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第三話 : すばらしきこのいせかい

説明回!!


しかし現在ヒロインは出る気配すらなし!

なんでおっさんなんだ……?(ダイ○ハウス風に)

 


 そして話し始めて、かれこれ10秒も経っただろうか。

 おれは話し終えた。


「という事なんです、判っていただけました?」

「何もわかんねえよ!!?」


 判らなかったらしい。

 はぁ何言ってんのこいつ? といった感じの目をしていた。


「いやお前、『火事に突っ込んでクマを助けてお姫さんに抱きついたらここに来たんです』とだけ言われて誰が納得するんだよ!?」

「でも間違ってませんし」

「もっと詳しく話せよ!!」

「何に例えて話しましょうか?」

「例えとかいいから!!」


 結局、おっさんの熱意に負けてまた説明し直すことになった。


 5分経過。


「なるほどな……」


 と、向かいあった相手は無精ヒゲをこすり独りごちる。


「知っているのかおっさん!」

「お前さん、今どこに居るのか自分で知ってるか?」


 おれの伝わりにくいネタは華麗にパリィされた。

 ちょっと悲しい。

 しかし質問には答えることにした。それは簡単だ。


「牢屋とか牢獄とか刑務所とか、そんな所ですか?」

「いや違う。今お前が居る国のことだ」


 …………?


 どういう意図の質問なんだろう?

 ~~市や~~県ならともかく、国なんてどこか訊く必要があるだろうか?

 そんなの、近所の小学生の子だって間違えないだろう。


「そりゃ、ここは日本でしょう?」


 即答した。

 悩む理由もない。


 …………だが、しかし。


「違う」


 ――――――――えっ?


「悪いが俺はそのニホンっていうモノは、知らないな」

「……ボケですか?」


 ツッコミ待ちかな?


「違うわ! マジメな話だよ!」


 マジメな話だった。

 しかしそれだと、なおさら意味が判らない。


「つまり何が言いたいんですか?」

「待て。まだ次がある。この場所だ。

 ここは牢屋だが、国のどこにあるかは知ってるか?」


 そもそも牢屋なんておれの住んでるご近所にあっただろうか。

 って、あるワケないじゃんか!!

 火事に巻き込まれた所だって、おれの大学まで続いてる商店街だよ、そんなトコに刑務所的な物は無い!!


 ……でも、そうするとココは何なんだ?


「どこにあるか……?」

「知らないみたいだな」

「どこにあるんですか?」


 おれは憮然として聞き返していた。

 さっきから質問ばかりだ。


 そんなこちらを、彼はいさめて、


「どうどう、落ち着け。次の質問で終わりだ」


 息を溜める。

 なんだか、おっさん自身も訝しげな表情をしているのは気になるけど。

 そしてゆっくりと息を吐き出すように、言葉を続けた。



「――――――お前、どっかで『マホウジン』を見たんじゃないか?」



 まほう、じん?


「…………?」


 何だそれ?

 漢字でどうやって書くんだろう。


 唐突に出てきた重要そうな言葉の中に、意味の判らない単語があっておれは混乱した。

 ええっ、と…………?


 ヒカリは こんらんしている!

 ヒカリの きのこのほうし!


「うわやめろ、生えてるキノコを落ちてた布切れで掴んで投げるな!」


 おっさんは素早く後ろに下がって避けた。

 身体の大きさの割になかなか機敏な動きだった。


「ほら、マホウを使う時とかに書いたり、ショウカンマホウに必須なマホウジンだよ!」

「まほう、しょうかんまほう……?」


 うーん、もしかして。

 腕を組み、左手を顎に添えるという古典的考える人ポーズで考えてみる。

 ぼんやりとなんとなく、あの機敏なおっさんの言ってる事が判った気がする。


 もしかして、マホウってのは『魔法』と書くのだろうか。


 ……そうすると後の二つは、それぞれ『召喚魔法』と『魔法陣』と書くのか。

 なーんだ、それなら良く知ってる。


 召喚魔法ってのはあれだ。

 はっと手を合わせて気合入れてむにゃむにゃ呪文を唱えると、地面からにょにょにょにょと使い魔的なサムバディが出てくるあれだ。


 魔法陣も判る。完璧だ。

 地面に円やら六芒星やら図形やら文字やらを描くと、やたら光る結界が出来たりまたもや使い魔が出てくるあれだ。


 …………あれ? 知ってるって割になんだか内容がふわっとしてね?

 まあでも、おれの好きなゲームとかマンガ、ラノベなんかでは、ちょっとファンタジー寄りの設定の物語なら、どこにでも出てくるような言葉じゃないか。


 おれはアゴを左手から解放すると、手を叩いた。


「ああなんだ、魔法でしたか!」

「おっ、ようやく判ったみたいだな」

「ええ、魔法なら納得ですよ!」

「そんなら話が早いな。

 お前は多分だが、転移魔法陣の効果で飛ばされてこっちに来たんだろう。で、ちょうどそのお姫さんに転移の弾みで抱きついちまったんだろうな」

「なるほどなるほど……」


 なるほどね。

 どうやらおれはどっかのタイミングで、ワープする仕組みの転移魔法陣とやらに載って、結果一瞬で場所を移動したが、その勢いを殺しきれずに前に居た少女にひっ付いてしまったらしい。

 この筋立てならおれが今牢獄にぶち込まれてる理由も


「なるほだーーーーーーーーう!!」

「うおおお!?」


 おれは牢屋番の来ないくらいの音量でおっさんにツッコんだ!


「わかるかーー!! なんじゃそりゃーー!?」


 こちとら二十歳をもうすぐ控えた大学生だぞ!

 そんな理屈説明が通るなら、ヨシヒコだって弁護士になれるだろ!


「おっさん、あのね?」


 おれは出来る限り優しい顔を作って、おっさんに言い含めるように諭す。


「なんだお前、間抜けヅラして?」


 おれのベストオブ柔和な笑顔は、間抜け面だったらしい。

 地味にショックを受けるが努めて気にしない。

 続ける。


「おれらが住んでる世界にはね、奇跡も魔法もないんですよ?」

「いや、魔法はあるぞ?」


 しかしばっさりと切り返された。

 おっさんは「はぁ何言ってんのコイツ?」という顔をこちらに向けていた。テイク2だ。


「魔法なんてそこら辺見りゃ、ドコにでもあるじゃねぇか」


 奇跡って言うとティリア様が有名だけどな、などと言いつつ、おれの後ろ側をヒョイと指差す。

 そっちにあるのは……、鉄格子?


 おれは振り返ってみたものの、別にヘンな所はなかった。

 触ってみても別に変化はない。

 なんの意味があって指差したんだ? などと思いつつ手を格子の間から外に出そうとする、と――――


 バチバチバチバチィッッ!!


「うああああっちゃい!?」


 突然おれの身体、もっと言えば格子の向こうに出た手が『感電』した。

 いきなり手の周りに青白いスパークが走ったのだ。


 ビリビリと痺れる痛みに驚いて手を引っ込めると、感電したようになっていた手の感触はすぐ元に戻った。見たところ何の異常も無い。


「なんだこれ!?」

「言っただろ? それが魔法なんだよ。

 見たとこ、クラス()の強力な風魔法で障壁でも作ってんだろ」


 クラス、というのがどういった意味なのかは判らないけど。

 ただ判ることが一つあった。


 おれの知っている限りでの技術では今の現象は、起こせない。

 少なくとも、日本の刑務所にはこんな設備、ないハズだ。

 トリックなどという代物でもない。


 柵に電気を流したりしているのならば、柵に触れた時に感電しないのはおかしい。

 あの青白のスパーク現象は、鉄柵に触れた時にではなく、おれが手を牢屋の外に出した時に起こった。鉄の棒には触れてもいない。


 しかも、だ。おれは自分の手をじっと見た。今、もう手にはおかしなところはない。あんなに激しくバチバチ言ってたのにだ。最初感電した時はショックで手が止まる位だったのが、引っ込めるとすぐ元に戻った。

 こんなに器用な感電現象があるだろうか。


 余りにもこちらの知っている範囲を逸脱した、未知の技術なのだ。

 それなら――――――、目の前で起きた現象は魔法なのだと、今は考えたほうがしっくり来る。


「なんだか納得した顔だな」

「ええまあ、こう見せつけられちゃうとさすがに……。

 いいでしょう、ひとまず認めてあげましょう」

「すげえ上から目線だなオイ!?」


 無意味に偉ぶったみた内心で、実は結構ビックリしてるのは秘密だ。


 しかし、魔法である。

 マジックである。

 イリュージョンである。


 ……なんだか途端にインチキっぽくなった!?

 ――――いやいや。

 魔法という、目の前に夢にまで見…………てはいないけれど、あればどんなに楽しいだろうと思われるものが実在した。


 そうすると、やはり気になるのは。


「おっさ…………、ダンディさんも魔法は使えるんですか?」

「ああ、使えるぞ。

 あともうおっさんで良いぞ、ほっとくともっと変な名前にされちまいそうだ」


 あっさり出来ると言ってくれる。


 なんてことだ!

 おっさんも魔法を使える、つまり魔法使いだったのか!! 一瞬、誰とは言わないがどこぞの友人の顔が浮かんできた。いやお前は呼んでないよ!

 おれは脳内に湧いてきた友人(ヨシヒコ)を場外に追い払った。


 しかし、魔法である。

 おっさんが魔法を使えるなら、もしかしておれも使えたりするんだろうか。

 本来の意味で魔法使いになれたりするんだろうか。

 ここは気になるところだ。聞いてみなければ。


「へへっ、ウィンさん。ここらであっしに魔法を1つ2つ教えちゃあくれませんかねえ?」


 手をニギニギしつつ笑顔を作り、低い姿勢でおっさんににじにじと擦り寄る。

 人にものを聞く時は相手を敬う態度を示しなさい、と中学校の先生も言っていた!


「なんだお前気持ち悪い」


 おれの尊敬の仕方は気持ち悪いらしい!


「いやほら、ものを教わる時は真摯な態度で臨まないとって」

「お前の真摯な態度ってのはそんなに卑屈なのか…………。

 いいから気持ち悪いから素に戻れ素に。呼び方もおっさんで良いからよ……」

「おれに魔法を教えて下さいおっさんッ!!」


 素に戻った。

 素に戻ってガバアと頭を下げた。

 およそその角度20度。微妙なお辞儀だった。


 しかしおっさんは腕を組み、無情にも横に首を振った。


「あーでも、今は使えないから教えらんないわ」

「ダメじゃん!!」


 主におれが卑屈になった意味が!!

 卑屈になった事も!!


「この牢屋な、魔素マソ中和物質が壁に仕込んであるから、魔法が使えねえんだよ」

「ま、まそちゅーわぶっしつ?」

「おお、なんて説明すりゃ良いんだろうな……?

 魔法を使うための物質が動きを止めてる? から、俺が魔力を使っても魔法が発動しない、って言えば良いのか……?」


 要領を得ない話ぶりだが、おれは黙って聞くことにした。

 ここで「おっさん説明ヘタだな!」とか遠慮無く言ったりしてしまうと、最悪ヘソを曲げて魔法について教えて貰えなくなってしまうだろう。


 ディテールを捉えるため途中で質問を挟みつつ話を聞くと、魔法とは次のようなものであるらしかった。



 ――――この世界には『火』、『水』、『風』、『土』というカテゴリ、属性がある。


 それら4つの要素をまとめて『四元素』と呼び、基本的に世界にあるものはこのどれかの元素に属している。例えばそこら辺の小石は『土』、空気や雷は『風』、かまどの炎は『火』というように。実際には多かれ少なかれ複数の元素が組み合わさっている事が多いけれども、その中で本来の元素の性質に近いものが、その物質の属性になる。


 こちらは例を挙げるなら、岩でなく溶岩になると『土』と『火』、二つの元素が入り交じっているように思える。が、最終的には『火』の元素が占めるウェイトが大きいために、属性も『火』になる、といったところだろうか。万物はこの属性のいずれかに分類されるのだと考えられている。


 通常、四元素の互いの関係は、正方形の4つの頂点に見立てて例えられる。『火』と『水』、また『風』と『土』がお互い正方形の頂点の対角に位置するように配置され、対角にある者同士は反発し合い、辺で繋がった物同士は親和性を持っている。


 『風』から見ると、反対側にある『土』とは力関係が拮抗し、隣にある『火』・『水』とは馴染みやすい、といったようにだ。それぞれ相性こそあれど、互いの存在を無視することはなく、四元素がそれぞれ他の元素の領域を犯すようなことは無かった。


 だが、それでは説明の付かない事象が幾つかあった。


 世界には四元素の属性には当てはまらないため4つの元素の中に分類できず、それでいて無視できない明らかに異常な反応を示す、カテゴリ外の物質が存在していたのだ。


 それが5番目の元素、『魔素(マソ)』である。


 この魔素と呼ばれる物質には、それをして決定的に異常と言わざるを得ない1つの性質があった。それは、四元素に対して働きかけるということ。


 四元素はお互いにお互いの領域を保って不可侵としているが、魔素だけは違った。

 魔素には、他の四元素を動かし、その場所から押しのけ、一箇所に凝縮させ、または離散させ、均一に濃度を整え、任意の形に変化させ、果ては自身の存在を変化させて四元素を補填し、逆に今度は四元素を消滅させる――――――――。

 考えうる限り全ての干渉を四元素に能動的に行うことが出来たのだ。


 そうすると、四元素と魔素は並列の分類では片付けられない。魔素は、四元素を左右することが可能であるという上位の元素として定義された。

 定義なんて誰がしたんですかとおっさんに聞くと、大昔の偉い人が決めたんだろうと言われた。割と適当だった。


 定義付けがなされると、今度はその利用法についてが研究され始めた。自分たちで、魔素を上手く使えないかという話である。まあ順当な話だ。

 数十年から百年では測れないほどの長い年月を経て、魔素を用いて四元素を制御する方法が出来上がったのだ。


 そうして現在、ある程度体系化された制御法の名前が――――――。

 魔素制御法、つまり『魔法』だった。



 おっさんの話が終わった。


「えーっと…………」


 突拍子もない話。

 それがおれの感想だった。


 頭を手で抑えつつ、訊く。

 今聞いた事を整理しようと、そこまで回転の早くない頭脳をグルグルと回している最中だ。


「冗談ではないんですよね?」

「嘘ついても意味ないっての」

「ですよね……」


 だがおっさんの表情は普通の顔つきだった。

 それは、おっさんの話が自身の周りでの常識だと納得していることを意味する。

 おっさんが牢屋に生えてるキノコを食べて、そして頭がウルトラソウッ! とかになっていない限りは、それが真実ってことになるのだろう。

 まあまともに受け答えもしているし、そもそも今までそんなラリラリした人と話していたなんてイヤだし。


 と、すると。

 更に聞きたいことや判らないこと、そもそも気になっていたことなど思いつくことはいくらでもあるけど、これだけはまず知らないと!


「で、魔法ってどうやって使うんですか?

 いや今は使えないというのは判りましたけど、なんかこう、こうやれば魔法が出るんだよ、みたいなアドバイスが欲しいです! さあ!!」


 ぐいぐい近づこうとしたおれから距離を置き、しばし考えこむおっさん。

 ちょっと傷付いた。


「そうだな…………。

 よし、じゃあまずは手を開いて、顔の位置に上げてみろ」


 胸に手をあてて考えてみなさい、みたいなノリで言われた。

 手を持ち上げて、手のひらをおっさんに向ける。


「違う違う、自分に向けるんだ」


 おっと違ったみたいだ。

 手のひらを自分が見えるように向けた。今のところ何の変哲も無い手だ。


「よし。じゃあそのままで、今度は身体の中心に、まあ、要はハラだな。その辺りに意識を集中してみろ」


 意識を集中させる…………?

 どうやるんだろう?


 とりあえず、腹筋に力を込めてみた。


 お腹がぐると鳴った。

 おれは空腹だった。


「ご飯下さい」

「ほらよ、キノコだ」

「せいはーー!!」


 放られたキノコをはたき落とした。

 なんて物を投げるんだ!


「集中しろ! 腹の奥のほうで、こう、何か違和感を感じないか?

 というかぶっちゃけ、何か頭にイメージが浮かんでこないか?」


 むむむ…………。


 集中、集中…………。


 ………………………………。


 ……ダメだ、思い出したら気になってきた空腹感以外、何も思い浮かばない!


「何も感じないみたいです!」

「駄目だったか……」


 本当なら、ここで腹の奥の方に熱気を感じたり、冷たさをイメージしたり、身体が軽くなる気がしたり、一本芯が通ったイメージを覚えるはずなんだがなと、おっさんは言った。


 人によって個人差はあるが、その4つのイメージがそれぞれ『火』『水』『風』『土』に該当する。それらが自分が魔法を使って干渉できる、自分がカテゴライズされる『属性』になるらしい。

 おっさんは冷気を感じ、自身の属性も『水』だそうだ。


 そして、イメージ出来た属性を意識しつつ、腹の底の力を自分の手に集めるようにすると属性によって異なる反応があるらしい。らしい。が、おれには特に反応は無かった。


 下ろしていいぞと言われたので、おれは手を下ろした。

 ぢっと手を見る。

 手を挙げる動作、必要だったんだろうか。


「まあ、魔法大学の学生さんでも最初からは出来ないって人は結構いるらしーからな。

 そんなに気に病むこたぁない」


 大学とはいかに。またもや気になるワードが出てきた。

 だが、それよりも、もっと先にハッキリしておくべきことがある。


「これだけは聞いておきたいんですが」

「おっ、ついに俺がこんな牢獄にいる理由を聞く気になったか?

 いいぜ、あれは数日前、雨の降る酒場での出来事だった――――」

「あそれはいいです」


 ショボーンな顔になるおっさん。

 いやいや、どう見てもそういう話の流れじゃ無かっただろ! なんでいきなり語りに入ろうとしちゃうんだよ!


「これだけは訊いておきたいんですが」


 仕切りなおした。

 おっさんもそれなりに聞く姿勢になってくれた。

 おれも、咳払いを一つ。



「――――『この世界』ってどの世界ですか?」



 …………そう。

 本当なら最初に聞くべきだった、あるいはおれ自身が避けていただけなのかもしれない質問。

 なんとなく、無意識に察しているのかもしれなかった。


 既におかしいことを指摘するべきだったのだ。


 牢獄。おっさんの青い髪。魔法。四元素という概念。


 どれを取ってもおれの知ってる日本、いや世界、いや地球には見られないもの。


 もう既に、どこかがおれの周りでずれていたのかもしれな


「は? お前そりゃ、お前から見たら異世界に決まってるだろ」


 ――――いと思ってたんだけど、普通に言われてしまった!!


 ついに明らかになった衝撃の事実。


 おれは、異世界に来ていた!!


 異世界!! すごい響きだ!!


 ……のだが、あんまりこう、なんというか、反応が薄い。いろいろと。


「……なんでおれが、別の世界から来た人間だと?」


「そりゃ、皇宮こうきゅうの転移魔法陣で召喚されたんなら、それ以外ないだろーが。

 まー俺も、異世界人なんて見るのは初めてだけどな。髪は黒いんだな」


 というかなんでお前そんなことも知らなかったんだ? と逆に聞かれた。

 すぐ後に、あー、お前さんお姫さんにセクハラして捕まったんだったな、運の悪いヤツだ、なんて感じで事実無根……ではないが濡れ衣で勝手に納得された。


 しかしまあこんな、へろっとしたヤツがなあ……、と、珍妙なものを見る顔で頷くおっさん。

 もちろん視線はおれの方を向いている。


 ――――と、その時。


 タイミングを狙っていたというワケではないのだろうが。

 遂に、タイムリミットが来た。


「さっきここに入れられた人物は、今も居るか?」


 遠く、牢獄の入口のほうで声がした。

 それに、さっき怒鳴ってきた牢屋番の方が答える。


「どんなヤツだ? 人相は?」

「服の焼け焦げた、幸薄さちうすそうな黒髪の男、との事だ」

「すぐ連れてくる待ってろ」


 なんでそれで伝わっちゃうんだ!?

 イヤだよそんな特徴!!


「お前! 呼び出しがかかった、準備してから外に出ろ!」


 牢の入り口が番人の手で乱暴に開けられ、有無を言わせぬ勢いでおれに早く出ろと催促してくる。

 掴みかからんばかりの勢いだ。


「釈放みてえだな。もしくは処刑か?」


 おっさんが後ろでニヤニヤしながら言う。

 すげぇイヤなこと言われたぞ!!


「まあでも、さすがに『勇者様』ならそんな扱いは受けないだろ」

「え、今なんて?」

「しっかりやれよ、勇者さんよ」


 横に寝っ転がり、ヒラヒラと手をこちらに振るおっさん。


 言ってる意味は全く判らなかったが、とりあえずおっさんとはここでお別れなのだということは判った。


 なのでおれは、せめて挨拶だけでもしておくことにした。


「有難うございました、おっさん」

「最後までホント名前呼ばないのなお前……」

「ダンディさ」

「ちげえよ! それも俺の名前じゃねえから!」

「それじゃ、これ……。つまらない物ですが、お礼の気持ちです」


 名残惜しげに、丁寧に布で包んだものをおっさんの前に置く。


「知ってるよそれ! キノコじゃねぇか!」


 はたき落とされた。


「おれのお礼の気持ちです」

「お前のお礼ってなんなんだよ!!」

「それじゃ、さようなら!」


 そう言うと、おれは牢屋を出て、牢番と話していた人物がいる入り口の方へ向かった。

 もう来るなよ、と後ろから声。彼はいつまでこの牢屋にいるのだろうか。


 入り口に居たのは、薄暗い部屋でも目立つ白銀の鎧を着た人物だった。

 そしておれをフルフェイスの兜の奥から見つめ(こちらからは見えないけど)、口を開いた。

 そして、こう告げた。


「異世界人殿(どの)、いや、『勇者』殿。

 皇帝陛下がお呼びである。謁見の間に来て頂けないか?」

 

 

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