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第三話 : それフラグですから

他の方の小説が読みたい……でも自分の書いてると読む時間が……!

「――――それなら、ギルドに行ってみればいいんじゃない?」


「ギルド?」





 金欠を告白するおれに、そうフランさんがアドバイスしてからすぐ。


 おれは『ギルド』の前に立っていた。

 意外と食堂から近かった。歩いて五分もしないくらいだろうか。


 バザールの大通りと食堂のある通りの中間、その道の四辻に面した場所に。


 『センティリアル冒険者ギルド センティリア支部』は存在した。



「失礼しまーす……」


 こわごわと入り口の扉を開けて、中に入る。


 途端にやって来る、バザールとは違う質の喧騒、喧騒、喧騒。


 入り口の入ってすぐ近くに幾つかのカウンターが連なっており、それぞれに一人ずつ制服を着た人――恐らくギルドの係員だろう――が待機していた。

 そこまで厳しくはないようで、係員同士で話してたり、今一人カウンターに来て話している長剣を背中に括りつけた人の対応をしていたりした。


 左奥には木製に鉄のフレームが付いたでかい看板のようなものが規則的に立てられている。

 その前でも何人か人が看板を眺めていた。


 と、一人が看板に付いていた大量の紙の中から一枚を取り、受付に持っていく。

 すると、受付の人といくらか話をしてからバッグを探り、何やらカードを取り出して係員に渡した。

 係員はそれを受け取ってカウンターの下でごそごそっとしてからまた返却して、ついでに最初の紙を仕舞っていた。


 ふうむ。


 考えるにあれがギルドの仕事発注の仕組みなのだろう。


 さしずめ紙はクエスト依頼書であの看板に貼っつけられており、それを請け負う人が紙を取ってカウンターに渡すと仕事の契約が成立する、といったところか。


 だとするとあのカードはなんだったんだろう?


 そう考えていると、施設のボードのある所の反対側、カウンター群を挟んで右奥の所からワーッと歓声が上がった。否応なしに目がそっちに行く。


 そちらでは、幾つもの大小様々なテーブルが並んでいて、そこにところ狭しと結構な人数の人達が座っていた。

 年齢も服装も持っている武器や道具も皆かなり違っており、共通しているのはおれより強そうだということ位だ。おれがひ弱だとも言う。


 ついでにテーブルにはビールジョッキやら何やらがこれまたところ狭しと並んでいた。


 さっきの歓声はそのテーブルの中でも一際大きい中央の丸テーブルから上がってきたようで、そこではトランプのようなカードがバラバラと散らばっていた。周りではカードを掲げて大笑いしてる人が居たり、その横では頭を抱えて机に突っ伏している人も居る。賭け事でもやってたんだろうか。


 別のテーブルを見ると、そこに着いている人と目があった。

 おれが向こうを見ているのを、向こうの席の人も見ていたようだ。


 きっとおれがここに馴染みのない顔だからだろう、気になっているのかも。


 ……新参イビリとかあったらヤダな。


 ちなみにおれはそういう悪絡みみたいなのがある場合、街を歩いていると確実に絡まれる人である。運が悪いのか隙があるのか。

 例えば該当アンケートとか手相占いとか宗教とかカツアゲとか酔っぱらいとか。


 日本に居た頃は、大体のものは無視し通し、後半二つは大抵一緒にいたアカリが蹴散らしてくれていた。

 カツアゲにきた不良二人をどうやってかまるで判らないけどワンパンでのした時には、思わずアカリに財布を差し出していた。お兄ちゃん妹の強さにビックリだよ。


 今おれ一人の時に変なのに捕まったら、おれは逃げるしかないだろう。

 異世界に来てから判る妹の大切さ。


 そんな益体もない事を考えていると。


「そこの方? 御用でしたらこちらへどうぞ」


 カウンターの一つから声が上がる。

 どうやらおれに言っているようだ。


 そちらに向かってみることにした。


「初めての方ですよね?

 冒険者ギルド、センティリアル支部へようこそ」


 イスに座ると、係の人がカウンターを挟んで座っていた。

 四角い黒縁メガネをしたクールなお兄さんだった。

 こりゃあいかにもメガネって感じのメガネだ。


 いいじゃないか、こういうので良いんだよこういうので。


 メガネを掛けてる人はね、なんというか知的で、イケメンじゃなきゃあダメなんだ。一人で、静かで


 やめておこう。


 でも日本の大学で見たようなそのメガネな風貌は、異世界では結構新鮮だった。

 最初に出会ったのがサングラスの変人(ファンキーさん)だったからなあ……。


「ええと、冒険者として登録できるって聞いて来たんですけど」

「はい、当ギルドは冒険者登録も勿論管理しております」


 貴方はギルドの仕組みをご存知でしょうか? と訊かれた。

 もちろん知らない。


 …………というワケでも無いな。


 だってゲームとかラノベでギルドってのは良く出てきたりする名前だから。

 ヨーロッパとか日本でも組合という仕組みは、企業が成立する前にはあった制度だ。歴史の授業でも習っている。


 だが、この世界とおれの居た世界は違う。

 それは先程のフランさんとのやり取りでも痛烈に思い知った事だ。

 この世界で過ごすことになる以上、あと余計な誤解や混乱を避けるためには、こちらから周りに合わせるようにしていかなければならない。

 よく言うじゃない、郷に入っては郷に従えって。門に入らば笠を脱げって。When in Rome, do……、なんだっけ……って。


 ここに来てまさかの英語力の無さが露呈した。


 そういえば、おれは勇者としての能力は消えてるハズなのに、この国の人と会話出来てるな。なんでだろう。

 『言語能力補助』は、取り立てて勇者が持ってる能力では無いのかな? 異世界からこっちにやって来た人に関しては、全員が貰えるとか?


 ……判らない。

 もうおれは唯一情報が聞けるかもしれない皇宮には戻れないから、しばらく判る見込みも無いだろう。


 そんな事情もあって、聞ける話、情報は出来る限り怠けずに聞いておいた方が良いと思うのだ。


 いええええぇぇぇえええ…………、と落下して戦い始めてから一番良い装備を持ってこなかったのを後悔し、大天使にアイツは話を聞かないからなあ……。とか言われてからじゃ遅いのだ。


 ので、ギルドの説明も受ける。


「冒険者とギルドはウワサには聞いていたんですけれども、おれ自身はあまり知らなくて。

 説明して頂いても良いですか?」

「構いませんよ、ではギルド設立の歴史等を話すと数時間は掛かってしまいますから」


 ながっ。


 おれは少し前の悲壮な決意を一瞬で取り消しそうになった。


「ザックリとした概要と、貴方に推奨するこれからの行動だけを説明してしまいましょうか」


 よ、良かった。

 このメガネ係員さんは出来るメガネのようだった。

 効率とか、モチベーションとかを判ってらっしゃる。


「それでお願いします」

「畏まりました」


 そうして聞いたギルドの概要とは、整理するとこんな感じになるようだった。

 いやまあ、彼の説明でも十分過ぎるほどに判りやすいのだけれども。



 ・一つの職業による寄合よりあい、それがギルドである。手間の煩雑さや流通の簡便化を目的として成立した仕組みで、冒険者以外にも鍛冶や食品関係、魔法道具等のジャンルでもそれぞれギルドが存在する。


 ・冒険者ギルドに入会しておくと、冒険者として『クエスト』、仕事が受けられる。


 ・冒険者がクエストボード、さっきの看板に貼られた依頼書を受付に持って行くことで、クエスト受注となる。


 ・そして目標を無事終了するとクエスト達成。依頼者から先に預かっていた報酬を、ギルドの係員が冒険者に渡す。


 ・仕事には様々な種類があり、魔物の討伐、荷物の配達、要人の警護、家事の手伝い、エトセトラエトセトラ……。まあ、多種多様なクエストがある。果てはお金持ちの館の警備なんてのもある。自宅警備員である。


 ・ギルドは依頼者と請負者の仲介人としての役割が強く、任務達成時の報酬や、もし任務失敗した時のペナルティ(任務を受注した冒険者から徴収するそうだ。報酬の二割らしい)を保証する。


 ・しかしそれ以外の事は管轄外になってしまう。悪くいえば、冒険者の生死についても自己責任となる。


 ・ギルドは独立した組織であり、国には干渉しない。また、ギルド同士は国を越えた結びつきを持っている。



「また、大幅に実力に見合わない任務を受けてしまうことを避けるため、冒険者とクエストにはランクを設けています。

 ランクは下から(ブロンズ)(シルバー)(ゴールド)の三ブロックの中で、それぞれがクラス()(10)に別れているのです。

 任務は自分のランクから4以上に上回るものは受けられず、ブロックの違う任務も受けることは出来ません」


 つまり、おれのランクが『銀Ⅴ』だとしたら、下の『銅』ブロックのクエストは受けられず、『銀Ⅸ』『銀Ⅹ』のクエストも受注できないってことか。

 ランクが4以内だからと言っても『銀Ⅸ』ランクだと『金Ⅱ』とかを受けることも出来ない。


 一見厳しい措置に見えるが、安定して依頼者の要求を達成するためには仕方ないのだろう。

 あとヘタすると死ぬかもしれないし。これが肝要だ。


 おれは別に魔物と戦いたい、無双してえよ! とかは全くない。

 というか多分ここに居るごっつい人達には誰にも勝てない気がする(メガネさんを含む)。


 だから、受けるなら安全な仕事を受けよう。

 ひたすら変なノリで果物を売り続けるバイトとかないかな。


 そう考えつつ、おれはふんふんとメガネさんの話を聞いた。


「――大まかにはこのような所です。何か質問はありますか?」

「あ、1つだけ」

「なんでしょう?」

「さっき別のカウンターに行った人がなんかこう、カードみたいな物を渡してましたけど、あれは一体?」

「そちらも説明しましょう」


 あれは、さっき見た名刺大の金属プレートのようなカードは、『ステータス・カード』と呼ばれるものらしい。

 ギルドに所属する人々は皆これを持っているそうだ。


 なんでも使用者の体に流れる魔素がうんたらかんたらちんぷんかんぷん…………、まあおれにはまだ良く判らない謎原理でもって、カードを使った人の能力値を可視化してくれるらしい。


 まるっきり『ステータス・アイ』と同じ仕組みである。

 違うのは、アイには更にいろんな機能があった事くらいだろうか。まあおれのアイは壊れちゃったけど。ボカーンとかいって昭和のアニメなノリで爆発しちゃったけれど。


 カードの有利な点は、自分のステータスを相手にも見せることが出来る、という点だな。

 メガネさんが言うには、これが冒険者としての身分証明にもなるとの事。


 ちなみに所持する人と相手の許可さえあれば、相手のステータスも見ることが可能。ただし所有権は固定されたまま。

 これも体に流れる個人ごとに特有の魔素がうんぬん。

 まあ指紋認証みたいなものだろうね。とざっくり解釈。


「それで、そのカードは登録すれば貰えるんでしょうか?」


 おれの優先順位。

 それは身元の保証である。

 でないとフランさんが非常に心配するから!

 だからおれにとっては、『自分のカードを入手する』というのが最初のクエストであると言っても過言では無いのだ。


「ええ。ただ…………」

「ただ?」

「申し訳無いのですが、カードも数が有限なため、無料で、という訳にはいかないのです。

 こちらでもギルド員として力になってくれる人材を求めていまして……」

「なるほど……」


 つまり、あれか。


「ギルドに入会するための、試験があると?」

「! 察しが良いですね。助かります」


 そしてカウンターの奥の部屋に行き、すぐ戻ってくる。

 彼の手には紙束が。


 机の上に、その日本のものよりは少し黄ばんだ感じで、品質が良くはない紙達を置く。

 紙は十数枚ほどあるみたいだった。


「これらは『銅Ⅰ~Ⅲ』までのクエストとなっております」

「へえ……」


 紙を見ると、任務の題名が書かれ、その下に概要、目標、報酬などが書かれている。


「期限が長く難易度も初心者で受け易いものを、当ギルドでは入会員試験代わりとして出しているのです。

 早速ですが、受けてみますか?」


 是非もない話である。

 おれは一も二もなく了承した。


「判りました。受けます」

「では早速。どの依頼にしましょうか?」

「うーん……」

「あ、ここに記載されている報酬は、依頼達成した際には不足なくお渡し致しますよ」

「おお!」


 もらえちゃうのか、報酬。

 とするとカードは実質、請負人側は負担してない事になる。

 ギルドとしての冒険者の活躍への先行投資、とかなっているんだろうな。


 俄然やる気が出てきた!!


 これはまず最初の任務を達成して、絶対に所持金の足しにしよう! そうしよう!

 そして食堂に昼飯代を納めよう! NO食い逃げ!


 テンションが上がったおれは手をわきわきさせつつ、依頼書の束をまさぐった。

 完全に変態の所業である。


 どの任務にしようかなあ……。


「やっぱり初心者だとどんなクエストがいいですかね?」

「ふむ……。魔物の駆除などは厳しいかもしれませんから、貨物の配達や素材集め等の簡単なものを受けてみましょう」

「なるほどなるほど」


 おれは簡単で安全で高収入な任務を手に入れるため、依頼書の束をまさぐった。

 完全にニートの発想である。


 と、その中で一つの紙が目に留まる。


「お、これなんかよさげじゃないですか?」

「?」

「『依頼:魔法薬の調剤に必要な薬草の採集』、依頼者は施療院? の方で、場所は街を出てすぐの所の平地、報酬は…………。薬草の特徴も書かれてますし、おれでも判りやすくて良いんじゃあないかと」

「中々良いのではないでしょうか」

「ですよね! じゃあ行ってきます!」


 紙を手に持ってギルドホールから出ようとする。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 メガネさんに呼び止められた。


「依頼書は私で預かりますので、貴方は複製したこちらの紙を持っていくようにして下さい。

 それから…………お名前を教えていただかないと」


 苦笑された。


 おれはそそくさと元の席に戻って依頼書を置き、アケミヤヒカリですと名乗った。

 そして頭を掻く。照れ隠し。


「では、クエストを受領いたします。ご武運を」


 そう言われて、ようやくおれは最初のクエストを開始したのだった。



「あ、今の季節は冬眠から覚めたスネーク系のモンスターが近くの森には居ますから、一応気を付けて下さいね。

 まあ平原には居ないとは思いますが」



 ……………………。


 ………………。


 えぇ……?





 不穏な言葉を残すメガネさんに示されたとおりに通りを西の方へ横切って行くと、街の中央西の城壁に着いた。門がある。


 丘から見えた、街の南の大きな門よりは小ぢんまりした造りだ。

 当たり前のように門番が二人ほど暇そうに待機していた。


 門番や牢屋番といった、番と付くものにいい思い出が無いおれに一瞬の緊張が走る。


 ジャネットも番犬といえば番犬である。

 おれにしか噛み付かなかったけど。


 おれは高校の体育の剣道で習ったすり足で門に近付いた。

 これならおれの歩調を読まれまい……!


「うお!? なんだお前!?」


 普通に怪しまれた。


 ので、普通にクエスト依頼書を取り出す。


「この依頼を受けたんで、街の外に出ても良いでしょうか?」

「え、あ、ああ……。判も押してあるみたいだな、行っていいぞ」


 依頼書に押されたメガネさんの印鑑を見て、門番が言う。

 返してもらった依頼書を、おれは畳んでジーンズに閉まった。


 そして気付く。


 そういや薬草取っても、入れる袋が無いんじゃ?


 指定された量もそれなりにあったし、どうしよう。

 この門番に借りれたりしないかな?


「でもなんでお前、変な歩き方で迫ってきたんだよ……」

「平原に薬草取りに行かなきゃいけませんからね」

「理由になってねえよ!?」

「ところで、何か袋みたいなのを貸して頂けませんか?

 後で返しに戻ってきますから!」

「話の変え方雑だなお前!」


 と言いつつも、ほれやるよとおれにズタ袋を放ってくれた。


「え、良いんですか?」

「どうせどっかの商人が邪魔だからってここに捨ててったモンだからな。

 返しには来なくて良いぜ」

「ありがとうございます!」


 紐付きのその袋を肩に担ぐ。

 会釈をして、意外に親切だった門番の横を通り過ぎようとすると。



「あ、平原っていやあヘビが出るかもしれんから気をつけろよ?

 基本的には近くの森の中でじっとしてるから心配ないけどな」


 おれはそう言って鼻をほじる門番を無表情になって見た。


 そしてもう一方の門番を見る。


 そちらは立ったまま昼寝をしていた。

次回、採集クエストなのに戦闘開始。


ご意見ご感想お待ちしております!


5/22:少し表現を訂正。読みやすくなってる、といいなあ……。

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