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第十七話 : バールのようなもので殴られたもの

頼りになるアンドロイドの相棒とか、乗り手に皮肉を言う人工知能が搭載されたクルマとか。


こんにゃくは大好きです。

 


 一応アドバイス通りに気を付けて、短パンスタイルなりに気を張って平原を歩いてみたものの、群生地にたどり着くまで魔物一体とも遭遇しなかった。


 アクシデントと言えば、周りをキョロキョロし過ぎて足元の小石に躓いたくらいだ。


 まあ、見晴らしが良いから出現してもすぐに遠くから見えるんだけど。


 つまり、いきなりフィールドを歩いてたらデレレレレェェンとかショッキングな音が鳴って目の前にモンスターの群れが現れた、とかなるハズも無いのだ。


 ……地面からモゴモゴと湧いてでも来ない限り。


 まあ、そういった敵が出るのは砂漠辺りと相場が決まっている。

 が、ここは異世界ではあってもゲームでは無いのだから、どんなヤツが現れてもおかしくない。


 さっきも行商さんに言った通り、危なくなったり嫌な気配がしたらすぐ逃げよう。

 即反転して、『ダッシュ』も使えば大抵の魔物からは逃げられる気がする。


 でも。


 背中の袋に入れた、二体のヘビの死骸の事を思い出しつつ考える。


 良く考えるとさっきの橋では、ちょっと事故はあったものの結構あっさりとヘビを倒せてたな。勢いも多分にあるだろうけど。


 もしかしたら、レベルが上がったお陰だろうか。


 あるいは、STR(物理攻撃力)AGI(素早さ)が上がったために単純に戦い易くなってる?


 他にも、戦闘に多少慣れてきてる可能性もある。


 つまり……。

 おれ、結構強くなってたり?


 …………ふへっ。


 ……。


 い、いやいや!


 いやいやいやいや!!


 誰も見ていないハズなのに、おれは首をぶんぶん振った。


 ここで増長しては、それこそ慢心ってえもんだ!


 ちょっと脳内口調が江戸っ子になった。


 何事もちょっと慣れてきた頃が一番危ない、とどっかの本で読んだことがある。

 最初は十分張り詰めていた気が慣れで緩み、その所為で油断してしまうのだ。


 このままでは油断してあっさり身長の半分の高さの階段を踏み抜いたり、コウモリのフンに当たって死んでしまうだろう。


 初志貫徹。


 最初に決めたルールを最後まで守ろう。

 おれの決めた、譲れないラインは一つ。


 そう。


『ちょっと嫌な予感がしたらすぐ逃げる』だ。


 ……かなり情けないマニフェストな気がする!


 だが、だけど、この荒ぶるモンスター達が跋扈する異世界で生き延びるにはこれしかないんだ!


 そうしておれは涙無しには語れない悲壮な決意を胸に秘めて、さっき魔物が出たとは思えないほど平和で穏やかな平原をてくてくぼんやりと歩く。

 割とのん気だった。


 橋までヘビが来てたって位なら、もっとここまでの道のりでわんさか魔物の群れが出て来てもおかしく無いと思うんだけどなあ。


 今のところ橋での戦闘を最後に、一体の姿も見かけていない。

 逃げて行ったヘビ一匹すらも見かけていないって事は、完全に森に逃げ帰ってしまったのだろうか。


 もしくは、どこかで待ち伏せしてる?

 そして、頃合いを見て群れで出現するとか?


 これがウワサの出待ちと言うヤツか。


 いやー困っちゃうなーそんなのー。

 おれも人気者になっちゃったなー困っちゃうなー。


 ……本当に、困るなあ…………。


 と、地味に警戒を強める間に、当のゼンノ草群生地に着いてしまった。

 少し足が竦んでしまうのも仕方の無いことだろう。


 ここまでは平原で見晴らしが良かったが、この、森の前の草むらは以外と丈の高いススキのような植物も点在するため、途端に隠れ潜む場所が多くなる。

 身を隠蔽するには最適の場所だ。


 敵が待ち伏せするとしたらここだな。

 孔明でなくとも思い付く作戦だ。


 おれは足元の安全を確認してから、地面にスッとしゃがみ込んだ。

 その姿勢のまま、目を鷹のように細めて少し離れた所にある群生地を観察する。

 じっと注視する。


 赤いヘビの色は目立つ、隠れていてもここからならバッチリ見えるハズだ……。


 そのままにじりにじりと群生地に近づいて行く。が、特に向こうで動きは無い。


 ……くっ、スニーキング対決ってことか!


 スニーキングと言えばダンボールだ。これは譲れない。

 まあ、ヘビさんは相手の方だけど。


 しかしダンボールがなかったため、背負っていた麻の袋を被ってみた。

 音を立てずに背中から袋を外し、頭から被る。


 …………。


 ……。


「前が……見えない!」


 何やってんのおれ!


 すぐさま頭をすっぽり覆う袋を外してセルフ盲目状態を解除した。

 どう考えてもデメリット以外思い付かない。


 そもそもこんなだだっ広い所でダンボールが一つあったとして、見逃してくれるヤツなんて居るワケないじゃん!!


一瞬で警戒マークが出て敵の兵士の増援が来るわ!!


 あと袋じゃ肩から下が入らなかったよ!

 危うく人差し指に目のマークが目印の宗教団体に入ってしまう所だった。


 多分傍目から見ればそこには『袋を被って蹲っている不審者』が鎮座していたハズだ。

 こんなの気に留めない方がどうかしてる。


 更に思い出した。

 ヘビって確か匂いと熱で獲物の場所を嗅ぎ取るって聞いた覚えがある。ソースはテレビ。

 視覚には頼ってないんだそうだ。


 つまり、相手がシャベルを担いだ半袖短パンの変態でも、ともだちスタイルで麻袋かぶってにじり寄ってくる変態でも関係無いのだ。


 なんでおれ、こんな所で袋といちゃこらしてたんだろう……。


 いたたまれなくなって立ち上がった。

 麻袋を背負い直す。

 そのまま徐ろに競歩クラスの早足で歩き出す。


 いやあ、もう動いてる気配も無いし!


 それなら一気に群生地に行って一気にゼンノ草を採取して逃げた方が早い気がするんだ!


 ヒットアンドアウェイは、寧ろ隠密行動の雛形さ!


 そう、堂々としてれば向こうさんだってガクガクと恐れを為して逃げるかも



 ぐにゅっ。



 はい踏んだ!

 今イヤな感触踏んだよ!!


 おれはガクガクと恐れを為して地面を見下ろした。

 すると。


「え……?」


 予想通り、ヘビを踏んでいた。


 赤い体のヘビと言えばおれは一つしか知らない。

 スモールレッドボアだ。


 でも、様子がおかしい。

 端的に言えば、動いていない。

 おれが踏んでも、何の反応も示さない。


 ――――死んでいたのだ。


 驚きで固まっていた足を、ヘビから退ける。

 すると全身が観察できた。


 どうやら見た感じ、潰されたとか斬られたとかでは無いようだ。

 むしろ棒や、もう少し細い物で殴殺されたような傷が体中に残っていた。


 しゃがみ込んで更に詳しく調べてみたが、他に毛色の異なる傷は無い。


 つまり、被害者はバールのようなもので殴られたため死亡した、との検死結果が出ました。

 異世界のバールのようなものってなんだ。


 ただまあ、死んでいるならそれ以上害は……って!?


 周りを見渡してみると、イヤでも辺りの異様さが判ってしまった。



 同じような傷跡を持ったヘビが、何体も何体も草むらに転がっている。



「他の冒険者が討伐に来たのかな……?」


 妙な不気味さをかき消そうと、思わず独り言が口をついて出る。

 そうだったら良いな、という期待も込めて。


 確かにその可能性はある。

 昨日おれがギルドに報告した結果、冒険者ギルド側がクエストとしてヘビの討伐依頼を出した、という可能性だ。


 でも。


 それが実際なら、メガネさんはおれにそういう手筈になっている、と説明するんじゃなかろうか?

  強引に受注した経緯があるとは言うものの、あのメガネさんが連絡漏れをするとは考えづらい。


 そしてもう一つ。

 今ようやく不気味さ、違和感の正体が薄っすらと判った。


 あまりにも、現場がそのまま過ぎるのだ。


 昨日のおれなら、ヘビを倒した後、どうしていただろうか。

 身を回収して、素材として売ったんじゃ無かったか?

 そう丁度、今袋に入っている橋で戦ったヘビの死骸のように。


 普通の冒険者だったら、お金になるものは取っておくと思う。

 討伐依頼なんてあるのだとしたら、その討伐を証明するための部位を切り取っておく必要があったりするんじゃないか?

 例えばヘビだったら牙を切り取って『魔物を倒した証明』にするとか。


 討伐依頼なんてまだ受けたこと無いから全部推測だけど。


 ……まあいいや、ささっとゼンノ草を集めて離脱しよう。

 おれは草むらの端の方へ歩いて行った。


 そこには、青く光る葉脈が目印の草、ゼンノ草が大量に生えている。


 きっと施療院の方では薬が足りなくなってて、今にも傷だらけの冒険者達で暑苦しくひしめき合って(イメージです)いるだろう。エマさんも困っているはずだ。


 おれは慈愛に満ちた気持ちで草をむしり始めた。

 ボランティアの心だ。

 ノブレスオブリージュだ。それは違うか。


 なんとなく良い事をしている気分になってきたな。

 不安も薄まってきた。


 さらに鼻歌まで歌ってみる。

 思い出が数千万以上ある、例の歌だ。

 結局最後まで博士が出てくるステージは難しかったなあ……。


 ようやく元の調子が戻ってきたな。良いことだ。

 思考が単純とかバカっぽいとかそんな事は言っちゃいけない。


 調子と言えば、そういや午前に農場で『智識の眼(ワイズマン)』を起動した時の挙動が、というよりも受け答えが変になっていたな。


 変になったと言うかなんというか……。


 人間臭い反応をしたというか……。


 ……そもそもワイズマンって何なんだ?

 ステータス・アイって名前じゃ無いのか?


 手持ち無沙汰だし、ついでに調べてみよう。


 おれは青い草をプチプチやりつつ、目に意識を集中させた。

 もちろんあの決めポーズはしない。

 ああいうのは出し惜しみしてこそ輝くものだ。

 ジャガイモに使った時も輝いていたとは全く言えないけど。


 無意味にサイバーな駆動音を立ててワイズマンが起動する。

 ヒュゥンとかピシピキピキ、みたいな感じだ。


 すぐに見慣れた画面、タイトルロゴが表示されて……。


 《世の中には、聞いてはいけない事と》


 …………。


 《知ってはいけない事があります。》


 ……。


 《さて、何のご用でしょうか?》


「こわっっっ!!」


 物騒なメッセージが表示された。


 何これ!?

 なんでおれ、自分の目に脅されてるの!?


 《何の、ご用でしょうか?》


 さらにメッセージが表示される。

 ご丁寧に区切りまで付けてきた。脅迫だ。


「いえ……あの、ステータス表示をお願いします」


 そしておれは脅しに弱かった。

 押しや脅しに屈しやすい事におれの中で評判のあるおれだ。


 自分の目、体の一部に負けるという歴史的瞬間であった。

 歴史は歴史でも黒歴史なのは間違いない。


 時間を経ずにすぐさまステータスが表示される。

 HP(エイチピー)が2回復して最大値に戻っていた位で、他に変化はなかった。


 体力についてもSP(スキルポイント)と同じように、時間経過で回復するのだろう。

 まあ、回復速度を比較すると、HPの方がかなり遅いみたいだけど。

 それこそ傷が自然に塞がる位の速度だ。

 そこは現実(?)基準なのかもしれない。


 しかしやっぱりワイズマンの言動が昨日よりおかしいような……。


 《アナタに言われたくありません。》


 しっ失礼な!

 おかしいっていう意味が違うぞ!


 《おかしい事自体は認めるんですね……》


 呆れられた。

 というか心を読まれていた。

 というか会話応答が成立してしまっていた。


 これはマズイ、迂闊なコト考えられない!


 何か言いたそうにしている相手を無視して訊く。


「取り敢えず、おまえの事はなんて呼べばいい?」


 多少間が空いて。


 《そのままワイズマンで結構です。》


 なるほど。

 だから起動した時に毎回ロゴで主張してたんだな。

 なぜ突如Si○iの強化版のようになってしまったのかは判らないけど。


「じゃあこれからもそのままワイズマンと呼ぶ、……よ?」


 言いかけて、辺りの変化に気付いて話が止まる。

 顔を上げて、変化の正体を探す。


 遠くの方から微かに、妙な音が聞こえて来ていたのだ。

 何かが擦れて軋むような音。


 ギッギッギッ……、と規則的に聞こえてくる。


 森の方からだ。

 こちらからは暗がりでよく見えないが……。


 ダメ元で聞いてみた。


「ワイズマン、この距離から『解析(スキャン)』とか出来ないか?」


 モンスターの状態等をすぐに把握できる、スキャンならあるいは……。


 《無理です。》


 にべも無かった。

 まあ、距離が遠いし物が見えていなければ、調べる物も調べられないだろう。


 《今は無理です。》


 ……今は?


 すると、今後機能が増えたり強化される可能性もあるのだろうか。

 さらに謎の仕様だった。


 いや、今は何が迫って来ているのか確認しないと……。


 と、森から、音を立てていた物の正体が暗がりから出てきた。


 白い人だ。

 こちらに向かってひょこひょこと足を動かし、近づいて来て



 いや違う。



 一瞬で自分の勘違いを否定した。


 人ではない。


 相手は人ではない。


 人の形をしてはいるが、全く違う!


 おれが見た森から出てきたモノの姿、それは人に酷似したものだった。

 しかし似ていた、というだけだ。

 体が、骨で出来ているというだけだ。


 ――それ以外は何も無かった。


 唯の組み上げられた骨がこちらに真っ直ぐ走って来ている。

 人体模型、骨の標本がガシャガシャと足を動かして駆けてきている、と言えば伝わるだろうか。

 何かが軋むような不気味な音は、アレが動く時に骨が擦れて立てていた音だったのだ。


 その骸骨が片手に剣をぶら下げて、おれに狙いを定め迫って来ていた。


 背筋が一気に冷え、粟立つ。


「な、うわあぁぁああ!!」


 危うく恐怖に竦みそうになった。


 落ち着け!

 落ち着け!


 落ち着けよ、よく見れば、おれはアレを知ってる!

 ゲームではお馴染みの、『スケルトン』とか『ガイコツ戦士』と呼ばれるモンスターだ!

 魔物なんだ!


 知っているのならば、まるっきり不気味って事は無い!

 幾らでも戦う方法は有る!


 そう必死に思い込むと、多少相手を観察する余裕が出来た。

 ゼンノ草の満載された袋を地面に置き、震えていた手を無理やり抑えこんでシャベルを背中から引き抜く。


 そうして正中にシャベルを構え相手を見据える。


 相手の攻撃方法は間違いなくあの剣だ。

 走りながら片手でぶらぶらと持っている長剣ロングソード

 遠目で見た感じサビが目立ち、刃の部分にまで欠けている所もある。


 それでも武器は武器だ。あの錆びた剣で攻撃されたらただでは済まない。


 もう骨のヒビ割れが目視出来る所まで相手が迫って来た。

 スケルトンが剣を肩の所まで振り上げる。


 叫ぶ。


「ワイズマン、『解析(スキャン)』を頼む!」


 《了解。》


 この時ばっかりはワイズマンも真面目に動いてくれた。

 すぐに相手のステータスが判るだろう。


 こちらはこちらで、相手の攻撃に備えた。

 まずは初撃は様子見をして……。


 すると、剣はリーチが長いから回避は難しい、防御した方が良いかも。


 おれは目前まで肉迫した、いや骨迫したスケルトンに向けてシャベルを両手で構える。

 あのまま剣を振り下ろすなら、シャベルの胴と交差する形。

 金属同士なら、あの錆びた剣に打ち負けるハズが……!


 しかし、それは悪手だった。

 すぐに後悔することになる。


 予測通り振り下ろされた剣。

 ガギンと金属が削れ合う嫌な音がして、シャベルで受け止めた。


 だが、予想通りだったのはそこまで。

 相手の力が強過ぎたのだ。


 一気に鍔迫りのバランスがこちら側へ崩される!


「っぐ!?」


 転倒、態勢を崩して草むらに背中を無様に打ち付けた。

 のし掛かられ、相手にマウントを許してしまう。


 それでもまだ敵の攻め手は弱まらず、シャベル越しの鉄剣はギリギリとこちらに押し付けられる。

 切っ先がおれの顔に叩き付けられそうなのを、辛うじて防いでいるような状況。


 それも徐々に押され、近付いたボロボロの剣先が目にまで刺さりそうになった。

 なんとかシャベルで剣筋を横に払う。


 どずっ、と音がしておれの顔の横側に倒れていたヘビの死骸に、ガイコツのロングソードが叩き付けられた。


 ガイコツはまたどことなく機械的な動作で、同じ様にヘビに当たった剣を再度振り上げた。


 また、あの攻撃が来るのか!


 心臓の鳴る音が頭にうるさく響く。

 骨のクセに、何でそんなに力が強いんだよ!


「こんのっ、……離れろっ!!」


 思い切り左足を振り上げる!


 狙い違わずスケルトンの大腿骨少し上をよれよれのスニーカーが蹴り、相手は態勢を崩した。


 振り上げた骨の腕がぐらつく。

 それを見逃さず、再度足を縮めて、


 ――今度は肋骨の辺りを足の平で叩き飛ばす!


 ドンッッ!!


 と、そこはやはり骨だけの怪物、身体は軽かったようで簡単に振り払うことができた。

 相手の体がぐっと上に浮き上がる。完全にバランスを崩したのだ。


 必死の抵抗が功を奏し、今度はスケルトンが横の地面にガタガタと倒れた。


 その反対側に転がって素早くシャベルを地に突き刺して四つん這いに近い姿勢になり、相手が倒れているうちに片手で腰からツルハシを引き抜く。


 そして、そのまま、

 倒れこむ勢いでスケルトンの頭蓋に叩き付ける!


 ばきりっ。


 意外に軽い音がして、相手の頭頂辺りにピッケルの先端が突き刺さった。

 カタカタとしたスケルトンの動きがピタリと止まる。


(やったか……?)


 シャベルを拾い上げる。

 退すさるように少し離れ、立ち上がった。


 そのまま草むらに力無く横たわる骨のかたまりを観察。

 頭蓋はツルハシによって打撃部から蜘蛛の巣状にヒビ割れが走り、それが目のくぼみにまで亀裂になり広がっていた。


 ……なんだかかなり残酷なことをしてしまった気分だ。


 でも、毎回そうだが魔物との戦闘は下手を打てば、死ぬ。

 やられる前にやる位の覚悟で挑まなければ。


 ただ。

 ついこの人骨のモンスターを見てると考えてしまう。


 もしこの襲って来た相手がもっと人間(ヒト)らしい形だったとしたら、おれはどうしていただろうか?


 今戦ったのは人型とはいえ魔物チックだから割り切る事が出来たけど……。

 ましてや、この世界に居るかは判らないが、山賊のように本物の人と戦うことになったら?


 警戒は解かないままスケルトンを見下ろして考え込んでいると、視界の端にメッセージが映った。


 《『解析』が完了。ステータスを表示します。》


 ワイズマンが告げた。

 どうやらスキャンが終わったらしい。


 取り敢えず見てみよう。



 ----------------


 名前:スケルトンソルジャー


 LV:13


 HP:10/56

 SP: 5

 MP: 5


 ----------------



(な――――――!!)



 まだ、HPが残っている!



 おれが気付くと同時に、相手の肩、肩甲骨が僅かに動く。


 強烈に嫌な予感。

 反射のように偶然のように、身体を横にらす。


 耳元で、シュッと小さく風切り音が聞こえた。


 地面に転がっている骨、スケルトンウォリアーが剣で突いてきたのだ。


 一体どこにそんな力が残っていたのかと思う程の膂力の刺突は、おれの首筋を鈍い切れ味の剣で浅く斬り裂く程だった。


「つうあッ!?」


 敵の伸ばしている腕を左足で蹴り上げ、剣を遠ざける。


 そして、持っていたシャベルをスケルトンウォリアーの肋骨に思い切り振り下ろした。

 叩き付けられた平たい金属板の下で、骨がバキバキと音を立てる。


 そうしてようやく表示される敵のHPが一気に目減りし、0になった。

 今度こそ完全に動きが止まる。

 倒したのだ。


 周りをぐるっと見回してから、戦闘が終わったことを確認。

 肩で大きく息をついた。


 HP云々関係なく、最後の一撃を貰っていたらおれはどうなっていただろう。

 あまり想像したくない。


 ただ、最初の攻撃を見た限り、剣自体は切れ味はやっぱり悪かったのかもしれない。

 ヘビに当たっても、刺さりはしなかったし。


 見てみると、当のヘビの死骸には既に付いていた打撲のような跡に加えて、新しいヘコみが出来ていた。

 さっきの攻撃で出来たものだ。

 バールのような凶器の正体は、錆びたロングソードだったのだ。


 ということは、このスケルトンソルジャーがヘビを皆倒してしまったのか。


 ……え、一体で群生地のヘビを全部倒しちゃったの?


 想像以上の強敵だった。

 確かにヘビよりレベルは高かったけど、空恐ろしいものがある。

 そのお陰でヘビとの戦闘で攻撃を食らっていて、スケルトンが弱っていたからおれでも倒せた、と考えた方がいいのかもしれない。


 そうすると、『モンスター同士が戦っていた』理由が気になるけど。

 何か理由があるんだろうか。


 そこまで考えた時、ぶしゅー……というような音がした。

 大量の青い光が骨から湧き出て、辺りに広がって消える。

 モンスターが完全に倒れた時の合図だ。


 そして、錆びた剣と、刺さっていたツルハシのみが後に残った。


 …………?


「人の死体が蘇った、とかじゃ無かったのか……?」


 スケルトンとか名前も付いてる位だから、人骨がアンデッドみたく動き出して生き物を襲っているとかそんな感じかと思ってたけど……。


 どうやら違ったっぽい。


 スモールレッドボアの死骸は青い光が抜けてからも残ってたし、スケルトンウォリアーの方は実際の人骨では無いようだ。


 少しだけ罪悪感が和らいだ気がする。


 と、それを見計らったかのように、


 《レベルが上がりました》


 電子音と共にメッセージが。


「おお!」


 《レベル3→5》


 やはりレベルの高い敵を倒す程レベルアップは早いらしい。

 ステータスは次のように成長していた。



 《HPが8上昇。 22→30》

 《SPが5上昇。  9→14》

 《STR(攻撃力)が2上昇。 8→10》

 《VIT(守備力)が2上昇。 8→10》

 《SEN(命中・回避)が1上昇。 7→8》

 《AGI(速度)が2上昇。 9→11》

 《技能(スキル):『スライディング』を習得しました。》

 《受動技能(パッシブスキル):『土木作業員』を習得しました。》



「……おお?」


 能力値はだいぶ上がったっぽいな。

 語歌堂さんの値から見ると焼け石に水どころか水も持っていなくて焼け石をぼやっと眺めているような状態だけど。


 ……まあ、彼女と比べるのも間違っているだろう。


 一気にSTRやAGIが成長した事を喜ぶべきだ。

 それはもちろん嬉しいけ、ど……。


 ………………。


 …………。


 ……最後の、なに?


「最後のって何なんだ……?」


 ついでに言葉になって出てきてしまった。

 上の『スライディング』は想像が付くスキルではある。

 『ダッシュ』と同じく、移動に役立つようなスキルだろう。


 しかし下の『土木作業員』が判らない。


 《パッシブスキルの解説が必要ですか?》


 そんなことも知らないんですか? ダメですねみたいな感じでワイズマンがメッセージを送ってきた。


 いや、パッシブスキルの意味は知ってるよ!


 ほら、こう持ってるといつも発動したままになってる、あれだ、スゴイ便利そうな雰囲気をかもし出してるスキルだろ?


 ……すげえふわっとした知識だった。


 《……パッシブスキルとは、アクティブスキルの(つい)であり、任意で発動出来ないスキルのことです。》


 ワイズマンが耐えかねてフォローを出した。

 さすが賢い人(ワイズマン)

 もうこれからはワイズマンさんと呼ぼう。


 ……さ○なクンさんクラスの違和感を感じる。


 《……今回のパッシブスキルについてはスキル自体のページを見て下さい。》


 新しく習得したスキル、『土木作業員』を意識してみる。

 視界の端にあるワイズマンの画面が切り替わった。



 『土木作業員』:採掘、伐採等を行う際の速度が上昇する。



「うん……?」


 としか感想が出ない。

 一体何の役に立つんだろうか。


 取り敢えず試してみよう。

 パッシブスキルなら、常時効果が付いてるんだよな?


 シャベルを持って、近くの地面を掘ってみた。


「おお、体が軽い!」


 戦闘の直後にも関わらず、土がサクサク掘れる!

 シャベルがまるで自分の手足になったみたいだ!!


 ……だから何?


 みるみるうちに深い穴が掘れた!

 あっという間に人の半分の高さくらいの穴が!!


 ……だから何!?


 すぐ掘るのをやめて、スキルとは一体何なのか真剣に悩んだ。

 なんだろう、シャベルを使ってたからこんなスキルが付いちゃったのかな……?


 おっと、こうしてる場合じゃない。

 早くゼンノ草を持って退避しよう、急がないとまた変な敵が森から出てくるかもしれない。


 そう考えた時。


「おおーい! 大丈夫かー?」


 遠くから声が。

 つい前に橋で助けた行商人の人だ。


 そちらを見やると、彼を含めて三人程の人が走って来ていた。

 他にも、クマ顔の人とキツネ顔の人が彼の後ろについている。


 というかベアさんとフォックスさんだった。


 行商さんの荷車を囲むようにしてこちらの方へ来る。

 どうやらおれの事を心配して来てくれたようだ。


「魔物に襲われて無いか……って」


 彼らの動きが止まった。

 驚愕の表情で目が見開かれる。


 なんだなんだ?

 彼らの視線の先を追ってみた。

 もちろんおれの方を向いている。


「……? 一体どうしたんですか?」


 集まった視線が気になり、頭を掻こ……うとして。


 首の所で、ぬるっとしたものが手に触れた。

 見てみる。

 

 べったりと血が付いていた。


「血がーーーーーー!?」


 よく見れば首から肩の所まで思いっきり血まみれになってんじゃん!!


 別に傷はそこまで深くないようだけど、広い切り傷から、予想以上にマイブラッドが出てしまっていた。

 おかげでかなりスプラッタな事になっている。


 …………はっ!



 注目の理由に気付いてしまった。


 手にはシャベル。


 目の前には何かを埋めるのに良さそうな穴。


 (ゼンノ草が詰まって)大きく膨らんだ麻の袋。


 そして、まるで返り血を浴びたかの如く血まみれなおれ。



 …………。


 ……。


 おれはゆっくりと首を横に振った。

 シャベルも横にそっと下ろす。


 ついでに両手も上げてみた。



「誤解なんです」



工具で戦う主人公。


……よく考えると、偉大な先駆者は多いですね。

レンチとかバールとかプラズマカッターとか!



ではまた次回!

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