第十八話 : 剣・蛇・重傷人
友人からなぜかPSPVitaを戴きました。何かの景品で貰ってダブったようです。
でも、特にやりたいゲームが見当たらない……私は何をすれば……。
「――――やめて下さい、おれは無実なんです!」
「なんだいきなり!?」
叫んでがばあと起き上がってみれば、どこかの建物の中にいた。
頑丈な石造りの部屋だ。
そして横から野太い声でリアクションがあった。
驚いてそちらを向く。
顔に大きな傷跡があるクマのような男と真正面から目が合った。
「く、クマーーーーーー!!」
おれはまた叫んだ。
どこぞの軽巡洋艦のように叫んだ。
そして叫ぶと同時に自分が上裸な事にも気付いた。
「落ち着けよ! ほら俺だ、グリーンベアだよ!」
「うわああああ、クマがしゃべっ」
「落ち着けって!」
「しかも服が!? やめて下さい、そんな同人誌みたいな」
「うるせえ!」
何かを顔に投げ付けられる。
モロに鼻先にべちゃりとヒットした。
「わぷっ!?」
顔から剥がしてみると、濡れタオルだった。
「それで顔拭いて目ぇ覚ませ、あと首な」
「あ、グリーンベアさんでしたか」
「気付くの遅いわ!!
お前、寝起きメチャクチャ悪いのな……」
そして剥がしてみてよくよくタオルを投げた相手を見れば、ベアさんだった。
熊のような大男ではなく、ホントにクマさんだった。
「あんまり叫ぶと、また傷口が開くぞ?」
「傷……?」
「忘れてるのかよ……。それだよそれ」
ベアさんは面倒くさそうに自分の首の横を指し示して、おれの方も指差した。
指定された場所を右手で触ってみる。
と、首の前から後ろにかけて切り傷が出来ていた。
……。
…………。
「思い出した!!」
「そうか、良かったな」
割と投げやりに言われる。
そうか、そう言えばおれは森の近くでスケルトンソルジャーとか言う敵と戦闘になった後、急行してきた行商さん+ベアさん+フォックスさんに突然冤罪の殺人容疑で捕まえられいたぶられて、アタイは身も心もけがされ――――。
「お前は何を言ってるんだ」
「やば、声に出てた!」
ベアさんに聞かれていた。
モノローグのつもりだったのに完全に喋っていたようだ。
いつの間にかダイアローグになっていた。
「お前あれか、もしかしてそういう願望とかあるのか……?」
「んなっ、あるワケ無いじゃないですか!!」
「だよな、男が趣味とかはもうエドだけで充分だからな」
「エドさーーーーん!?」
ここに来て唐突に予想だにしな……、くは無かったが衝撃の真実を知ってしまった。
……取り敢えずその話には踏み込まないで置いておこう。
首の所に濡れタオルをあてがいつつ、ベアさんに訊く。
「……で、ここは?」
「見て判るだろ、施療院だよ、施療院」
「ああ、確かに」
そういや昨日もここに来たな。
そっか、施療院だったのか。
おれは院のベッドに寝ていたのだ。
削りだしたような大きな石に、柔らかいシーツ代わりの毛布を載せたようなベッド。
傍らにはゼンノ草の漬けられた水桶があった。タオルはここに浸してあったのだろう。
回復薬にもなるゼンノ草、意外と幅広く利用法があるようだ。
傷口に当てていた濡れタオルを戻す。
それから、首を回してみる。
うん、あまり痛みも残ってないし、この感じなら問題は無さそうだ。傷口と言っても、小さく跡が残っている程度。
鏡を見ないと正確な所は判らないけど、まあ重傷ではない。
そんなおれを見て、ベアさんが言う。
「おいヒカリ、立てるか?」
「大丈夫ですって、そもそもそこまでHPが減ってたワケじゃ無いですから」
「そんな事言っててもお前、目を離すとすぐ死んじまいそうだからなあ」
ヒドイ言い様だった。
「ここまでの事は思い出したか?」
「全然!」
ベアさんに諦めたような目で見られた。
ああ、コイツは間違いなく目を離すとすぐ死ぬわ……、という目つきだった。
失礼な話だ。
おれは首元をさすりさすり、実際にあったことを思い出してみた。
ガイコツを倒した後、どうなったんだっけか……?
という事で、以下回想シーン。
ガイコツをぼこぼこにしてなぜかその後穴を掘っていたおれの所に、三人の男達が走り寄ってきた。そして何を勘違いされたのか、取り敢えずとベアさんにゴツい縄で腕を繋がれた。
そしておれ、必死の釈明タイム。
結果、話はすぐ誤認逮捕に落ち着いた。無実を勝ち取ったのだ。
それでも僕はやっていなかったのだ。
そう何度も何度もとっ捕まえられてしまっては人としてヤバい。再犯的な意味で。
行商さんは街で商業ギルドで荷物を置き、冒険者ギルドに報告した時にベアさん達と会って合流、おれの話を聞かされて三人で急いで森近くに駆け付けたそうで。
どんな話をされたらそうなるのか。
……でも、なんとなく想像がつく。
そして、荷車を置いてくるのも忘れてこちらに急行して来た三人。
すると、当の男はシャベル片手に大きな穴の前にぼんやりと立っていて、横には膨らんだ麻袋!
極め付けに、男の方は血まみれ!
これではミステリー漫画でなくとも「!?」となってしまうだろう。じっちゃんの名にかけて。
しかし誤解は誤解、おれはありのままにあった事を話した。事実は小説よりも異なり奇なりである。
すぐにまず切り傷があることを知らせると、行商さんが焦って荷車に置いてあった桶を持って、近くの川に走って行った。
意外と俊脚な行商さんだった。
そしておれは後ろ手に繋がれた縄を持つベアさんに患部にゼンノ草をべたんと当てられながら、前に立つフォックスさんにスケルトンソルジャーとの戦闘をつぶさに話した。
丁度そう、後ろに熊、前に狐と挟まれる格好だ。
別に挟まれたからと言っておれもアニマルに変化するワケではない。
出血も止まったぐらいの頃に話し終えたが、ベアさんとフォックスさんの動物コンビはおれの話に半信半疑だった。
この草原で、今までそのような異形の魔物が現れたことは無く、森から迷い出て来て弱った小ヘビやクモの魔物が精々なんだそうだ。
彼らは周りで事切れているスモールレッドボアの数を見ても驚いていた。単純にヘビの数が多かったのだ。
おれも縄をほどいてもらい、死骸を回収しつつ調べてみた所、確認した数でおよそ8匹だった。
もし生きててこの数のヘビとガチンコになったら、恐らく勝ち目は無かっただろう。
これだけは先に戦って倒してくれたスケルトンに感謝するべきかもしれない。
そのスケルトンソルジャーが居たという証拠だが、骨を含めほとんどの痕跡は倒した時に青い光になって消えてしまった。
だが、現場には凶器であるスケルトンの持ち物、錆びきったロングソードが残っていたためそちらを突きつけた。
また、おれが戦ったガイコツの剣とは別に、草むらの少し離れた場所にもう二本ほど剣が転がっていたのを発見した、という事も述べておこう。
スケルトンは草むらに三体来て、ヘビと戦っていたのだ。
それで、二体がヘビの群れと同士討ちになって、一体がおれと戦闘になった、というワケだ。
要は、おれが漁夫の利を得た形である。
もうこれでベアさん達もおおよその状況は把握したので、森近くのこの場所から撤退しよう、という話になった。
彼らが縄(おれの手をがっちりホールドしていた荒縄)でそこらのヘビを一纏めにメザシの如く首の所で縛っている傍らで、こちらは剣を拾おうとした。
ギルドに報告する際にでも、また証拠として使えるかなと思ったのだ。
しかし失念していた。
おれは武器が持てない事を。
……はい!
カンペキに忘れてました!
『元囚人』の称号を持っている自分は、武器を手に取ってしまうと……。
まあ、ここからはベアさんの話によるものだが。
彼が大きな音を聞いて後ろを振り返ってみれば、半袖短パンの男が空中で回転ジャンプをしていたそうだ。
ベアさんの身長二倍ほどの宙空で体育座りの姿勢で飛んでいたのだ。
おれは武器を手に取るとふっ飛んでしまう体質なのである。
バリエーションこそあれど、確実に弾き飛ばされてしまうのだ。
体質で表現が合ってるかはおれにも判らない。
川から戻って来た行商さんにもそのスペースジャンプもどきはよく見えた。
それはもうシュンシュンシュン……、と回転していたらしい。
この世のものでは無い光景だったそうだ。
そして飛んだ当の男は荷車の近くにビタンと落下し、そのまま流れるように気絶。
皆が寄って確かめてみると、前回りを途中で止めたようなポーズでスヤァしていたとの事。
どう考えても土下座の姿勢だよそれ。
想像だけど、血を多少失った後でそんな事やらかしたから単純に貧血になっただけの気もするな。
まあそれでも気絶には違いない。
……問題は、戦闘とか全く関係ない所で重傷を負っている点だ。
そんなおれを彼らは傷が開いていないことを確認してからおっかなびっくり回収。
荷物と一緒にして荷車に載せて運んだそうだ。
ヘビと錆びた剣三本とおれを荷車にポイして、魔物の増援が来たらやべえと撤退したらしい。
……いや、わざわざ駆け付けて来てしかも街まで運んでくれたのだ。何も言うまい。
別にヘビと一緒くたに輸送されたのはちょっと……、とか。
もう少し人間らしい扱いを……。
とか思ってないよ? ホントだよ?
そうしてケガ人が居ると城門の衛兵に伝えてすぐに通してもらい施療院へと運び込んで、今に至るのである。
「――って感じだな」
「へえ」
「なんで割とけろっとしてるんだよ……」
「あ、運んで戴いてありがとうございました」
「いやそういう意味じゃねえけどな……」
まあ体力自体は回復してたからな。
『元囚人』の現象の方はもう慣れてるし。
ケガなんてしょっちゅうだし。
「そう言えば、他のお二人は?
フォックスさんと行商のお兄さんはどこへ?」
「行商のお兄さん? ああ、マルカンの事か?」
あいつらなら、マルカンは商業ギルドへと報告に戻って、フォックスの方は冒険者ギルドに行ったぜ、と告げるベアさん。
行商さんはマルカンって名前だったのか。
覚えておこう。
どこぞの銘菓みたいな名前だから覚えやすそうだ。
「スモールレッドボアとかスケルトンの剣とかも、フォックスさんが?」
「いや、剣は持ってったが、ヘビは……」
と、奥の方から足音が聞こえた。
すぐに紺色のシスター服を着た女性がやって来る。
おれの受けたクエストの依頼主でもある、エマさんだった。
「あら、もう起きてらしたんですね!」
そう言って、おれに何やら布を渡す。
受け取って広げてみると、おれが着ていたシャツだった。
あったはずの血の染みがキレイさっぱり取れている。
「おお! ありがとうございます!」
「エマさんが洗濯して、しかもヘビの腑分けもやってくれたんだぜ?
感謝しろよ?」
何故かベアさんが誇らしげに言う。
いそいそと服を着てから、もう一度お礼を言った。
「色々とお世話になっちゃったみたいで……」
「いえ、助かったのはこちらの方ですよ。また薬草を取ってきて戴いて。
しかも危険な場所に赴いたと聞きました」
ある程度の説明はベアさんがしたらしい。
おれが石ベッドでグッナイしている間に話してくれたのかな。
言いつつ、少し心配そうにおれの首の傷を診るエマさん。
触れられた指が思いのほか温かくて、若干ビクッとなってしまったのは仕方ない事だろう。
「ふむふむ……、ここにいらした時にも見ましたが、傷自体は治りかけているようですね」
「ええ。元から気絶してたのはおまけみたいなもんですからね」
横で、おまけの気絶って何なんだよ……、という声が聞こえるが気にしない。
「そういや、ヘビの腑分けって?」
「おう、運んで来た赤ヘビだけどな、エマさんに解体して貰ったんだわ」
「勝手でしたが、きっと施療院へ持ってきてくれたものだと思ったので……」
なるほど。
元からそのつもりだったからな。おれとしても何も問題は無い。
「もちろん大丈夫ですよ。ゼンノ草もこちらに全て納めるつもりでした」
ベアさんを見てみると、彼も頷いていた。
同意見のようだ。
まあ、使い道と需要がある所に渡した方が良いだろう。
その点、治療薬や解毒薬になる施療院ならばベストだ。
「助かります、ではまた依頼書に認め印を押させて下さい」
「はい」
お祖父さんから借りた半ズボンから、依頼書をひょいと取り出す。
渡しながら、気になった事を訊いてみた。
「昨日に続けてまた薬草が要るってコトは、そんなにケガ人が多かったんですか?」
判子を押す手を止めて、そうですね……、視線を右上の方へ向けて考えこむエマさん。
「今はもうそれ程でもないですね。ただ……」
昼過ぎ頃はかなり院に運ばれてくる冒険者が多かったらしい。
確かに今は周りを見てもベアさんくらいしか他の人は居ないようだけど。
そのベアさんが口を開く。
「昼過ぎからはギルドから幾つか『危険区域』の発表が出たからな。魔物が出て危ねえ所は立入禁止になったお陰で、ヘマしてここに来るヤツが減ったんだろ」
「へえ……」
午前に行った農場とは名ばかりのベジタブルワンダーランドのように、他にもあんな状態になった場所があったのか。
……今日一日でそこまで色んな場所が危なくなったのか?
「いや、あの森近くも普通に立入禁止になってたんだが」
「へえ」
「反応薄いな!!」
「知ってて行きましたからね」
「そこは行くなよ!?
お前まだランク『銅Ⅰ』だろーが!」
初心者どころか昨日ギルド登録しただけだろーが! とツッコみ荒れ狂うベアさん。
本物のクマだったら大木とかをめっきめっき握り潰しそうな勢いだ。とても恐い。
「ま、まあまあ、それでもヒカリさんが薬草を集めてくれて助かったのは間違いないですから……」
シスターさんが柔らかく諌める。
クマ顔の大男もそれを聞いて、まあそうなんだが……、と黙った。
どうやらこのグリーンベアさん、エマさんには弱いらしいな。
一瞬で麻酔銃で撃たれたように沈静化してるし。
なぜ例えがさっきからクマそのものなのか。
と、話が逸れてしまったので戻そう。
施療院が忙しいと聞いて、もう一つ思った事を提案してみる。
「それでエマさん」
「……? 何でしょうか?」
「ヘビの事なんですけどね、昨日貰ったみたいな追加報酬は今回は無しで大丈夫ですよ」
話の流れが強引だったか、ちょっと驚いたような顔をされる。
「そんな、そういう訳には」
「良いんですよ、元からおれが倒したやつじゃ無いですし、施療院も大変でしょうから」
正確には二体は違って、自分が倒したヘビではあるけれど。
まあ些細な誤差だろう。
ベアさんにアイコンタクトを送ると、また彼も一つ頷いてもちろんそれで良いぜ、とフォロー。
彼が良いのならばフォックスさんも構わないのだろう。行商のマルカンさんには後で会ったら伝えておこう。
そう言われて、彼女は暫く考え込んでいたが、
「では、ツケという事にしておきましょう」
……なんだか変な感じに話がまとまった。
まあ、それで納得されるのなら良いかな?
あまり負担にするつもりは無いんだけど。
そうして依頼書にハンコを押してもらい、紙を返してもらった。
前回と同じ流れなら、ギルドの方に行ってこれを渡せばクエスト終了だ。
治療代はと言ったら、流石にそれは戴けませんと言われた。
昨日と同じで大した治療もしてないし、との事。
「それじゃあおれは失礼して、ギルドに行きます。
早く食堂にも帰らないといけないし……」
嵌め込み窓から外を見ると、もうだいぶ陽が落ちていた。
結構長い間寝てしまっていたのかもしれない。
早く帰らないとフランさんに、怒られる!
……完全に子どもの発想である。
「なら俺もフォックスと合流するかな」
ベアさんも腰を上げる。
そして二人して装備を回収して、施療院から退出した。
と、ドアを開けて出てみれば、やはり外は夕暮れ時と言って良い程だった。
「あれ? なんだか露店の数、少なくないですか?」
昨日はこの時間でももうちょっとガヤガヤしてたような気が。
後ろでドアを閉めたベアさんがそれに応えた。
「そうか? まあそういう日もあるだろ」
適当だった。
「それよりお前、やるじゃねえか」
「はい?」
「見直したぜ?
ってか初めて評価したかもしれん」
全く話が伝わらないが、おバカ扱いされているコトだけはひしひしと伝わってきた。
やだなあ、これでも大学生で二十歳ですよ?
「一体なんのコトですか?」
「ん? ああ、エマさんだよエマさん。
お前、ヘビの素材譲ったろ」
「……ああ!」
その話か。
あれは確かにちょっと良い事をした気がする。
彼もそこは評価してくれたのだろう。
「他の所に売ってもある程度金になるのに、ああもさらっと言い出せるなんてなあ……。
そこまで金持ってるって訳でも無いだろうに」
資金にして良い鎧でも買えよ、と付け足すベアさん。
「……そうか! そんな考え方もあったのか!」
「バカヤロウ!? むしろ何でそっちを思い付かない!?」
「いや、気付いたのは譲る譲らないの話じゃないですよ」
「…………じゃあ何だ?」
流石のおれでもそこまでおばかさぁんでは無い。そんな事ぐらいは思い至ってたさ。
至った上で、あの場面ではああするのが正解だと導き出したのだ。
今判ったのはそっちではなく、
「おれも鎧なら装備出来るんですよ!」
勝ち誇ったように上を向いて叫ぶ!
ついでにガッツポーズ。
「ああ、俺はお前が想像以上のバカだと気付いたぜ!?
つかそのカッコで戦い続けるつもりだったのかよ!!」
取り付く島も無かった。
そりゃそうだ。
というか、さっき上がったはずの評価がだだ下がりだった。
「まあ、お前もエマさん狙いじゃ無いと判っただけ良しとすっか……」
「狙い……?」
ベアさんの狙いと言っても、サケとかハチミツといったエモノ的な話では無いだろう。
つまり、そういう事なのだろうか?
意外と言えば意外……かな?
でもよく考えると、あのシスターさんを呼ぶときは必ずさん付けだし、他の人物に対するような投げやりな感じはない。
施療院に何かに付けて来ているのも彼女に会うため……、とかかも知れない。
もしかするとフォックスさんと別れて施療院に居たのも、院のシスターさんに会いたいがための口実だったり?
「いえ、それは無いですよ」
別にどんな形であれ人の恋路を邪魔する趣味など無いので、先手を打っておく。
決してエマさんに興味がない、と断言はし辛いのだが、そもそもおれはそげな浮ついた事に拘う余裕は持てないのである。
生きるために精一杯だから!!
その日の糧を得るのに必死だから!!
しかしおれの言葉をベアさんはズレて捉えたようで、
「何ぃ!? エマさんに魅力が無えってのか!?」
なんだか話がおかしくなってきた。
こじれてる、内容が悪い方にこじれてるよ!
「いや、そんな事言ってな」
「畜生仕方ねえ、俺がヒカリにエマさんの良さを教えてやるよ!」
「ええええ」
教示という名目でベアさんのエマさん自慢が始まってしまった。
どうみても自分が話したいだけだ。
「あれは俺が冒険者になって『銀』ランクに上がったばかりの頃だ……」
そうして夕暮れの通りを歩くこと10分。
「……てな訳でな。俺の中ではもうその頃から彼女はもう天使、いやティリア様と同じぐれえの女神であって」
「やっぱり人通りが少ないな……」
「聞けよ!」
ベアさんの惚気けまがいの話を聞き流して呟くと、すぐに気付かれ怒られた。
別に話を聞くのが面倒くさかったワケではない。
10分の長話に飽きたワケでも無くはないけど、それも重要ではない。
――――ただ、大の男が頬を赤らめたような表情をしているのが見るに堪えなかっただけだ。
だいぶ正気度が下がりそうで直視出来なかった!
端的に言ってキモかったんだ!!
おれが話に興味が無いと知って興冷めしたのか、ベアさんはこちらの話題に乗っかってきた。
「……もしかすると昨日は休み明けの『火』の日だったからよ」
「ん?」
「それが明けて今日が『水』の日だから人通りも落ち着いてるんじゃねえの?」
むしろ昨日が人多すぎたんだよ、と締める。
……ん?
どういう事だ?
火の日? 水の日?
昨日は月曜日だったよな?
「今日は火曜日じゃ無いんですか?」
「カヨー? なんじゃそりゃ?」
あっ、そうか!!
そこでようやく気付く。
うっかり元の世界、地球基準で考えてしまったが、あちらの暦とこっち、エリネヴァスの暦は違うのか!
またすっかり『異世界と元の世界との差』について失念していた。
すぐさま話を修正。
「すみません、異国から来た所為でこっちの習慣をあんまり知らないんですよ」
「そうか?」
ベアさんに変な顔はされたが、特に追求しようとは思わなかったようだった。
変な顔についてはデフォルトのベアさんの顔だと思えば問題ないだろう。
「なんか失礼なコト考えてねえか?」
「なぜバレたんですか!?」
「変な顔してたからな」
おれの方がおかしな顔付きをしていたと発覚した!
……デフォでおかしい、というワケでは無いと信じたい。
悲しい現実に涙を堪えて聞いてみると、こちらの曜日とか日付は次のような形になっているようだった。
まずは問題になった曜日だが、なんとこちらでは6日間で一つのサイクル、一週間になっていると判った。
それぞれ『火』『水』『風』『土』『闇』『光』。
必要な時には『〜の日』と呼び、これらが順ぐり順ぐり回って来るんだそうだ。
月曜や金曜の名前すら出てこなかった。
なんでもこの週の名付け方には由来があり、
「この国を造った聖女でもあるティリア様がな、最初に火の魔法を使って魔物達から人々を守り、次に水の……」
まあそういう事らしい。
元の世界にも由来はあったようだし、こちらでも似たような名付け方がなされたのだろう。
光の日なんかは、皆休めみたいな習慣になっているようだし。日曜と同じだ。
……なんだか光が怠け者扱いされてるみたいだ。
なまじ名前が身近にありがちなやつだと、こういう事態が良く起こるから困る。
話が逸れてしまった。
次に、時間。
一日は28時間で区切られている。
……らしい。
「…………。」
「どうした、考え込んじまってよ」
「いえ……」
海外の『時』から見た日本の『一刻、二刻』という数え方の違いだけかも知れないけど。
もしかしたら。
「ええと、一年間は何日ですか?」
「ちょつと待てよ、算学は苦手なんだが……。
確か、300? 310日だったけな……?」
「あやふやだ!?」
「うるせえ、学者や商人でもなきゃこれで十分なんだよ!!」
いやそれもどうなんだろう。
しかし断言されてしまうと何も言えなかった。
ううん、必要最低限は計算出来た方が良いと思うけどなあ……。
で、だ。
地球の365日に24を掛けて、それをこちらの一日、28で割ってみると……。
おれはちょっと歩くのを止めて、下の地面を使って筆算してみる。
「こっちの一年は……312日か!
それなら話と辻褄が合ってる!」
ベアさんの言う数字とおおよそ合致していた。ついでに言えば、一週間の時間数も24×7と28×6で同じ値になる。
つまり。
この世界は、元の世界よりも単純に『一日が4時間ぶん長い』可能性がある!
そうなると、日付は惑星の公転・自転周期で決められる物だろうから、この世界は地球とは別物、なーんて感じの考え方の飛躍も出来る。
自転速度や惑星自体の大きさが変われば、時間の定め方も変わるからだ。
……ただまあ、そこら辺はこんな道端で進める話でも無いかな。
重要なのは、一日が日本、いや地球よりも長いこと、それに加えて6日=一週間になっている、ってコトぐらいだろうか。
そこまで結論を出してから、座り込んで計算していたのをやめ、立ち上がった。
「よし! お騒がせしました、もう平気です」
「あ、ああ……」
ベアさんが目を丸くしていた。
そして尋ねられる。
「ヒカリお前、一体何者なんだ?
こっちの事なんにも知らねえクセに妙な所で知識はあるわ、今の話もすぐに判っちまうわ……」
う、やっぱりそう来るか。
うーん……。
今までは焦ったり、必死に誤魔化したりしてたから相手に疑われてしまった。
ここは堂々と押し切ろう。
なぜなら、異国から来たコトには間違いないのだから――――!
「そうですね、おれの事は、さすらいの異国人とでも呼んで下さい」
フフ、と不敵にニヤついてみる。
良いねこの、『謎の転校生』みたいな感じ!
悪くないね!
「何言ってんだお前」
ばっさり切り捨てられた。
「まあ、深く聞く気は無えけどよ……」
「さいですか」
「あ、変人ってことか?」
「ひどいや!!」
と、ぐだぐだしつつ歩いていると、ようやくギルドの前に着いた。
タイミングを見計らったかのように、ギルドホールのドアが開く。
「お? なんだ、お前らか」
出て来たのはフォックスさんだった。
ベアさんもおう、と片手挙げて挨拶。
「ヒカリの方は快復したみてえだな」
「おかげさまで、もうムキムキです」
「ベアの半分くれえしか横幅無いのに何言ってんだ……。
ほら、これな」
おれにぽいと巾着袋を渡す。
昨日と同じく、クエストの報酬金が入った袋だ。
ちなみに最初の袋は今もポケットに入れており、めでたくおれの財布替わりになっている。
「これは、もしかして今回の採集依頼の?」
「そういうこった。受付のヤツに報告したら、すぐに渡してくれたぜ」
「おお……!」
ギルド内でもある程度顔が知れてるから、そういう事も事後承諾で出来るとの事。
やはり彼らは割と有名な冒険者なのかも知れない。
一応了承を得てから、中身を開けて確認してみる。
開けてみると、折り畳まれたメモが真っ先に目に入った。
あのメガネ係員さんからのメモだ。
報酬金額、依頼内容、フォックスさんに渡す旨が箇条書きで事務的に書かれていた。
そして最後に、
『今後、魔物と遭遇したら無理せず逃げて下さい。絶対に逃げて下さい』
と端っこに書かれていた。
……見える、見えるぞ!
メガネさんがメガネをくい……っと持ち上げ、こちらを反射で光るメガネが向く様子が!
……今後はもっと気を付けよう。
まあ、今回はやむなく危険区域に入ってしまっただけ。
おれだって別に残機があるわけでは無いし、積極的に危ない所に行きたくなんかない。
ちなみに報酬額はきっちり合っていた。
そのことをフォックスさんに告げると、彼はベアさんと相談を始めた。
「ならもうギルドに用事は無えかな。マルカンはどうした?」
「ああ、あいつは商業ギルドに戻った」
「了解。飯でも行くかな」
「だな」
短いやり取りであっさり意思統一が出来ている。
お互いの信頼度の高さが伺える一幕だった。
決して「ひゃあ、どう⚪︎つの森の会話シーンみてえだ……!」とか考えてたワケではない。
「じゃあヒカリ、お前も食堂だろ?
一緒に行こうや」
いきなりこっちに話が来た。
なるほど、今日もウチに食べに来てくれるのか。
……いや、別におれの家ではないけど。
ベアさんに言う。
「良いですけど、まだおれ料理できませんよ?」
「え、あそこで働いてたのか?」
「働いてませんけど」
「じゃあなんでお前が料理しようとしてんだよ!?」
ってかヒカリお前、なんで食堂に住んでるんだよ、と根本的な話を横からフォックスさんに尋ねられる。
それはおれも聞きたいです、と言ったらとても微妙な顔をされた。
クマ・キツネ揃って微妙な顔付きだった。
どうみても残念な子を見る目付きだ。
「まあ良いや……おっと、これも渡しとくわ」
忘れてたのを思い出したのか、フォックスさんが手に持っていた物をおれに渡す。
なんだろう?
持ってみると、何やら布に包まれた細長いものだった。
布を外してみる。
「一応ギルドの方でもスケルトンの話は聞いたから、もうそれはそちらで処分してくれて構わないってよ」
「え」
スケルトン、処分と聞いて思い当たるものなんて一つだけだ。
案の定、布の中身は錆びたロングソードだった。
……柄を持って確かめているから間違いない。
「うわああああほらすぐ手離すから許しずんっ!!」
言い終える前におれのおれの体は、重力から解き放たれ天空へと飛翔した!
カッコ良く言ってみたが、まあぶっちゃけ『元囚人』で吹っ飛んだだけだ。
今回はエビ反りだった。
そのまま慣れから来る落ち着きでギルドの屋根から出ていた雨どいをキャッチ、勢いを殺してから地面に着地する。
着地の際にも膝をクッションに、柔らかく曲げるのを忘れない。
ふう……。
今回は難易度が低くて助かったな。
そして、後ろの二人に向き直った。
なんでも無いように言ってみる。
「さ、早く食堂に行きましょう」
「なあヒカリ」
ベアさんが静かに言う。
「はい?」
「やっぱりお前、間違いなく変人だわ」
エドさんはホモ。
ではまた次回!
ご意見ご感想お待ちしております!




