かないよ!!
料理か? このあらいを作ったのは誰だって言いそうな敵の前でふと思いついたように料理をして、無造作に差し出すのか。で、相手は「ふむ……これは…………!」とか厳しい顔つきで言っておれの作った料理の予想外な出来栄えに感心し、深く頷いて負けを認めるのか。
どうやったらそんな展開になるんだよ!!
そもそもおれは料理出来ないよ!!
残念高校でも大学入っても妹に弁当作って貰ってました、おいしかったです!!
でも今はそんな話じゃないんだ!!
まずいまずいまずい、『侵攻』から世界を守って欲しいって言われたけど、まずおれ自身が守れなくなったぞ!?
もうこうなりゃと、やけっぱちになって最後の称号、『不運』も情報を見る。ヒュウっと音がしてアイが反応して画面がまた切り替わる。
こういう時だけ妙にアイの画面切り替えが素早い気がする…………。
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『不運』:性格によるもの(カテゴリC)
ボーナス:基礎能力の中で『運勢』を数値化したもの、『LUC』の値が固定で0になる。気を落とさずがんばってください。
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「ぬぅぅううううううううん!!」
「ヒカリ君!?」
「うわヒカリ、どした!?」
思わず叫んでしまった。
周りの語歌堂さんと優也が声を掛けてくるがおれは気にする余裕が無い。
なんだこれ! なんだこれ!?
元の地球に居た時にもそりゃあツイてないって感じはあったけど、それって異世界に来ても能力値として引き継がれちゃうんですか!?
しかもこれからこのステータスの『運勢』って、どれだけおれが成長したとしても上がらないってこと!?
他の6個のステータスの値が全て7になってるのもイヤミか、ラッキーセブンなのか!
そして恐らく7というステータスの値は、優也や語歌堂さん、平野くんの能力値と比べてもしょっぱい数値であると確信した。塩辛の如きしょっぱさだ。
あとここまでしといてメッセージの『がんばってください』ってなんなのさ、もう……。
なんかそのメッセージを見ていたら気が抜けた。
「ゆ、勇者様、ステータスの方はどうでしたか?」
「おいおいもしかしてスゲー能力手に入れちまったのか、ヒカリ?」
……はっ。
周りを見ると、他の人達が揃っておれを心配そうに見ている。
そういえば、リベリオールさんにアイの感想を訊かれてたんだった。あまりの事態に思考がふっ飛んでいた。ふっ飛んだ上で内容に壮絶にツッコんでいた。
一先ず何か言っておかないと。
「いや、すみません。こんなの元の世界でも見たことは無かったので、ビックリしてしまって……」
「そうでしたか。それはティリア様の大魔法によって得られる補正ですからね、驚かれるのも無理のないことです」
いえむしろ、何も補正が掛かってなくてビックリしてました。
ティリア様の勇者補正どころか、犯罪者アンド幸薄いねってレッテル貼られてました。
たぶん、リベリオールさんはどうやらおれが叫んだ理由を、いい方向に勘違いしてしまっているのだろう。
「クソ、ヒカリもつえーの持ってたのかよ……。
どんなんか教えてくれよ、なあ?」
同じく勘違いしてる優也がおれに聞いてくる。
まあ答えるぶんには答えられる。内容がアレ過ぎるけど。
――ちょっと、待てよ?
おれがここで、ステータスを素直に言ったとする。
すると、周りはどういう風に受け取るだろうか?
……考えるに。
大問題になるのではなかろうか。
勇者として召喚された人間が、へっぽこステータスでした。
言えるワケがない!!
そうなるとティリア様云々かんぬんの話まで含めて、もしかしたらこの宮殿とか皇族とかの存続にまで関わってきてしまうのでは!?
だって、その人の魔法のおかげで召喚された人間はステータスに強化を受けているハズなのに、それが付いていなかったらリベリオールさんも説明していた『転移魔法陣』の意義が壊れてしまうって事だ!
おれは、話を逸らすことにした。
出来る限りおれのステータスは周りに知られてはいけない!
あまり嘘は付きたくないけど、こればっかりは隠さないと!
「うん、ま、まあね。そうだね。
そ、それなりの能力を持ってたみたいだよ?」
マズい、舌が回らない!
大臣達の視線もおれ一人に向いていて、やたらと怖い!!
どうすんのこれ!?
「へー、どんなんどんなん?」
「でっでもこのステータスって、やっぱり『勇者』の補正だよね?」
適当に話題を変える!
うまい具合に語歌堂さんが話に乗っかって続けてくれた。
「そのようだ。ステータスの欄の称号は、自分たちの能力に影響を与えることが判ったぞ。
私の称号は『異世界人』『召喚された勇者』と、あと……、『生真面目』だったのだが、『召喚された勇者』はさっきそこの書記官殿が説明してくれた、勇者補正の全ての機能を開放する仕組みの称号になっているようだ。『生真面目』には攻撃の命中率アップと書いてあるな」
なるほど。おれには二つ目の称号が『元囚人』に書き換わってしまったらしく、そのせいで勇者補正が消えてしまったようだ。
――――――って、えっ?
背中が、粟立つのを感じた。
そうなってくると、もしかして。
これも憶測に過ぎないけど。
――――『勇者は死ぬと、魔法陣にて復活する』能力も、おれには付いてないんじゃ?
あの能力も勇者しか持っていない特殊な補正って、リベリオールさんも言っていたよな?
しかしおれは『召喚された勇者』の称号が付いていない。
それが意味することは一つ。
おれは、HPが0になったら死ぬ。
この異世界の話から始まり、『侵攻』、勇者補正等について聞かされてきたが、どれもまるでファンタジーやそれに属するゲーム・マンガの中の話のようであまり実感は無かった。
というかさっきまでおれもゲームの感覚としてこの話を捉えていたハズだ。
しかし、ここに来てはっきりと自覚してしまった。
もう既にこの世界、エリネヴァスはおれにとってゲームではない。
ファンタジーではあるがフィクションではない。
死ねば、終わり。
他の三人の地球から来た人達を置いて、おれだけにとって、完全に現実となってしまったのだ。
「それで勇者様、どうでしたか? ご自身の獲得された能力は?」
「――え? ええっと…………」
心なしか、期待するような表情で目の前の書記官さんが尋ねてくる。
奥の皇帝や大臣達の視線が、おれの心にぐさぐさっと突き刺さる。
マズイ、マズイぞ。
自分の状況について考えるのが精一杯で、優也とリベリオールさんへの答えを用意していなかった。
どうすればいい?
どうすれば、周りの人におれの事態を知られずに、この場を切り抜けることができる?
語歌堂さん達が言っていたような高い能力値をでっち上げるとか?
いや、それもダメだ。
きっと本当にその能力を使うとなった段階でボロが出てしまう。
すると、どう言えば良いんだ?
どうしたら……?
と、おれが周りからの視線を受けつつ悩んでいると。
――――謁見の間の入り口の大扉が、音を立てて開いた。
そして。
「皇族を汚した偉人はどいつだ? 名を名乗れ!」
扉の開く音よりも遥かに大きな声で怒鳴り込んで来る人物が現れた。
ちょっと短めでした。
すみません、キリが悪くて二分割が三分割になったという事故が……。
あばばば、計画性が欲しい……!