第五話 : 初めてのおつかいオブ・ザ・デッド 後編
土日の休みを経てこんにゃく復活!
ちから(ストック)みなぎる このわたしがあいてだ!
前回のあらすじ。
ヘビのHPはおれの三倍あった。
ザザザザザザ!
「くっ!?」
ヘビ達が肉薄してくる。
その内の一体はステータスが表示されており、HPは『45』と出ていた。
これはステータス・アイ、もとい『智識の眼』を通して相手を見ることで判明したものだ。
まあ順当に考えて、HPとはヒットポイント、つまり表示者の体力・生命力を示しているのだと言う事は判る。
でもその数値が納得いかない!
ヘビ一匹がこんなに強くていいんですか!?
ちなみに相手のレベルは10はあるようだった。こちらのレベルは1。
レベルの差がどれほど他のステータスに関わって来るのかは判らないが、どう考えてもこの敵、最初に戦うモンスターじゃないだろ!
しかも五体! 五体!
こちらが一人であのヘビ、スモールレッドボアを一匹ずつ攻撃する間に、敵は残りの四体がこっちに噛み付いてくるだろう。
さっき茂みに叩き飛ばした一匹を勘定に入れなくても後三体だ。
数が多すぎるよ!
マハリトは無いのかマハリトは!
でも残念。
おれはまだ強力な魔法どころか、魔法を使える見込みすら無い。
装備してるのも上はパーカー下はジーンズ、これなーんだ? はい、ぬののふく! な状態だ。
ちなみに上下が逆になると想像を絶する変態の出来上がりである。
ってそんな事はどうでも良くて!
他に役に立ちそうな物は無いか!?
大辞典と解析を持つステータス・アイ、ワイズマンはどうやら情報収集に便利そうな感じではあるが戦闘用ではなさそうだし、あとは……。
と、背中の麻袋が揺れた。
そうか、ゼンノ草があった!
これは魔法薬の元になると依頼書にも書いてある薬草。
調薬すると回復薬になるそうだ。
クエストの目標のアイテムではあったが、背に腹は代えられない。
本来は調剤に用いるらしいし直に飲むと効果があるのかも判らない。
けど、いざとなったら使うしかない!!
そこまで考えた所で、ヘビに動きがあった。隙ありと思ったのか、再度一体が飛び掛かって噛みつこうとしてきたのだ。
「うわああ!」
慌てて横に避ける。
どうやったらそんな細長い紐のような身体でジャンプ出来るのか判らないが、確実におれの首を狙ってきていた。
今の一撃は致命的なものだった!
一回の噛み付き攻撃でHPがどれ程減るかは予想出来ないけど、たったHPが15しかないおれが首を噛まれるとどうなるかは想像に難くない。
こちらがやらなければ、やられる。
そんな思いが頭を駆け巡った。
火事に突っ込んだ時とは違う恐怖、焦燥。
あの時とは違うことが一つある。
ヘビが意思を持っておれの命を奪おうとしていること。
それは殺意。
このヘビ達は、おれを殺めようとして襲ってきている。
こちらも追い払うとか遠ざけるとか、生半可なコト言ってられないぞ!!
右にいた一体のヘビが、構える。
鎌首を地に這わせるように低くして、体と同じかそれ以上に赤い目を光らせたのだ。
そして、口を大きく開けて鋭い牙を見せる。
あれは間違いない。
飛び掛かる前のモーションだ。
おれは今度は避けずに、棒の端近くを両手で持って体の横に構えた。
「シューッ!」
来た!
一気に跳ね上がり、おれの首を狙ってヘビが迫る!
「うぉぉおおおお!」
だが、こちらもただで食らってたまるか!
身体を半身だけ横にずらし、先の欠けた棒を左上から右下に、袈裟に振り抜く。
バシンッ!
(――――よし!)
勢い良く飛び掛かってきたヘビを地面に叩き落とした。
死んでしまったのか気絶したのかははっきりしないが、取り敢えずそちらは動かなくなった。すぐ別の敵を見据える。
そのまま、他のスモールレッドボアが怯んだ所を、一気呵成に攻めこんだ。
振り抜きの動きの慣性をそのままに、近くにいたもう一体の頭を踏み付ける!
ジタバタと抵抗されはしたが、ワイズマンを通して見ると踏んでいるヘビのHPが徐々に減って行くのが判った。
そして、相手のHPが0になる。
途端に抵抗が無くなり、足元の毒々しい色をしたモンスターの動きが止まった。
だが、まだそれについて考える余裕はない。
威嚇するようにして残りの二匹を睨み付ける。
と。
シュルシュルシュル……。
そいつらは、背を向けて遠ざかりだした。
逃げていったのだ。
足をヘビの死骸から離し、焦ったように逃げて行く二体を目で追った。
もう大分距離が離れていたあの草むらへと逃げて、止まらずに奥の方へ向かっていく。
そうして、ヘビ型のモンスターが森の方へ戻って行ったのを見届けてから。
「は、はあぁ…………」
近くの石に尻餅を付くような勢いで座り込んだ。
気を抜くとそのまま全身に力が入らなくなりそうだった。
棒を杖代わりにして地面に刺し、なんとかバランスを取る。
深呼吸を一つ。
なんとか、切り抜けられたのだ。
だが、仕方なくとはいえ生き物を明確な殺意を持って倒してしまったという、若干の後悔もあった。ヘビという、蚊やハエの比では無い、大きな生物を殺してしまった事がその気持ちを強めている。
それとは別に、おれの中で『戦闘に勝利した』ことが奇妙な満足感をもたらしていた。
そこまで好戦的な性格じゃなかったと自分では思っていたのだけれど、違ったのだろうか?
いや、そんなことは無いハズだ。現に足はまだ震えてるし、歯だってキツく噛んでいないとガチガチとなる。
と、目の前のヘビから青い光がふわっと舞い上がる。
その淡い光はヘビの体から泡のようにしゅわしゅわと周りに出て、辺りの空気に溶けて消えていった。
ヘビのステータス、『0/45』と表示されていた体力の文字も薄れて、こちらも完全に消えてしまう。
それと同時にワイズマンがメッセージを表示させた。
《スモールレッドボアを一体撃破しました。》
《スモールレッドボアの情報を『大辞典』に更新しました。》
なるほどね。
最初は辞典って割にデータがありませんとか、まーたアイが壊れちゃったのかとか思ってたけど、要は倒した敵の情報を後から追加していく仕組みの、モンスター図鑑やポケ○ン図鑑に近いものだったのか。
スモールレッドボアのページを開いてみる。
さっきの通りレベルは10。体力はおよそ40~50程度。
SPとMPは後者は恐らくマジックポイント、魔法を使う時に消費する数値だとは予想できるが、SPはなんだろう。
また、このヘビ系モンスターの死骸は、すり潰して粉にしたり、牙の奥にある毒腺から成分を抽出することで、逆に解毒薬や滋養強壮の薬になるらしい。体力やMPの下の方の『備考』欄に書いてあった。
ついでにお酒に漬けとくと美味しいらしい。マムシ酒とかいうヤツかも。……飲みたくないな。
ちなみにおれは二十歳を超えた学生の癖に、あまりアルコールは飲まない。大学の仲間に誘われた時について行って、少し分けてもらうくらいだ。
何故かと言うと単純、お酒に弱いからである。それも堂に入ったアルコール弱いマンだ。
日本人の三割はアルコールを分解できなくて酔いが回りやすいらしいが、多分おれもそれだろうね。
父母も弱いから遺伝なのは確実である。
一度親父に騙されてお酒を摂取してしまった時なんかは大変だったらしい。おれ自身は記憶にないのだが、親父は自分の息子に事もあろうにポーランドの強力なアルコール、スピリタスを飲ませやがったのだ。
しかも夕食後の飲料水としてである。息子に何してんだ父さん。
おれは酔いが冷めて気が付くと、近くの公園のパンダ型の遊具に仰向けに寝っ転がり、星がキレイな夜空を見上げていた。
トランクス一丁で。
近くには妹が立っていた。
珍しく息を切らしていたので、何かあったのかと聞いてみた。
疲れきった顔のアカリ曰く、「夜のご町内を半裸になってイイ笑顔で走ってた」との事。
予想以上に早いスピードで走りだしたものだから、追いかけた妹は一旦見失ってしまい、この家の近くの公園で寝そべるおれを発見したそうだ。
おれはパンダの上で体育座りをして、膝頭に頭を付けて泣いた。
アカリが何も言わずいつものパーカーを掛けてくれたのが印象的だった。
そして、おれがアルコール度数96度の劇薬を口にした事を聞かされた。それがおれらの父親の仕業らしいという事もついでに聞いた。
おれはふと顔を上げた。
親父、いや容疑者はどうしたんだと尋ねると、アカリは無言でゆっくりと公園の片隅を指す。
片隅には砂場があり、そこに親父も居た。
涅槃に達したようなイイ笑顔で砂場に埋まり、頭だけ砂から出して寝ていた。
アカリも顔を両手で抑えてしまったが、彼女は涙は流さなかった。
妹は強い子だった。
おれは、親父と二人して競うように町内を走りだしたらしい。
ただ、息子の方はギリギリで半裸だったが、父親の方は…………。
息子と何してんだ父さん。
おれはそれ以上聞けなかった。
聞きたくなかった。
夜空を見上げたが、今度は視界がなんだか滲んでしまって、キレイだった星は見えなくなってしまった。
親父をどうやってあそこから引っ張りだして、このご町内を連れ帰ろうか……?
そうしておれとアカリは父親の行く末を案じて、途方に暮れたのだ――――。
とまあ、そんな感じの事があったのだ。
だいぶ脚色混じりだけどね? 5%くらいは脚色だ。
消費税よりも低いな!
でもまあ運良く無事に父親を回収できたし、家に帰ることも出来た。
ただ、おれはアルコールはあまり飲まないと決めたのだ。
もしあの時お巡りさんに見つかってタイーホでもされたりしてたら、今のように異世界に飛ばされることも無かっただろうし、皇宮に喚ばれることも無かっただろう。そして犯罪者のレッテルをべったり貼られて牢屋に入れられることも無かったしこうして宮殿から放逐されて野原で元囚人の称号持ってヘビと戦うこともって
結局捕まってたーーーーーー!!
全く違う場所で結局捕まってたーーーー!!
………………。
まあ、うん、なんというか。
もうなんも言えねえ……。
そうしておれが水泳選手のように涙をこらえきれず、絞り出すような声を頭の中で呟いていると。
突然、軽快な電子音が鳴り響いた!
「うわ!?」
脱力していた所に大音を聞かされ、イス代わりの石から転げ落ちそうになった。
なんだなんだ?
《今回の戦闘により、レベルがアップしました!》
え?
《LVが3に上昇しました!》
おお!
これがウワサのアレか。
ドラムロールやら、トランペットやら、ヨォ―ドコドンドコドンドコドンドン ハァッ!! とかが突如として鳴り響いて、プレイヤーやその仲間が成長するあれか。
戦闘後のレベルアップというやつだ!
今の電子音はメト○イドの新しい技を取った時の音に近かったけど。あの音も好きだったな。
これは流石に嬉しい!!
しかも一気にレベルが2上がってないか!?
そうなると俄然気になるのは、レベルが上がってステータスがどうなるかである。
《以下のパラメータが上昇します。》
うんうん!
《HPが7上昇。 15→22》
《SPが4上昇。 5→ 9》
《STRが1上昇。 7→8》
《VITが1上昇。 7→8》
《AGIが2上昇。 7→9》
《技能 『ダッシュ』『挑発』を習得しました。》
…………おお。
1や2程度の上昇ではあるが、勇者じゃないおれでも能力値が成長するのか! どれ程の強化なのかが判らないけど!!
まあでもこの世界の人もレベルとかあるんだろうから、成長自体はするんだろうな。
あと地味に二つもスキルというものを覚えたようだ。
どれどれ。
おれはステータス欄を見てみた。
パラメータの下の方に『スキルリスト』と書かれており、そこに『ダッシュ』と『挑発』も載っていた。
『ダッシュ』に意識を集中させる。
するとやはり、画面がにゅっと変わって、解説文が出てきた。
『ダッシュ』:消費SP 3 正面方向への歩みが、数歩~十歩程度の間、加速する。
技名そのまんまの意味だったな。
つまり、スキルとはSPを消費して使う魔法に近いものと考えれば良いのかな?
そうなるとSPってのはSPの略か。
ダッシュで使うSPは3。おれのSPの最大値は9。単純に言えば三回はダッシュを連発できる計算だ。
『挑発』の方はどうなんだろう。
『挑発』:消費SP 5 敵一体の注意を自分に向ける。
ほうほう。
こちらはまだ一回しか使えないのか。
ゲーム風に考えると、相手のヘイト(敵愾心)を煽って、挑発の使用者を狙って攻撃するように仕向ける、ってトコかな。
パーティーを組んで戦う時に防御力の高い前衛の戦士とかが使うと便利なヤツだ。
まあおれには仲間もいないけど!
ぼっち万歳!!
でも、いずれはパーティー組んでクエストに挑むことも無きにしもあらずだからな。
……無いんじゃん!!
おれはまた悲しい気持ちに戻ってワイズマンを閉じた。
ふと思ったが、レベルの上昇要因ってのは何なのだろう。
今の戦闘ではレベルが一気に2も上がり、技も覚えた。
元の世界での基本的なRPGでは、戦闘で魔物を倒すと経験値が手に入り、それが一定の数値に達するとレベルが上昇する、という仕組みになっていた。
今回のおれの戦闘を見てみると、ヘビを倒した結果レベルが上がったため、この世界でのレベルアップもRPGと似ていると考えることが出来る。
経験値は数値で見れなかったが、スモールレッドボアの撃破によって経験値が一気に貯まり、レベル3へのラインへと達したとも考えられる。
しかし、ただ魔物を倒す、それだけがレベルの上昇要因なのだろうか?
そうすると例えば、街で警備をやっている兵士よりも、外でモンスターと戦う冒険者の方が圧倒的に強い、ということになってしまう。
いやまあのんびり見張りしてる人より森やら洞窟やらに篭って戦い続けてる人の方が強くはなるだろうが、それでも『モンスターと接する機会の無い、戦う事の無い人々』はレベルは1のままとなるのだ。
それはちょっと違う気がするな。
レベルアップをその人の成長として捉えるなら。
もしかして、もしかしてだがモンスターを倒す=経験値、ではなく、その人の行動とその結果=経験値に繋がってるのかもしれない。
つまり、先程のおれで言うなら『スモールレッドボアを倒す=経験値』とはならずに、『スモールレッドボアに対して木の棒で三~四回殴り、踏みつけて仕留めた=経験値』となる。
些細な違いに思えるが、後者はむしろスキル制MMO等のシステムに近い。
そちらの仕組みならば、魔物を仕留めるのは他の人に任せた補助役・回復役の人でも(補助をした、味方を回復した、というような行動による)経験値が手に入るし、街に居る非戦闘の方々でも各々の行動によって成長出来るのだ。
要はバリバリの冒険者でも街にいる衛兵でも鍛冶屋さんでもお針子さんでもファンキーさんでも笑わせ師でも、皆一様にレベルアップの機会はあるってことだ。
ところでレベルがすげえ高い笑わせ師ってなんなんだろう。
レベル82の笑わせ師とか。
もう普通に街を歩いていて顔を見られただけで「プッ」とか言われちゃうんだろうか。
どうなんだ。
それってどうなんだ。
笑われる本人、それ嬉しいのか。
明らかにイジメだよね!?
…………あれ?
そうすると今のおれみたいな『技能』の習得条件ってのも判るんじゃ?
おれは戦闘によってのレベルアップだから、戦闘でも役に立ちそうな技を二つ覚えた。
ならば、鍛冶師のレベルアップなら、鍛冶に便利な技を覚えていくのかもしれない。
なんとなく辻褄が合うなあ。
そこまでぼんやりと空を見上げて考えていた。
正確な事は何も判らないし、全部おれが適当に考えたこと。
街に行ってこの世界の人に聞いたほうが良いだろう。
フランさんとか。
早くクエストも達成しておきたいし。
帰ろう帰ろう。
おれは立ち上がった。もう戦闘の疲れや虚脱感は抜けている。
地面に転がっていたヘビ一匹の死骸は回収して、背負っているズタ袋の端にしまい込んだ。ワイズマンも役に立つって言ってたし、持って帰れば売ったり出来るかも。
まあ、戦闘でこんなに成長が出来るんなら、クエストついでに弱い魔物と戦うくらいは良いかもね。
先のヘビみたくおれより確実に強くて、複数匹で来るようなヤツは厳しいかな……。
今回は運良く、勢いで勝利できたけど次はどうなるかは判らない。というか確実にヘビのエサになる未来が見える。
おれはこの世界でやられたら復活なんかしないんだから。慎重になればなるほど良い。
あ、でも!
弱い魔物と戦う、という行動で考えると、得られる経験値は低くなっちゃうのか。
今のヘビは強い魔物だったし、ほぼ偶然ではあるが何体も倒したから一気にレベルが上がったんだな。
…………ん?
今。
今おれは、なんて言った?
突然自分の思索に違和感を感じた。
『何体も倒し』てたか、おれは?
単純な計算だ。
今回収したのは一匹の死骸。
森へ逃げていったのは二匹。
戦闘の始めの頃に一匹ふっ飛ばして、姿が見えなくなった奴が居る。
最初に居たのは五匹。
――――『もう一匹』はどこへ行った!?
おれは急いで辺りを見回した。
正確には、見回そうとした。
出来なかったのだ。
「ぐ、あぁああ!?」
足に激痛が走る。
見ると。
おれの左足の脹脛に、一匹の赤いヘビが喰らいついていた。
「ぐ、まだ居たのかっ!!」
突然身体が激痛に加えて、強烈な倦怠感を訴えた。
自分のHPがガクンと減ったのが判る。
それでもまだダメージを受けている。
「はなれっ、ろぉっ!」
そのヘビは先程襲ってきた五体のスモールレッドボアの内の一匹、一体を踏んで仕留める前に、棒で弾き飛ばしたヤツだった。
まだ死んで居なかったのだ。ワイズマンからHPが表示されて、敵の体力は『7/45』になっていることを知った。
つまり倒しきれて無かったという事。
おれは右足で思いっきりそいつを蹴り飛ばした。
硬い縄を蹴るような感触がして、赤ヘビが再度吹っ飛ぶ。
ついに動かなくなった。
自分の体力を見ると、こちらも『6/22』と大ダメージを受けている。
……え、一発足に食い付かれたら16のダメージを受けたのか!?
予想はしていたけど、レベルアップしていなかったら一発の攻撃でおれは斃れていたのか!
その事実のせいか痛みのせいか、冷や汗がどっと流れた。
蹴り飛ばしたヘビから青い薄光が立ち昇る。
これが相手が倒れたって合図なのか。
今度からはもっと気を付けよう。
自分の脹脛にはヘビの前歯が一本刺さったままだった。
ので、しゃがんでうぐぐぐと引き抜く。超痛いよコレ!
抜くと、傷は結構深く、血が一本筋を作って流れてきた。
その牙を捨てて安心した、途端。
ドクンッッ!
突然の鼓動。
動悸が激しくなる。
頭が揺れた。
平衡感覚がおかしくなってしまったのだ。
(これは、もしや!?)
グラグラする頭でステータスを呼び出す。
『アケミヤ ヒカリ 状態:毒』
やっぱり!
あのヘビの牙には毒素がある、噛まれたら毒状態になるのは当たり前だ!
HPがどんどん減っていく。
まずいぞコレ!
咄嗟に後ろの袋から、ゼンノ草を二本ほど掴んで引き抜き、一本をそのまま口に入れた。
苦い! だけど頼む、回復してくれ!
おれの体が一瞬小さく緑色に発光して、温かくなる。
HPが回復しだした。
ステータスを見ると、ピッピッと1ずつHPが増えていって、すぐまた毒で2程減ってしまう。
毒は時間によって回っていくものだから、徐々に体力を奪う。
だがなるほど、ゼンノ草、回復薬の元になる薬草を飲むと、一瞬で体力が回復するわけじゃ無くて徐々に回復するのか!
毒は一向に治る気配が無い。
おれは足の傷にもう一本のゼンノ草の苦い茎を噛んで潰し、塗りつけた。
ヒリヒリと染みるが、傷が小さくなっていくのが目で判る。どうやら体の自然回復力を上げて、治癒を早める効果があるのかもしれない。
立ち上がる。
倒したもう一匹のヘビを袋に放り込み、素早く準備を整えた。
このままでは、毒は治らず、時間経過でおれは毒死してしまう。
なら、早く街に戻って治療してもらわないと!
ゼンノ草の効果が切れたのか、一旦は取り戻した体力が急速に落ちていく。
また薬草を飲み込んだ。苦い、もう一杯!
これでなんとか街まで保たせるんだ!
スキルの『ダッシュ』も役に立つかもしれない!
――――そうしておれは、袋のゼンノ草を使いつつ、街に向かって走りだした。
それではまた次回!
ご意見ご感想お待ちしております!
※誤字脱字を修正。題名を修正。題名を間違えてるなんて……。