第七話 : 鬼畜眼鏡 Under The Sunlight
メガネで検索してたらなぜかこんな題名になりました!
お、恐ろしい物の片鱗を見てしまったぜ……。
冒険者ギルドに入ると、すぐ例のメガネの係員さんと眼鏡越しに目が合った。
金髪の優男ことエドさんは結局ギルドまではおれに付いてこず、外で待ってるよと言って大通りに向かっていった。
中に一緒に入ってた方が合流にも楽そうだと思うんだけどな。
何かあまりギルドに入りたくない理由でもあるんだろうか。でもその割にはベアさんフォックスさんと一緒に組んで依頼受けてたんだよな。
こちらのギルドが依頼達成の報告だけでなくステータス・カードを作ってもらうという用事もあるだけにどれだけ時間が掛かるか判らず、またギルド入り口で合流できるか怪しくもある。
だがそうエドさんに言うと、
「大丈夫! 建物から君が出てきたら気配で判るから!」
と頼もしく爽やかに答えてくれた。
その時は、すげえやイケメンにはそういうセンサーも標準搭載されているんだ! と、ぼやっと考えて納得した。
今思い出すとどう考えてもおかしい。
なんだ、おれにGPSでも付けてるの?
でもあそこまで爽やかカッコよくに言い切られてしまうと、こちらとしてはそれ以上言い辛い。
イケメンは得だと思った。
なのでそのまま別れて、おれだけギルドホールにやって来たのだ。
合流できなかったらグリーンベアさんに言われた鍛冶屋に独りで向かうしかない。
「ああ、もう戻られたんですね」
「はい、クエストの報告です」
おれは導かれるままに行きの時と同じ座席に座り、メガネさんと対面する。
「それで、施療院の薬草集め、でしたね?」
「そうです。これがハンコの付いた依頼書になりまして」
「ふむふむ……」
ポケットをごそごそやり、依頼書を提出する。
微妙に緊張しつつメガネさんに渡した。
なんだろうこの、大学の厳しい教授にレポートを提出するような緊張感は。
でも、そんな一瞬の張り詰めた空気は、すぐに破られた。
「ふむ。施療院の印も付いていますね。これはエマさんの判でしょうか……。
クエスト達成です、お疲れ様でした」
顔を上げたついでにメガネをくいっと人差し指でずり上げ、こちらを見る。
やたらと様になっていた。
流石はおれの認めるメガ二スト(眼鏡の似合う人の意)だ。
「おお、やった!!」
「はい、おめでとうございます」
よし、これで全部終わりだ!
あとは貰うもの戴いてエドさんと合流するだけ、
「……おや?」
「はい?」
どうしたんだ?
ふと紙の下の方を見るメガネさんの眼鏡がキラリと光った。
そのままこちらを向いたため、あちらの表情が逆光で伺えない。
本当にマンガに出てきそうなメガネさんだ。
そうおれがぼやっと考えていると。
「この下の施療院の……エマさんの付記ですが」
「はい」
「『スモールレッドボア二匹を追加で納品』」
「はい」
「まさか、戦ったんですか?」
「は……ッ!?」
危うく続けそうになって土壇場で気付き、セリフを急ブレーキ。
光るガラスがこちらをじっと見る。
なんだろうこの、教授にレポートの不備が見つかった時のような緊張感は。
でも、そんな張り詰めた空気は、なおその色を濃くした。
まずい、これは面倒臭い事になりそうな気配だ!
施療院でもかなり大げさな事態になったんだ、それっぽいことを言って誤魔化さなければ!
おれは特に良く回るわけでもない舌で弁解を始めた。
「ああ、それですねそれ!
いやあ、森の近くのゼンノ草を採ってたら、横にヘビの死骸が落ちてましてね、それを拾ってきたんですよ!」
更にこちらを見てくる。
が、こちらからは眼鏡光りのせいで向こうが見えなくて不安になる。
これがマジックミラーか……。
「で、なんとなく拾ってきたらシスターさんが買い取ってくれるって言ってたんで!
いやあ幸運でしたねハハハ、フゥーハハハ!!」
声が引きつって笑い方がおかしくなった。
こんなん嘘の付き方だと信じる人なんて、よっぽど人を疑わない人かヨシヒコくらいだ。
あとおれが自分の事を幸運っていうのはどうなんだ。
セルフ皮肉なのか。
ここまで殆どツイてるなんて事なんて無かった気が、やだ自分が怖い。
「はあ……、まあ良いでしょう」
おれの若干の邪気眼を思わせる笑い方に脱力したのか、こちらに顔を近付けていたメガネさんがイスの背もたれに寄りかかる。
ギ、とイスが軋んだ。
「ただ、ヘビがそのゼンノ草のある草むらに出没した、という情報はギルド内、他のギルドにも回しておきましょう。良いですね?」
「もちろんです」
心の中で深く息を吐く。
危なかった……。
ただ、これ以上旗色が悪くなる前に離脱しよう。
その前に、ちょっくら報酬とカードを貰わなければ。
おれは、出来る限り最大の敬意を込めて、メガネさんに擦り寄った!
揉み手をしてにへらと笑って上目遣いに訊く!
「へへ、そんで、あっしのクエスト報酬の件なんですけどね……?」
なんだか何処かで以前注意されたような卑屈な感じになった!!
しかも正確には「なんですけど」を「なんでげすけど」と言い間違えていた。
そうさ、噛んだのさ!
よりにもよってこのタイミングで、山賊の子分みたいな言葉遣いになっちまったんだ!
ゲスってなんでげすかゲスって……。
「な、何ですかそれ……。報酬なら只今お持ちしますから待っていて下さい」
「あっはい」
すっと引いて、逃げるように奥に去っていく係員さん。
おれは揉み手のやり場に困り、合わせた手のひらを広げてパフパフ音を出したりしてメガネさんの帰りを待った。ちょっと悲しかった。
そしてすぐ、小さな袋と銀の小皿を持ってくるメガネさん。
もう眼鏡は光っていなかった。
おれは何事も無かったかのように話し掛ける。
「して、それが?」
「はい、今回の依頼の報酬になります」
頷いて答える。
向こうも無かった事にしたらしい。
机の上に置かれた、小ぶりな巾着袋を見る。
藁色をした質素な袋だ。口は小さな革紐で縛ってある。
「中身を見て確認してください」
「良いんですか?」
「どうぞ」
良いそうだ。袋を手に取る。
なんかこういう時って開けるの躊躇っちゃうよね。密封されたり包装された物を開封する時って。
他の人からの頂き物をその人の前ですぐに見るのって、なんとなく失礼にあたる気がするのはおれが日本人だからだろうか。
アメリカとか海外では寧ろそれはマナー違反だ、と聞いた事があるな。
あちらでは貰ったらすぐ袋をWOW! とか言いながら受け取った途端にビリビリと開けて、中身を見てWOW! とリアクションを取るらしい。
英単語が思い浮かばなすぎて、おれのイメージする外人がワーオ以外言ってない……。
ま、まあ、海外じゃそうやってもらい物への喜びを表す所もあるって事だ。
今回はメガネさんも「確認してくれ」と言っているし、あまり気にする事は無いだろう。
おれは巾着を思いっきり開けて、中身を見た。
中には、青銅色に輝くコインがそれなりと、銀色に輝くコインが何枚か入っていた!
日本では見たことの無いような形、色合い。
つまり、この世界の金銭である。
「ワーオ……」
咄嗟に外人になってしまった。
「報酬は依頼書通りに、最初の予定していた額、280エウルに、素材の買い取り額を含めて360エウルとさせて頂きました。
素材の価格は、商業ギルドの適正価格を参考にしています」
どうやらこの世界のお金の単位は『エウル』と呼ばれているようだ。
エウル。この大陸の名前がエウラシアだから、大陸内で流通している貨幣かも。
巾着の中には、銀貨が3枚、青銅の硬貨が6枚入っていた。
……詳しくは判らないが多分金額は合っているのだろう。
詳しい貨幣の仕組みは後でフランさんに聞こう。あの人ならおれが異世界人だって事も勘付かれてしまってるし。
「はい、合ってます」
「ではそちらは宜しいと言う事で。次が本題、ステータス・カードの話です」
遂にそちらの話題か。
おれの本命でもある。
「カードですが、発行の際には前に説明した通り、個人用の物として登録、認証しておく必要があります」
「ふむふむ」
「そこで、所有者になる人の血液がほんの少量必要になるのです」
「ふむ?」
「こちらの銀の皿を見てください」
促され、皿を見てみる。
なんの変哲もない皿だと思っていたが、よく見れば中央に細い銀の針が立っていた。
「その針に指を僅かに刺して下さい。
針は細く、先端が斜めに加工された物ですから、そこまで痛みは無いでしょう」
なるほどね。
血が必要ってんなら、何がしかの方法で傷を付けて採る以外手段は無いだろう。
若干不安も有るが、ここは「歯で指の皮膚を噛んで下さい」とか言い出されなかったことに感謝するべきだろう。
日本の戦国時代とかの血判だとそんなんだった気がするけど、アレ無茶苦茶痛そうじゃん?
というかヘビに咬まれた時よりは確実に痛くないと思うし。
ゆっくりと針の先端に指を載せる。
「ほんの少し、触れる程度て大丈夫ですよ」
「了解です」
おれだって痛い思いはしたくない。
「ええ、認証にも血はそこまで必要な、ふぁ……」
「……ファ?」
「ふぁ……!」
その瞬間。
ふえくしゅんッ!!
メガネさんが大きなクシャミをした。
だが元からがやがやと騒がしいギルドホール、すぐにその音は目立たず薄れていく。
が、至近距離で聞いたおれはそうもいかない。
被害が出た。
具体的に言うと。
驚いた弾みで、針が指に刺さった。
それはもう深々と、人差し指の第一関節の辺りに突き刺さった。
それでもって指の甲側から針の先端が出ていた。
「ッアーーーーーーーー!!」
「うわああ!?」
「痛だーーーーーー!!」
「大丈夫ですか!?
はっ早く針を抜いて!」
そうだ、指を引き抜かないと!!
おれは人差し指を上げた。
ぷらーん。
針皿がくっ付いて上に持ち上がった。
指に皿の分の重量がかかる。
「「ウワーーーーーー!?」」
俺たちは揃って楳図か○お漫画に出て来る人のような劇画タッチな表情になった!!
なんだこれ! なんだこれ!
「針が! 針が!」
「大丈夫ですか!?」
「全く大丈夫じゃないです!
ほら見て、指の所から透明な液体が出てきてる、これ絶対人体から出ちゃイケナイ類の液体ですって!」
「そこをなんとかして下さい!」
「メガネさん何言ってるの!?」
血が一滴も出て来ないのが寧ろ怖い。
超怖い。
「ちょ、これマジで、痛っ!」
錯乱するおれとメガネさん。
と、彼が動いた。浮いた皿を握る。
「落ち着きましょう! セイッ!」
落ち着いて皿を下に引き抜かれた。力一杯。
ずぶっという感じで指から針が抜ける。
思いっきり血が出てきた。
「うああああああああ!」
「誰かヒーラー! ヒーラーの方はいらっしゃいませんかー!?」
騒ぎは冒険者の中で回復魔法を使える人が慌ててこちらに来て、おれの指を治療してくれるまで続いた。
「それではカードの認証に行って参ります。少々お待ちください」
「はい」
何事もなかったかのようにメガネさんが言い、また立ち上がる。
妙にたっぷりと皿に入ったおれ産の血液を持って、奥に去って行った。
おれは包帯の巻かれた指をさする。
まあ、治癒魔法によってほとんど傷は癒えているのだけれど、念のためとのこと。
確かにもう触るとちょっとヒリっとするくらいで、ダメージも無い。
あの後、今度はちゃんと落ち着いて元の冷静眼鏡に戻ったメガネさんに謝られた。
おれ自身も気を付けておくべきでした、と言って慰める。
本当に気を付けておくべきだったのだ。自分の不運に。
運の悪さがこんな所でも出るなんて思わなかったけど……。
なぜあのタイミングでクシャミが出たのか聞いてみたところ、「前屈みになったおれの頭の髪の毛がチクチクと顔にあたってこそばゆかった」と言っていた。
……あれ、もしかしておれ、自業自得?
不運とか悪運とか関係なかったり?
なんだか複雑な気分になりつつ、自分の指を眺めて頭を掻いた。
確かにチクチクした。
大体ネコの毛とウニの中間くらいだった。相当硬いな!
と。おれが髪のチク度を調べていると。
プヒョッ!
係員さんが去って行ったギルド受付の奥の方から、変な音がした。
なに今の間抜けな音?
またどこかで問題でも発生したのかな?
はは、このギルドは色んな人が集まってるからなあ。
色んな事件が起こりもするだろう。
もう流石におれは関係無いよね?
だって、あんな磔の刑(人差し指限定)にあった直後だよ?
人間、そうそう不幸な事故が連発するハズが……。
あ、ステータス・カードを作るときにあんな音がして発行されるのかも。きっとそれに違いない。
奥からメガネさんが戻ってくる。
メガネの奥の目が死んでいた。
おれは悟った。
またか、と。
「こちらがステータス・カードになります」
意外に受け答えは普通だった。
ただ、彼の目に生気が全く無いのが気になる。
おれは差し出された金属プレートを受け取った。意外に重量感がある。
おお、ついにおれも冒険者の一人になることが出来たのだ!
ここまで長かったけど、ようやく!
ヤッタゼ!
……という気持ちよりも不安の方が上回った。
一体何が起きてしまったんだ……?
プレートを見てみる。
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名前:アケミヤ ヒカリ
LV:1
HP:○○
SP:○○
MP:○○
種族:○○××××
性別:男
属性:△△△
職業:△△△
装備適正:○↑△↑□→
魔法適正:×↓△→○←□↓
称号:○→↑↓ ×←←←
能力値
STR:○○
VIT:○○
INT:○○
RES:○○
SEN:○○
AGI:○○
LUC:0(固定)
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文字化けしていた。
読める箇所は名前と性別とLUC値だけだった。
しかも途中、格ゲーのコマンドみたいになってる。
おれはサッとメガネさんを見る。
シュバッと高速で目を逸らされた。
…………。
横の窓から、外を見てみた。
午後も夕方に近付いてるぐらいの時刻。
外に広がる空が透き通るように青々としていた。
キレイだった。
見ているだけで優しい気持ちになれそうな夕空だ。
手元のプレートを見た。
----------------
名前:アケミヤ ヒカリ
LV:1
HP:????
SP:????
MP:????
種??:????
性別:男
属性:????
職業:????
装備適正:????????????????????
魔法適正:『????』?? 『????』?? 『????』?? 『????』??
称号:????????????????
能力値
ST??:????
????T:????
I????:????
R??S:????
??????:????
??????:????
LUC:0(固定)
----------------
「か、係員さん!? メガネさん!!」
「………………」
「これ! これ!! This!!」
悪化していた。
遂に運の悪さ以外ロクな情報が出なくなった。
「そちらがステータス・カードになります」
全てを諦めたかのような顔付きになった目の前の人に言われる。
おれが気になってるのはそこじゃない。
そこじゃないけど、疲れ切った顔のメガネさんをそれ以上追及することは出来なかった。
「すみません。私としても、何が起きたのか把握しかねていまして……」
「そうですか……」
どうしようコレ。
ていうか、どうしようもないよコレ。
おれのステータス・カード、壊れてるよ!
身分証明書なのに名前と性別くらいしか公開されていない。
非身分証明書だ。
これじゃT○UTAYAの会員カードも作れない。
なんでこんなに力強く文字化けしてるんだろう。
反抗期かツンデレか、はたまた他の人になんておれのステータスを見せたくないという、謎のヤンデレなのか。
はた迷惑なヤンデレだった。
「では、そちらのカードを使って、冒険者として活動してください」
メガネさんが何事も無かったかのように言う。
なんだか吹っ切れたような穏やかな表情をしていた。
それならおれも、ここは何事も無かったように流して――――
…………。
……。
……いや、これは流石にさらっと流しちゃダメじゃないかな!?
ご意見ご感想お待ちしております!




