1.主人公の親友です。
中学受験のために、某私立学園に着いた。そして、校舎を見たとたん、前世の記憶がよみがえった。
ここは、前世でプレイした乙女ゲーム『愛の国へ、ようこそ!』の世界だ。自分は『名前』で判断すると、主人公の親友でありながら、義兄『早乙女愛彦』との関係を邪魔しようと画策、最終的に傷害事件まで起こすイタいキャラクター、早乙女愛生ということになる。テンプレの『いい人かと思ってたら実は悪役』だ。
素人ネット小説で流行りのこの設定、もしかしてみんなの体験談だったの? だから、あんなに溢れてたの?
そんなことを思いながら校舎を前に立ち尽くしていると、声を掛けられた。
「ねえ、あなたも受験生?」
予想にたがわず、回想シーンのスチルと同じ笑顔がそこにあった。主人公『西園寺愛実』。
「お互い頑張ろうね!」
そうして、愛実は内気な愛生の手を取り校舎に駆け込むのだ。「急がないと、遅刻しちゃうよ!」と。これが『親友』である二人の出逢いだ。小6の時には、受験のために教室へ向かうのにも緊張して足が止まるような愛生ちゃんが、高1になった頃には『男装の麗人』『愛実だけの騎士』な男前キャラになってんだよな~。きっと頭がお花畑な主人公をフォローしているうちに逞しくなったんだろうと、プレイヤー達に言われてたっけ。
しかし、今、これは『現実』。
がしっと掴まれた手は、即刻振りほどいた。当然だ。
「まだ受付も始まってないのに、遅刻するわけないだろ! つか、アンタ誰?」
ま、知ってるけどさ、ここでは初対面だ。ゲームと違って、余裕を持って出てきて無事到着しているのでバタバタ走る必要は全くない。逆に受付もせず勝手に校舎に入るなんて単なる迷惑な奴でしかない。設定とズレがあるのに、お花畑主人公は臨機応変とは無縁らしい。
「えっとぉ……西園寺愛実、です。あの、お友達になりたいな、って思って。急に声かけてごめんネ♪」
おっと。修正かけてきた。
でも、受験日当日は名乗らず、入学後『さいおんじ』『さおとめ』という出席番号並びで再会ってエピソードは潰れたな。けどまあ、本来のゲームとの最大のズレに比べたら些細なことだろう。
「小学生が受験会場で逆ナンとか、キモいんだけど。」
「え?」
きょとん、とする愛実。
そう。ゲームと違って、オレ、早乙女愛生は『ボーイッシュな娘』じゃなくて、正真正銘『男』だ。女顔だけどな! というか、この顔や名前はゲームのせいだったのか。畜生。
ホモじゃないから、半年前に両親の再婚で義兄になった愛彦さんと結婚したいなどと血迷わないし、彼が将来誰と付き合おうが知ったこっちゃない。愛実がヒロインとしてハーレム作ったってどーでもいい。だがしかし。オレはお花畑女の『親友』なんてやりたくもない。ゲームしながら滅茶ムカついたんだよ、この女。
あ、前世のオレが何故そんなゲームをやったかというと、姉貴に頼まれたからだ。『愛彦様LOVE』な姉貴は愛彦ルートだけやると全クリをオレに命じたのだ。全クリ後のスペシャルエンディングのために。三千円貰ったが、三日もかかったから日給千円。それもムカついた一因だったり。
毎日勉強を教えてくれた愛彦さんには申し訳ないが、受験に失敗しよう。記憶が急激によみがえったせいか、さっきから酷い頭痛がする。口実にして保健室の住人と化すのもいいかも知れない。早速、係の人に体調不良を訴えた。愛実はガン無視だ。
え? 保健室でも受験できる?
問題用紙を見てみたら、ものすごく簡単だった。満点続出で合格のライン引きに困るんじゃないだろうか。こんなテストで低すぎる点数は悪目立ちしそうだから、不自然でないように間違えなくては……。お約束設定で、理事長とお義父さん知り合いなんだよな。あー面倒。
国語はいかにも引っ掛けな文章にしっかり引っ掛かり、算数は一番難しいとこで単純な計算ミス。よし。理科は一個解答欄ずらして…あれ? 単位とか解答欄に印刷してんじゃねーよ! これでズレちゃってた、てへぺろ☆なんて阿呆じゃん。も、適当でいいや。
あー、頭痛にプラスして悪寒がすると思ったら、オレ、熱出てますか。冷えピタリ、気持ちいいです。と、保健の先生に愛想笑いしたまでは何とか覚えていたが、社会なんてどんな問題だったか記憶に一切残ってなかった。
おかげで、まんまと失敗した。
受験を失敗するのに失敗した。
大喜びのお義父さんに、この学校は嫌だとは言えず……学園長から貰った『新入生代表』の例文を前に泣きそうなオレだ。トップ合格するのは『西園寺愛実』のハズなのに! わざと間違えたオレが何故……。
中学でも高校でも『新入生代表挨拶』のために上がった壇上で転んで、生徒会長の愛崎先輩に起こして貰うイベントはどーなんの?
も、知らねー!
次話、愛実視点。
早乙女兄弟の名前は、よしひこ、あいき、てす。
私も愛彦様推しですが、全く描写出来ず残念。