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第六話 : ×不安げな顔 ○不安になる顔

スマホで書くと改行後の一字開けが出来ない……。



「先生、助けてください!!」


 おれは十字架が書かれた建物へと飛び込んで、入りながら大声を上げた。


 そのまま地面に膝を付く。


「急患なんです先生!!」

「ど、どうしたんですか!?」


 奥から紺の慎ましい服に頭まで身を包んだ女性が走ってくる。


 そちらを見ると、向こうに幾つかの寝台が置いてあり、その中の幾つかは実際に人が寝そべっているのが見えた。

 おれはすぐ女性に視線を戻すと、訴える。


「すみません、猛毒にやられてしまって! 毒が回って!」


 息も絶え絶えにそう告げると、すぐに奥の間に案内された。

 不安げな顔をしたその女性に勧められ、よろよろと歩いて行って、寝台に仰向けになる。


 なんだか意識も遠くなってきたみたいだ。

 周りの風景が火事の時みたいに、薄れてぼやけて見え始めた。

 自分の目が閉じかけているのだ。


 左足のジーンズを(まく)り、患部を示してそちらを診てもらう。

 多少塞がりはしたが、まだ傷痕は残っているハズだ。


 そしてその女性に、どことなくぼんやりする頭に手を置かれた。冷たくて気持ちいい。


 でもそんな悠長な事やってちゃ間に合わない!


 早く、早くこの毒を治してくれないと、HPが!

 キアリーでもリフレッシュでもポイゾナでも、最悪どくけしそう丸呑みとかでも良いから治療を!



「…………あら?」


 紺服の女性がふと首を傾げる。

 なんだかこの状況でそんな事されるとすごい不安になるんだけど!


 ダメか? もうおれはダメなのか!?


「もう、助からないんでしょうか?」


 絞りだすように言った。


 それにきょとんとする紺服の女性。


「いえ……毒、もう治っているみたいですよ?」





「…………え?」







 --------------------





 おれは猛スピードで平原を走っていた。

 それはもう速く、タイムにしておよそ五十メートル7秒半の高速だった。


 更に、『ダッシュ』を使用して加速した。


 ちなみにスキルの使い方は簡単、心で念じるか声に出して叫ぶだけ。それだけでSPを消費し、おれは平均6歩くらい素早くなった。


 具体的には7秒半のタイムが1秒ぐらい縮んだ。

 なんか微妙な速度だった。


 もうちょっとスキルって派手なモノだと思ってたんだけどな……。

 ダッシュは使った瞬間体が軽くなって、そのまま一歩の幅と速さが増すだけだった。


 どうやらおれが想像していた、技を使ったらシャキーンと光るエフェクトが出て、大げさな効果音を上げながらなんか凄いことになるというのとは違ったらしい。


 他のスキルだったらどうなるのか、ダッシュだからそんな地味な感じだったのかは判らないけど。


 実際には走り方で例えるとダダダダダダ……、って走りがシェイハッ! シェイハッ! ハァーッシェイ!! ぐらいに変わるだけだった。

 なんでそんな不規則な足音で例えたんだ。


 また、ダッシュを使って試してみたのだが、技能スキルというものは連発は出来ないようだった。


 正確には何秒かは数えてないけど、ダッシュで数歩加速した後、また少し時間が経過しないと再度同じスキルの使用は出来なかったのだ。その間およそ十秒ほど。


 つまり、スキル発動後にはもう一回スキルを発動するためのクールタイムが必要になるのだろう。


 あと他にもSPは時間経過によって回復したり、消費し切って0に近くなってしまうと途端に体が疲労感を覚える、という事もさり気なく重要な情報かもしれない。


 こちらも毒状態のせいで焦っていたため大して確認なんかしてないけど、一応まとめておこう。


 おれのSPは9であり、ダッシュを一回使うとSPは3消費する。そのため、最初おれは三回ダッシュを使ってSPが0になってしまうもんだと思っていた。


 けれど、SPは消費してから時間が経つと、SPの最大値まで1ずつ、ゆっくりと回復していったのだ。

 ゆっくり回復していってね!


 そのお陰で、ダッシュのスキルを使ったクールタイムの間に1ほどSPは回復して、三回ダッシュを使う間に3回復。

 要は、SPが満タンの状態からダッシュを使用していくと、計四回発動できたのである。


 で、四回使い切ると今度は本格的にSP枯渇な状態になってしまい、途端におれはヘロヘロになった。

 毒の所為もあるが、足は震え、腰は鈍く痛み、動悸息切れ、腕は肩から上に上がらなくなった。もう、へろへろのよぼよぼだ。


 ……まあそこまでスーパーお爺ちゃんお婆ちゃん状態に退化するワケでも無いけど、でも身体能力が低下してしまったのは本当。



 そんな感じでスキルについて詳しくなったので、おれは一刻も早く毒を治すために効率よく街に向かって全力で走っていった。棒は途中で捨ててきている。


 途中街道にのった時はゆったり走る馬車をそれはもう爽やかに追い越し、更にその先、遠くに見えた別の商人の乗った馬車にも高速で迫っていった。


 終いにはSP切れのためおばあちゃん状態になって、動悸息切れを起こしつつも追い抜いていった。


 まさにターボババアである。


 もちろん途中でゼンノ草を飲んで、HPを回復することも忘れてはいない。


 最後は行きに出て行った城門とは別の、一つずれた所の城門を辺り一面の客席からの大歓声(注:イメージです)に包まれながら通り過ぎた。


 だが門番に普通に不審者扱いされて呼び止められ、汗まみれのおれはまた依頼書をSP不足で震える手で差し出し、通行を許可してもらった。


 ついでに毒状態の事も話すと、門番は大慌てでこの施療院の場所をおれに教え、早く行けと急かした。


 おれが「あ、これは吐くかも……! 吐くかもですよ!」と青ざめた顔を作って、門番の下に膝立ちで擦り寄って言ってやったのが功を奏したのかもしれない。


 ……妙にその頃から元気になってんじゃん!


 で、やばいやばいと街中をこけつまろびつ走って走って、――ようやく冒頭の話に戻るのだ。







 --------------------





「っていう感じでして……」


 おれは話し終えた。

 額の汗を拭ったタオルを、石造りの上に柔らかい布を敷いた寝台に置いた。


「「だっはははははは!!」」


 おれの間抜けな話を聞いていた近くの二人の冒険者が、こらえ切れずに腹を抱えて笑い出した。

 そして腹部の傷が痛んだのか、揃ってぬおおおとか言い始めた。


 と、見ると紺服の女性も、奥のベッドに腰掛けてた人もツボに入ったのか、口元を抑えていた。


「痛てて……。てえとあれか?

 ボウズ、お前は毒が自然に治るってことも知らずにレッドボアと戦ってたのか?」


 おれの一番近くのベッドに居る冒険者の内一人が聞いてくる。


 冒険者のうち、顔に大きな古い切り傷の跡がある熊みたいな人だ。こういう傷ってフィクションだとよく見るけど、実際見ると「え? これ受けてどうして致命傷にならないの?」って気持ちになるな……。


 爪かな? の傷跡が目の真横とか通り過ぎてるし。


 聞いた所によると、ヘビの毒はかなり強力な血液毒ではあるのだが、身体の自然治癒力を上げて維持しておけば、もしくはある程度の時間経過があれば効力を失ってしまうらしい。


 つまるところ、おれはゼンノ草の連続服用によってHPを維持していたため、毒が途中で治ってしまったらしい。

 そりゃ都市伝説オババにもなるわけだよ!!


 ちなみに、これらの情報は先程から言っていた施療院のあるじである紺服の女性、シスター、またはエマさんと呼ばれている人から聞いたものであるから間違いない。

 治癒の魔法をある程度知っており、薬の調合などもこなすそうだ。


「いやあ、そもそも魔物と戦うことになるなんて思って無くて……」


 頭を掻いて答える。

 もう既に目眩も心臓の動悸も完全に無くなっていた。

 ワイズマンもおれはもう健康であるという事を知らせてくれている。


 ……もうちょっと早く知らせてくれても良かったんだよ?


 返事は無かった。


「そいや確かにお前、エモノの一つも持ってねえなあ」

「獲物?」


 熊さんに言われる。


 獲物って言えばコレしか無いけど。

 ベッド横に置いといたバッグから、ヘビの死骸を一つ取り出す。


「うわああ出すな出すなそんなもん!」


 熊の人の奥にいるもう一人の冒険者風の人、顔の細い神経質そうな感じの人が引いた。


 こちらはなんとなく抜け目の無さそうな、言い方を悪くすればちょっと小狡(こずる)そうな印象を受ける顔立ちだ。例えるとあちらがクマなら、こちらはキツネみたいなイメージだ。


「そうじゃなくて、得物って言えば武器だろ武器」

「武器? もう捨てて来ちゃいましたけど」

「何やってんだお前!?」


 クマさんが素っ頓狂な声を上げた。ほぼ裏声だった。


「お前も見たとこ冒険者だろうに……。

 どこに自分の武器ほっぽってきちまうバカが居るんだよ……」

「だって木の棒なんて要らないでしょう?」

「……は?」


 今度はキツネさんが声を上げる。こちらは元から声が高かったのでそこまでおかしくはなっていない。

 しかしこの二人仲良いな。反応がそっくりだ。


 おれは手に持ったにっくきヘビの死骸を袋に戻し、袋の中を漁った。

 さっきの全力逃走で多少は使ってしまったが、ゼンノ草はまだ二十と何本か残っていた。

 これならクエストも達成を認めてくれるだろう。


 あとは、ヘビも薬になるなら売っちゃっても良いかな……?


「木の棒ってお前!」

「あ、シスターさん。これ受けてたクエストの品物なんですけど」

「話聞けよ!!」


 怒られる。

 なんかこれ以上話してると雲行きが怪しくなりそうな気がするんだよな……。


 取り敢えずシスターさんに袋をそのまま渡してから、クマさんに向き直る。


「ぅえ? 何ですか?」

「いやいや、お前……」

「あ、おれはアケミヤヒカリって言います」

「え、ああ。俺はグリーンベアってパーティーでは呼ばれてる」


 そのまま流れて名前紹介タイムになった。


 聞くところ、キツネさんは名前をレッドフォックス、奥で静かに笑ってた金髪の人はエドだと名乗ってくれた。


 しかし、ベア()フォックス()って、そのまんまだな!

 他の冒険者の仲間も彼らを見ると、それっぽいと思うのか。似てるしなあ。


 ん? レッドフォックスとグリーンベア?

 赤い狐と緑の熊?



 赤いきつねと緑の



 きっと深く考えちゃいけないんだな。


 シスターさんはエマという名前だそうで。こちらは本名。


 冒険者である男性三人は、彼らの名前は偽名、というよりは通称のようなものであり、ギルドや仲間内で通じる名前を使っているらしい。


 本名で自分を表す事はあまりしない。

 理由は聞けなかったが、出来る限り本名を出すことは避けられるみたいだ。


 なんだか普通に名前を言ってしまったおれがアホの子みたいだ。


 そう言うと、周りの皆がハハハと笑った。

 結局呼ばれ方や通称もアダ名とそう変わらず、他の人から呼ばれて自分も気に入ったら名乗る、という程度のものだと教えてくれた。


 それで、皆の話を聞いてみると、熊さんと狐さんは同じPT(パーティー)のメンバーであり、二日前の戦いで傷を負ったため、この施療院にご厄介になっていたそうだ。


 なんと戦っていたと言う魔物は、巨人。


 トロルと呼ばれる体長が人間の二倍以上、3~4メートル、大きい時は5メートル程にもなる人型のモンスターだそうだ。


 ちなみに人型ではあっても人間とは決定的に違って、魔物らしい外見をした生き物なんだぜと教わった。

 彼らPTの五人はそんな化け物と戦って、討伐したとの事。


 なんとも凄い話だ。

 敵も無茶苦茶強そうだ。5メートルともなると大体おれの三倍近いデカさになる。そんなのとどう戦うって言うんだ?


 でも、メンバーの人達も皆ギルドのランクは聞くところによると、


「まあでも、俺等は皆『銀Ⅶ』超えてるからな。トロルくらいでゴチャゴチャ言ってらんねえよ」

「おおおお……」


 驚いた。まだランクによってどれだけスゴさが変わるかは判らないけど。


「彼らはとても強いよ?

 なにせ、銀Ⅶって言うと大体の大型に分類される魔物は倒してる位でないとなれるもんじゃ無いからね」


 奥に居た柔和な表情の金髪の人、エドさんが補足する。

 そう言えばこの人は何なのだろう。熊さんのPTメンバーの方かな?


「エドさんも一緒のPTで?」

「うん? そうだよ。

 まあ……、僕は彼らのメンバーが一人用事で抜けていたから今回たまたま入ってた、補欠みたいな物だけどね」


 僕はこれといったパーティーに加入している訳じゃないんだ。

 彼らの戦いを見てたけど、あれは見てて惚れ惚れしたよ。

 と言い終える。


 そしてハハ、と邪気なく笑うエドさん。


 しかしこの金髪さん、顔立ちが整っててカッコイイな……。

 なんというか柔和で、女性っぽい感じではあるが、それが故に柔らかい面立ちの美貌を持っている、とでも言えば伝わるだろうか。


 男のクセに! とか別に自分と比べて思ったりしてないよ?

 思ってないよ?


 …………。


 くそう、ハンサムな学園に召喚されてしまえ……。

 おれは心の中で目の前のイケメンに、アゴがナイフのように尖る呪いをかけた。


 伸びろ伸びろ、AGOが伸びてしまえ……。


 これくらいならバチも当たらない気がする。元から顎はシュッとしてるし。


 と、そのハンサムエドさんのセリフを聞いた狐さんが、仏頂面になってぼやく。


「何言ってんだよ、お前の方がよっぽど強えだろうに……」

「そうかな? そんなこと無いよ」

「この前見たら『ワイバーン殺し』の称号持ってたじゃねぇか、今はどうなんか知らねえけどよ」


 ワイバーン。

 ゲームでも結構お馴染みの竜のような鳥のような怪物の事だろう。


 まあ、ヘビと戯れて死にかけてるおれじゃ相手にもならない敵でしょう。


 この金髪さんもなかなか謎の存在のようだった。

 そうしてみるとその穏やかな物腰も強者の風格に依るもの……に見えなくもない。


 ……寧ろ、どっかで見たことあるような感じなような?

 まあいいか。


 それから暫くおれは、彼らが語るトロルとの戦闘の様子を聞いた。


 ベアさん達が居るPTは、チームワーク良くトロルを追い詰めて行き、二人が敵の棍棒で一撃貰った以外は何事もなく、そのまま討伐まで追い込んだとのこと。


 おれはそれをふんふんと頷きつつ、シスターさんに足に包帯を巻いて貰いながら聞いた。


 そして施療院のホールが和やかな雰囲気に……



「じゃなくてよ!」


 ならなかった。

 熊さんがまた素に戻る。


 ちなみにしっかり武勇伝は話し終えていた。


「お前、自分の武器は!?」

「えっ、無いですけど」

「はぁ!?」


 やめて!

 そんな恐ろしい形相で怒鳴らないで!

 怖いから、クマ顔(傷跡付き)が歪んで更に怖くなっちゃうから!


「なにお前? ほとんど素手でレッドボアと戦ったのか!?」

「は、はい」


 おれのゆうに2倍はありそうな面積のクマ顔がぐぐいっと迫る!

 最早それだけで凶器になりそうな顔付きがおれの真ん前に!



 一瞬戦闘シーンに移り変わるかと思った。



 あとツバが飛んできてイヤなんだけど……。


「ヒカリ、お前『拳闘士(モンク)』だったのか……。そんな風には見えねえけどなあ、弱っちそうだし。

 あとはレベルが高いから武器なんか要らなかったとかか?」


 お前がなあ、とか言いつつこちらをじっくり見てくる。

 非情に疑わしそうな顔付きだった。

 というか完全に疑ってる。


 モンクって言うのはアレだな、ゲームではよく出てくる、オラとかウリャアとかドラララララとか言いながら魔物を拳で殴って戦う、武道家の事か。


 ドラララララは特に関係なかった。


 ドがデュになるともっと別物になる。


 恐らく、多分この世界でもステータスの職業の欄に出るのだろう。


 こんな普通な身体つきのおれがそのマッチョなジョブに就いてるのが信じられないらしい。

 まあ、実際に違うのだから疑わしく見えるのも当然だろう。


「いやあ、そんな事無いですよ」


 さっきから無い無いとしか言ってない気がする。


 熊さんがおれの言ったことを飲み込めていないようだ、説明不足だったかな。

 そのまま続けた。


「あー、ええと……。

 おれの職業欄には何も載ってなくて、レベルはそのヘビとの戦いで3に上がりました」


「「「「へ!?」」」」


 今度は熊さんどころか、エドさんやシスターまでがビックリしていた。


「お前、よくそんなんで戦って生き残れたな!」

「偶然勝てたみたいなもんですよね」

「偶然とかそう言う問題じゃねえだろ……」

「丸腰で戦うってあれ、自殺行為ですよね」

「おう。せめてこれからは武器くらい持ったほうが良いぞ。良いところ教えてやっから手に入れてこい」

「なんと! 有難うございます! あ、でもその前に」


 おれの渡した袋を見ていたシスター、エマさんを見る。

 彼女もこちらの様子に気がついた。


「クエストの報告をしてしまっても良いでしょうか?」

「はい、ギルドに出していたゼンノ草集めの依頼ですね」

「ですです」


 ポケットから折り畳んでいた依頼書を広げ、シスターさんに渡す。


「見てもらったのでもう数えているかもしれませんが、その麻袋の中には二十本以上の草が入っているハズです。」

「そうですね。確認しました。

 ……あ、この中のヘビはどうしましょうか?」

「それなんですけど、薬として使えるんですよね?

 ならどこかに売ってしまいたいと考えています」


 なるほど、とシスターさんが頷いた。


「こちらで買い取ってしまいましょうか?」

「良いんですか?」

「ついでですからね。レッドボアの身は解毒薬として優秀ですし」

「なら、治療してもらった分の代金に充てて下さい」


 金額が足りるか判らないけど。

 もし足りなかったらおれはこの施療院で働いて返すしかない。

 きっと包帯くらいなら巻けるだろう。

 あと熱くらいなら測れると思う。


 あれでしょ、相手の額におれのデコをくっつけて確かめれば良いんでしょう?


 ……同姓での状況を想像したら、腹の中のゼンノ草が戻ってきそうになった。


「そちらはお代は結構ですよ。そもそも薬も何も使ってませんし……。

 包帯は幾らでもありますから」


 えっ良いの!?

 思わず意味もなく遠くのエドさんを見た。


 グッと親指を立てられた。


 ……何か突っ込みたかったけど、様になるから言葉を忘れてしまった!


「でも、ヘビの身はこちらにお売りしますよ」

「はい。それでは……」


 エマさんが懐から判子、というにはちょっと大きな判を取り出して、依頼書の『依頼主:施療院』と書かれた部分の横にペタンと押す。

 さらに何やらサササッとペンで文を付け足していた。


 おれが注視すると、ヘビの件ですよ、と教えてくれた。


 そして微笑んで、こちらに依頼書を返す。


「ゼンノ草の収集、お疲れ様でした。ギルドで報告をお願いしますね」

「はい!」

「ヘビの分の買い取り料も、ギルドで一緒に貰って下さい。

 冒険者ギルドにお渡ししてある施療院からのお金がありますからね。依頼書の備考に書いておきました」

「イエッサー!」


 よし! これで後はギルドのメガネさんに報告するだけだ!





 そして遂に、ギルドの前に戻ってきた。

 重厚な造りの扉の前におれは立っていた。


 なぜか横にはエドさんが居る。


「結局付いてきて貰っちゃいましたけど、良いんですか?」

「いいよ。僕も暇だったからね」


 あの後、おれのクエストが終わった施療院で、「鍛冶屋の場所を教えてやるからヒカリもそこで何か武器を買っておけ」という話になったのだ。

 面倒見の良い熊さんだった。


 そうしたら、怪我をして治療中のフォックスさんやベアさんの代わりに僕が行くよと、ふとエドさんが言ったのだ。おれをスマイル浮かべながら見つつ。


 すわおれを狙ってるのかそっちの趣味なのか、どこでフラグなんか立っちゃったんだまだ会って一時間も経ってないだろ、とワケの判らない考えが頭をよぎったりもしたのだが。


 もちろん違った。


 一緒にギルドまで歩いてるがてら話を聞くと、彼曰く、


「なんだか君って、一人にすると不安になるんだよね」

「はあ……」


 との事。

 そんなこと無いと思うけどな。


 顔も彼のように爽やかなイケてるメンズでは無いけど普通だろうし。普通オブ普通だ。


 言っててちょっと悲しくなった。

 でも、そこまで変だってこともなかろうて。


 別に今日一日、一人で外を出歩いていたところで、火事に巻き込まれたり、ファンキーな果物屋に絡まれたり、ヘビに襲われたりしたくらいだ。



 あ、客観的に考えるとすげえ事になってる!


 なにこれ、人が一日過ごす中でここまでアクシデントが頻発するもんなの!?


 というかまだ一日も経ってなかったの!?


 おれは自分が不安になった。


 だが、それはさておきまずはギルドカード。

 そんなことよりギルドカードだ!


「じゃあ、ちょっと報告に行ってきます」

「行っておいで。僕はここで待っていようかな」

「ギルドカード作って貰うので、時間掛かるかもしれませんよ?」



「え!? これが最初の任務だったの!?」



 驚かれた。


 そしてまた不安げな顔をされてしまった。

ではまた次回!


5/22:誤字を改訂。

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