5.あるモブ少女の叫び。
ごめんなさい!
ごめんなさい! ごめんなさい!
入学式から寝ちゃって、ごめんなさい!!
ガクブル
心の中で祈りのポーズと共に盛大に謝罪してるけど、いつものように表情には出ていないだろう。鉄面皮とか鉄仮面とか言われるほど、私の顔には感情の起伏が出ないらしい。もっとも、私の顔面が崩壊していてもいなくても、さっさと廊下に向かって歩いて行ってる彼には見えないのだけど。んでもって、振り向かれたら恐いので『心』のみで絶賛謝罪中。
ああ、ド金髪だよ。上履きの踵踏んでるよ!
それに先週まで小学生だったってガタイじゃない。まさか、ダブってるとか?
家から近いし、そこそこ進学校だからと受験したこの学園。お坊ちゃまお嬢ちゃまも多くて、風紀は良かったハズなのに!
どこにでも不良は存在するってことかな?
なにも同じクラスで、しかも席が前後(多分)にならなくったっていいのに!
今日は中学の入学式だ。
新入生は一旦教室に集まり、クラスごとの列になって講堂に入場する……らしい。多分。
教室に入り、出席番号順になっている自分の席を確認して座ってからの記憶がないです。はい、寝てました。
十日前に発売された乙女ゲームのせいで連日寝不足だった上に、昨日完徹してしまったため、起きていられなかったのだ。
本当ならそこそこの時間に終わって寝るつもりが、エンディングのひとつにたどり着けなくて、むきになってしまった。結局わからず、朝になって姉のパソコンを借りて検索した。自力で全クリしたかったのに~!
結果。俺様生徒会長をクリアした後に、また最初から始めたら出てくる副会長の分岐があることがわかった。フザケンナ!
私は、穏和で優秀な参謀スキーなの!
キルヒアイスやコンラットがいたら、誰よりも先に会いに行くに決まっている。こんな分岐に自力で気付けるわけがない。涙。
スキップを駆使しても時間が足りなさそうだったので、泣く泣くエンディング見るのは諦めてそのまま早めに登校。クラス全員が揃う前に、ひとり沈没していた……らしい。多分。
そんな私を親切なクラスメイトが背中を叩いて起こしてくれた。
「講堂に行くから廊下に並んで。」
「…………あ、うん。……ありがっ……!」
寝起きで反応が鈍かった私が顔を上げた時には、親切なクラスメイトである彼はもう廊下に向かっていた。
が。
が。が。が。何、あの髪!!
茶髪を通り越して金髪だ。
不良に目をつけられた?
ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
入学式から寝ちゃって、ごめんなさい!!
まだ入学式始まってないけど!
けど、不良なのに起こしてくれるって、実はいい奴?
でも、不良の優しさは雨の中の捨て犬に向けられるもんじゃないの?
いや、それより、とりあえず教室を出よう。私が最後だ。整列したクラスメイトたちが廊下からこちらを見ている。幾つか冷たい視線もある。ううう、悪目立ちしちゃってるよ!
視線を避けるように俯きながら小走りで後を追う(形にになってしまった)私を、不良くんは自分の前に並ばせてくれたけど、その後、先生の指示で後ろ半分が二列目として前に連れて来られた時には、本来なら前から二番目になるはずの彼は後ろに残されてしまった。
先頭の和田さん(と先生が呼んでいた)が小柄な為、不良くんが丸見えになってしまうから順番を変えたんだろう。私たちは一組だから、新入生入場でいきなりド金髪登場!は流石に……。
そんな事を考えていたら、先生が「最前列だから、女子は膝に気をつけて座れよ。」と注意をした後に「あと、寝ないように!」と付け足した。わざとらしいほどに私から視線を外していたのは彼の優しさかも知れないけど、いたたまれなかったよ。
そうして始まった入学式。
不良くん改め『渡邊由愛』が、今、壇上に居る。
新入生代表、と名前を呼ばれ上がって行ったのだ。ワタナベユア。聞き覚えのある名前に疑問を持った瞬間、前世の記憶がよみがえった。
正確には『前世にこんな乙女ゲームがあった』ことを思い出した。学園の名前、校舎、講堂、制服…全部『同じ』だ。あの由愛なら金髪で当たり前だ。彼はハーフで、金髪に菫色の瞳という設定だもの。不良とビビらず顔をちゃんと見ればよかったのかも。
でも。
どういうこと?
どういうこと? どういうこと?
由愛が、アンポンタンじゃないなんて!?
蛇足。
鉄面皮は誤用です。
中学では基本ダブり(留年)はありません。