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第二話 : 洋ゲーはだいたい牢屋から物語が始まったりする

 

日本のゲームでも牢屋から始まる作品、結構ありますよね?


第二話です、ではどうぞ!


 



 …………………………夢を見ていた。


 身体を一定のリズムで揺らされ、おれは微睡(まどろ)んでいた。


 ここ一年は大学近くに一人住まいだったため、登校するにも歩くだけで良かったが、高校の時は電車で二本、乗り換えをしつつ登校していた。

 ちょうどそう、電車に載って目を(つぶ)っている時のような、眠気を誘うゆるやかな間隔で揺らされているのだ。


 夢に出てきたのは、ヨシヒコのことだった。

 ヨシヒコはおれの高校の時からのクラスメイトだ。

 そして、もっとも良くつるんでいた友人でもある。


 あいつはよく言っていた。


「もうカノジョとか作るのは諦めた、最悪、男でもいい」


 ――――と。


 ……いやこれじゃない。これは違った。

 それを聞かされたおれは一時期ヨシヒコに3メートルより近くに寄らないように戦々恐々として毎日を過ごしていたのだが、これはまた別の話だ。


 あいつはよく言っていた。


「勇者になりたい」


 ――――と。


 勇者。

 勇者である。


 ぼく達わたし達日本人が日々、社会の中で過ごす限りは(つい)ぞ聞くことはない言葉だ。

 だから、おれは聞き違いかと思ったのだ。

 そして聞き返した。


 魔法使いじゃないの? と。


 この場合の魔法使いとは、もちろん下世話な意味での魔法使いを指す。


 あいつは思いっきり憤慨した。

 言葉で「憤慨した! そのセリフに憤慨した!」と自殺志願のメガネ先生が叫ぶマンガのように言っていたから間違いない。

 そして、前述の勇者になりたいという力強いセリフもやはり間違いないのだろう。

 だからもう一度聞いた。


「いやヨシヒコ、お前きっと魔法使いの天職あるよ? 向いてるよ?

 今ならあとたった12年待てば、自動的にジョブにありつけるんだ! やったぜ!」

「それヒカリも適正あるんじゃねぇ?」


 言い返された。

 17歳、大学受験を控えた夏休みのことである。


 だからおれは更に言い返してやったのだ。

 こうなりゃ意地を貫かなきゃならない。男の意地だ。


「はっ!! おれには妹がいるから良いんだよ!!」


 ――――――――と。


 そして、タイミングよく家に帰ってきていた妹のアカリにそのおれの大声、魂の慟哭どうこく、その会話の一言一句を漏らさず全て聞かれてしまい。

 彼女は次の瞬間おれの部屋に殴りこんで来る勢いを利用して何の罪もないヨシヒコをぶっ飛ばし、座って熱く語っていたおれの側頭部にミドルキックを放った。

 たった5秒足らずでの出来事である。


 そのまま足音荒く部屋を出て、ドアをガンッと閉めていった妹。

 おれは横倒しになって見届けながら、傍らの死体に声をかけた。


「ヨシヒコ、生きてるか……?」

「ああ、なんとかな……」


 そのままヨシヒコはリビングデッドのようにのっそりと起き上がった。

 おれもコンバット! と掛け声をつけ、なけなしの腹筋を使って起き上がる。


「今の蹴りを繰り出す足がスラっとしていて綺麗なのがアカリちゃん。

 俺の友人ヒカリの妹で、歳は16歳だ」

「なんでお前説明口調なの?」


 しかし、とヨシヒコは続けた。


「アカリちゃん、またもっと暴力的になってるよな……?」

「そう? 反抗期なんじゃないかな?」


 思春期にありがちな例のアレだ。


「え? お前の父ちゃん母ちゃんにも強く当たってるの?」

「いや、おれにだけだけど」

「……………………そうか…………」


 沈黙の中で小さく呟かれてしまう。

 彼が何かを諦めたような目をしたのが印象的だった。

 妙に心が傷つくワンシーンだった。


 そして、今の会話をなかったことにしようとしてか、さっきの妹の蹂躙でおれ達が放り出してしまったコントローラを手に取った。

 コントローラの先には箱型のゲーム機と、更にその先に少し小さめのテレビがある。


 二人してゲームをしていたのだ。

 17歳、大学受験を控えた夏休みのことである。


 大事な受験勉強をほっぽり出してやっていたのは『アナザーワールド・ファンタズマゴリア4』という王道と言えば王道のRPGだ。

 『AWFM』とも『アナファン』とも略されるこのゲームは、伝統的な冒険要素に加えて、様々なサイドストーリーや数多くの技や魔法、他にも沢山の要素を盛り込み、日本はおろか世界でもそれなりに見かけるタイトルのゲーム。


 おれは結構、いやかなりゲームは好きだ。

 特にジャンルではRPGが面白いと思う。


 手に汗握る戦いはもちろん、世界を彩る重厚な設定。派手なエフェクトが出て敵を倒す呪文。覚えるのが難しいけど強力な技。こつこつと貯める経験値。そしてその経験値をもってしても依然倒せるか怪しいほどの力を持った敵のボス達。そして様々に物語を色づける仲間。

 それら全てが魅力的だと思うんだ。


 ヨシヒコとも唯一、お互いカンペキに共有できる考え方である。唯一。

 ちなみに我が妹も実は結構なゲーム好きなのをおれは知っている。

 よって二人で、発売されてからもう一年も経つゲームを、冷房付けた部屋の中で麦茶片手にプレイしていたのだ。

 これがまた楽しいんですよ!!


 ……しかし、なんとなくヨシヒコは顔を曇らせていた。

 おれはその様子を気にして、尋ねた。

 そりゃあ隣で一緒に遊んでるヤツがつまらなそうにしていたら、気になる。


「ヨシヒコどうした? そんな顔をしわくちゃにさせて。

 普段の微妙な顔がもっと台無しになってるぞ?」

「失礼なヤツだなお前!?」


 更に気を悪くしていた。


「……でも、やっぱりさ」


 ヨシヒコがポツリと言う。


「…………おれは勇者になりてえよ」


 ああ。判った。

 この顔はつまらなそう、とかじゃない。

 適切に言葉を選ぶのなら。


 ――――物足りなさそうな、顔なのだ。


「勇者かー……」


 しかしおれは、勇者になりてえ、なんて言われたところで、まず実感が湧かない。

 だって、自分が突然城に呼ばれて「魔王を倒すのじゃ、勇者よ!」とかカールしたヒゲ生えてる王様に言われたり、お姫様を救いに大陸を駆け巡ったりするなんて、想像も付かないだろ?


「そう! 勇者だよ!!」


 それでもヨシヒコは声高に主張する。勇者になりたいと。


「突然異世界に呼ばれたり、転生したりして勇者になる!」


 怒鳴る怒鳴る。

 また妹がショルダーチャージしてくる可能性も鑑みずに、怒鳴る。


「それですげえチートな能力とかスキルとか持ってて!

 俺好みのハーレムとか作ったり!

 ラスボスをワンパンで倒してえ!!」


 おれの友人はゲスだった。

 想像以上にゲスい考え方をしていた。

 友人という言葉の定義を改稿する必要がありそうだった。


 まあでも、こう自分の考えをオブラートで包まずにハッキリ言えるのはヨシヒコの美徳だ。

 真正直であることは、誠実であるとも言える。

 欲望に忠実なだけの変態だろ、とも言える。どれも正しい。


 だからおれは正直に、


「うーん、それで良いんじゃーないかなー?」


 お茶を濁した。


 外から誰か(アカリ)の殺気を感じたからだ。もはや殺意の波動だった。

 ドアが何らかのエネルギー弾によって壊されてもおかしくないレベルだ。


 波動が静かに遠ざかる気配を感じ取ってからおれは考えた。今はヨシヒコがコントローラを握ってゲームの中のアバターを操作している。

 ボス戦が始まったようで、黒いオーラの立ち上る巨大な騎士と戦っていた。

 味方の援護を受けつつ、おれとヨシヒコで作ったプレイヤーキャラは中々に善戦している。

 なので、おれは特にやることもなく、考え事が出来た。


 そもそも、『勇者』ってなんなんだろう?

 勇敢な者、っていうのは字面から判る。でも、それだったらかなり多くの人が該当するように思える。


 だって、悪党から婦女子を助けるマッチョなナイスガイの戦士だって、魔物の群れを一つの魔法で追い散らすお爺ちゃんな魔法使いだって、勇敢な者じゃんか。

 もっと広く言ってしまえば、勇気ある行動を取った人は、勇者だ、と言えなくもない。

 おれだってアカリの肉体言語に耐えてそれでも積極的にコミュニケーションをとるその姿は、勇者そのものだろう。


 でも結局はRPGの中で、勇者は主人公一人か、もしくはその周りの仲間を街の人とかが呼ぶ時に言う代名詞だ。


 いったい、何が違うんだろう。


『……い、…………』


 ゆうしゃゆうしゃ言い続けてたせいで頭がこんがらがってきた。

 元よりそんな言葉自体の意味を考えるような、哲学な思考はおれには難しいのだ。


『…おい、お………』


 眠くなってきた。


「わるいヨシヒコ、おれ、ちょっと昼寝するよ」

「ん? 今俺が活躍してる良いところなのに、見てないのかよ!」

「がんばれがんばれ。フォッフォ、世界の平和は君にかかっているんじゃよ」

「適当だなぁオイ!?」


 欠伸を一つして、横になる。畳のものとは思えない妙に硬い冷たい感触がした。

 気になったが、眠気は全てに優先する。


『…おい、おき……』


「んじゃなー」


 目を閉じる時に、口をついてそんな言葉が出た。

 どうして「おやすみ」でも「~時に起こしてくれ」でもなく、別れの言葉が咄嗟に出たのだろう?


 そしてヨシヒコが「しゃあああ勝った! 勇者は負けんのだよ!!」と喝采を上げる横で、

 おれは緩やかに眠りに落ち――――――――――――。









 --------------------





「……おい、起きろって言ってるんだ!」


 うわっ!?


 飛び起きた。


「やっと起きたのか、まったく……」


 目蓋を閉じている間は前が見えなかったが、目を開けても周りが暗いせいかよく見えなかった。

 少し、目が暗闇に慣れるのを待つ。

 ほんの数秒経つと、すぐに視界が戻ってきた。



 目の前におっさんがいた。



「うぉおおわああああああ!?」


 おれを見下ろすような格好で、ヒゲ面のおっさんがいた!


「やめて下さい乱暴は! 警察呼びますよ!?」


 ケータイを取り出そうとズボンに手を伸ばす。が、あれ、無い……?


 ゆうに横幅はおれの1.5倍はあろうかというマッチョフルなおっさんが大きな口を開く。


「何言ってんだお前! 寝ぼけてるのか?」

「ウワアアアシャベッタァァアアア!!」


 コワイ! オッ=サン、コワイ!!

 おれはよく動かない身体でそれでもなんとか、後ろ手にズザザザと下がった。

 しかし、距離を置くことは出来なかった。

 すぐさまおれの背中は、細長い冷たい感触にぶつかったのだ。

 ガシャンと大きな音が出る。


 柵だった。


 後ろには、頑丈そうな金属の柵があったのだ。

 下を見ると、今おれが座ってる所が、粗い造りの冷たい石畳であることが判った。

 と、そこで。


「うるせえぞ!! 黙ってろ!!!!」


 少し離れた所から、乱暴ながなり声がやって来た。


「ごめんなさい!!」 


 とっさに謝る。

 なんだか判らないが、こういう時は謝るに限る。


 柵の向こうから人影が近づいて来た。どうやらがなった声の持ち主らしい。

 近くに寄ってくると、それが鈍色(にびいろ)にくすんだ物々しい鎧を着込んだ、腰に剣を佩いた人物であることが判った。


 …………剣?


「静かにしろ、囚人!!」


 柵越しに、鎧の人物が先程と変わらない声量でがなる。

 何かおれが口答えをすれば、もうそのまま腰の剣でブスリ♂ とやってくる勢いだった。

 もちろん物理的な意味で。


「はいッ、すみません!!」


 おれにこれ以外のセリフを言う権利は無いだろう。

 その鎧さんは胡乱うろんな目でこっちを見ていた。


「全く、まさか姫様に手を出そうとするヤツが城の中で出るなんてな……。

 いいから、処遇が決まるまでじっとしてろってんだ!!」


 それだけ言って去っていった。


 今、自分でもおれは間抜けな顔をしていると思う。

 後ろを振り返ると、おっさんもポカンとしていた。

 ちょっとだけおっさんが怖くなくなった。


 なので、聞いてみることにした。

 もちろん声量はかなり絞っている。


「……一体全体、なんなんですかね?」





 おっさんとおれは互いに胡座(あぐら)を組んで、向い合っていた。


「だからな、俺もよく判らんけどな?」


 と、目の前のおっさんは前置きしてから話してくれた。


 おっさんは、かれこれ三十分ほど前に物音で目を覚ましたらしい。

 なんでも、寝てたら突然外が騒がしくなり、柵の向こうの入り口のドアが思いっきり開いたそうだ。


 そしてがやがやと数人が入ってきて、その人達が今おれとおっさんがいる柵もこれまた思いっきり開け放ち。

 どさっと数人がかりで担いでいた荷物を放り出して、「置かせてくれ」とか言って出て行ったらしい。

 後にはおっさんと、そのぼろ(きれ)のカタマリみたいなこげこげになった異物が残されたそうだ。

 で、そのぼろ布が


「まー結局お前だったんだがなあ」


 ひどいな!?

 人のことを異物呼ばわりか!!


「そんで寝直そうとしたんだが、少し経ってよく見てみたらな。

 ……あれ? これ、人じゃね? ってなったのよ」


 最初ここに来た時おれは人に見られてなかったようだ。


「で、こりゃやべえと呼びかけてみたわけだ」


 すっげ適当な口調で軽ーく言われた。

 言い終わってから、はっはと笑う。


 雑だなこの人!!


「そこはもっと早く呼びかけましょうよ!?」

「いやいや、お前自分のカッコ見てみ?」


 言われて、顔を下に向ける。


 そこには、ダメージドジーンズ(ヤケドによるもの)を履いてオシャレなグレイのパーカ(煤まみれ)を着こなした、イケイケファッション(死語)のナイスボーイが胡座をかいていた!


「おれの服がヒドい事に!?」


 もちろんちょっと前まで着てたのはもっと普通だった。

 おれのジーパンには穴なんて開いてなかったし、そもそもパーカーの色は青だよ!

 なんとなく全体的にヨレヨレしてるのは元からだけど!!


 きっとあれだ、火事の中ではしゃいでたせいだ。

 いや、はしゃいでたワケじゃないけど、そのせいで、おれの衣服はこんなファンタスティックな事態になってしまったんだ。


 もうある意味斬新なファッションと言っても過言じゃあないのかもしれない!

 名付けて、森ガールならぬ


 『火事ボーイ』


 流行らないかな!


 ……流行らないだろうな!!


 そして、煤と煙のせいで、服がひどい焦げの臭いを放っていた。

 仕方ないのでパーカーを脱いで小脇に抱える。

 シャツも臭っていた。脱ぐ。そちらも同じように小脇に抱えた。

 ズボンも焦げ臭い。が、それだけは脱ぐワケには行かない。さすがにフリーダムすぎる。


 ふと思った。


 あんまり詳しくは覚えてないけど、さっきまでおれは火災の現場にいたはずじゃ?

 それで取り残されていた小さな子どもを、消防士顔負けに救出したはずじゃ?


「ところで、ここはどこですかね?」

「んあ? そんなの周りを見てみりゃ良いじゃねえか」


 言われたので、辺りの暗闇の中を見回す。


 うーん……………………?


 まず足元は、石畳だな。これはさっきから知ってたことだ。

 もっとよく見ると、相応に汚いことが判明した。もう暫く、掃除なんていう言葉とは無縁だったんじゃないんだろうか。

 近くの壁を見ても、同じ石で出来ているっぽい。


 次におれの後ろにある柵。

 金属なのは知ってたけど、鉄の棒による予想以上にゴツイ作りをしていた。

 しかも何本も何本も天井と地面の間に等間隔で突き刺さっている。

 通気性はバツグンだ。


 また、おれとおっさんの傍らにはベッドがあった。おっさんの私物だろうか。

 これもなかなかに汚い。

 シーツの裾の方なんかは千切れていて、見苦しさをばっちりアピール。

 おっさんの趣味なのかもしれない。


 そしておれが周りのものを見ることが出来るのは、おっさんの背中側にある壁に付いている、窓のおかげだろう。

 窓にも鉄柵が付けられていた。もはや誰も侵入できないだろう。

 おれの後ろの柵といい、ここまで来ると、その防犯への余念のなさを感じられる。

 だけど、古来より日本は冬よりも夏時の涼しさを優先して家を造っているのは判るが、これはちょっと風通しを重視し過ぎなのでは?

 窓から吹き込む雨という問題を無視する理由にはならないと思う。


 最後にキノコ。

 これは部屋の隅の方に、アスファルトに咲く花のようにひっそりと生えていた。

 意味もなく光っている。


「目の前にたたずむおっさんの自宅か……?

 だけど、キノコを生やす意味だけが判らない…………」

「どこをどう見たらそうなるんだ!?」


 目を見開くおっさん。


「あと俺はおっさんじゃねえ、ウィン・タークって名前があるんだが!」

「ウィン・タークね。ちゃんと判りましたよおっさん」

「何も判ってねぇよ!?」


 話してみるとなかなかにひょうきんな人柄だったので、おれは愛称をこめておっさんと呼ぶことにした。

 もちろん敬を失したワケではない。


 ウィン・タークさんか。なんか外人さんみたいな名前だ。

 というかどう見てもその外見はガイジンそのものだった。

 すごい、青い髪で青い目をしてる人なんてたぶん初めて見たぞ。


「どう考えたってココは、牢屋だろーがよ…………」


 ウィンさんが疲れたように呟く。


 牢屋。そうか、牢屋か……。


 まあ、最初に柵を見た時になんとなく気付いてたんだけどね。

 むしろもうだいぶ、ここまでの事は思い出してたんだけどね!


 おれは殴られて、気絶していたのだろう。

 どんどん記憶が逆流するように、正確な情報が頭に戻ってきた。


 大学に遅刻しそうになったこと。

 火事を見かけたこと。

 子どもではなく、ぬいぐるみを必死に助けだしていたこと。

 次の瞬間気付くと、少女に引っ付いていたこと。

 『姫様から離れろ!』などと言われ、槍で殴られたこと。

 そして『牢屋へ連れて行け』…………。


「ってことはそうか、あの子が『姫様』だったのか……!」

「は? そういやお前、さっきの牢屋番に『姫様に手を出した』とか言われてたな?

 どういうことなんだよ?」


 うむむ、おれ自身まだ事態を理解してないところがあるから、説明しづらい。


 でもそれならそれで、おっさんに話すことが理解に繋がる可能性もある。

 こんな話聞かされても「はぁ何言ってんのコイツ?」となるだけの可能性もある。

 それでも、取り敢えず話すぶんだけ思考の整理が付くかもしれないな。


 今度はおれが話す番のようだった。


「うーん、話すと長くなりますけど良いですかね?」

「ああいいぞ、時間なら牢屋(ここ)にぶち込まれてる限りは充分あるしな」


 変なヤツが来たもんで気になってたからな、ともおっしゃった。

 おれは(おもむ)ろに話し始めた。多少こんがらがってる所もあるけれど。


 それは語るも涙、聞くも涙、近くに生えてるキノコも耳があれば胞子を撒き散らしているであろうレベルの悲しい不幸話だ。

 キノコはどっか行っていいぞ。


 おれとおっさんは、昼を夜を問わず、お互いにお互いの身の上を語り続けたのだ――――――。


 

 

次回、話が大きくうご……くと良いなと思いました。

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